とりかえばや 4
突如学校に現れた卯月に、隠先輩が弓矢を向ける。
「え、隠先輩、この人のこと知っているんですか!」
「高等部からこの学園に来た雨音たちは知らないだろうけれど、こいつ有名人だったのよ。いい意味でも悪い意味でも。まあ、一昨年卒業したから忘れている人もいるだろうけれど」
隠先輩は俺の質問に答えながらも、弓矢の照準を卯月からずらさない。
「先輩に向かって、こいつはひどくない?てか君も鬼術が使えるんだね」
弓矢を向けられながらも、卯月は軽い調子を崩さない。そうか、この弓矢も鬼術なのか。隠先輩って何者なのだろう。
「同じ寮のメンバーで、ラビット団?とかいう徒党を組んでいた不良に先輩として敬う価値はないわ」
「いうねぇ」
「不良だったんですか??」
雨音の問いかけに隠先輩は驚きの答えを返す。
「そこの金髪頭、中学生の頃にはそのふざけた頭だったそうよ。もちろん校則違反。うちの学校、風紀委員って中高合同でしょ?本当に迷惑被ったんだから」
「あ、君、風紀の日本人形ちゃんか!!」
その言葉を口にした途端、隠先輩の怒りが増したのが目に見て取れた。
「その名前口にすんじゃないわよ、この軟派もの!!」
「風紀の、日本人形?」
雨音がキョトンと首をかしげる。この空気でそこに突っ込んでいけるお前を、俺は本気で凄い奴だと思う。
「あー、この子ね、風紀委員だったんだけど、絶対制服の乱れとか許さなくてさー。校門前の検査あるじゃん?その検査の厳しさで有名で。しかも、本人はきちっと制服着てるし、黒髪が綺麗な美人だしさー。皆恐れと尊敬を込めて、風紀の日本人形って呼んでたんだよね」
いや、懐かしいねーとのんびり話す卯月の話に雨音は夢中で、大きなことを見落としている。隠先輩の怒りが膨れ上がって、だんだん弓矢が大きくなっていることに。
俺が声も出せず慌てていると、雨音は笑顔でとんでもないことを言った。
「なるほど!!先輩が綺麗で非の打ちどころもないから、後ろ暗い所がある卯月さん達は、陰口を言って自尊心を保っていたんですね!ルールを破った挙句、ひどいあだ名まで付けるなんて、サイテーです!」
廊下が静まり返る。卯月の顔を見ることができない、怖すぎて。俺の胃が痛み出す。もう帰りたい。
「雨音!!」
隠先輩は感極まったようにそう言うと、思わず、弓矢の弦から片手を離し、雨音に抱き着く。その反動で、矢は先ほどまでの彼女の怒りをのせて肥大したまま、卯月にめがけて飛んで行った。
「あ」
卯月は身をのけぞらせ、その反動でバク転して後ろに飛んだ。間一髪、卯月に矢はあたらなかったが、卯月の後ろにあった窓ガラスに矢が刺さり、破裂するようにガラスが飛び散る。
「きゃー!!」
「何事だー!!」
ガラスが飛び散っていった校庭から悲鳴が聞こえる。
「やば!!緊急事態だからセクハラとか言わないでよね」
卯月はそういうと、俺と雨音と隠先輩を抱え込んだ。ぐるっと視界が回る。
気が付くと、俺たち四人は、昨日のトタン小屋に居た。




