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金髪と魔剣と冒険とカイルのハーレム!!  作者: オジsun
四章 アクアラの水魔剣士
32/58

二十二 決意の旅立ち

 ローゼルメルデセス城には、幾重もの魔法的結界や衛兵に護られ、隠されている部屋がある。

 その部屋に立ち入れるのは、女王アンジェリーナ・ローゼルメルデセスと.......


 「カイル様との接吻.......ああ! 思い出しただけでゾクゾクしてきますぅ~~」


 そんな部屋の主。

 ローゼルメルデセス第二王女、ミリナリア・ローゼルメルデセスは、お気に入りのクマのぬいぐるみをぎゅっ~~と抱きしめながら、ベッドの上で転がり悶えていた。


 カイルの決闘戦で、カイルと舌を絡めるキスをしたことで、ミリナは予想以上に色々な所が蕩けてしまい、部屋に戻って一人、


 「.......そんな! カイル様.......そんなっ所! 触って.......ああん」


 因みに、カイルは居ない。

 そんな所触っているのは、ミリナの細くしなやかな指だ。


 「ダメっんんっ.......じゃないです.......」


 段々とボルテージが上がってきた、ミリナはピンクのパンツを足首まで降ろした。

 そこで、


 ガチャリ。


 「ミリナ? 体調悪いって.......」

 「っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」


 本物のカイルが入室してきた。

 ミリナはパンツを脱ぐためにお尻と足をあげていた。

 乙女として、嫁入り前にはけして見せては行けない秘密の花園がカイルの視界に入ってしまっている。

 

 顔をトマトの様に赤くするミリナは声にならない悲鳴をあげた。

 

 (見られました! 見られまれてしまいました! しかもこんなに色々トロトロの時に! .......カイル様にカイル様に!!)


 激しく動揺するミリナに、カイルは、


 「み、ミリナ! まさか!!」


 カイルは、


 「パンツがそんなに濡れるほど汗かいて! 顔を真っ赤にするほど! 辛かったんだね? 大丈夫。俺が身体を拭いてあげるから」


 カイルは、タオルでミリナの身体を拭いて、着替えさせてあげるのだった。

 そんなことをされたミリナは、


 「あああああああああっんんんーーーーーーっ!!」

 「なっ! ミリナ!? 痙攣するほど辛いの? くっ!」


 悲鳴をあげる、ミリナの事を落ち着かせようとカイルは身体を抱きしめてあげる。

 孤児院の年長だったカイルはミリナぐらいの子供の世話を何度もしているので、人肌が一番落ち着けることを理解していた。


 ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン。


 しかし、ミリナには、逆効果だった。

 激しい動悸に襲われる中、ミリナは最後の力を振り絞ってカイルの服を掴んで、


 「死んでも後悔はありません.......(ガクリっ)」

 「ミリナぁああああああ!!」


 因みに、カイルの絶叫を聞いて入ってきた、シルフィーが部屋の香とミリナの様子を見て全て察した後。

 天使の微笑みを凍りつかせながら、カイルに言うのだった。


 「.......ふふ。カイルさん.......今すぐ出て行ってくれますか.......?」

 「シルフィー! でも! ミリナが!」

 「.......出て行ってくれますか.......?」


 ギロリ。


 カイルは気付いた。

 白天使ミリナが、怒っていることに。 

 カイルがジーニアスを馬鹿にした時も怒っていたが、今はそれ以上に怒っている。

 白い筈のシルフィーがなぜだかとても黒いオーラを発しているようだ。


 あれが、《気》というものかも知れないとカイルは思うのだった。


 「出て行ってくれますか.......?」

 

 もはや、シルフィーはそれしか言わない。

 微笑みの圧力に負けたカイルは。 


 「へい.......ミリナを頼むよ」


 そういって部屋を後にするのだった。

 そして、数分後


 「シルフィー様ぁ! 私のお義姉様になってくださいませ!」

 「うふふ.......良いですよ.......?」


 シルフィーの豊満な乳房にぎゅっ~と抱き着いているミリナをカイルは見ることになるのだった。

 

 「チョロいよね。ミリナって.......」

 「あ! カイル様! 見てください! シルフィー様のお胸。とぉーっても柔らかいんですよ?」


 ミリナはいかにシルフィーが素敵な人かカイルに伝えたくて、シルフィーの胸を下から上に持ち上げる。

 その際、ぽよーん、ぽよーん、と乳が揺れる光景にカイルが釘付けに為りつつも、


 「まあ.......ミリナが元気になってよかったよ」


 カイルの言葉に少し前の事を思い出してかぁぁ~っと赤くなるミリナは、カイルがシルフィーの美乳に思ったよりも釘付けになって居ることに気付いて、


 「大きい胸.......」


 ぺたぺたと自分の胸を触って、シルフィーとの乳力の差に落ち込んでしまう。

 ミリナはすたすたと歩いてカイルの腰に抱き着いて、


 「カイル様は.......大きい胸のシルフィー様の方が.......小さい胸の私より好きなんですか?」


 と、今にも泣きそうな顔の上目遣いで聞いた。

 それに、カイルはうっと声を引き攣らせてから、シルフィーの乳を見て.......ギチギチ歯を噛んでからミリナの頭を撫でた。


 「.......も、もちろん。俺はミリナの方が好きだよ?」

 「わわぁあ! ふふっ嬉しいです! でしたら! 沢山触ってください!」

 

 そういって一瞬で元気になったミリナはカイルの手をとって胸を触らせる。

 カイルが好きなら沢山触らせてあげたい! そんなミリナの優しさだった。


 「どうですか?」

 「うん.......余計な脂肪が無くて良いよ.......」


 むしろ何も無いんじゃないかな?

 乳ってこういうもんのだっけ?

 と、背中にだらだらと汗を流しながらカイルは言っていた。


 そんなカイルにシルフィーが悪戯をしようと口を開きかけたとき、


 「変態だな!」


 と、カイルの後ろから声をかけるアンナが現れた。

 

 「まあ.......そうなるよな」


 カイルは反論してミリナを悲しませるより、《変態》の汚名を受け入れることにした。

 アンナに変態と言われるのは久しぶりで少し気分がいい気もしていたし、何より、カイルは違うことが気になっていた。


 「ユウナは?」


 そう、アンナと話すと言って残った、ユウナの姿が無かったからだ。

 ユウナとアンナの化学反応がどうでたのかが全く予想できないカイルだが、それでも、二人のことを信頼しているので問題を起こす訳は無いと思っていた。


 それに、カイルはユウナが落ち込んで居たことに気付いていた。

 剣帝剣士ライボルトや剣王剣士クラーク、七騎士ライトニングと、最近のユウナは負けが続いていた。

 あの、無駄にプライドが高いユウナに、カイルが何を言ったところで意味が無いのは分かっていたから、信頼しているアンナに任せたのだ。


 「フハハハハハハーーっ!」

 「笑いだけじゃわかんなねぇよ!」


 ガン!


 「アンジェリーナ.......ユウナは?」

 「お、おい、カイル。そんな他人行儀な呼び名で呼ぶな! 地味に傷付くぞ。私のことは親しみを込めてアンナと呼ぶのだ!!」

 「.......アンジェリーナ女王陛下。俺の幼なじみのユウナはどうしたのですか?」

 「..............(グスリ)」


 カイルの視線がどんどん冷たくなることに耐え兼ねたアンナが、遂に音をあげて、ユウナの事を話した。


 ■■■■■


 時を遡ってカイルがミリナの部屋に向かっていた頃。

 アンナとユウナは、二人だけで向き合っていた。


 玉座に普通に座って居るだけで偉そうにユウナを見下ろしているように見えるアンナは、表情にくらい陰を落とすユウナをじっと見つめる。


 そして、


 「七騎士に負けた事がそんなに屈辱か?」

 「.......」


 アンナはカイルに、ユウナを任されたので律義に先に口を開いていた。

 アンナが他人に対してここまでするのは、通常無いことで、一国の王となったアンナが個人に立ち入り過ぎるのは本来あってはならないことなのだが、


 (カイルの為なら仕方ないからな)


 と、私情を挟むのだった。


 「それとも、カイルが私と結婚するのが嫌なのか? ハハー!! 安心しろ、ユウナ殿も妾 にしてやるからな」


 バキリ!!


 ユウナが奥歯を又してもかみ砕き(回復魔法で治しています)、高速で抜刀しアンナの首筋に真剣を突き立てた。

 目が黒く据わっているユウナにアンナは少しヒビリながらも、デカイ態度は消して崩さない。


 「あんたっ.......は! 私が.......!!」


 ユウナは、とてもいらついていた。

 それは、アンナに対してでは無いし、勿論、カイルに対してでも無い。

 剣を首の皮一枚の所まで向けても、アンナが表情を変えなかった事で、さらにユウナの怒りは上がっていく。


 「.......っ!」

 「悪いが悩みがあるなら言ってくれ無ければ解らん。そんな何の覚悟も篭っていない剣を向けられた所で怖くないしな」

 「.......っ!!」


 ぎりぎりと奥歯を噛んで、ユウナは思い出す。

 《断罪者クラーク》に無様に負けてカイルの足を引っ張った屈辱を、勝てないと思ったライトニングにあっさり勝ってしまう、誰よりも大切で護りたいと思うカイルのことを。


 「あんたっ.......あんたは!!」


 何より、ユウナが一番頭に来るのは、誰よりも近くに居るユウナが一度として聞いた事の無かったカイルの言葉。


 『アンナに助けてもらおう』


 『助けて』と言うことばだった。

 それは、ユウナがカイルにずっと言われたかった言葉だった。

 それは、カイルがユウナよりアンナを信頼しているという証拠だった。


 カイルを護りたい、カイルが傷付く変わりに戦ってあげたい。

 弱虫で泣き虫で誰より優しいカイルの隣で戦うのは自分でありたい。


 それが出来ると思っていた。

 でも.......


 「私が目指す場所に居る.......あんたが.......私は羨ましいわ」


 それは、違った。

 ライトニングに負けて、勝てないと思った。

 でも、カイルは勝った。

 そして、カイルの隣で戦ったのは紛れもなくアンナだった。

 だから.......悔しかった。

 だから.......悲しかった。

 だから.......自分にいらついた。


 「だから! 私は強く為りたい! 羨ましいあんたから、その場所を奪い取って! カイルの隣に.......カイルの前に立ってカイルのかわりに敵を打ち倒す!」


 ユウナも、カイルと同じで、諦めるなんて選択枝は最初からなかった。

 悔しいし、悲しいし、苦しいけど、それでも目的のためになら何だってする。


 剣を下ろしてユウナは言う。


 「戦争まで三ヶ月。私はローゼルの騎士の聖地.......《剣神》の元で指導を受けたい.......このままカイルの足手まといには為りたく無いの!」


 ローゼル王国が最強軍事力をもち、王級剣士を多く排出する理由が、大陸でも立った一人の剣の神級に至った剣士《剣神》の教えがあるからだ。

 通常ローゼル騎士のみがそこで訓練を許される場所に、ユウナは行きたかった。


 「《聖地》に行かせてやっても良いがわかっているのか? あそこは、剣のみに生きる者がひしめき合っている魔境。修業と言いつつ、殺し合うコドクの様な場所だぞ。騎士達だって毎年、千人以上行っても帰ってくるのは一人居れば良い方だ」

 

 生き残れれば、確かに強くなれる。

 ライトニングやイグニードは剣神の元で三年間の修業をして生き残り、王国騎士団長になっている。

 けれど、余りにリスクが大きすぎる。

 

 「女のユウナ殿は死ぬことも出来ぬやも知れない。辱められ、弄ばれ、そして、子を孕まされる。向こうで生き残り帰らずに家庭を持つ騎士達も居る.......意味はわかるな?」

 「関係ないわ! 例えそうなったとしても、ここで諦めるよりはマシなのよ! カイルの剣になれないなら! 人間ぐらい辞めてやるわ!! 今すぐにだって、ね!」


 勢いで即答したわけではない。

 ユウナは《断罪者の結界魔道師ホォーイ》に犯されかけた事を一瞬思い出していた。

 あの時の屈辱と絶望を、

 それでも、ユウナはそういった。

 今の何も出来ない自分の方が嫌だとそういった。


 「.......分かった。ライトニング!!」

 「ハ!」


 気配を消して隠れていたライトニングをアンナは呼んだ。

 そして、


 「ユウナ殿を聖地に連れていってやれ」

 「.......カイル様には?」

 「ふん、ライトニングもカイルに剣を捧げているんだったな.......主の友は死地に送れないか?」


 ジロリとアンナの眼光がライトニングを捉える。

 それに、


 「カイルには言わなくて良いわ、ついて来られたら困るのよ」


 ユウナがそういうのだった。

 そんな、ユウナにアンナは少し苦笑してから、


 「何だ? 最後にカイルに告白して抱いて貰うんじゃないのか?」

 「嫌よ。そんな悲しい気持ちで言いたくも、したくも無いわ」

 「.......まあ、カイルが聖域に行くことは無い。あそこにカイルはまだ入れないからな」

 

 剣士の必須能力《肉体強化》を常時高密度で纏えない剣士は入ることすら出来ない場所、それが聖地だ。

 故に、アンナも入ったことは無い、そもそもアンナに剣を握ることは出来ないのだが。

 そんな、アンナの言を聞いてユウナはクスリと微笑んだ。


 「それでも、今カイルにあったら.......戦えなくなちゃうのよ。カイルはきっと私を説得してしまうからね。そして、カイルになら私も説得されてしまうのよ」

 「だが、それをされたら、ユウナ殿はカイルの隣に立つ資格を失う。三ヶ月後の戦場で後方支援はしたくないと言うことだな?」

 「ふ~ん。わかっているじゃない。あんた.......御礼を言うわね」

 「素直だな」


 奇妙な友情をユウナとアンナは感じて薄く薄く笑いあった。

 何時だってユウナの目的は一つ。


 「私がカイルを守るのよ!!」


 そういってユウナはライトニングと共に聖地へと足を運んだ。 

 ■■■


 「ユウナが剣神の所に修行にいった!? しかも、俺はそこに行けないと?」

 「そうだ! ハハハーーッ! ........怒るのか?」


 アンナはカイルに、軽くぼかしながらユウナの事を伝えていた。

 特に、聖地が性地になるかも知れないという事は伏せておいた。

 しかし、危険な場所とは伝えていた。


 だから、そんな場所にユウナを送ったことを、カイルに怒られるかも知れないとアンナは身構えたのが、カイルは肩を竦めて、アンナの髪を無駄に丁寧に撫でながらいう。


 「いや、ありがとう。ユウナが無理言ったんだろ? ......俺に一言位あっても良かった気もするけど......クンクン......おい! アンナ!」

 「何だ? やっぱり怒るのか?」

 

 急にカイルがアンナの髪を引っ張って、怒気の篭った声でアンナの鼻先に顔を近付けた。

 そして、


 「お前! 毎日髪は洗えよな!」

 「なっ! 臭ったのか?」


 アンナは毎日髪は洗ってるのだが、直前にカイルが鼻をスンスンしていたことを思ってビビる。

 好きな人に臭いと思われたかも知れないと。


 「違う! アンナは無駄に良い匂いがする。けれど、髪がかなりヨレてるぞ! お前の金髪は完璧だっただろう! こんなんじゃ無かっただろう! 触る価値も無いぞ! まるでお前の髪じゃ無いみたいだ!」

 「......」

 

 この世の絶望を見てきたかの様にカイルがアンナの髪を乱暴に引っ張って失望をあらわにする。

 そんなカイルにアンナが軽蔑の視線を向けてから、ポンと手を叩く。


 「悪かったな、マイダーリン。それは確かに私の髪ではない。ただのウィッグだ。ほれ?」


 そういってウィッグを外して、カイルに触らせてあげる。

 アンナは有る事情によって、髪を切断し今はショートなのだった。

 しかし、女王としての威厳を出すために長髪のウィッグをつけていた。

 

 「おおおおおおおおおおおおっ!」

 「どうだ?」

 「最高ぉ」

 「好きに触れ」


 そういわれたカイルは、すぐにつやつやの金髪に飛びつき、宝物のように撫で回す。

 口に含んで、食べようのまでしたときには、流石のアンナも止めていた。


 そんなふうに、一通り堪能した後、カイルはぎゅっとアンナの頭を抱きしめた。

 

 「アンナ。本当に......色々ありがとうな。ユウナの事も、シルフィーの事も、お前に取ってみたら無駄も良いところなのに......」

 「ふん! 私はシルフィー殿もユウナ殿も利用しようとしているだけだ」

 「......(ジー)」

 「......うっ。カイルが......困ってるならな、私が力になってやる......本当はそれだけだ......」

 

 耳を真っ赤にさせながら、アンナは少しだけ本心を漏らした。

 シルフィーの事を考えたのは、カイルを助けると決めてからだった。

 ユウナを送るのはカイルの大切な人だと知っていたからだった。


 そんなアンナにカイルは少し笑って、


 「お前は美少女......だよ、顔も心も、何かもな」

 

 そういった。


 「当たり前だ!」

 「その、無駄に弁えない所を除いたら、だがな」


 ぺチンとアンナのデコを指で弾いて、距離を取った。

 そんなカイルにミリナが飛びついて、一緒に寝たいと言い出したり、アンナがそれは私だ、と張り合ったり、シルフィーが、氷の微笑みでカイルの腕を握って連れ去ろうとしたり、してカイルは長い一日を終えた。

 ......結局。四人で寝たという。


 次の日。


 三ヶ月後の再開を誓い、カイルはシルフィーを残してオーラン魔法学院に帰る事にした。

 ミリナはゴネたが、アンナがそれを押さえている間に城を出てしまった。

 シルフィーがジーニアスやマリン、学院の仲間達を心配していたが、何時次の刺客が来るかわからないこの状況で、負傷して寝込んでいるオーランの所よりも、七騎士達が守る城にいた方が安全だった。

 ミリナには暗殺されるかも知れないが......一応、慕っていたので大丈夫だろうとカイルは判断したのだった。


 こうしてカイルはシルフィーと少し話してから学院都市行きの馬車に乗り込んだのだった。

 約束の三ヶ月後までに更に力を磨くと心に決めて。

 (三章エピローグがここ)


 ■■■■


 入る事すら人を選ぶ剣の聖地、剣神ヘイジィータが居座る剣山を一人、ユウナは登っていた。

 剣山はその環境から生まれた危険な魔物が次々とユウナの命を取ろうと襲いかかる。

 それを、ユウナは何体も切り裂きながら山を登った。


 誰の屍かわからない程風化した骨やつい最近、力尽きたであろう死体も転がっている。

 それを踏み潰しなざらユウナは登る。

 剣を志し、剣神に会うためにはまずこの猛獣地帯を超えなければいけないからだ。


 更に、ユウナを見る目は血に餓えた猛獣だけではなかった。

 剣の聖地で脱落し、猛獣地帯で暮らしていてる女に餓えた男もまたユウナを狙っている。

 

 「ふん! 死になさい!」


 そんな男共すらもユウナは一撃の元に切り伏せた。

 実は、剣の聖地は入ることはそれ程難しくも無い。

 ある程度強い、剣気(肉体増強)を纏えれば誰でも入れる。

 しかし、出るとなると話は別だ。


 有る位置を境に超強力な結界が張られていて、それを抜けるには相当強い剣気で切り裂かないといけないのだ。

 それが出来るのは、最低でも王級以上の力が必要だった。

 だからこそ、聖地の住人は帰る事もできず、猛獣の魔物に食い殺されるまでこのエリアでたむろすることになるのだった。


 上級から超級へ上がるのに、才能があって一年以上。

 超級から王級へは、更に稀有な才能があって三年以上。

 王級から帝級へは、もう限られた数人呑みの世界だ。

 帝級まで到達できた人は、大陸でも十人もいない。そういう世界だ。


 「それでも......私は強くなるのよ!」


 剣の世界がいかに残酷で才能の壁が有ると知っていても、ユウナの目に迷い一つ無かった。

 猛獣達を薙ぎ倒し、脱落者達を切り殺し、半月かけてユウナは聖地の中腹、剣王を目指すもの達が集う場所にたどり着いた。


 新たな新入りが来た。

 それも女でかなりの上物。

 男達はしたずり回す......なんてゲスはもういない。

 横道に反れる者はここまでたどり着くことは無い。


 「良く来たな、新入り。剣を抜け」

 「うるっさい! 私は一番上に行くのよ!」

 

 百人程が剣をぶつけ合う空間に、ユウナは入り込んだ。

 ここから更に上へと登るためには、ここに居る全ての剣士を薙ぎ倒し、上と続く桟橋を守る王級剣士を切り裂かなければいけない。


 殆ど殺し合っている空間の中に飛び込んで、ユウナは早速目についた男達を切り捨てていく。

 しかし、既にここで生き残り一日の長がある剣士達は強い。

 初めて来たユウナよりも圧倒的に全員が強かった。


 ユウナは何度も切り裂かれ血を流し、そして、意識を失っていた。

 

 「ッハ! 私......生きてるの?」

 

 目を覚まし、見たことも無い部屋の天井で包帯をぐるぐる巻かれたユウナは驚いた。

 そんなユウナにユウナと同じ歳の男が話しかける。


 「別に負けたからって殺す訳じゃない。剣の高みを目指す同胞を殺しはしない」

 「......ふん! おもったよりも甘いところなのね」

 「それでも、死ぬときは死ぬし、邪魔なら殺す」


 男の言葉が鋭くなり、ユウナに重い殺気を向ける。

 周りには、ユウナと同じく包帯を巻かれた怪我人が数人雑魚寝している。


 「軽いわね。本物の殺気はこうよ!」


 ざざざ!

 

 ユウナがそういって殺気を発し返すと、寝ていた剣士が飛び起きた。

 そして、剣士達全てから睨まれる。

 ユウナは長い髪を払って、


 「私の治療をしてくれた事には感謝するわ、特に何もしなかった事にもね。けれど次に私の身体を触った男は善意だろうが悪意だろうが......殺すわ。覚えておきなさい」


 剣士達を敵に回して、


 「馴れ合いをするつもりは無いの。全員私の捨て石だわ」


 ユウナは堂々と仮眠を取った。


 (また生意気な奴が入ってきた)


 剣士達の心の声が見事に一致するのだった。

 治療したのは女剣士だと後で知り、ユウナは恥ずかしくなるのだった。


 ■■■


 

 オーラン魔法学院保健室。

 《断罪者》の襲来から、四日。


 まだ、学院の生徒たちは事件から立ち直れていなかった。

 数人だが、女生徒は凌辱された人もいたから当然と言える。

 ただ、死亡者と怪我人はあまり居なかった。


 心だけに傷を残した事件の真相が学院の白天使シルフィーを巡っての事件だとは数人しか知らないことだった。


 生徒たちを護るために戦った人間は五人。

 魔道帝オーラン。魔道王ジーニアス。水魔道師マリン・マリッジ。魔道剣士ユウナ。鉄魔道剣士カイル。


 その中でも、保健室で寝込む程の怪我をしたのは、一度死んだカイルを除けば、ほぼ一人で下級《断罪者》を殲滅したマリンと、帝級空間魔道師リンクルドに不意打ちをされたオーランの二人だけだった。

 

 オーランとマリンが身体を休める部屋に、ジーニアスやツイテール、カーキ達クラスメイトがお見舞いに来ているその部屋に、人間が入ってきた。

 目を引くのは、薄い水色の頭髪で、ジーニアス半分位しか無い背丈の美しい少女だった。

 どこか独特の気高さを持った少女はつかつか軽い足音を立てて、オーランのベッドを覗き込もうとよいしょっと身体を持ち上げてオーランのベッドに乗り込んだ。


 「オーラン。負けたのですのね?」

 「っ!! お師匠様!」


 少女に声をかけられたオーランがピシッと驚きの声を上げた。

 少女はそんなオーランを見てクスリと微笑んで優しい手つきで首を......絞めた。


 バチリバチリと紫電が弾けオーランの首を刺激する。


 瞬間空気が激変した。


 「うぐっ!! ーーっ!」

 

 苦しみに喘ぐオーランをとてつもなく冷たい視線で見つめる少女は言う。


 「わたくしの教えを受けて起きながら......負けるのですのね?」

 「ぐぅぅうううっーーっ!!」

 「オーランあなた弱くなってますのね? これ以上の生き恥を晒す前にわたくしが師として殺して上げますの」


 力を込めてミシミシとオーランの首の骨がなる。

 そんな、少女の手をジーニアスが掴んで止める。


 「僕の義父に何を!」


 バチンッ!!

 

 「ッ!」


 電撃の様な痺れが少女を掴んだジーニアスの手に流れ、弾いた。

 

 少女は興味なさげに見ジーニアスをてから、つまなそうに息を吐いた。

 そして、


 「《邪魔》ですのよ?」


 そういった。それはそのまま改変詠唱として魔法が発動する。

 しかも発動した魔法は、超級風魔法。

 とてつもない強風がジーニアスを吹き飛ばした。

 背中から壁に激突しジーニアスの肺の空気を容赦無く外に押し出した。


 「ガハッ!」


 苦しみ喘ぐジーニアスとオーラン。

 ドロンと重くのしかる空気を《断罪者》との抗争を経験したマリンは殺気だと理解できた。

 だから、


 《水の精霊よーー》


 マリンはとっさに詠唱していた。

 それに対して、やっぱり詰まらなそうにマリンを見つめていた少女が再び口を開く、


 《消えるのね》


 それだけで、マリンの魔力が簡単に無に帰した。

 マリンには何が起きたがわからなかった。

 ただ怖いと恐怖を感じた。


 手を向けられただけなのに喉が干上がってしまう。

 足と腰がガクガク震えて、ペたりとお尻を床につけて転んだ。


 「ふふ。あら? 怖がられたら、からからいたくなりますのよ?」


 ジロリと少女の視線がマリンの姿を絡めとる。

 どくんどくんと心臓が警告を発していた。


 オーランの首から手を離し、生徒たちの視線を全て集め、その場の空気を支配した少女は距離を取るように、空中に浮き上がり数歩分後ろへと下がった。

 そして、


 「わたくしは、バァリロリロ。人々からは、《魔道神》と呼ばれていますのよ」


 うふふ、と妖艶に笑いながら手足が隠れる程、分不相応のローブを身に纏ったバァリロリロは冷笑を浮かべながら、マリンに細く小さな人差し指を向けた。


 ズドン!!


 それだけで、魔法が発動しマリンの頬スレスレを稲妻が駆け抜けた。

 恐る恐るマリンが視線を稲妻の方に向けると、壁に小さな穴が空いていた。

 それは保健室の壁を突き抜けて更に何枚もの分厚い壁を通過し外にまで達している。


 「それは! 《シックス・マジック》!!」


 ジーニアスは瞬時にその魔法を理解した。

 しかし、クスクスとバァリロリロが冷笑して、空中で退屈そうに足を組む。

 ローブが風に揺られて艶かしい幼い太股が露出する。


 「勉強不足ですのね。今のはただの初級魔法サンダーですのよ。少しだけ魔改変していますのよ」


 そういってつまらなそうに笑う《魔神》にマリンは遂に限界を迎えた。

 チョロチョロと恐怖でお漏らしをしてしまったのだ。


 《断罪者》よりも、クラークの殺意よりも、ホォーイの薄気味悪い声よりも、《魔神》がそこにいるという恐怖が上回った。

 少しでも少女がその気を起こせば、マリンは死んでいた。

 いまこの場にいる全ての人間が少女の気まぐれによって生かされているのだと、その薄い水色の瞳から理解できた。


 「ハァ......お漏らしですのね......汚いですわね」


 少女は呆れた声を出しながらマリンに手を向ける。

 死ぬ。

 ハッキリとそうわかった。

 バァリロリロの存在は居るだけで、気持ちが悪くなり立つことすらできなくなる威圧感を持っていた。

 

 マリンだけではなく他の生徒たちも次々と失禁していく、バァリロリロと視線があったモノは泡を吐いて倒れるほどだ。

 それ程存在するだけで、人間の本能が忌避した。


 そして、バァリロリロがマリンを消そうとそう思ったその時。

 急に後ろから脇に手を入れられて羽交い締めにされた。


 「ひゃっぁっん!!」


 人間誰しもいきなり脇を触られれば、変な声が出てしまうモノだ。

 それは、魔道神バァリロリロも同じだった。

 足をパタパタ動かして暴れながら何事かと振り向こうとするが、ガッチリ抑えられていて動くことが出来なかった。

 

 そんなバァリロリロを羽交い締めにしたのは、


 「カ、カイルさん!」


 カイルだった。

 マリンが救世主が現れたかのように紅潮しながら声を上げる。

 そんな、マリン達にカイルはぐいっと少女を胸に抑えながら言うのだった。


 「皆して何してんだよ! こんな幼児に!」

 「へっ?」


 カイルは盛大に勘違いしていたのだった。

 でも仕方ない。 

 マリンの様子の確認とオーランにシルフィーの事後報告をしようと保健室に来たカイルの目に映るのは、クラスメイト達が、六歳程度の水色の少女に侮蔑の視線を送りながら攻撃しようとしている場面だったのだ。

 

 カイルとしては、何としてもクラスメイト達の忘却を止めて、少女を守らなければ行けなかった。

 折角、友人と思えたクラスメイト達が道を踏み外す姿を黙っている見ていることは出来ないのだ。

 そんなカイルの勘違いに気づいたマリンが、


 「カイルさん! 実はカクカクしかじか何です」

 「カクカクしかじかって何だよ! マリン。弱いものイジメだけはダメだよ。いくら強くなってもその力を使う理由とその結果を忘れちゃいけない」

 

 無駄に良いことを言うカイルにマリン達が顔を青くする。

 なぜなら、バァリロリロがカイルの腕の中でようやく落ち着きを取り戻し、愉快そうに邪悪な微笑みを浮かべたからだ。

 カイルが危ない!

 重い空気が生徒たちにドロドロと汗をかかせる。


 バァリロリロはカイルに手の平を向けて、


 「お兄様! 助けて欲しいですの!! わたくしのことを寄ってたかってイジメますの! わたくし怖いですのね。シクシク」

 「「「「......」」」」


 先程の氷の様に冷たい声とは打って変わって、バァリロリロは幼く高い無垢な声色でカイルの事をぎゅ~~っと抱きしめたのだった。

 まるで震える赤子のように。

 そんな急変したバァリロリロにオーランは鈍痛が走る頭を抑えながら、


 「お師匠様が恋に落ちたのじゃぁあああああああああああーーッ!!!」

 

 と叫び、生徒たちは全員でハモりながら、


 「「「「「なんでだよぉおおおおおおおおおおおおおおーーッ!」」」」」

 


 コケたのだった。

 


 

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