19歩 「密議」
「ほら、これ見て! 乙音ちゃん!」
「歴史の教科書……中学の?」
妹のを拝借したんだ。わーわー言われたけど「ちょっと借りるだけだから」とムリヤリ持ち出した。
「あ、それ。わたしも持ってたやつです。……で、それが何か?」
「ねぇここ、【織田美濃】って、乙音ちゃんのコトだよね? この教科書じゃ、乙音ちゃんは【逢坂の変】って事件で死ぬってなってんだよ?」
「な……!」
【死ぬ】って言葉に頬を引き攣らせた乙音ちゃんは、教科書をしげしげ眺めた。
そして。
「な、な、なあっ、なんですかあ! これはあっ?!」
細川、斎藤、三好に翻弄され、織田、豊臣、徳川の天下統一リレーも無く。
それなら自分で……と一念発起したものの、結局自身も泰平の世を築けなかった乙音ちゃん。
志半ばで命を落とし……。
まさに不遇の人生。
「……でしょ? おかしいでしょ? わたしと乙音ちゃんが認識してる歴史と、いまの世界の歴史の認識と、既に齟齬が生じているって話なんだよ! どーすんのって、コレ!」
ワナワナした乙音ちゃんは、静かに教科書を伏せ。
「どーするったって……。……やっぱりわたしが介入してもーたからでしょうか……?」
「……分かんない。でもわたしはそーじゃないと思う。だって、信長さんはもともと……」
「ぼんくら」
「……なんでしょ? このまま放置すれば……」
「織田家は滅びる」
「でしょ!」
意気消沈する乙音ちゃんの肩をポンポン叩き、
「だからわたしが来たんじゃない! 二人で一緒に頑張ろうよ! この織田弾正忠家を天下第一の戦国大名にするために。そして織田美濃こと、維蝶乙音ちゃんが無事、元の世界に帰れるように!」
「センパイ……」
「いい? 乙音ちゃん。乙音ちゃんは今まで織田家バンザイのシナリオしか知らなかった。でもこうして、未来が書き換わった、言わば最悪のシナリオも読むことが出来た。これはかなり有利なんだよ? 成功した台本より、しくじりの台本の方が参考になる事、大だよ? だってこうしちゃうとヤバいんだなって、事前に心構えが出来るんだから!」
茫然自失状態の乙音ちゃんの目に、ポッと光が灯った。
「……まぁ、確かに」
考え込む仕草をする彼女。
これからの算段について、目まぐるしく頭を回し始めたようだ。
「……センパイ」
「なぁに?」
「大変良く分かりました」
「良かった」
「センパイにはこれから、まさに馬車馬のように働いて貰うことにします。まずは上総介さまに挨拶、そして【ダブルフロント】にくっついて業務をこなして頂きます」
「上総介? ダブルフロント?」
スックと立ち上がった乙音ちゃんに、手を引かれた。
「上総介ってのは、織田信長さまのことです」
「ダブルフロントは?」
「前田又左衛門犬千代と前野将衛門。両【前】武官です。彼ら二人はわたしの股肱の臣です」
で、ダブルフロント。
あーセンス無ぇ……。
陽葉と乙音