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愛してる、俺と一緒に死んでくれ――前世で私を殺した夫がなぜかぐいぐい迫ってきます〈コミカライズ連載中〉  作者: マチバリ


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「いやっ……ネロ様……!ネロ様!」

 ネロの名前を叫びながら扉に手を伸ばした、そのときだった。

「私の妻から手を離せ!!」

 勢いよく扉が開ききるのと同時に、部屋の中に人が飛び込んできた。

「……!」

 その姿を捕らえた瞬間、ビアンカは恐怖とは違う涙を溢れさせた。

「ビアンカ!」

「ネロ様!」

 走ってきたのだろう。

 息を切らせたネロがそこに立っていた。

「アラン兄上……! 私の大切なビアンカに何をしているのですか!」

 言葉こそまだ丁寧だったが、ネロの双眸は怒りに染まっており空気が震えるほどの怒気を放って

 いる。

「いや、これ、は……」

 アランもそれを肌で感じたのだろう。ビアンカの髪を持つ手から力が抜けて、拘束が緩んでいく

 のを感じた。

「っ……! ネロ様!」

「あ、ま、待て!」

 その隙を逃さず、ビアンカは多少強引に髪を引くとアランから逃れ、ネロに手を伸ばした。

「ビアンカ!」

 すぐさま駆け寄ってきたネロがビアンカを両腕に抱き締め、自分の腕の中に囲い込む。

 たくましい腕にだかれ、愛しい人の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。

「ネロ様……ネロ様……!」

「ああビアンカ。怖かっただろう。髪が、こんなに乱れて」

 ひしとビアンカを抱き締めたネロの声は震えていた。

「すまない。怖い思いをさせた。本当にすまない」

 繰り返される謝罪に涙が出そうになる。

 あやまらないでと言ってあげたいのに、うまく言葉がでてこない。

 こどものようにいやいやと首を振りながら、ネロに抱きつく腕の力を強くすることでしか想いを

 伝える術がなかった。

「くそ……! なんで、なんでお前……!」

 アランはネロが戻ってきたことに驚いているのか、酷く狼狽えた声を上げている。

 抱き締められているせいでビアンカからは何も見えないが、どたどたと床を蹴る音が聞こえてく

 るので、先ほど同じように暴れているのだろう。

「……兄上」

 恐ろしいほどに低い声が頭上で聞こえた。

「私のビアンカに何をしようとしたのですか」

 ビアンカですら顔を上げるのをためらうほどの冷たい声に、アランがヒッと喉を鳴らしたのが聞

 こえた。

「事と次第によっては、俺はあなたを絶対に許さない」

「ぼ、僕はただ、話をしようとしただけだ! なのにその女が騒ぐから……」

「女? 俺のビアンカを「その女」呼ばわりか?」

「ぐ……」

 アランが恐怖でたじろいだのが伝わってくる。

 顔を見てやろうと身をよじれば、予想していたよりも酷い顔色のアランが立ち尽くしていた。

 握られたその手には、ビアンカの髪だった物が数本残っている。

 本気で捕まれたからこその痛みだったのだと、不愉快な気持ちが今さらにこみあげてきた。

「そもそも、何故、兄上がここに? 俺の許可なく部屋に押し入るなどありえない」

「僕は押し入ってなどいない! その……お前の婚約者が招き入れたんだ!」


「なっ……!」

 アランは勢いよくビアンカを指さした。

「そうだ……! お前の婚約者が僕と話をしたいと……それで誘惑してきたんだ! だからしつ

 けてやろうとしたまでだ!」

 あまりにもむちゃくちゃな言い分に、開いた口がふさがらない。

 そんな馬鹿な話があるかと怒鳴りつけたい思いと、子どもでさえもっとまともないいわけが思い

 つくだろうにと言う呆れがない交ぜになる。

「そんなわけ」

「俺のビアンカがそんなことをするわけがないだろう! 侮辱するのも大概にしろ!!」

 ネロの怒鳴り声が部屋の中に響いた。

 なお言いつのろうとしていたアランはぐっと口を閉じ、顔色を失ってしまう。

「兄上。俺はあなたに何の恨みもなければ憎しみもない。王位にだって興味はない。俺はただ、

 ビアンカさえいればそれでいいんだ。なのに何故、ビアンカに手を出そうとした!」

 抱き締める腕の力強さに胸が締め付けられる。

 ネロがどれほどの愛情をビアンカに注いでくれているかが、痛いほどに伝わってくる。

「二度と俺から大切なものは奪わせない。絶対にだ」

「な、なにを大げさな……」

 アランはネロの迫力に気圧され、今にも倒れそうだ。

 それでもまだ何かを諦めきれないのか、視線をさまよわせ必死に言葉を探している姿はどこか

 滑稽ですらあった。

「アラン様。もどりましょう」

 ひりつくほどの緊張につつまれていた空気を打ち切ったのは、プルメリアの声だった。

 立ち尽くすアランの腕に手を添え、なだめるようにそっとその背中を撫でながら、妖艶な笑み

 を浮かべている。

「やはりネロ様がいないときに来たのがよくありませんでしたわ。今日のところは戻りましょう

 」

「だがプルメリア。僕はまだ……」

「アラン様」

「……!」

 プルメリアの呼びかけに、アランはびくりと身体を震わせた。

 せわしなく視線を左右に動かし、それから何かを考え混むように黙り込むと、先ほどまでの勢い

 が嘘のように表情が落ち着いたものにになる。

「わかった。戻ろう」

「ありがとうございます」

 嬉しいと声を上げたプルメリアがアランに抱きついた。

「ネロ様、ビアンカ様。お騒がせしてごめんなさいね。アラン様には私から、ちゃあんと言って

 おくから」

 そう言ってうっとりと微笑むと、プルメリアはアランと腕を組んだまま部屋を出て行ってしまっ

 た。

(なん、だったの)

 あまりにもあっけない終幕に、ビアンカは大きく瞬く。

 まるで嵐のような時間だった。

 悪い夢でも見ていたのかだろうかと思ったが、まだ頭は痛いし髪はぐしゃぐしゃだ。

 それにビアンカを抱き締めたままのネロの腕は痛いほどの力のままだ。

「ネロ様」

 もう大丈夫ですよと優しく呼びかけるが、ネロの腕は緩まない。

 むしろもっと抱擁が強くなる。

「……君が、また奪われてしまうのかと思った」

 絞り出すような声が胸を刺す。


「兵士が、アランが来たことを知らせに来てくれたんだ」

「それで戻ってきてくださったんですね」

「ああ……間に合って本当に良かった」

 ビアンカもネロの腕の中で深く頷く。

「来てくれて嬉しかった。助けてくれてありがとう、ネロ様」

「ビアンカ……!」

 きっとアルルもそう伝えたかったに違いない。

 ありがとうと、嬉しいと。

 でもあの時は伝えることが叶わなかった。

 そして最悪な形でしかアルルを救えなかったことをネロはいまでも悔いている。

「ありがとうネロ様」

 だからビアンカはアルルが言えなかった分もと想いを込めて、何度も感謝の言葉を口にした。

「ビアンカ……ビアンカ……」

 ネロは何度も名前を呼びながら、髪や頬に口づけを落としてくる。

「アランめ。俺のビアンカの髪を……」

「大丈夫ですよ。髪はまた生えてきますから」

「いいや許さない。ビアンカが減ってしまった」

「なんですかそれ」

 ネロの言葉がおかしくて笑ってしまう。

 おかげで強ばっていた身体からようやく力からが抜けた気がした。

「ネロ様」

 愛しさを込めて名前を呼べば、ようやく落ち着きを取り戻したネロが愛しげに目を細めた。

 ゆっくりと降りてくる唇を感じながら、ビアンカはネロの腕の中で目を閉じたのだった。


「くそ、ネロめ! 弟の分際で!」

 自室に戻ったアランは床を何度も踏みならし、室内にあった花瓶や本を壁に投げつけていた。

 室内は酷い惨状だ。

「落ち着いてくださいませアラン様」

 部屋の角に置かれたソファに座るプルメリアは、アランの暴挙を眺めながらどこか間延びした声

 を上げる。

「これが落ち着いていられるか! あいつ! 僕に逆らったんだ! たかが女のために!」

 ネロに牙を剥かれた瞬間を思い出しているのか、アランは身体をわななかせ、手にもっていた分

 厚い本を床にたたきつける。

「まあいいではありませんか」

「よくない! 最悪だ!」

「もうアラン様。短絡的になっては駄目です。考えてもみてください。あの何事にも無関心だっ

 たネロ様に大切なものができたんですよ」

 プルメリアの言葉に、アランはぴたりと動きをとめた。

「これを利用しない手はありませんわ」

 にんまりと微笑むプルメリアに、アランはゆっくりと向き直る。

「プルメリア……ああ、まったくもってその通りだ。やはり君は素晴らしい女性だ!」

「ふふ」

 アランはプルメリアに駆け寄り、その膝にすがりつく。

「君がいれば僕は何でもなれるんだ。僕の女神……」

 うっとりと呟くアランの頭を優しく撫でながら、プルメリアはその美しい唇で弧を描いたのだ

 った。

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ゼロサムオンライン様にてコミカライズスタート

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