七 受け継ぐもの
夕食の後、アリアは父の書斎へ向かった。
エドガーは机の上の書類を片づけているところだった。
「お父様」
「どうした、アリア?」
「ヴァルデン家は、昔から魔石を掘っていたの?」
「ああ。山には鉄や銅だけでなく、魔石も眠っている。昔から採掘され、魔道具を作る職人たちに届けられてきた」
「魔道具は、魔法が使えない人でも使えると聞いたの」
「そうだ。ものによるが、多くの魔道具は、魔法を使えない者でも扱えるように作られている」
「そうなのね」
「だから魔石は、領地にとって大切な資源の一つなのだ」
アリアは少し考えた。
「でも、魔石を掘る人たちも、危ないところで働いているのでしょう?」
エドガーは、娘の顔を見た。
「そうだ。だから鉱山の安全を守らなければならない。魔石がどれほど価値のあるものでも、人の命より大切なものではない」
「今日も、お仕事でそのことを話していたの?」
「よく分かったな」
「お父様は、いつもみんなのことを考えているのね」
エドガーは、娘の肩に手を置いた。
「領主の仕事は、土地や財産を増やすことだけではない。そこに暮らす人々が、明日も安心して暮らせるようにすることだ」
アリアは、父の言葉を心に刻むように頷いた。
「わたし、もっと勉強したいわ」
「そうか。ならば、焦らず一つずつ学んでいきなさい」
「はい」
エドガーは、窓の外を見た。
夜の山々は暗く、遠くの砦には小さな灯が見えている。
あの灯の下では、今も兵士たちが国境を見張っている。
村では、人々が明日の仕事に備えて眠りにつこうとしている。
鉱山では、坑道を閉じた者たちが家族の待つ家へ帰っている。
その一つひとつを守ることが、ヴァルデン家の務めだった。
そして、その務めは、銀の狼の紋章とともに、次の世代へと受け継がれていく。
アリアは、父の横に立ち、夜の山を見つめた。
まだ彼女には、建国の誓約も、貴族院の仕組みも、領地の財政も、すべてを理解することはできない。
けれど、少しずつ知っていけばよい。
この家が何を守り、何を受け継ぎ、何のために存在しているのか。
その答えを見つけるための学びは、まだ始まったばかりだった。




