合格者
合格者が控室に集められた。
30名ほどの人間が一堂に集まり、部屋はざわめいている。
「呼ばれた者は手を挙げてくれ。」
ライオットヴァルドが告げると静まり返る。
「ブレイン所属——」
次々と名前が呼ばれていく。
フユはさりげなく辺りを見回す。
離れた場所でフラットがこちらに気づき小さく手を振ってきた。
「トップ所属——フラット=ワンブラッド。」
フラットは手を挙げる。やっぱりか、とフユは思う。
ワンブラッドという家名、上級の火属性。
先行行動隊のトップには打って付けだろう。
「ホワイトウォーカー所属——バン=ナータリアン。」
あの正論男か。フユはそう思った。
バンは背筋を正したまま静かに手を挙げる。
どこかから「似合ってる」と笑い声が上がった。
「ナイツバード所属——レイ=ステルファン。」
隣にいたリタが「やっぱりな」と呟く。
レイは静かに手を挙げた。
目が合うとレイは薄く笑い、小さく頷く。
フユも頷き返した。
「アギト所属——フユ=エバーノート。」
室内が一瞬静まった。
視線が集まるのがわかった。
さっきまでの歓声とは違う、様子見の視線だ。
フユは真っ直ぐ手を挙げた。
その後も発表は続き、全員の配属が決まった。
ライオットヴァルドが締めを述べようとしたその時。
扉が勢いよく開いた。
「待たせたな。アギトの新入りはいるか。」
ムサシだった。
団長自らが迎えに来たのか、と控室がざわめく。
「はい。」
フユは一歩踏み出す。
ムサシはフユをじっと見る。それから振り返り「来い」とだけ言い、扉の外へ出て行った。
「じゃあな、フユ。また会おう。」
フラットが手を差し出す。フユはその手を握る。
「ああ。絶対会おうぜ。」
「レイ、また。」
「ああ。」
2人の返事は短かったが、それで十分だった。
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フユはムサシの後ろをついていく。
フローゼルを出て西の方角に歩くこと10分。
姿を現したのは石造りの小さな建物だった。
他の団の大きな兵舎と比べると、拍子抜けするほど地味だ。
「ここがアギトだ。」
ムサシが扉を押し開けると、中では数人が思い思いに過ごしていた。
剣を研いでいる者、地図を眺めている者、昼寝をしている者。
6名という小さな部隊なのに、この空間は随分と静かだった。
「来たか団長。それが新入りか。」
赤毛の女団員が顔を上げる。
鋭い目つきをしているが口調は軽い。
「おーい起きろ。新人来たぞ。」
大男がのそりと身を起こす。
「おっ、随分小さいな。大丈夫か?」
フユを見下ろす。頭ひとつ分は違う。
「大丈夫です。フユ=エバーノートです。よろしくお願いします。」
フユは頭を下げた。
「俺はカナン。よろしくな坊主。」
「私はセナ。ちょっと聞いていい?」
セナが腕を組みながら問いかける。
「あの等級、本当に冥級なの?」
「……はい。」
「ふーん。で、龍王になるとか言ってたって、試験場で。」
「言いました。」
「度胸はあるじゃない。あとは私たちが鍛えてやればいいだけだから。」
セナはにやりと笑う。
剣を研いでいた団員が静かに立ち上がり近づく。
青みがかった銀の長髪。物静かな目。
「コウ=ヴァンテッド。よろしく。」
地図を眺めていた男は立ち上がろうともせず手だけ上げる。
「ダリウスだ。強けりゃなんでもいい。」
ムサシは一通りの自己紹介が終わったのを確認してから口を開く。
「6名で動く部隊だ。一人が欠けても困る。今日は休め。明日から鍛えてやる。」
「はい。」
「それと。」
ムサシはフユの目をまっすぐに見る。
「龍王になるかどうかは知らん。だが俺の前でその覚悟が揺らいだら容赦しない。いいな。」
「…はい。絶対揺らぎません。」
ムサシはそれを聞いて短く頷き、執務室へと消えた。
フユはアギトを静かに見渡す。
剥き出しの石壁、磨耗した木の床。
小さくて地味で、ぼろくて。
それでも——ここが、自分の場所だ。
「ご飯食べる?余ってるよ。」
セナが鍋を示しながら言う。
「……食べます。」
フユはそう答えて、初めてほんの少しだけ緊張を解いた。
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一方トップでは。
アルバスはフラットを連れ、南門近くの大きな兵舎へと向かっていた。
41名という規模の通り、廊下はにぎやかだ。
「うちは自由な雰囲気だから。正直俺もあんまり団長らしくないんだけど。」
アルバスはへらへら笑いながら話す。
「でも実力は本物ですよね、アルバス団長。」
フラットが問うと、アルバスは少し驚いた顔をした。
「へえ、そこまで調べてきたんだ。まあ一応ね。」
扉を開けると「団長おかえり!」「新入りか!?」と声が飛び交う。
「ワンブラッドの名前知ってるぞ」「上級の火属性だろ」とあちこちから声が上がった。
「フラット=ワンブラッドです。よろしくお願いします。」
フラットは堂々と挨拶した。
それを見た団員たちから拍手が上がる。
フラットはそっと一息ついた。
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ナイツバードは静かだった。
隊舎はフローゼルの北棟に位置し、廊下はほとんど物音がしない。
リヒトは無言でレイを案内し、団員たちの前に立たせた。
「レイ=ステルファン。聖上級。ニライカナイの加護持ちだ。」
短い紹介だった。
団員たちは静かにレイを見る。値踏みするような視線だが、敵意ではない。
ここは実力がすべての世界だとわかる空気だった。
「よろしくお願いします。」
レイは頭を下げる。
「こちらこそ。」と一人が言い、それで挨拶は終わった。
シンプルで、それがかえって心地よかった。
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ホワイトウォーカーはにぎやかだった。
「来た来た!新入り!」「バンって言ったっけ?」
女性団員たちが口々に声をかける。
バンは表情を変えないまま「バン=ナータリアンです。」と答える。
「ちょっと怖い」と誰かが笑い、「いいじゃん、そのくらい」と別の誰かが返した。
マリーナは腕を組みながらバンをじっと見る。
「うちは実力より連携を重んじる。一人で突っ走るのはなしだ。」
「理解しています。」
「よし。合格。あとは実際に動いてから判断する。」
マリーナは短く笑った。
バンは静かにホワイトウォーカーを見渡す。
自分が思っていたよりずっとにぎやかな場所だ。
悪くはない、とバンはそっと思った。




