第九話『ジャック・ザ・ステッキ』
NPCはプレイヤーのログアウト時に活動する。
単なるログの変動みたいだけど、好感度の高さを表す指標となっている。
「これ、何の木だろ?」
「じゃじゃーん! ジャック・ザ・ツリーだよ!!」
「ジャック・ザ・ツリー!」
ピュアリザードを辿っていくと、ジャックの育てた1本の木があった。
樹高は2メートル弱で背の高い牧草に囲まれている。
珍しい小動物の住処になっていて、レベル7のブラウニータートルがいた。甲羅は板チョコの椅子だ。
HP777の激レアモンスターを見かけるのは2度目である。
チョコレートの香りで小動物を誘引するノンアクティブモンスターなので見逃している。是非とも倒したいけど見るからに幸運が高いしMPの無駄だと早々に諦めた私だ。
「カシーのお陰で僕の放牧地は快適になったよ! ありがとう!」
「大したことはしてないよ。この木の枝でジャックの武器を作る?」
「僕の武器!?」
「そうだよ。折角ジャックが育てたんだからね!」
それにジャック・ザ・コインがある。私の武器にするよりはジャックの武器にしたいよね。
ジャック・ザ・ツリーの枝が落ちていたので、これをレイキーア工房に持っていけばいい。
でも武器は作ってくれないかな? 大裁縫師なんだよね。
「ん~。こいつを倒してもう少し考える! 武器がいるかははっきりするよ!」
「分かった!」
ブラウニータートルを倒す! ホワイトポーション解放!
バフ効果はしっかり一時間かかるので、ここぞという時に使っているホワイトポーション。
グリーンポーションは残り1本だ。PKから逃れるために2本を消費している。
ホワイトポーションは大事に取ってあるので残り8本となった。ランプウルフ討伐にしか使わないと決めていたけど、ブラウニータートルは美味しいモンスターとしか思えない!
私は1ポイントを幸運につぎ込んで、MP回復までばちばちと火花を散らせる。
たかがノンアクティブモンスター。されどノンアクティブモンスター。
敏捷は比較的あるので時間をかければ倒せる。ダメージの通りがいいと嬉しいな!
「いざ尋常に! 【パンチャーバレット】!!」
初撃はシャフト移動でダメージ増大を狙う!!
「杖ならば作れる」
「作れるの!?」
レイキーアにダメ元で聞いてみると何でもないことのように作れると頷いた。
気になって棚を見やると、よく分からない道具が所狭しと置いてある。その中には杖があった。
「大裁縫師には様々な才を持つ者がいる。私は魔杖の作り手だ」
「魔杖の。ドンピシャだったのかな。今回も食材でいいの?」
「ああ。あの肉は美味かった」
それならとピュアリザードの肉とブラウニータートルの欠片で杖製作をお願いする。
ブラウニータートルの欠片は甲羅の一部で食材アイテムだ。レイキーアの感想が聞けるので食い意地を張らずに持ってこよう。今日はブラウニータートルにかまけてホーンラビットの肉は全然集まらなかった。
しかし服も作れて杖も作れる大裁縫師か。
ファンタジーな世界観なので、レイキーアの作った装備はおよそ一般的だ。
プレイヤーを回り道させるためかもしれないけど、レイキーアの腕は確かなので周囲の嫉妬を買ったのかな? こんな辺鄙なエリアで大自然族に装備を作っている。
日を改めてレイキーア工房に来ると、ジャック・ザ・ステッキが完成していた。
「リコーダーになってる!!」
「わあっ!」
レイキーアはジャック・ザ・コインとジャック・ザ・ツリーの枝でリコーダーを作った!? 吹くと音の鳴りそうな楽器だよね? 一旦インベントリに仕舞って確かめよう。
・ジャック・ザ・ステッキ(大自然族専用)
攻撃力 300
大裁縫師の製作した究極のマジックワンド。戦場で開かれる狂乱の宴に敵の屍を築きゆく。
攻撃力が300……!? ま、マジックワンドだから魔法ダメージ増大だよね? 物理ダメージも?
「試したい……試していいよね?」
「カシーが使うといいよ!」
「そうさせて貰う! ゴブリン一撃で倒せるかなぁ~!」
重さは全く感じない。筋力1で使える武器があるとはね! 木の枝ですら持ち上がらなかったのに、レイキーアはとんでもない杖を作ってくれた! リコーダーを振り回すのは滑稽かな?
「おっと、PKerには気を付けないと。街に向かわなくても近くに村があるんだよね」
レベリングの目途は立った。
武器を奪われたくないので、私たちは慎重に廃村を出ていく。
バロックラットとホーンラビットは瞬殺。
レベル5のガーデンラットが【パンチャーバレット】の一撃で倒せた。数は多いけど打撃が入る。
3、4匹は敵じゃなくなったし、私には手頃なモンスターだ。それにドロップがいい。
「レア野菜こい! 【パンチャーバレット】!!」
「ヂュウウゥッ」
フィニッシュソウルの効果で無傷のガーデンラットを1撃で倒す。
ドロップアイテムを確認。
ガーデンラットの毛皮、ガーデンラットの骨、それとトープトダイルの実。
ガーデンラットは低確率で野菜をドロップするので、ようやくスライムゼリーの生活とはおさらばだ。放牧地産だと品質はいいからスライムゼリーが美味しいんだよね。
「トプートダイルの実は調理しないと美味しくなさそうだよ」
「ラブリー村の人がたまに美味しい料理を持ってくるよ!」
「へ~!」
プレイヤーかな? この恰好で驚かないのはプレイヤーしかいないよね。
村人NPCとは関われない。
ホッガをラブリー村に送り届けて村に溶け込むのもありだったけど……まだ小屋にいないよね? 酪日の亡霊は村の守護霊だし案外小屋に残っていたりして? 幸薄そうだからろくに確かめなかったなぁ。
建物の朽ちた廃村の物置小屋を調べるとゾンビが出てきた。
「おあぁあっ! 人……じゃなぎゃあああ!?」」
「私だよ?」
「か、か、カシー!? もう三日もここにいるんだ! いい加減村に帰してくれ!!」
「あ、クエストが出てきた」
私が悪いのかな? 安請け合いした私が悪かったのか~。
「護衛には不向きなんだよね。武器は使える?」
「……使えない」
物置小屋には古びた剣やロープが置いてある。引っ張るとタライが落ちてくる仕掛け? レイキーアの作った通用口が村の何処かにあるんだよね。クエストは保留で。
「剣は装備しておいて。これを食べてからモンスターを倒すよ」
「モンスター……うぅ、酸っぱい」
レア野菜のカールキャムの実は花弁のキャベツで酸っぱい。トープトダイルの実は外皮が硬くてそのままでは食べられない。きっとレイキーアは食べ飽きている。
「ガーデンラットは倒したことある?」
「ない……モンスターは村の兵士が倒してくれるんだ」
「ホッガでも倒せるよ」
パーティーを組んでジャックに呪われるか、モンスターを倒すことで経験値を得て貰うか。
断然後者だよね。被ダメージを貰わないように1匹ずつ倒させる。
ホッガの装備をレイキーアにお願いするにはピュアリザードの肉が足りない。村人専用の装備を作ってくれるか定かじゃないんだ。




