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剣士の国  作者: quo
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躊躇

アリアは木の上の一人と、門の影に一人を見つけた。

後は見当たらない。出たとこ勝負か。


アリアは弓を引き絞ると、木の上の男に向けて矢を放った。

正直、得意ではないが、この距離では外さない。


木の上の男は、喉を正面か貫かれると地面に落ちた。


門にいるもう一人が、音のした方向を見ようとした瞬間、胸に矢が刺さる。

男は声を発する間もなく、その場に崩れ落ちた。


アリアは、門のところまで走り寄ると、男が息をしていないのを確認して、近くの小屋まで走った。

小屋には誰もいない。やはり、さっきみた村長の屋敷に、常駐しているのか。

アリアが、家々の裏から村長の屋敷に近づく。


進むと何件かの家に、人の気配があった。住人だろうか。

そのうちの一軒に目を付け覗き込むと、母娘らしき二人が息を潜めて、抱き合って震えている。

奥の建物には、家族の一人が人質にとらわれているのだろう。


ルカは上手くやってくれるか。


人の足音がする。ランプを片手に、存在を隠すでもなく。

男が家の扉を開けると、ランプをかざした。母娘をみてすぐに隣の家に行った。

逃げるなと圧力を加えるついでに、見回りをしている様だ。


アリアは、慎重に家の裏口を開けると、中に忍び込んだ。

小声で「大丈夫?」と言うと、母娘は凍り付いたように動かなくなった。


ゆっくりと姿を現し、助けに来たと言った途端に、娘が抱きついてきた。

声を出して泣きそうだったので、口を手で塞いだ。

娘は腕の中で、震えている。


母親に状況を尋ねると、夕刻に武装した一団が現れ、村の人間を捕らえると人質にしたと言う。

武装した男たちに囲まれ村長が現れて、逆らわなければ危害を与えないと震えた声でみんなに呼びかけた。

そして、各家から一人ずつ人質をだして、共同選果場に閉じ込めたそうだ。


この家からは、父親が人質になったと言う。


見回りは同じ間隔で行われ、村長の屋敷から何人かの出入りがある。

選果場には二十人近くの人質がいるそうだ。

そこに、見張りが何人いるかは、分からない。


とりあえずは、似顔絵の男を確保したい。


あの見回りの男が、門のところに行くまで時間がない。

アリアは、一気に村長の屋敷を襲撃すことにした。



ルカは森の中を、村の奥の大きな建物に向かっていた。

途中から村に入ると、小屋から小屋へ隠れながら移動した。

小屋は倉庫の様で、人が潜んでいる様子はない。


建物の側まで来た。

男が正面にいる。椅子に座り、槍を片手に船を漕いでいる。


慎重に裏に回ると、裏口にも男が座っている。

二人。一人は完全に寝ている。おそらく、表の男と三人で交代して休憩をしているのだろう。


側面を見ると、高い位置に採光窓がある。

ルカは剣を壁に立てかけると、鍔に足をかけて中を覗いた。


中には、二十人近くの村人らしき人間がいる。手には縄がかけられている。

見張りは三人。テーブルに腰かけ、ランプを囲んで絵札で遊んでいる。

選果場らしく、積み上げられた箱が多くて良く見えない。


ルカは地面に降り立つと、ナイフを取り出した。


裏の人間から消して、正面から中に飛び込もう。


裏に回るとの二人に音もなく忍び寄り、起きている男の口を塞いで首をかき切った。

気配に気づいて寝ていた男が起きだした。寝ぼけて声をあげる前に、口を塞ぐと同じように首をかき切った。


正面にまわると、船を漕いでいる男に走り寄り、口を塞ぎ、首に短剣を突き付けた。

男は息を荒くして目を見開いている。

ルカは小声で「何に居る。指で教えろ」

男は指を立てる。四人。


「本当か」

男は知らないと、顔を横に振る。ルカは短剣を男の首にゆっくり、沈めていく。

男の首から、血が流れ落ちる。


男はもっと息を荒くしながら、手を精一杯広げた。

五人。


何処にいるかと聞くと、男は顔を横に振る。


「扉を開けろ。妙な真似はするな」

男は頷くと、扉を三回と二回に分けてノックした。


鍵が開く音がした。中から男が、ランプを片手に現れた。

ルカは短剣で。ランプの男の喉を突くと、羽交い絞めにしていた男の首をかき切り、中に躍り出た。


テーブルに二人。

驚き、腰を上げようとした一人に、ナイフを放った。

首に深く突き刺さり、血を噴き出して倒れていく。


もう一人の男に抜刀すると、首を落とした。

あと二人。


人質の村人たちが騒ぎ立てる。

しまった。うるさ過ぎる。気配が読めない。


人質がの一人が叫ぶ。

「あの男!」


一人の男が立ち上がる。見ると腰にナイフを刺している。

人質に紛れていたか。

ルカがナイフを放とうとした瞬間、男が娘を羽交い絞めにして、喉にナイフを突きつけた。


ルカは人質と目が合った。

怯えている。そして、ルカの瞳を捕らえ、その瞳は助けを求めている。

ルカはナイフを振り上げたまま、動きを止めてしまった。

その瞬間、背中に激痛が走った。


五人目の男が、背後からルカを斬った。

不意を突かれて倒れ込んだルカは、防御をとれないまま倒れ込み、男の蹴りをまともに腹に入れられた。

動けなくなったルカに、男が剣を突き立てようとする。


人質たちが、ロープを自分たちで解くと、皆がそれぞれに、斧に、鍬に、木の棒を手に取り、賊に襲いかかった。

剣を振り上げた男は、人質だった村人に木の棒で頭を打たれると、斧で止めを刺された。


人質を取った男は、村人に囲まれにじり寄られている。

逃げ場がないと悟った男が、ナイフを捨てて両手を上げた。


娘は駆け出すと、村人に抱きかかえられて、奥に連れて行かれた。


両手を上げた男は、村人の目が復讐で満たされるのが分かった。

膝を地面について言命乞をしたが、それは叶わなかった。


ルカは痛みに耐えながら、その風景をぼんやりと見ていた。

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