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剣士の国  作者: quo
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訪問

アリアはルカの事が心配でならなかった。

甲冑の件、襲撃する場所の件。

自分に苛立ちを覚えた。


ルカはすでに完成されていると思い込んでいた。

自分の思い込みが、そうした。


監査役と村長の屋敷に向かっていると、今回の急襲に問題は無かったと言った。

なにが、問題ないだ。こっちはルカが危険な状況にあるのに。


「村人にけが人は出なかった。こちらに感謝してさえいる」


そうだった。任務としては成功している。アリアはルカに、過剰なまでに感情を入れ込んでいる自分を恥じた。

アリアもルカも、国に誓いをたてた者だ。


監察役は、逃がした男は、まだ網にかかっていない。賊の本隊が近くに居る様子はない。大規模な襲来は無いだろう言った。

人手が足りないから、すでに国から一個小隊が向かっていると言った。


もう、表立った行動は出来ない。国と国との問題に発展している。

早く、ディーストの動きを封じ込めないといけない。


二人は村長の屋敷についた。比較的、体躯の良い村人が二人、賊から奪った剣を片手に立っている。

アリアが屋敷に入ろうとすると、村人の一人がルカの事を気にかけていた。

大丈夫と、にこやかに答えると、人質に取られたのは自分の娘だと言う。


感謝の言葉が、長々と贈られた。村人は、こちらに好感を持っている。

アリアは思った。確かに任務は成功したのだと。



屋敷に入ると、村長が自ら出迎えた。

来客をもてなすのは、広間しかない。散らかっていると謝罪すると、案内された。

割れた酒瓶は、片付けられているが、破られた窓は、急場しのぎで板で塞がれている。


村長が二人に、椅子に掛けるようにすすめると、夫人がお茶を出してきた。

朝も明けようとしている。

二人は、疲れた素振りも見せずに、村を助けてもらった礼を言った。


監査役は、寄付の件を切り出すと、村長はありがたく受け取ると言った。

そして、特使を村に招き入れることに同意した。

繁忙期にしか使っていない宿も、提供すると言った。


監査役から聞いていたが、はじめは、難色を示していたらしい。今回の一件で態度が変わったようだ。

また、監査役は、賊が再度、襲撃された場合に備え、村を守る自国の兵団を、滞在させることを許可するように求めた。

村長は快諾した。


アリアは、監査役の言葉を聞きながら思った。

特使を守るためではない。村人を守るため。それが国の剣士達を駐留させる大義名分になる。

この襲撃の事は、把握していたが、村には事前に伝えてはいない。

筋書きは通りと言う事だ。


監査役と立場が逆であれば、自分自身も同じことをしていただろう。

村を国の剣士達で制圧するよりましだと。

しかし、ルカの事を思うと胸が痛くなる。引退しどきかもしれない。


監査役がとりあえずは、特使が到着するまで、こちらの人間を連絡役に滞在させる。

詳細は、特使と話して契約してもらうと言って、話を終えた。


屋敷を後にし、拠点に帰ろうとすると、一人の娘がアリアを追ってきた。

そして、櫛をアリアに差し出す。ルカへの礼だと言う。


櫛は木製で、独特な文様ををしている。触ると陶器のような、滑らかさだ。

この村の特産で、父親が職人だと言う。

断るわけにもいかず、渡しておくと言って預かった。


監査役は、特使は明日の昼過ぎに、村に到着すると言うと、同席するようにアリアに命じた。

特使はエドと言いう。

あいつだ。同期のエドだ。偉くなったものだ。


「知らん」

アリアはそう言いうと、馬を駆ってルカの元へ急いだ。



ミストラはカイン達の宿の前を行き来していた。

思わず飛び出たものの、どうやってリリスと会おうかと思案していた。


アリアのおかげで、関係が絶たれたところに、その張本人にが協力を求めよと言っている。

ミストラは、あの許可証さえなければ、断っていた。

それどこか、アリアに滾々と説教してやるところだった。


いっそのこと、カインとガーランド達とも会ってみるか。

しかし、やはりアリアの言動が邪魔をするだろう。


「これからは別行動」


途方に暮れて、街路樹にもたれかかると、いい匂いが漂ってくる。

肉の串焼きの屋台が出ている。なんの肉だろう。いや、そんなことはどうでもいい。

肉汁がしたたり落ち、炭で焦がされる匂いだ漂ってくる。


ミストラは、ナタリアの食事に満足をしていなかった。


食べたいが、手持ちは少ない。無駄遣いは出来ない。

この旅は困難の連続だ。

屋台で串焼きの一本も買えない。いつか自叙伝でも書くときには、この場面を書き漏らさない。


ミストラの思考がよどみ始めたときリリスが目の前に現れた。

「何しているんだ」

ミストラは慌てて答えた。散歩をしていると。ルカの沈黙の方が良いくらいの嘘だ。


リリスは、ミストラが見ていた先に、屋台があるのに気付いた。

「串焼きが食べたいのか」と、リリスが言うと落ち着きを取り戻したミストラは、

「食べたいのですが、お金がありません」と、正直に答えるた。

リリスは「私に協力するか」と言ってきた。


ミストラは。串焼きで買収された。


旨い。拠点では結構な量を食べたのに、いくらでもだべる事が出来る。

やはり、栄養だけが食事ではない。


ミストラとリリスは、人もまばらな通りを歩きながら、串焼きを食べた。

南方人は豪快だ。まだ熱い肉を頬張り、串から取りにくい肉を、豪快にかじりついて引きちぎる。

豪快を通り越して、清々しい食べっぷりだ。


ミストラは、なぜ宿に帰って食べないのかと尋ねた。

リリスは、カインとガーランドと話していたが、一向に話が進まずにいた。

そして、カインが、当てがあると言って、二週間ほど町を離れると言ったそうだ。


打つ手がない以上、カインに頼るしかない。

カインは、考えを伝えずに旅支度をしている。そして、ガーランドと昔に逆戻りになって、つまらなくなったと言った。

そう言えば、リリスとガーランドは、一緒に放浪していたところで、カインと出会ったと聞いた事がある。


そして、ガーランドに、この件から抜けたいと冗談で言ったら、珍しく大声で怒られたそうだ。

「お前は、いつもそうだ」と。

それで、何となく宿から抜け出したそうだ。


怒鳴られて宿を離れて戻らないとは、南方人の王族とは思えない。

喧嘩をふっかける事を遊びと言う人が、ガーランドと喧嘩にならないのか。


冗談でミストラがガーランドに気があるのかと尋ねると、串がミストラの首の血管に突き付けられた。

「速くて正確だろう」リリスがいうと、「速くて正確です」とミストラは答えた。

気があるのか、気に障ったのかはおいて、この話題には触れてはいけない。


二人が食べ終わった頃、ミストラが協力の内容について聞いてきた。

リリスは、「あの女。私に付きまとっていたお前の国の女を、こちらに取り込めないか」と、言った。


ミストラは間髪入れずに、二つ返事で承諾した。むしろ、全面的に協力すると。

リリスは笑った。

「お前は、同じことを言いに来たんだろう」

図星だ。確かに意見の一致は必然だと思う。やはりリリスは感がいい。


ミレイラは正直にその通りと言うと、リリスへの報酬の事を切り出した。

危険な目に合うのはリリスだ。予算が無制限ならケチることもない。


リリスは考え込んでいる。そしてミストラに西方の事を聞いてきた。

「こっちと同じかな。しいて言えば、街道が整備されて交通の便がいいことかな」

「街道は国の剣士が巡回しているから、盗賊の心配もなく荷馬車を走らせることが出来る」

「だから、荷馬車を昼も夜もとばして、海産物を内陸まで運べるのがいいのかもしれないね」


今度は、ミストラの国について聞いてきた。

「辺境もいいところよ。冬は寒いし夏は暑い。乾燥して砂ぼこりが酷い。緑は無いし鉱物も出ない。貧乏国家よ」

「あるのは、各分野の最先端の技術と職人かな。だから大昔に武力で版図を広げて、西方の半分を治めたのよ」

「でも、温泉があちこちに出ているのは良いわね。うちは直接家に引き入れてて、外で入る必要がない」


さらに質問は続く。

「通行証は手に入れるのが難しいのか」


「うちの国のおかげで、結構平和だから簡単よ」

「何なら私が紹介状を書けば、どの国でも通れる通行証も簡単に発行できる。通行料は高いけどね」

「商人も出入りに困っていない。だから物流がいいのかも」


リリスは、そこまで聞くと押し黙った。

ミストラ、入れ墨を模写するときに、国に住んだらと言ったのを思い出した。

もしかして、どこかに定住したいのか。ならば国がうってつけだ。


「国に住むなら歓迎よ。定住するなら役所に行けば、大概の人は許可が下りる」

「問題は仕事ね。定住者がいないのは、そこがもんだいだから。リリスの弓の実力なら、仕官して教育係で食べていけるわ」


そこまでミストラが言うと、余計な世話だと言った。


聞いておいて余計な世話とは横暴な。ガーランドの事を言ったから不機嫌なのか。

しかし、リリスがこんなにも西方の情報を得ようとしているのか分からない。


リリスは、報酬は後で考えると言って宿に戻っていった。

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