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剣士の国  作者: quo
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嘘と真実

リリスはルカとミレイラの話を、隣で聞きていた。


単純な話で、隣の宿泊者に金を握らせて、立ち退いてもらっただけだ。

今頃は、朝食付きの奇麗な宿でゆっくり休んでいる事だろう。

そしてこんな安宿だ、天井に仕切りはない。聞き耳を立てなくても、声が拾える。リリスは椅子にゆっくりと腰かけていた。


ミレイラのルカを見る目は違っていた。どうやら、ルカを尊敬しているようだった。昼間、私とルカが話しているとき、私だけを注意したのがその証拠だ。


尊敬する人に、注意などできはしない。そして、何か聴きかれれば、答えるのが道理。

ルカの質問は、上出来だ。少数の護衛での視察旅行。領主の健康不安の手紙が来てからの初動。そこに五人の傭兵が都合よく登場。


誰かの、筋書きだろう。


リリスはルカの次の質問を待ったが、そこで思考が停止したらしい。もどかしさを感じながら、潮時だと思った。いい加減、向こうの宿でミレイラが居ないことに気付くはずだ。

ミレイラは、ルカのところに行ったなど言わないはずだが、騎士の老人は、傭兵そのものを嫌っている。問い詰められたときに、言い訳が必要だろう。


今日は、町の外れで、歌会が開かれている。部屋に入った時に、歌会の話でもしてやろう。ルカよりかは上手に言い訳が出来るだろう。


リリスは扉を慎重に開けると、気配を消して部屋の前を通り過ぎ、あたかも食堂から帰ってきたようにルカの部屋に入ってきた。

「ミレイラさん。まだ居たんですか。」そういうと、ミレイラは立ち上がり、「用は済んだので帰ります」と凛とした声で言った。二人の時間に水を差されて、ご機嫌斜めだ。ルカに少し頭を下げて、部屋を後にした。

リリスはミレイラを引き留めると、足元が暗いのでと、使い捨てのランプを手渡し、付け加えて言った「町の外れでしょうね。誰かが歌っていいるようです。歌自慢が集まって何かやっているんでしょう。」


ミレイラは、ランプの礼を言うと、フードを目深に被って宿の方へ歩き出した。

リリスは部屋に戻ると、ルカに、歌会を見に行くと、少し興奮気味に言って部屋を出た。

ルカは、また一人になった。ミレイラの話しについて、考えねばと思ったが、夕食を食べていないのを思い出して、隣の食堂に向かった。


外に出ると月明りはなく、家の窓からの明かりが、まだらだに灯っていた。ランプに映し出されるレンガ道は、補修で入れ替え敷いたのか、不揃いなチェス盤のようだった。


さすがに人通りは少なくなっていた。リリアはランプを片手に、ミレイラの後を追っていた。

今度は距離を置いて、フードの下に、酒場の給仕の格好をして、手提げ袋に酒瓶を入れていた。


夜の町で、給仕が酒屋から追加の酒を買ってくることは、よくある事だ。

宿までは、何事もなく着いた。ミレイラは一度も後を振り向かなかった。

宿に入って間もなく、宿の一室に灯がともった。リリスは、素直に育ったきれいな娘さんと、くすりと笑った。


リリスは帰ることなく、宿の入り口が見える路地に潜んだ。張り込んでいる連中がいるかもしれない。


案の定、ミレイラが宿に着いたのを確認したいのか、路地から出てきた男がいた。男は宿を通りすぎると、また同じ路地に入っていった。


素人。いや、ど素人。


リリアは慎重だ。自身がつけられていて、あれが囮である可能性がある。

動かず潜んだまま、周囲の気配を探った。


何もないことを確認すると、給仕の姿のままで男の後をつけ始めた。

男は路地を伝いながら、郊外に向かっている。この格好は目立つ。リリスは服と酒瓶を店のごみ箱に放り込むと、また、男を追った。


男は郊外の外れにの廃屋についた。そこに小さな馬車がと、護衛と思われる男がいた。歳は若く、大きな体躯をしている。防護衣に腰に安物の短剣を携えている。分かりやすい悪人の手下。


男が何かしら、馬車の中の人間に話しかけている様子だった。一通り話が終わると護衛の男から金をもらって、元来た道を帰るのか、リリスの方へ向かってきた。近くの木に身をひそめると、気づかずに走っていった。


馬車が動き出す。何か家紋が無いか窺うが、何もついていない。

リリスは馬車の通り過ぎた後に、馬車のあった場所をみて回った。三人分の靴跡と馬車の轍。残留物はない。


これだけ確認すると、走って宿に向かった。足音はなく、服が風になびく音だけがした。


ルカが食堂に入ると、カインとガーランドが陽気に酒を飲んでいた。酒瓶がテーブルを埋めていた。

主人に、隣の宿の者というと、食事を出してきた、パンと肉の香草焼き野菜のスープ。


主人は食事するルカをみて、話しかけてきた。まだ小さな娘がいて、家に帰るといつも寝ている。寝顔を見ると、元気が出てくると言った。

ルカにはあまり気を引かれる話ではなかったが、父親とはこんなものかと思った。


私の寝顔は、どんな顔だろう。そして、それを見て、元気が出る人はいるのだろうか。


主人は、お嬢ちゃんは、まだ若い。ああならないようにとカインとガーランドをう顎で指した。

ルカがうなずくと、主人はもう一人分余っていると言った。


リリスの分だろうか。食堂に行ったはずだ。ルカは少し考えると、ちょっと用事で出ていると主人に言った。店じまいの時間だから、包んでいておいてやろうかと言った。ルカはうなずいた。


ルカが食事を終えて、食堂を後にすると、

主人は、カインとガーランドを追い出すべく、彼らの足元に水を撒くと、掃き掃除をはじめた。




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