傭兵達
ミレイラは湯に浸かった後、体を拭き上げると自室の長椅子に倒れこんだ。
父は大騎士と称され、国民の羨望を浴びた。兄は正騎士として、百騎長に任命されていた。兄は各地の紛争や蛮族討伐で名をはせた。兄はいつも、正騎士によって平和が保たれる世界を実現しようとしていた。そんな兄を、ミレイラは心の底から尊敬していた。
子供のころから、竜や魔人、蛮族を退けた騎士の物語を読んで、騎士になることを夢見るようになった。
父の兄は、三領家の一つ、ダルキアの長だった。体が弱く、気弱で三領家に一つを率いるのに十分な才覚を持っていなかった。父は兄を助け、ダルキアの内政に力を注ぐようになっていた。いつしか、ダルキアの実質的代表となっていた。ミレイラと会うことは少なくなった。
兄は国境紛争で命を落とした。その時、ミレイラは正騎士になることを誓った。父を支え、兄の意思を引き継ぐために。
父にも母にも反対されたが、長く美しい銀髪を切り落とし、歴代の正騎士が眠る霊廟で誓いを立てると、領地一の剣道場主に弟子入りし、その腕を磨いた。父と母は、表向きは騎士としての人生を認めていたが、しかし、心の中では、良い正騎士の男性を迎えて、ミレイラはローレリアで子を生して、平和な暮らしをさせてやりたいと思っていた。
父は、そのことを話すと、自身より強いことを条件とした。力ある領主の娘で、容姿はどの領地でも噂になるほどであったので、剣闘を申し入れる男は多かったが、ミレイラに勝つ男は居なかった。
そこへ、ルカが現れた。十数人の盗賊をやすやすと退けた少女。あの時、ミレイラは盗賊を前に恐怖していた。人命を奪うことに躊躇はなく、自らの欲求のままに剣を振るう人間。ミレイラは死を恐れ、体はすくみ、防御するのが精一杯だった。ミレイラの自信は打ち砕かれた。
ルカは目の前の盗賊の首に、あっさりと剣を刺し、命乞いする男の首を、稲穂を刈るように斬り落とした。
実戦において、いかに無力を思いさせられた。この無力さを乗り越えないと、到達できない、剣の高みに到達しないと、大切な人々を守ってあがられない。
学びたい。
剣道場で学んだ、正騎士としての剣術ではなく、実戦で生き残るための剣術。あの少女は知っている。
お願いしたら、教えてくれるだろうか。そして、どこで学んだのか。きっと、壮絶な訓練を乗り越えたのだろう。
ミレイラは、少女を一人の剣士として、尊敬していた。今日のぞんざいな扱いは許せなかった。明日一番に謝りに行こう。
ミレイラはぼんやりと天井を眺めていた。
翌朝、夜明け前に起きだしたカインは、二日酔いでやられた頭を押さえ、階段を降りようとした。すると、物置からルカが出てきたが、何も聞く気になれずに、カウンターに降りて行った。老人も二日酔いだったが、二日酔いに良く効く丸薬をもらい、白湯で流し込むと、しばらく休んだ。
カインは、夜が明けると町にでた。朝から人通りが多く、活気があった。町人に役場の場所を聞くと、そこへ向かった。役場に着くと、カインは仕事の依頼が張られた紙が貼られた掲示板を探した。役場の職の案内所だ。草刈りから害獣駆除、身辺警護に商隊護衛。子守もある。
怪しい仕事以外は、この掲示板で確認できる。受ける人間は審査をうけてトラブルが起きないようにしている。役所は審査手数料だけ徴収するだけだ。傭兵は国や領主、金持ちの大きな徴募で職を得るが、それにあぶれると、このような仕事で生計を立てる。カインのような自分で雇い主から離れるものも居れば、役立たずで、転々とする者もいる。
カインは掲示板に群がる人々を見ていた。傭兵を探すなら、商隊護衛などの傭兵の領分の仕事に目に付け、役所の担当者のところに行くだろう。そうして掲示板に集まる人々を見ていると。見たことがあ男を見つけた。
カインは思わず大声で彼の名を呼んだ「オーランド!」。男は振りむと、カインを覚えていた。お互いに再開を喜んだ。
昔、同じ雇い主の元で仕事をした男だ。カインより一回り体は大きく、肌の色は、カインより黒かった。灰色で針金のような髪を短く切っている。無精ひげの顔は彫が深く、カインより歳が上なのか、皺があった。
槍の使い手で、カインとは相性が良かった。そしてよく飲んだ。酒癖は悪いが、戦場で安全な場所で生き残ろうとする傭兵に、容赦なく鉄拳をくらわし、自らは自慢の槍を携え、一番に敵陣に飛び込む。傭兵連中は、そんな彼を好きだった。
カインは、喜び抱き合いながら、オーランドにどうしてここに居るのか尋ねた。急に表情を硬くしたオーランドは話始めた。
カインが国の傭兵を辞めた一件から、騎士団と傭兵達の間に、軋轢ができた。当然の成り行きだ。そして、雇い主は、反感を持つ傭兵を解雇し、新しい傭兵を徴募して入れ替えたそうだ。その解雇された傭兵にオーランドが入っていた。
カインは、よくある話したとガーランドに言うと、同じく、そう、良くある話さと答えた。
カインはオーランドなら信頼できるし、腕前も分かっている。ことの経緯を説明と報酬の話をすると、是非とも承諾を得た。カインは、だれか良い傭兵は居ないかと聞くと、一人知っていると言う。カインはオーランドにその傭兵を紹介してほしいと言った。
ルカは騎士たちのいる宿に向かっていた。集合予定時間は、まだ先だったが、予定変更が無いか確認すためだ。向こうの宿まで距離があるので、泊まっていた宿は引き払った。
宿に着くと、表の使用人に騎士団の老人に用があると言った。すると使用人は裏口に行くようにルカに言った。宿の裏側には、清掃用具倉庫があり、そこに木の長椅子を見つけたので、腰かけて騎士の老人を待った。
使用人の休憩所も兼ねているらしく、大きなつくりをしていた。中には使用人の男がいた。その男はルカをみると急ぎ早に出て行った。宿にとって忙しい時間帯だ。ルカは怠け者はどこにでもいると思った。
そう思っていると、ミレイラの怒鳴り声が聞こえてきた。そして裏口が勢いよく開いて、ミレイラが走り出てきた。彼女はルカの姿を見つけると、走り寄ってきた。
ルカに、昨日の件の無礼を詫びると、どこに泊まったのか、何か不自由はなかったか。何を食べたか。朝食はまだかと。矢継ぎ早に質問を浴びせかけてきた。
ルカは、ミレイラはいつも騒がしく忙しいと思った。
ルカは宿は快適だったと言った。ルカにとって、屋根さえあれば物置も快適な場所だ。
朝食はまだとっていないと言うと、ミレイラは自室で一緒に取ろうと言った。ルカは集合時間などに変更が無いか聞きに来ただけなので、ともに朝食を取ることを断った。
ミレイラは、それを聞くと残念そうな顔をした。そして、次の町からルカの部屋も準備するようしたと伝えた。ルカはうなずくと、市場に足を向けた。昨晩の間者の話が立たしければ、連絡役がいるはずだ。
ルカは、いつもミレイラの口からカインの名前が出てこないことに疑問に思った。ミレイラはカインの事を嫌っている。
ルカは、そう思って、カインが嫌われた理由を考えながら、市場へと向かった。




