魔法の仕組み
「ここ辺りでよろしいですかね?」
「そうだな、周りは草だらけだし湖もあるしな」
ポカポカしたお散歩日和で今日はクレアに許可をもらい魔法を見せてもらう事になった。
一馬の言葉通り辺り一面は草木と向こう岸が見えないほどの大きな湖だけで威力の高い攻撃魔法でも惨事になることはないだろう。
「では、まずは火炎魔法からいきます」
クレアは両手真っ直ぐ湖に向けブツブツと呪文を詠唱し始めた。
するとクレアの両手の前に紅い魔法陣が現れ二人は今か今かと待っている。
クレアは呪文の最後にフォルテル!と大きな声を出し少し重心を低くする。
次の瞬間、魔法陣の中心からこれでもかというぐらいの広範囲にわたる炎がさっきまで見えていた湖の景色を炎に変えた。
魔法なんてただの妄想者の考えた産物であり実現しない夢のまた夢のものであると一馬はかんがえていた。
しかし現在目の前に起きている現象は魔法という非科学な現象でありボールを上に投げると下に落ちるのと同じようにこの世界には有って当たり前の現象である。
そんな非科学な魔法を今二人は見ている。決してCGではなく決して作り物でもなくマジックでもないそんな魔法に二人はただ目を見開きただ突っ立っていた。
燃え広がる業火に湖の水は蒸発して湯気が発生し少しの間蒸し暑くなる。だが二人はそんなことを気にする暇などなくクレアの放つ魔法に見惚れる。
程なくしてピタッと燃え広がっていた業火が止み魔法陣も同時に消滅する。
「どうでした?」
クレアが二人に問いかけるが一馬と煌牙は完全に思考を停止しており感慨に浸っていた。再度クレアは二人に問いかける。
「もしも〜し、どうでした?」
すると煌牙がハッとしてクレアが感想を求めていることにやっと気づき慌てながら返答する。
「お、おう!すげーかっこよかった!」
「でしょう?今私ができる火炎魔法で最上級ですから!」
「あっ、魔法名とか知りたい」
「魔法名ですか?これはですね、アラザルト・ロム・フォルテルと言う火炎魔法です」
「長いな・・・頭文字から取ってARFでいいんじゃないか?」
「ARF?」
「あぁ、そうか英語は分からないんだな」
「ARFですか、いい名前ですね」
ここでふと煌牙はクレアと出会った時のことを思い出し違和感に気づく。
「なぁクレア、俺たちが最初出会った時なんで魔法を使って悪魔を追っ払らわなかったんだ?」
「あの時は稽古が終わった後で魔法を使うための貯蓄はなかったんですよ」
「貯蓄?じゃあ魔法を使うには限度があるのか?」
「ええ、私は今の火炎魔法を十回ぐらい使ったら魔法を使えなくなります」
大体のRPGには魔法がありMPを消費し様々な魔法を駆使して敵を倒していく。更に言えば職業転職で接近専門のファイターや弓やダガーを使うアサシン、魔法と剣を使う魔法剣士に魔法特化型のソーサラーなどがあり好きなようにゲームを攻略できる。しかし実際はゲームのようにはいかない。ゲームのようにポンポンと強くなっていくことは不可能であり色々なジョブに転職する暇などなく自分が決めた最初のジョブでいった方が効率がいい。
だが煌牙は何を血迷ったのか何の可能性にかけたのか・・・
「俺思ったけどさ俺たち人間は魔法使えないの?」
「え⁉︎魔法ですか⁉︎」
クレアが驚くのも無理はない。魔法とは妖精だけが使用できる特別な呪文であり他種族が使用できた事は一度もない。
他種族が使用できないのは既に実験にて判明されてもいる。
獣人族、龍人族、機械族の器用な人材を集め他種族でも魔法を使えるかを行なった。魔法は妖精が最初に覚える簡単な万物魔法で使用者が見ている特定の物体を動かすMPも微量減るぐらいの魔法だ。
実験期間は約一ヶ月、朝目覚めてから昼まで行ない昼御飯を食べ昼から夕方までまた魔法の練習を行なったが結果魔法を使えた種族はいなかった。
その結果を知っているからクレアはすぐさま否定した。
「無理ですよ!妖精族以外で魔法を使えた種族はいないんですよ!」
「人間はどうなんだ?」
「あっ、いえそれはわかりませんが・・・でも最近分かったのは妖精族以外には第01(オーワン)器官がなくて魔法を使うためのエネルギーを生成することができないんです!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!オーワン器官って何だよ」
煌牙は右手を広げながらクレアに向け説明を求めた。
「あ、すいません・・・え〜と第01(オーワン)器官とは妖精族にだけある魔法のエネルギーを作るための脳内器官で他にも火炎魔法を生成するためにある第02(オーツー)器官と氷結魔法を生成するための第03(オースリー)器官、最後に万物魔法を生成するための第04(オーフォー)器官があってまず第01器官が存在しないと魔法の素を作るためのエネルギーを生成することができないんです」
煌牙はクレアの長い説明を頭を使って必死に要約してまとめた。
「つまりそのオーワン器官がないから魔法が使えないと?」
「そうゆうことになります」
「なんならそのオーワン器官を移植するか?」
今まで黙っていた一馬が途中、煌牙とクレアの会話に割って入る。
「移植っ⁉︎そんなことできませんよ!」
確かに人間医学において他種族の脳を移植した過去はない。
まず他種族の脳を移植しようと考えるなどアインシュタインでも考えなかっただろう。
他種族の脳を移植するには色々とリスクがある。
ましてや今回は異世界の他種族の脳だ。この世界に移植技術や入院するための施設などの準備が整っているかも定かではない。
「一馬、それはないだろ」
「そんなドン引きすんなよな」
クレアは人間という種族に一体幾度驚かされているのやら、クレアの常識と一馬や煌牙の常識とではたいして差はないだろう。しかし常識とは社会で不特定多数の人が認識、承認されていることをさす。だからここでは一馬は非常識であろう。
「一馬は発想が豊か過ぎてついていけませんよ」
「ははっ」
「では、次は氷結魔法を・・・」
時は同じく、龍人族の村ルーロスでアッシュを含む三人の部隊幹部と村長ドドルガムの会議が行われていた。
「村長!人間を大会に出場させるなんて何をお考えですか!」
そう言ったのはアッシュと同じく部隊幹部の一人、偵察隊長のガナルであった。彼はアッシュより二つ年上の男性龍人で名の通り偵察を主に部隊を動かすベテランの龍人である。
そんなガナルが一馬と煌牙を種族総合闘技大会に出場させることに不満を抱き一馬と煌牙を大会に出場させる手引きをした村長ドドルガムに抗議した。
「ガナル、村長のお考えだ。お前がどう言おうと村長の決定は絶対だ」
抗議したガナルに村長の立場を再度分からせたのはアッシュ、ガナルと同じく幹部にて龍人族最強の特攻隊長ギリウスだ。
獣人族との領土や貿易で亀裂が入り獣人族と龍人族の戦争があり獣人族側は龍人族の裏をかこうと目論みドドルガムがいた龍人族の拠点の後ろから奇襲作戦を決行した。しかしそのことをいち早く察知したガナルにドドルガムを逃がすために囮をお願いされた。普通囮と言うのは囮=死である。しかし特攻隊長であり村を護るためまだ拠点に到着していない特攻部隊を待たずギリウスはたった一人でドドルガムを護るため千の獣人族と闘い重症を負いながらも勝利した。
彼は生きる英雄として村のみんなから尊敬され獣人族には鬼神として恐れられている。そのギリウスに言われたガナルはぐうの音を出ず椅子に座り直した。
「私の個人的な判断で事を進めて悪かったな、君たちにも一報しておけばよかったと今は思うよ」
「いえ、私は一馬と煌牙を出場させるのは賛成です」
「私も同じく」
ドドルガムが申し訳なさそうに言いアッシュとギリウスはドドルガムを庇ったのかドドルガムの案に賛成した。そして反対であったガナルも渋々だが首を縦に振り納得した。
「我はな昔から書物を閲覧するのが好きでな、良く叔父の本棚から色々な本を取り出しては没頭して見ていた。その書物の中に人間について記されている興味深いのがあって見てみると人間の生態や思考、感情など様々なことが記されていてそれ以来私は人間に逢ってみたかったとずっと思ってきた。そしてついこの間私はついに人間に接触することができた。彼ら人間は書物どおり賢く温厚でかつ勇敢で雄大であり我ら龍人族とも打ち解け共存できると考えた。そんな彼ら人間も今はこの世界の一種族だ。彼らにも大会に出場する権利はある。そう思った」
ドドルガムの思案は実に平和的で博愛なものだった。
ドドルガムは短い時間の中で人間、一馬と煌牙と会話し何かを感じとり何かにかけているのか、それは彼のみぞ知るものだ。
「私も一馬と煌牙と一戦交えて彼ら人間という種族は実に面白い生き物だと思いました。それに一馬と煌牙は強い、もしかしたらギリウスさんも二人にやられるかもしれませんね」
「ふっ、笑わせるな。人間ごときにやられる私ではない」
「そうですね、あなたは英雄ですから簡単に負けられたら英雄の名に価値が無くなります。ですが気をつけて下さいよ?甘くみていたらあっという間にやられますから」
「お前と一緒にするな。私は闘いの場では常に気を巡らし油断という文字はない。それにお前の使い魔はただの木偶の坊だ。私の使い魔をもってすれば容易く敵を殲滅させられ
る。」
アッシュとギリウスが一瞬睨み合ったがドドルガムの一言でギリウスは人間に興味が湧く。
「ギリウスよ、いつも私は言っているだろう。例え自分より弱い者がいても自惚れるな、例え自分より強い者がいても恐るな。書物によれば人間は悪魔と対等の力を有し、さらに潜在能力のある者は神をも上回るとな、さて一馬と煌牙はどうだろうか?」
ギリウスはバンッと机を叩きながら立ち上がり高らかに宣言する。
「いいでしょう!大会で私が人間を倒してみましょう!」
また時を同じくして妖精族の村フラシームの入り口の門の前で妖精達としばしの別れを告げる一馬と煌牙。
「じゃ、俺ら龍人族の村に帰るから」
「次に会うのは大会の日かのぉ」
「そうだな、また大会の日に声かけるよ」
「ふむ、気をつけて帰れ」
「ああ、じゃ」
煌牙はガンタイルにビッと手を上げ妖精族の村を背に歩きだす。
「じゃ俺も行くから」
「ええ、また大会の日に」
「おう。魔法すごかったぞ」
一馬は煌牙を追いかけるように早足で村を後にする。
「さて、飛ぶか・・・」
「そうだな、帰ったらまたガッツリ食べようぜ」
「煌牙、お前はただの食いしん坊か」
「いや、ただのはいらないぜ、食いしん坊だ」
「さぁ、とっとと帰ろう」
一馬が地面を蹴り飛び立つと続いて煌牙も飛び、二人は第二の故郷の龍人族の村に向かって飛翔した。




