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剣士の国  作者: quo
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接触

次の町を通りすぎると、街道は広く、人の往来が増えて行った。隠れる森や茂みはなく、ぽつぽつと木が生えている程度で、大きな木の木陰では休憩をしている人々が見えた。

季節が変わり始め、昼の太陽は大地を温めていた。


昼の一番熱い時間に休憩となった。街道沿いの茶屋に馬車を止め、領主の妻が涼をとった。騎士たちも交代で休みを取り始めていた。カインは適当な木陰に座り込んで、水筒の水を飲んで横になった。ルカは水筒の水を飲むと、馬から荷物を降ろして、木陰で休ませた。そして、あたりを見回し、連絡役と思しき人物を探した。



そんなルカに、ミレイラが近づいてきた。暑苦しかったのか、鎧は胴と小手外していた、ミレイラの銀髪が汗で輝いていた。ミレイラが銀髪をかきあげると、一緒に汗のしずくが後ろへ流れて行った。


ミレイラはルカに礼を言うと、冷えた甘い水の入った器を渡した。ルカは、彼女の礼の意味が分からなったが、渡された水を飲んだ。柑橘の皮を絞り込んだのか、さわやかな味がして、体の火照りが引いていくように感じた。


ミレイラは見張りは騎士が行うので、休んで欲しいと言った。見張りは、道中、前衛のカインと後衛のルカがやっていたのだが、今のルカを見て見張っていると勘違いをしているようだ。

ルカが座りこむと、ミレイラも隣に座った。そして、顔を近づけると真剣なまなざしで、町に着いたら武具について、教えてほしいと言った。


ルカは困った。到着は深夜。連絡役が居れば、接触してくるに違いない。しかし、ミレイラの市場の様子を思い出せば、日が昇るまで質問攻めに遭うだろう。明日の昼にしようかと言いそうになったが、明日の日中でも、ミレイラの質問攻めで、一人での行動は無理だろう。


ルカは、一人になる方法を考えなければならなった。


ミレイラは、ルカの返事を待っていたが、そのうち、出発の時刻になり、甲冑を着ると馬にまたがった。ルカに目をやると、少し頭を下げて、一団の自分の位置に戻った。一団は、また進み始めた。


ルカは先遣とういう任務の事に就いて考えた。今回、連絡役に渡す情報は多い。それは、ミレイラがもたらしたもので、その事実からすると、ミレイラと行動を共にするのがよい。そうだ。その通りだ。


ルカの中の連絡役の地位が、また一つ下がった。


夜更けに一団は町に着いた。大きな町だが、深夜で人の姿はなかった。カインとルカは、夜盗を警戒していた。建物や路地、積荷の陰から襲い掛かる夜盗は、剣での斬りあいとは違う危険がある。接近戦に強いカイン。投げナイフをも使い。夜目が利くルカ。互いに死角を補いないながら、町を進んだ。


着いた宿は、商館より一回り小さかったが、豪華な作りだった。

主人自ら一団を迎えた。領主の妻は夜分遅くの到着を詫びるとともに、感謝の声をかけた。主人はそれを聞き喜びの言葉を述べた。そして、夜食と部屋の準備が整っていると伝えた。


ミレイラは、ルカの部屋の事を聞いた。ルカの部屋に行き、武器や防具について教えてもらうつもりだった。しかし、宿の主人は怪訝な顔をして、ルカたちの事は聞いていないと言った。何かの間違いではないかと言うと、商館長の使いが記した宿泊の予約台帳を見せられた。やはり、ルカの名前がない。


傭兵の世界では、報酬の中から必要なものを買いそろえる。宿を取ることもそうだ。うまくすれば安く上がるし、むしろ、傭兵の経費を丸抱えする雇い主の方が稀だ。


カインは慣れていたので、宿を探しに出ると言い、ルカも、そうすると言い出した。すると、ミレイラが強い口調で主人に言った。


「ルカは私の恩人です。すぐに部屋を用意しなさい」ルカはカインの名前が出ていないを疑問に感じた。


主人はすでに、多くの身分の高い人たちが宿泊していると言い、傭兵の受け入れは難しいと言った。ミレイラはさらに抗議しようとしたが、騎士の老人にたしなめられた。領主の妻であり、母の名を汚すような行為であると。


ルカは、そのやり取りに興味がなかった。話が終わると騎士の老人に明日の集合場所と、時間を確認すると、ミレイラに「お休みなさい」と言って、カインと共にその場を後にした。


カインは夜の街を歩きながら、また「こんなもんさ」とルカに言った。そして、町を歩き回ったが、こんな時間に開いている宿などなく、夜の町を二人でさ迷った。


ルカは歩きながら考えていた。身分の差は、白面の剣士と雇い主との間では、ほとんどなかった。白面の剣士側から、雇い主との契約を切る事さえある。この違いは何だろうか。


そう考え込んでいると、カインが火の灯った宿屋を見つけた。古く薄汚い宿だった。入ると年老いた主人が、カウンターで酔いつぶれていた。

カインが揺さぶり起こすと、やっと目を覚まし、久しぶりの来客を喜んだ。誰もいないので、どこでも使ってくれと言われたので、カインは一番大きな部屋を二つ用意してもらった。料金は部屋の状態からすると、高いと言うほかなかったが、野営よりはましだと思った。


主人は昔、傭兵をしていたそうで、カインと意気投合して、一緒に酒を飲んだ。ルカは自分の部屋で、装備品の点検をしていた。すると窓に小石が当たる音がし、窓を開けると男の影が、ゆっくり歩いて行く姿が見えた。連絡役だ。


ルカがそっと部屋を出ると、カインの部屋から変わらず笑い声が聞こえていた。ルカはそのまま宿を出ると、男の影を追った。


男は路地裏に入った。ルカが、辺りを警戒しながら、路地裏に入ると、そこに男の姿があった。男は連絡役と名乗り、今回得た情報にについて報告を求めた。しかし、ルカは、男の目から何かが出てきて、心を読み取られそうな気分になった。ぞっとした。斬りあいにはない、奇妙で危険な雰囲気を感じた。


ルカは直感的に、男は間者だと感じた。

しかし、あの間者の女に比べると、気配が違う。こいつは下っ端。


そう感じたルカは冷静に「あの間者の女は元気か」と言った。男は沈黙している。ルカは少し考えて、ミレイラの名は出さずに、得た情報を伝えた。なんとなくだが、ミレイラの話はしない方がいいと思った。男は、「連絡役は昼に行商人の中に紛れてくる」そう言い残すと、立ち去った。


ルカは、どっと疲れた。剣を使わない斬りあい。こんなことが何回続くのだろう。そして、あの彼女が監査役、連絡役、間者にも笑顔で文句を言っていたのを思い出した。


宿に戻ると、まだ、カインと主人が酒を飲んで、大声で笑っていた。

ルカは、緊張感のある静けさの中で休むのが常だったので。部屋から離れた物置で休むことにした。


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