あなたの隣に立ちたい。
「鈴音」
「成宮…どしたの?彼女さんが見当たらないの?」
優しくて大好きな声に呼び止められて、胸が嬉しくて切ない。
「今日で卒業だろ?鈴音との時間を大切にしたくて」
またそうやって苦くない潮水で溺れさせる。
「彼女さんに怒られても知らないからね」
あなたに優しくなれてるだろうか。
素直になれただろうか。
「………鈴音、ずっと思ってたんだけど、何かあった?」
「んー?なんで?」
「いや、お前、変わったから…って言うか柔らかくなったて言うか…」
しどろもどろに言う彼が愛おしい。
「気付いてくれてたんだね」
「そりゃ、長年一緒にいるんだ。気付くよ」
彼が何を思っているかは分からない。
だが吹かれる風が暖かくて、傷口にハチミツを優しく塗られているようだ。
「成宮も変わったよ」
「え?俺?変わったかな…あ、かっこよくなったとか?」
なんて、な!とハニカム。
「うん、…かっこよくなった」
「、なんだよ…」
「あんたに言いたい事も謝りたい事もあるけど」
”あたしの幼馴染でありがとう“
苦しんだ成果は小さい。
今はまだこれしか言えないけど、言わずに何も変えられなかったあの時よりは良いと思う。
「っ…」
「あ、成宮、あんたの彼女さんが来たよ」
”また後でね”
そう言って立ち去るので心臓がいっぱいだ。
……苦しいのに幸せ。
「あなたが好きだよ…」
小さく吐いて、溢れそうな涙をぐっと堪える。
桜が散る地面は、まだ咲く桜になれない私みたいだが綺麗に見えた。
願わくば
『あなたの隣に立ちたい。』
強い風が吹いて、鈴音の後ろ姿に桜が舞う。
”あなたが好きだよ“
小さく小さく蚊の鳴く声で聞こえた。
「俺も好きだよ」
心が喜びで震えるのに背中を向ける彼女に切なくなる。
「成宮君?…あぁ、まだ伝えてないの?」
鈴音さんが好きだって。と鈴音の後ろ姿を見ながら笑って言える彼女は、本当に優しい人だと思う。
「鈴音さんが忘れられないって、私と最低な別れ方はしたくせにヘタレなんだから」
「すみません…」
「鈴音さん、綺麗になったね」
「……」
「私も彼女の事好きよ」
成宮君が別れを言い出すのは分かっていた。
分かっていても彼が言い出すまで、彼女として幸せをもらった。
鈴音さんの、傷付いてどん底まで突き落ちて、綺麗になる様は美しくて目を奪われた。
「私はあの様には素直に成長しない。それ程、成宮君が好きなのよ。私も好きだけど…」
微かに声が揺れる。
「卒業おめでとう。大切にね」
優しい笑みを浮かべたのは彼女にとって、最後の精一杯の虚勢だろう。
「うん。卒業おめでとう」
元気で…。と踏み出す一歩。
「本当にいい人ばかりで自分が嫌んなる」
せめて、優しく押し出してくれた彼女の想いを無駄にしないように。
散る桜を掻き分けるように走り出す。
小さくもしっかり歩いてる、『幼馴染』の元へ。
「俺も好きだよ!」
はっと振り向く長い髪。
あの時から伸ばしてる長い髪。
「……ばか。」
泣いて笑う『彼女』に、胸が切なくて幸せが広がる。
友達以上、恋人未満の『幼馴染』へ。
願わくば、『あなたの隣に立ちたい』。
fin.
2016.02.14
お疲れ様でございます。いちかです。
全体的に短い内容でしたが、少しでも切なくお楽しみいただけたら幸いです。
斎藤さんは書いた私からしても、できた人だと思います笑
斎藤は2人に憧れていましたし、これからも憧れると思います。鈴音は素直。成宮はぶつかる勇気を。と思って書いてきました。誰かを好きになって、やつれる程苦しむ事ってあると思います。後悔と切なさや諸々で、心臓が潰れちゃいそうになりますよね笑
耐えて耐えて、素敵になってください。
あなたに幸を。
ここまでお付き合い頂き、ありがとうございます。