エピローグ
半月後、帝国南領は王国に侵攻した。
帝国軍は侵攻前に、手向かいせずば何もしない旨を伝えたのもあり、王が討たれ指揮するものもいなくなり、抜け殻の中央政府に従う謂れもない王国軍は帝国軍を素通しした。
王都まで一息で駆け上がり王城でシュヴェールト皇子南領代官が見たものは、血まみれで背板に真っ二つな亀裂が入っている玉座だった。
「遅かったか」
とシュヴェールトは言ったという。前支配者を合法的に吊れれば王国領の支配もスムーズに進むと思っていたらしい。
ともあれ、半月前に戦があったとも思えない程度に落ち着いた王都、新たに王都の主となり治安を守っていた紅い鴉団の協力もあり、王国から帝国への体制の移行は支障なく進んだ。もと王国の体制や習慣も大きく変えず、また貴族らも一部腐った連中はさておき、大きく地位を減少することもなく保てたためにシュヴェールトの政治は温和に受け入れられた。とはいえ実力主義の帝国の政治、ただ椅子を温めているだけでご飯が食べられる時代は遠ざかった。
そして1年後シュヴェールト皇子はランツェット帝国より独立し、南領および旧王国領よりシュヴェールト帝国を興し、アルカナ王国は滅亡した。
旧王国の地域の多くはそのままシュヴェールト帝国領となった。王都より退出した紅い鴉団が駐留した旧グラスマイン領はグラスマイン小国として独立し、シュヴェールト帝国の衛星国という形になった。
そして西の端の一部の僻地に、正統アルカナ国という地域が立ち上がった。旧王家の子孫を擁立していると叫んではいるが、実効力もなくやがて立ち消えた。
余談だがアイドット王の実子はフィルスひとりだけであった。幼くして亡くなった子息はいたそうだが、直系で比較的年齢の高いフィルスが成長したため、継承を問題とされなかった。あとの王位継承順は傍系の貴族らだが、多くは先の王都攻防戦で戦死し、フィルスの次が相続順で言えば20番台まで居なくなったという。
やがてシュヴェールト帝国はランツェット帝国へ侵攻し帝国と旧王国のすべてを収めた一大帝国となるが、それについては筆を置く。
帝国が開戦した日まで遡る。
王都を見下ろす小高い丘に3人はいた。
「お前らがいなくなると寂しくなるな」
「僕らもです」
「どこか、行く当ては考えてあるのか?」
「西の、グラスマイン卿が交流を持っていたという鉱山の国を目指してみようと思います」
「そりゃ丁度いい、これを持っていけ。その国の鍛冶ギルド長あての紹介状だ。悪いようにはしないと思うぜ」
「団長、ありがとうございます」
「あとな、俺の嫁と娘もその国に逃げてるんだわ。もしどこかで会うことがあればよろしく言っておいてくれ」
「団長の奥さんともなれば抜け目なく情勢を見極めて、もうこっちに向かってるかもしれないわね」
「そりゃ違いない、ハハハ」
丘の下からゆっくり馬車がやってきた。西に向かう商人のキャラバンだ。
「迎えがきたようです。名残惜しいですが団長お元気で」
「またね団長」
「おうお前らも元気でやれよ。いつの日かまた戻ってきて俺の家を訪ねてくれや」
「さようならー」
遠くなっていく団長はいつまでも手を振り続けていた。
fin