21話 いつもと違う何か
燐火と生徒会へ向かう。
今年から、燐火は生徒会に復帰するのだ。
堂々先輩と田中先輩、そして国光先輩が卒業した。なので、長谷部先輩が生徒会長となる。
燐火は会計、僕が書記を務め、副会長は不在のまま運営する今年になった。
「困ったわね。生徒会への勧誘をどうしましょうか?」
長谷部先輩が頬に手を添えて言う。
去年は燐火の事もあり、募集する事が出来なかった。それだけ生徒会は忙しく、大変だったのだろう。申し訳無い気持ちで一杯になる。が、今は自分の出来る事をしよう。
「最低1名。出来れば3名は勧誘したいですね」
「そうね。それよりも生徒会長候補を探さないと。これが一番やるべき事ね」
燐火が生徒会長、と思ったが、それは無理な話だ。随分、精神的に安定してきたとはいえ、まだ完全に拭えていない。癌の再発率は非常に高いのだ。
5年、10年経たなくては、もう大丈夫とは言えない。
「伊集院さんはどうでしょうか?」
僕はあの巫女さんの伊集院さんを押した。
彼女は頭が賢い。容姿もいい。人望もある。クラブにも所属しておらず、家の手伝いをしているからだ。
「私は接点が無いの。勧誘お願いしても?」
「はい。分かりました」
燐火と話し合い、二人で勧誘する事になった。
「あたし伊集院さんとは話した事無いんだよね」
「そうか。でも、大丈夫。僕がいるから」
「………うん」
燐火は僕の腕に抱き付いた。
非常に歩きにくい。でも、こうしているのも悪くは無いのだ。男達の視線がいたいのは、この際、気にしない。
僕と燐火はまだ付き合ってはいない。
キスもしていない。勿論、エッチも。
言うタイミングを逃した。
だから、お互いこの距離を保っているのかもしれない。
電車に乗り、伊集院さんの家へ訪れた。
インターホンを押して、伊集院さんを呼ぶ。
「どちら様で?」
「寺師羽根です」
「ちょっと待って下さい」
燐火がお腹を押さえる。
体調が悪い様だ。
「ごめん。奏介。燐火お腹痛いの。先に帰ってるね」
「え!?」
そう言って、燐火は足早に立ち去ってしまった。
お腹が痛いなら、伊集院さんの家のトイレ貸して貰えばいいのに。僕は不思議に思ったが、まぁ、いいかと思う。
少し時間が経過して、ようやく扉が開いた。
「どうぞ。上がって」
「あ、お邪魔します」
伊集院さんの家は、平屋だった。
二階建ではなくて、長細く作られている。建物も古く、100年は経っていると言われても不思議ではない。
「うわぁ、囲炉裏がある!」
「ごめんね。田舎臭くて」
「いやいや、古風で素敵だよ」
キリタンポや鮎を焼いて食べるのだろうか?
昔のドラマを思い出した。鍋を煮込み、よそっていたのを。
「ねぇ。ここで調理とかするの?」
「そんな事したら、部屋中、煙まみれになるけど?」
「あ」
換気設備はなく、煙は逃げ場がない。
こんな所で、火を扱えば前も見えないくらいになるだろう。前にバルサンを炊いた部屋に入った事かある。あの時は地獄だった。目は痛いし、呼吸器系統は喘息になったと思った程だ。
「お茶でもいれるから、こっちの椅子に座って」
僕はそれに従い椅子に座った。
伊集院さんはラフな格好をしている。エプロンをしており、とても似合っていた。
「私に何か付いてる?」
「いや、似合ってるな、って…………あ、悪意はない………ごめん」
伊集院さんは頬を赤く染めた。
それを誤魔化す様に問う。
「で、用件は?」
「突然で申し訳無いんだけど、生徒会に入って欲しいんだ」
「生徒会に?私が?」
「伊集院さんは頭も良くて、頼りになる。そして、クラブに入っていない」
「生徒会は募集しなかったの?」
「それが───」
燐火の癌の話をした。
僕も交通事故に会い、生徒会はそれ所ではなかったのだ。幸い、燐火と僕が生徒会に復帰したので、メンバーは3人となる。
が、来年の生徒会長候補が居なくて困っているのだ。
「私に生徒会長候補になれと?」
「副会長が生徒会長をする決まりは無い。だから、他に適任者が居ればその人でいいと思う」
「そう。断り辛いわね」
「ごめん」
伊集院さんはお茶に口を付けた。
そして、僕をじっと見つめる。
「ねぇ、あれからどうなったの?」
「ああ、あれから───」
悪魔と賭けをした。
それで、燐火の癌は治ったのだ。ただ、それだけでは対価が不足していて、僕は事故に巻き込まれる。その結果、悪魔との契約は完了した。
「貴方は本当に馬鹿ね」
「言い返す言葉も無い」
暫く沈黙が流れた。
「それで、最近変わりはない?」
「ああ、もう心の中に声は無い。ただ………」
「ただ?」
「気のせいかもしれないんだけど、最近、燐火に違和感を覚える」
「詳しく」
「えー、何て言っていいか分からない。けど、何か変なんだよな」
「………………私も生徒会に入るわ」
「え?いいの?」
「日比野さんの様子が気になるから。彼女、今日来てたでしょ?」
「ああ、お腹痛いって。体調不良だとか」
「やっぱり」
伊集院さんの言葉はとても気になった。
でも、僕にはどうしようもない。ここは頼る事にしよう。




