「歌舞伎者の街」 第2話
でも、何か引っ掛かった。
(修・・・・・)
答えの出ない不安に駆られていると、何の予兆も無く事務所の電話が鳴り出した。
ジリリリリリーーーーーン
ジリリリリリーーーーーン
聴きなれたこの音が、今日は勘に触る。
「はい。 不動探偵事務所です」
電話に出た茜が、受話器から耳を離した。
「ぅぉぅぃぅぁ、ぃぃぁぃぁ・・・」
あまり聞き取れはしなかったが、あの嗄れ声には聞き覚えがある。
「・・・先生。 石神警部からお電話です」
「だろうな・・・」
その電話には出たく無かったが、ほっとく訳にもいかず、茜から受話器を受け取った。
「”#$%&’#$%&*+?**~|・・・」
「騒がしいよ、警部殿。 具合が悪いんだ。 もう少し静かに話してくれないか? これじゃあ、鼓膜がもたない・・・」
傍にいた茜が、クスッと笑った。
「おっといけねぇ。 ちょっと興奮しすぎちまった。 ・・・探偵、聞こえてるか?」
「あぁ、聞こえてる」
「ハッ! 具合が悪ぃだと~。 てめぇみたいなぐうたらが、風邪なんかひくんか?」
思わず受話器を置こうとしたところを、茜に止められた。
少しムッとしながら、受話器を耳に戻す。
「俺に喧嘩を売るために、かけて来た訳でもあるまい? 何の用だ?・・・」
「!? そうだ!! 良く聞け探偵。 お前の情報屋に、高樋 修ってぇのがいたな・・・ホストの・・・」
「情報屋じゃない・・・、連れだ・・・」
「どっちでもいい! そのお前の連れがやられたぞ!!」
「!? ・・・・・やら・・・れた・・・・・って・・・」
頭の情報処理が停止しかかった。
「おぅよ。 東京湾に浮かんでたらしい・・・」
「・・・・・・・・・・」
頭はまだ、鈍い音を出している。
「幸い発見が早くて、朝方病院に運ばれた時は、まだ息があったらしいぞ・・・」
「今は! 今はどうなんだ!!」
「しらねぇよ。 午前中に方々調べて、てめぇの名前が出て来たから、電話したんだ・・・。 てめぇに聞き・・・・・」
「今何処だ!!! 修は今、何処にいる!!!!!」
言葉を被せた。
「病院にいるだろ・・・・・」
「答えろ!!!!!」
「・・・・・中野医療総合病院にいる・・・・・・・・。 いいか!! たんて・・・・・」
電話を切った。
(修がやられた??? 修に何があった・・・)
「・・・ちょっと出て来る・・・・・」
茜が心配そうな眼で、俺を見ている。
「・・・・・どちらへ?」
「・・・中野医療総合病院だ・・・・・、修がやられた・・・・・・・・・」
ソファにかかっていた上着を取って、事務所を出た。
歌舞伎町を横切る感じで、一番街通りまでダッシュして右に折れ、職安通りまでもダッシュした。
そう、今は昼過ぎ、靖国通りから青梅街道、中野通りへ出るより、職安通りから裏道を使い大久保通りへ出た方が早い。
職安通りでタクシーを拾い、中野医療総合病院へ急いだ。
病院へ着くまでの間は、鈍い音を放っている頭を元に戻す事に勤めたが、病院の自動ドアの開く時間だけが妙に遅く感じたのを見ると、まだ元には戻っていないようだった。
「今朝の緊急で運ばれた高橋 修の様態を知りたいのだが・・・・・」
病院の案内カウンターで、藪から棒に聞いてみた。
「失礼ですが、ご親族の方でいらっしゃいますか?」
当たり前だった。
誰か解らぬ人間にペラペラ話す程、お喋り好きな病院はあまり無かった。
・・・つづく、