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剣士の国  作者: quo
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騎士たち

騎士の老人は言った。


明日の朝一で迂回路を使って、橋向に行きたい。しかし、我々では心もとないので、手伝ってもらえないかと。

カインは、「傭兵たちは、どうどうしたんだい」と、騎士の老人に問うた。そうすると、騎士の老人は、話し始めた。

「雨で足止めされるのは予想外だった。迂回路は知ってたので、我々は進もうとした。しかし、連中は盗賊の事を知っていた。そして、迂回することで、行程が長くなるからと、追加料金を要求してきた」

そして、一目見てカインが腕利きの戦士だと思い、助けを求めたと。


カインが「状況が変わって、なおかつ交渉決裂と。よくある話だね。しかし、俺に盗賊の事は言わなかったな」

騎士の老人は、黙っていたが、すまないと、謝罪した。


カインは、また、よくある話さと言って、金額を聞いてきた。騎士の老人は、相場の倍を提示してきた。

カインは金額に満足した。そして、隣で聞かぬふりをしていたルカに、「一緒にどうだい」と声をかけた。ルカは表情なく、黒い瞳だけでカインを見た。

騎士の老人も驚いて、子供になんてことを言うのかと憤慨した。


カインは、黙ってルカを見ていた。ルカは少し考えてから「一緒に行きます」そう、はっきりとした声で言った。カインが、金は前金で三分の一、残りは仕事を終えてからといった。ルカも同意した。


騎士の老人は驚き、始めはルカの帯同を拒否した。しかし、カインが、ルカが一緒でないなら、この話には乗らないと言い始めると、渋々、承諾した。ただし、少女は責任をもってカインが守るようにと付け加えた。


ルカが準備を終えて外に出ると、カインはと騎士たちは、すでに馬準備を整え馬に乗っていた。

馬車にも人が乗っているようだって。


カインは腰の両側に一本ずつ剣を差していた。さらに、太めのナイフを二本、腰の後ろに差していた。腰の剣はルカの剣より少し短いが、倍の太さの剣だ。動きやすいように、急所だけ厚い革と鋼鉄を充てただけの鎧を着ていた。中には、チェーンメイルを着こんでいるようだった。

接近戦に重きを置いた剣術。乱戦、屋内戦でその力を発揮する。


ルカはいつもの外套と、軽量で簡素な鎧。そして一本の剣を帯刀しているだけだった。

それを見た騎士の一人が言った。女性だ。


「あのような小娘は、やはり連れて行くべきではない。我々、騎士団で十分にお守りできる。」

若いが、この騎士の女は位が高いのだろう。


短めの銀髪で深い青い瞳の騎士の女は、儀礼の場で使う様な、兜を付けていた。首回りと頬を守っていたが、後部は銀髪を流すために守りはなかった。仮面に近かった。鎧はフルプレートではないが、白く塗られ、各所に金の意匠が刻みこまれている。体力がない者にとっては邪魔になるばかりだ。

ほかの騎士は老人も含めて、実用性の高い鎧を着ていた。剣は皆、細身の直剣を帯刀していた。典型的な騎士の剣だ。


騎士の老人は、またかという顔をすると。一人でも多い方がいいい。と、たしなめていた。

騎士団と言っても、領主が直接雇用している集団のようだ。お飾りの場合が多い。装備から国を守るための騎士団ではない。

しかも、ここで言い合うとは、統率が取れていない証拠だ。そうなると練度も怪しい。


ルカは馬車を一瞥した。布で仕切られ、中の人物を伺い知ることは出来ない。

ルカは騎士の老人に、弓はないかと尋ねた。すると、馬車に積んであった行李から、取り出した。

騎乗で使う短いものだ。矢は十本。


試しに矢を射ってみた。矢をつがえ、弓を引くと鈍く軋む音がした。ずっと使ってない様子だった。馬車からそう遠くない木の幹を狙ったが、外れてしまった。もう一射、今度は第一射を修正して弓を引いた。少し右に、仰角を少し下げる。あとは少し力を弱める。放たれた矢は、幹の中心に突き刺さった。人の頭の位置に近い。

ルカが。その姿を見ていた騎士の老人に、借りていいかというというと、黙ってうなずいた。


そして、騎士団と馬車、二人の傭兵が宿を後にした。


目をよく凝らしながら進むと、分岐碑が見つかった。周りに草が生え、若木の影に隠れていた。

人が通れるようにはなっているが、この時期の雨と温かさで、生き生きと高く成長した草が邪魔をしていたので、カインが短剣で道を開いた。


ルカは背丈ほどの草々の一部が、根元から曲がっているのを見た。例の話に出てきて猟師が使った時にそうなったのかと思った。


旧道は所々でくぼみがあったが、通れないほどではない。幅は小さな馬車なら、すれ違うことが出来る。

緩やかな傾斜と、大きく密集した木々があるので、これ以上、幅も取れず、町を作ろうにも、切り開くのに手間が必要なので、新しく街道を作ったのだろう。


後ろについていたカインの元へ、ルカが並走してきた。ルカが、なぜ私を誘ったか聞いた。


カインは、まずは大部屋を観察していた目、きれいに整った体幹、使い込まれた剣の柄、そして、服だけの俺を戦士と見抜いて、荷物の中の剣に目をやったこと事。


幼そうにしているが、俺は使い手に見えたとカインは言った。

ルカは間者の手ほどきを受けていたが、こうも言われると、もっと経験を積まねばならないと思った。そして、経験深そうな人間には近づかないようにしようと思った。


カインは自らの事を話し始めた。とある国の専属の傭兵だった。その国の紛争平定に駆り出されたが、騎士団が傭兵が全線で苦戦している状況をみると、隊を下がらせてしまい、戦線は瓦解。側面の騎士団が突撃したので、負けはしなかったが、おかげで、多くの仲間を失った。

国に雇われる傭兵は使い捨てだ。だから、国の傭兵は辞め、一人で金がとれそうな連中についていくようにしたと言った。


ルカは思い入れはないが、国の先人たちの苦労の話を思いだしていた。


カインはルカに向かって、右ほほを指でなぞる仕草をした。ルカは黙った前を向いた。

カインは、深くは聞かないさと言った。


日が高くなるころ、橋についた。川の水量は多いが、作りが高かったので水はかぶっていない。渡ることが出来そうだった。

騎士の一人がカインに、橋の様子を見るように命じた。カインは、ほらねとルカの方をみてつぶやいた。

カインは馬から降りると、橋の床板が腐っていないか、橋脚が傾ていないか確認して、問題ないと合図を送った。

カインが先導して、ゆっくり馬車を進めた。馬車が橋の中ほどに差し掛かったその瞬間、「前だ!」とルカが叫び、騎乗から身を乗り出すと弓を引いた。カインはその意味に気づき、身を伏せた。

そして、連続して橋の向こうの茂みに、素早く矢を二本放った。


盗賊だ。


橋の向こうに四名の男が現れ、射手が木の陰に隠れていた。射手が騎士たちを狙う前に、ルカはまた二本の矢を放った。その一本が射手に当たった。射手は弓を捨て、片手を押さえながら、剣をもって飛び出してきた。

五名の盗賊。カインと騎士たちは抜刀した。騎士の老人が名乗りをを上げる前に、カインが大声で「全力で駆けろ!」と叫んだ。


騎士たちは、駆け出したカインに続いた。予想以上の素早い反応に戸惑う盗賊たち。カインが一人目の首を落とした。騎士の老人は二人目の首を狙ったが、はじかれてしまい、斬りあいに持ち込まれた。

カインは、隙のできた背中を斬りつけると、三人目の頭を狙ったが、兜ではじかれた。


側面の騎士が盗賊と打ち合っていた。劣勢だ。もう一人の騎士の太ももに短剣が着き立てられた。戦いに慣れていない。


盗賊五人相手にこれか。


カインは騎士の老人が、打ち合っていた盗賊を打ち取るのを見た。兜を飛ばされた盗賊が、大剣を振りかぶった。カインは難なく片腕を切り落とすと、「突破する!」そう叫んで、駆け出した。騎士の老人が振り返り、後衛の騎士の女が橋の向こうのルカの元へかけるのをみて、追うとすると「馬車を守れ!」そう叫んで、手綱を取り上げ、前に走らせた。


カインは一度も振り返らなった。不思議と大丈夫な気がした。

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