崩壊の報せ
フローゼルの街に異変が漂っていた。
普段の活気がない。
人々の足が速い。視線が落ち着かない。
路地の角で囁き合う声が聞こえる。
「……何かあったな。」エリックが呟く。
「うむ。」
ソウジは立ち止まり、街の空気を読んだ。
「何か胸騒ぎがするのぉ。」
「フラットの元へ急がなくていいのか。」
「急ぐ前に確認すべきことがある。」
ソウジは踵を返した。
「先に本部へ顔を出すか。」
エリックは一瞬逡巡したが——頷いた。
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神栄団本部。
廊下の雰囲気が違った。
団員たちが足早に動き、顔が強張っている。
小声での会話が飛び交っている。
「……やはりな。」ソウジが目を細める。
正面から団員が駆けてきた。
ソウジとエリックを見て、目を見開く。
「オキタ様!エリック元隊長!よいタイミングで——!」
「何があった。」エリックが短く言う。
「それが……団長会議が召集されまして。詳しくは……」
「誰でもいい、団長に繋げ。」
「は、はい!」
団員が駆けていく。
しばらくして——廊下の奥から足音がした。
白銀の制服。
落ち着いた体躯。年は30代半ばか。
眉間に深い皺を刻んだ顔が、ソウジとエリックを捉えた瞬間——驚きに緩んだ。
「……ソウジ様。エリックさんまで。」
現トップ団長、アルバス。
「いいところに来てくれた。」
安堵とも困惑ともとれる顔だった。
「何があった、アルバス。」エリックが言う。
アルバスは一度廊下を見渡し——声を落とした。
「右大臣ジェイズ様が……殺されました。」
沈黙。
「……何?」エリックの顔が険しくなる。
「龍王室にて発見されました。外傷なし。痕跡なし。」
「……能力による殺害か。」ソウジが静かに言う。
「はい。そして——」
アルバスは一拍置いた。
「犯人の闘気の痕跡があります。」
「誰だ。」
「……セイレン団長。アイゼルバッハです。」
エリックの目が変わった。
ソウジは——何も変わらなかった。
ただ静かに、目を伏せた。
「……そうか。」
「ソウジ様、ご存知でしたか?」
「いや。」ソウジは首を振る。「だが……そうではないかと思うていた。」
アルバスは口を引き結んだ。
「今すぐ団長会議を開きます。お二人にも出席していただきたい。」
エリックはソウジを見た。
「……行くか。」
「うむ。」
ソウジは歩き出す。
「フラットのことは——今は信じるしかない。フユたちに任せよう。」
エリックは拳を握った。
それから——前を向いた。
「……ああ。」
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団長会議室。
大きな円卓に、各団長が集まっていた。
誰の顔も険しい。
アルバスが正面に立ち、口を開いた。
「皆に集まってもらったのは他でもない。右大臣ジェイズ様暗殺の件だ。」
室内の空気が張り詰める。
「犯人はアイゼルバッハ。現在行方不明。神栄団最精鋭の一人が——内部から牙を剥いた。」
誰かが息を飲む音がした。
「加えて——セルドア龍王は現在フローゼル不在。連絡が取れていない。」
「ここでの会議の話を持って左大臣に判断を仰ぐ。」
円卓に沈黙が満ちた。
エリックは円卓を見渡した。
それぞれの顔に——緊張と、覚悟と、わずかな動揺が滲んでいた。
ソウジは目を閉じていた。
まるで——何かを考えているように。
「ソウジ様。」アルバスが言う。「何かご存知のことがあれば。」
ソウジはゆっくりと目を開けた。
「一つだけ言える。」
全員がソウジを見た。
「アイゼルバッハは——単独では動かぬ。」
「どういう意味ですか。」
「背後に何かある。」
ソウジは静かに円卓を見渡した。
「この国が、大きく揺れる始まりじゃ。」




