守りたい
リリスが部屋に戻って来た。
いい匂いがする。リリスがルカが持っている包みをみて、そう言うと「私の夕飯?」と言った。
ルカがうなずくと、リリスは包みを手に取り、包みを開けた。パンと木の葉を幾重にも重ねられた容器に入った、香草焼きの肉があった。容器は滴る肉汁を逃がさない。木の容器にスープが入っていた。
リリスは、膝の上に包みを置くと、器用にパンと肉とスープを食べた。「この肉はいいね。よく太った鳥の肉だ。さすがにスープは冷めているか。」肉を手で割いて、口に運んでいた。食べ終わると、指に付いた汁をなめとった。南方人の食事の仕方は豪快だ。
包みをたたむと、部屋の隅のごみ箱に投げ入れた。そして、ベットに横になった。
ルカが口を開いた。「食堂に行っていない」。すると、リリスは「仕事してたからねー」と言った。
ルカはリリスとの会話が苦手だった。質問ををはぐらかす。前置きなしで問いかける。
リリスが、いきなり起き上がった。「誰が見てると思う?」そうして、ルカの方に体を向けた。まただ。答えようがない。
ルカが沈黙していると「私は人の後を追う人間を、追うのが得意。」「私は誰からも気付かれずに、潜むことが出来る。」笑顔で、まるで子供に謎かけをするように言った
昼と同じような問いを聞いた。しかし、今の問いには気になるところがある。人の追う事が得意。追う人間を。そして仕事をしていた。
ミレイラ。彼女が追われていて、リリスは、その人間を追っていた。そうルカは思った。
ルカの様子をみて、リリスは真顔でしゃべり始めた。
「騎士の一団は監視されている。さっき、男が向こうの宿をみて、誰かに報告していた。馬車に乗った人間だ。連中は一団を盗賊で処理する予定だったけど、しくじった。そして、騎士の連中が破格で私たちを雇っているのは、領主の館、領主かな。雇い主は、そこまで到達するまでに、もう一度くらい、同じことがあると思っている」
「連中の事情は、私は興味がない。最後まで仕事をしないと、残りの金がもらえない。」
そして、どうする。と問いかけてきた。
どうする。自ら選択する言葉を聞くと、胸が締め付けられる。あの場面を思い出す。
しかし、それを乗り越えるために、旅をすることを選択したのだ。
ミレイラは追われていたのだ。ミレイラは、いろいろ良くしてくれる。助けてあげたいと思った。
ルカは、素直な気持ちで言った。ミレイラを助けたい。
リリスはその言葉を聞くと、笑顔で「あなたも給料分は、働かなないとね」といった。
リリスはガーランドと出会って以来、いろいろ考えるのを止めた。権力構造、人間関係、拮抗する兵力、相手の戦略と弱点。そんなことを考えながら、優位な者に雇われるように考えていた。疲れていた。
もう、あの頃には戻りたくない。今回は残りの金の回収だ。昔の仕事に比べたら単純そのもの。
ルカはリリスを見つめて言った。路銀には困っていない。リリスは、その言葉を聞いて、声を出してわらった。
この子の事を、少しわかった気がした。今回の旅は、楽しくなりそうだと思った。
ルカは、次の日の朝一番に、二日酔いに苦しむ男二人を置いて、ミレイラの宿に向かった。朝の出発時刻などに変更が無いかを確認するためだ。
そして、監視する人間を見つけるためだ。
昨日の晩、リリスが不審な人間を見ていないか聞いてきた。ルカは、昨日の朝に宿の裏手に居た使用人の事を話した。
リリスは、昨日と同様に、監視している連中は素人だと思った。しかし、こちらが気付いていることは知られていないだろうと思った。うろつく連中に警戒心が全くない。烏合の傭兵連中と思っているのだろう。
この優位性は、保たなければならない。だから、これまでの行動を変化させないようにした。
ルカには、同じようなことがあっても、無視するように言った。
ルカは間者の手ほどきを受けていたので、ある程度は心得ていた。
宿に着くと、表の使用人に騎士の老人に用があると伝えた。今日はカウンターの広間で待つように言われた。
広間に怪しい人影はない。ほどなくして現れた騎士の老人は、変更が無いことをルカに伝えると、足早に奥へ消えていった。
宿を出るときにも周りに気を配ったが、怪しい気配は感じられなかった。
ふと、馬が大きく嘶いているのが聞こえた。厩舎によってみると、一頭の馬が暴れているのを、世話人がなだめているところだった。
ルカは手伝い、馬は落ち着きを取り戻した。世話人が礼を言うと、ルカは何が起きたのか尋ねた。
飼葉を取りに行って帰ってきたら、もう暴れていたそうだ。
暴れた馬は、一団の馬車に近い。馬車の馬に近づくと、少し元気がなさそうだ。頭をしばしば垂れてる。そして落ち付かない様子だ。
飼葉桶を見ると、半分くらい残している。馬は体調不良を起こしている様子だ。暴れた馬の飼葉は、ほとんど残っている。奥の馬も似たり寄ったりだ。
この馬は使わない方がいいのではないか。飼葉に何か混ぜられている。
世話人に、残りの騎士団と自分たちの馬に、飼葉を与えないようにお願いした。世話人は渋ったが、迷惑ですかと手を握りお金を渡すと、責任はとれないねと、ほかの馬に飼葉を与え始めた。
リリスは真剣なまなざしで、地図を見ていた、そこにいつもの明るい笑顔はなかった。男の二人はまだ二日酔いに悶えている。
地図の街道を指でなぞる、次の町まで単純に街道をゆくだけだ。この辺の街道は安全なので護衛の需要はない。しかし、この近辺を当面の拠点にすると、ガーランドが決めたとき。暇を見ては下見をしていた。
次の町までは昨日と同じくらいの距離があるが、途中から、なだらかな丘になっている。当然、歩速が落ちる。
丘を迂回すると、むかって左側が深い森になっている。襲って来るならここだろう。
しかし、この辺に盗賊のうわさはない。衛兵の巡視もある。この先の分岐でほかの町につながるので、人通りも多い。
襲うことは可能だが、目撃者は多くなるし、追われて捕まる者も出るだろう。
なりふり構わなければ、どこでも襲う事が出来る。
次の町で一泊すれば、もはや領地だ。私なら今日を襲う最後の日にする。最後の一泊の宿は、おそらく騎士の老人が反対するだろうが、宿を変えるか、我々が宿ごと護衛すればよい。
いずれにせよ、移動時の配置は、私が大きく先行して、カインを下げる。ガーランドが馬車に張り付き、ルカは今の位置で後衛に当たる。
そう、頭の中で護衛計画を練っていると、ルカが戻って来た。ルカはリリスに、厩舎での出来事を話した。
リリスは考えた。事故死。
馬に薬を入れられた。馬車にも細工がしてあるだろう。ぬかったとリリスは思った。
厩舎を見張るべきだった
リリスは寝ている二人を、たたき起こしに行った。




