二十一 女王の思惑
第三騎士団団長シッコクを下したカイルが、控室に戻ると、いきなり白銀のふわっとしたシルフィーが、無言でカイルを抱きしめて、大きな胸に顔を押し当てた。
む乳~む乳~むにゅむにゅ~っ
カイルが天国の様な感触に、何故シルフィーに抱かれているのかすら解らずに、マリンよろしくあわあわ手を動かしていると、シルフィーが、ポツリポツリと呟いた。
「.......焔魔法は.......使わないでください.......って言ったでは無いですか.......?」
上擦ったシルフィーの声が、ドクンとカイルの心臓を鳴らした。
「.......ごめん。でも俺.......あれ使わないと死んじゃう所だったんだけど」
「.......そう.......ですよね.......。あなたの運命はどうしても.......あなたの命を蝕みます.......」
まるでカイルの代わりに、シルフィーが泣いているかのように、涙を流すのだった。
カイルが無くしたモノをシルフィーが取り戻すように。
「.......魔法は心です。あなたの鉄魔法が、大切な人を護る意思によって生まれた魔法なら、あなたの焔魔法は、灼熱の憎しみと悲しみ.......あなたの負の心が生み出した魔法です.......」
「.......」
カイルの心層に強く刻まれている、黒龍の絶望。
目の前で全てを無くしたカイルが、心に刻み付けた憎悪。
それが焔魔法の原点だったと、シルフィーに言われてカイルは気づいた。
「負の心が生み出した魔法は、あなたの心を蝕みます。.......私の騎士様.......どうかその力をむやみに使わないでください.......」
「うん」
カイルが答えるとシルフィーはそっとカイルから離れるのだった。
そこで、
「カイル様ぁ嗚呼!!」
待ってしましたと、ばかりにミリナがカイルに飛び付く。
今まで、シルフィーとカイルの事を黙って見つめていた面々がカイルの勝利を粛々と祝っていく。
「カイルがあんな禁じ手まで、持っていたとはな! 良く私のために勝ってくれたな」
「アンナの為じゃ無いけどな、シッコクに貰って貰えよ」
ニヤニヤとカイルを褒めるアンナにカイルもニヤニヤしながら答える。
そんなアンナとカイルの、二人だけの世界観にミリナは面白くないので、自分の香をシルフィーの香に上書きするように密着しながら、
「では! 私のために勝ってくれたんですか?」
「.......うん。ミリナの為だね」
「ふぁああ.......素敵ですぅぅ~」
「甘甘だな!」
アンナのツッコミで何時もの流れを踏襲しつつ、カイルは手をグーパーしながら、体調を確認する。
魔力自体は、そこまで減っていない。
でも、シルフィーに言われた。「心を蝕みます」という言葉にカイルは、何かを犠牲にしたのかも知れないと、今更頭を捻る。
しかし、鉄刀丸を使った後の様な喪失感は無い。
気絶するわけでも無い......
シルフィーの真剣な言葉に嘘は無いとカイルは信じているので、焔魔法でライトニング戦を戦うことは出来なくなった。
「まあ......俺が、焔魔法を使うって分かってたら、ライトニングも警戒するだろうから意味ないけどね」
あんな魔法、シッコクは知らずに切り裂いたが、普通に避ければただ燃える炎でしか無かったのだ。
奇襲だからこそ、奥の手だからこそ意味のある魔法だ。
ずっと燃やしつづけて、二次被害を出すわけにも行かないカイルとしては、焔魔法がみだりに使えないことはさほど問題では無かった。
よって、カイルが今、問題にすべきは一つ。
「次......どうしよう。アンナの付与魔法は当てにならないし」
「フハハハハハハーーっ! 実力で私をモノにするのだ!」
「うるせーよ。お前は俺がモノにしようとしなくても、勝手に俺のモノになるだろうがよ!」
「はふぁ!? ......いしゃにょりふぁいぅふぅうこちょをいふぅな!!(いきなりそういうことを言うな)」
「......あ......いや......なんだ。アンナの金髪が俺のモノって話だぞ?」
不意の一撃に弱いアンナは、カイルの言い草に調子をすぐに取り戻す。
「まあ、そんなに焦るなカイルよ。お前の言う通りだぞ。私はいずれお前のものになるのだからな! ハッハハハハーーっ!」
うぜーぇ。
カイルは素直にそう思っていた。
そして、
《魔法の加護よ、消え去り給え!》
二戦目。ライトニングとの決闘で、カイルはまたしても即効でアンナの強化を《ディスペル》されていた。
「だよねぇえええ!! うん......そんな気がしてた」
全ての魔法は所詮、苔脅しに過ぎない。
シッコクの《漆黒剣》に《焔魔法》が通じたように、一度、対処方を確立してしまえば、どんな魔法も恐るるには足りない。
だから、こうなるのは必然だった。
「私は、カイル! お前が気に食わない!」
ライトニングは忌ま忌ましい怨敵カイルに騎士剣を向けて言っていた。
幼い時期に一目惚れした、王女アンジェリーナの為だけに剣を振るってきた、ライトニングにとってカイルはそれ程にくい相手だった。
何が憎いって? 一番はやはり、女王を変なあだ名で呼んで親しそうにしていることだ。
しかも、女王アンジェリーナは名も無い剣士カイルを好きと公言している。
それなのに!! カイルは飄々とそれをかわし、違う女とじゃれついている。女王の騎士として許せない!
しかも、ローゼルメルデセスの王族と結婚出来るのは、強い男のみ。
そういう伝統のはずだ。
それなのに、カイルは女王の強化魔法でドーピングしてやっと騎士団長達と互角の強さ。
そんな男をライトニングは女王の騎士として、王女の婿と認めるわけには行かなかった。
だから、
「カイル! お前を倒して、私が女王様を幸せにする!」
「......」
シッコクと違い、ライトニングの剣に殺意は無い。
これはあくまで決闘であり、騎士団長として、忠誠を誓った女王様に捧げる戦いなのだ。
「誉れある、第二騎士団長! ゴルドン様から正式に後継者として、《光王》の名を引き継いだ、我が剣をとくと見ろ。《光の精霊よ、我が姿を増やし給え、光幻覚剣》」
瞬間。ライトニングの姿が複数に別れた。
そして、別れたライトニングが一斉に遅いかかっていく。
「ッチ! まさか......! 《鉄の精霊よ! 弾の嵐を吹き荒らし給え!》」
複数の敵に対してカイルの選んだ魔法は《メタル・バレッド・サウザンド》一回の詠唱で《メタル・バレッド》を千弾放つ、対面攻撃魔法。
魔道王ジーニアス戦で身につけた、大技だ。
千の鉄弾は、別れたライトニングの全てに命中した。
しかし、全てすり抜ける。
「ちっ! やっぱり!」
「後ろだ!」
ザクン!!
カイルの真後ろを取ったライトニングが、カイルの背中を切り飛ばした。
「ガッハァッ!!」
峰打ちで切られたカイルはそのまま、数百メトル離れた壁に直撃する。
ボロボロと壁が割れ砂埃が上がる、壁に減り込みながらカイルは、思い出していた。
アンナの兄。かつて一度、殺しあった、元・第二騎士団長ゴルドン・ローゼルメルデセスの事を。
そして、ゴルドンが使っていた技も、ライトニングと同じ光で幻影を造りだし、それに紛れて攻撃するというモノだった。
種はシンプル。
故に強い。
カイルは頭を割って血を流しながら、壁から這い出してライトニングを見つめる。
「なんだ? 私に言いたいことでもあるのか? 王女......女王様やシッコク、他の騎士団長達をほだしたように、私もほだしてみるか?」
ライトニングにそういわれてカイルは薄く笑った。
「いや......実は俺。お前の事嫌いじゃないから」
「なんだと!?」
カイルを心底嫌っている、ライトニングにカイルはそういった。
そう、カイルはライトニングの事を認めているのだ。
なぜなら、
「お前はただ、アンナが好きなだけだろ?」
「......黙れ!」
「そんで、好きなアンナが、他の男にゾッコンだからむかつくんだよな? 分かるよ......その気持ち」
カイルはチラリと観客席に居る、白黄色の幼なじみに視線を向けて心底そう思った。
「お前みたいな奴が......アンナと結婚したら、アンナは幸せになれるよ......きっとな」
「ハハっ! 何かと思えば負けたときの言い訳か!? 下らん! 私は正々堂々とお前に勝って! アンジェリーナ様を貰う!」
「そうかよ。頑張れ」
ライトニングは言い切って、剣を構える。
そして、全力でカイルを倒す為に、奥の手を使う。
《光の精霊よ、我が剣に宿れ》
それは、ライトニングにとっての必殺の技。
「光王ライトニング! まいる!」
ピカピカと明らかに何かあるであろう、光剣を構えて突撃するライトニング。
それに対してカイルは。
「......だけど! お前は俺のユウナを傷つけた! 俺の一番大切な家族を殺そうとした! だから俺はお前を打ち倒す! 《鉄の剣よ》」
剣を錬成して、握る。
それに、ライトニングはニヤリと勝ちを確信した。
そして、発動する。奥の手ライトニングの奥義《光鳴剣》を。
瞬間。会場は真っ白な光に包まれた。
白光が全ての色を塗り潰す。闇が光を遮るように、光もまた強い光で光を遮れる。
そうすれば、カイルに目視出来るのは、真っ白い光だけ。
ライトニングも会場も空も何もかもが白い色に塗り潰された。
更に! 耳をつんざく程の大音量が鳴り響く。
これを前に耳を塞がない事は聴覚を持つ人間にはできない。
ライトニングの奥義《光鳴剣》は聴覚と視覚を同時に潰す技。
その中で動けるのはたった一人ライトニングだけだ。
光と音の中でもライトニングはシッカリとカイルを捉えていた。
耳をふさぎ目を潰されたカイルに剣を差し向ける。
首を一撃入れれば、ライトニングの勝ちだ。
それで、降参するだろう。
ニヤリ。
「......っ!」
しかし、ライトニングはそれを目撃した。音と光の闇の中でカイルが笑う姿を、
ブスリ。
カイルは自分自身に剣を突き立てながら、
《鉄の精霊よ、契約に従い、我が血を媒介にいでて、敵を殲滅しろ、鉄竜王!!》
それが何であるか、ライトニングには解った。
精霊召喚魔法。しかも、王級精霊《鉄竜王》
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーッ!!」
召喚された鉄竜王は、同時にライトニングに鉄のブレスをはいた。
《我が身を守れ!》
咄嗟に、《ライト・ウォール》で身を護ったライトニングは、カイルが召喚した《鉄竜王》の姿に息を飲むしかない。
本物の鉄竜王だったからだ。
カイルを守るように長い尻尾と羽で、立つその全長は百を越える。
広い筈の模擬戦場を鉄竜王のスケールだと狭く感じてしまう。
何より、圧倒的な威圧感。
光と音が晴れてその姿を目撃した全ての騎士達が悟るのだった。
女王陛下が選んだ男。炎王イグニードを下した男。何より騎士団長達が次々と忠誠を捧げている男。
勇者候補カイルは本物の英雄だと。
王級の精霊を従える事の出来る、召喚師はローゼルメルデセスの歴史ですらいない。
それこそ、伝説の英雄達が従えていたと噂される程度だった。
それを、カイルは召喚した。
ローゼルメルデセスは実力主義の国だ。
カイルが本物だと証明した今。
もはや、カイルに女王陛下に取り入ろうとする不届きモノなんて、事を言う人間は居なくなったのだった。
鉄竜王の固い背を撫でながらカイルは、深く感謝していた。
先ずは、この鉄精霊との契約をくれた、シルバに。
そして、ローゼルメルデセス最強の召喚師として、カイルに召喚魔法を伝授した。
第七騎士団長ウーロンに。
何より、カイルが王級精霊を召喚出来るだけの魔力を貸してくれている、第二王女ミリナリナに。
ミリナは、竜の背を撫でるカイルの姿を見ながら、唇を抑えてほうけていた。
カイルに魔力を貸すに当たり、ミリナはカイルと濃厚なキスをしていたからだ。
思い出すだけで、カイルの唾液の味が、口の中の感触が、ミリナの子宮をとろけさせる。
そして、ミリナはちょんちょんと姉のアンナの袖を引っ張って、
「姉様の《強化》より、私の《魔力共有》の方が役に立ちましたね!」
「そうだな......それよりもミリナ」
「何ですか?」
「何故カイルとキスをしたのだ?」
「魔力共有のパスを繋ぐためです」
即答するミリナにアンナはジトッとした視線を向けて、
「前に既にカイルとは繋げて要るだろ。二度つなげる必要も、あんなに濃厚なキスをする必要も無いはずだが?」
「........................」
ミリナはそっと姉から視線を外してボソッと。
「カイル様には、毎回、接触が、必要だということにしてください......姉様の事も邪魔しませんから」
お茶目なミリナだった。
鉄竜王の出現にライトニングもカイルの力を理解した。
カイルは敬愛する女王陛下に相応しい男だと認めていた。
たった一人で竜王の召喚を成し遂げた(本当はミリナの魔力)、男を認めないほどライトニングは拗らせてはいなかった。
「さあて、ライトニング! ここからが、本番だ。俺のユウナを傷つけたこと、謝るまで俺はお前を許さない!」
「......非礼を詫びよう......」
「はぁ?」
竜王の力でライトニングをボコボコにしようと思っていたカイルはアッサリ、ライトニングが引き下がった事にちょっと落胆した。
だけど、ライトニングに鉄竜王を打倒する、統べは無い。
何よりも、
「カイルが真に強い男と言うのなら、女王陛下の婿になるのは当然の帰結だ。これ以上、私に戦う理由は無い。今までの全ての非礼を詫びよう。そして、叶うなら......女王陛下の婿の剣として、私の事を使ってくれ」
そういって、カイルにライトニングは剣を捧げた。
その剣をカイルは......蹴り飛ばした。
暴君ここに極める......。
「いらないよ! ユウナを傷つけた剣なんて」
「......っ」
貰って貰えなかった事に深く絶望するライトニングにカイルは、声をひそめてライトニングだけに聞こえる声で囁く。
「......さっきも言ったけど。俺はお前を嫌ってない。むしろ好ましいよ。大切な人のために自分の気持ちを抑えられるなんて......凄いよ」
「なら!」
「だからこそ、お前の剣は受けとらない。その剣は俺のためじゃなくアンナを護るために使ってくれ。ライトニングなら、......アンナを幸せに出来るだろ?」
そういってカイルはその場を立ち去ったのだった。
ライトニングにはカイルの言葉にどこか、将来絶対にアンナと結ばれることは無いという決意じみたモノを感じたのだった。
シッコク、ライトニングとの決闘戦を終えたカイル達は、再び場所を玉座の間に戻していた。
一度目はカイルがアンナの隣に腰掛ける事を睨んでいた、ライトニングや他の騎士達も今は、そこに座る男はカイルしか居ないと思っているのだった。
何処か、格のようなものが醸し出されてきた、カイルにアンナは当然だと胸張っている。
カイルの決闘戦が終わった後、体調不良のためにミリナは部屋に戻ったが居れば五月蝿いだろうなとアンナは思っていた。
「ハハハハハハーーっ! 我が騎士達よ! 私の婚約者を認めたな! そうだな!? もう突っ掛かるなよ! 良いな!?」
「「「「「ハ!」」」」
ガツン。
「五月蝿い。早く本題に入れ」
あまりの嬉しさに、舞い上がってカイルの背中をバチンバチン叩きながら、騎士達に自慢するアンナの頭をカイルがぶったたき、話の軌道を戻した。
「う......む~~っ。解った。では今更だが、今回の戦で、私とカイルの為に命を懸け、私に忠誠を誓う、新生ローゼルメルデセス七騎士を紹介してやる。私が再編したのだぞ! ハハハハハハーーっ!」
「ほんと今更だな」
五月蝿いアンナをもう一発殴っておこうかと、思ったカイルはぐっと我慢した。
確かに、カイルの我が儘で始める戦争に、付き合わせる騎士達をしっかりと確認するべきだと思ったからだ。
では先ずは、と前置きを置いてアンナは七騎士を紹介していく。
「第七騎士団団長ウーロンだ。彼はローゼルでも腕利きの召喚魔法の使い手だ。
第六騎士団団長シルバ。 彼はカイルと同じ鉄魔法の使い手だ。
第五騎士団団長ローゼ。 彼女はカイルの事が好きなようだ。妾 にでもしてやれ」
「アンジェリーナ様!! 何を!」
カイルに紹介されるとあって、わくわくしていたローゼが、騎士剣を落としそうになって悲鳴を上げるが、アンナに黙っておれ! と一喝されてしまう。
ローゼは頬を膨らませながら、恥ずかしそうにカイルに一礼して下がる。
「次だ。
第四騎士団団長グリーヌ 彼女は既婚者だ。女性の重婚はローゼルでは認めていない。
第三騎士団団長シッコク カイルを殺そうとしていたらしいが、まあ......許そう。
第二騎士団団長ライトニング 名前が長い! だが......兄様よりも少し優秀な男だ。
そして!」
アンナの雑な紹介にカイルのイライラゲージが溜まっていく。
こいつら結構凄い騎士達なのに、何でアンナなんかに忠誠を誓ってんだろうと、カイルは自分を棚にあげて考えていると、
「あれ? そういえば......第一騎士団長には、忠誠を誓ってもらってないけど良いのか?」
「問題ない。第一はカイルに忠誠を誓う必要は無いのだ!」
カイルの疑問にアンナが答えて、ザバッとわざわざマントを翻しながら、玉座を飛び降りた。
そして、アンナに模擬だろうと分かる、豪華な騎士剣をメイドのリリーが、渡した。
それを、アンナは勢いよく引き抜いて、天に掲げる。
そして、
「第一騎士団団長アンジェリーナ・ローゼルメルデセス女王陛下だ! ハハハハハハーーっ!」
高笑いしてから、騎士剣を挿入しリリーに渡すと、アンナはカイルの隣の玉座にとことこ戻った。
「と、言うことだ。第一(私)はカイルに愛を捧げているのだから、忠誠はいらないのだハハハハハハーーっ!」
「うぜーぇ~......お前、しばらく会わない内に金髪以外の長所が、全部消えてないか?」
「何を言う! 美少女も残ってるだろうが! ハハハハハハーーっ!」
「うぜーよぅ......何でこいつにこんなに良い金髪が、生えてんだよ! なんでなんだよおおおおおおーーっ!」
「ハハハハハハーーっ!」
因みに、二人の暴走を止める人は居なかった。
唯一止められる筈の、ユウナはずっと静かに目を閉じて要るのだった。
「ふぅ......。よし。本題に入ろう。ミリス教との戦争についてだ」
「最初からそうしろよ......」
アンナがそういうと、部屋から何人かの人が出て行き更に、大扉を閉めた。
これは、これから話すことが、それだけ重要な事だと言うことだった。
部屋には騎士団団長とアンナのメイドリリー、カイルそしてユウナを残して誰も居なくなる。
アンナは椅子から起き上がると、床に大きな地図をリリーに拡げさせた。
そして、二つの地点にマークを印す。
「我がローゼルとミリス教国の位置だ。移動にざっと一週間はかかるだろう」
アンナはそういってミリス教国まで、インクで線を引いた。
「我々の勝利条件は、シルフィー殿を教皇に《聖女》と認めさせ、シルフィー殿をミリス教団のトップに置くことだ。良いな?」
戦争は、武力を持って何かを奪うものではない。
武力を持って国同士の揉め事を可決することにある。
今回。ローゼルメルデセスの目的はシルフィーをミリス教の聖女と公式に認めさて、シルフィーの《異端者》の汚名を返上する事にある。
と、そこまでは前置き。
そこからは.......
「.......アンジェリーナ女王陛下.......私に何を求めるつもりですか.......?」
シルフィーがカイルの袖をそっと掴んでアンナにそう聞いた。
それに、アンナがニヤリと笑う。
「ほーう。シルフィー殿は気付いていたのか? 私がカイルの婚約者として、シルフィー殿を救おうとしているわけでは無いことに」
「はぁ? マジで? お前、裏あんの? 俺を好きだから助けてくれるんじゃ無いの?」
「ハハハーーっ! 馬鹿が! カイルの事は大好きだし、何もなくても助けてはやるが、それで戦争まで起こすのは、愚王のすることだろ! 頭を使え」
「ぐぐっ」
言われてみれば確かにそうだと、カイルは思う。
だから、カイルはシルフィーを護るように立ち鉄刀丸を.......抜こうとして.......ミリナに渡したままのことを思い出した。
カイルは背中に汗をかきながら、問う。
「シルフィーを教皇にして何するつもりだよ、アンナ。変なことさせるつもるならーー」
ピリピリと緊張感が立ち上る中、カイルはユウナに視線で合図しようとして、
「まあ、落ち着くのだ。《聖女》を《性女》にしようとかは考えていない。全く.......カイルは私が居れば十分だろうに.......」
「勝手に人を変態にするな!」
カイルが突っ込むのを、アンナは五月蝿そうにかわして、騎士達を手で制してから、ゆっくりとシルフィーの腕を取った。
「頼む! 呪いの子を《異端》とする。今の教会を変えてはくれないか?」
「..............」
真剣なアンナの眼差しに、カイルは納得した。
「全てはミリナのためか」
「.......カイルの為でもあるぞ!」
ミリナ教会が不浄とした、生まれながらに呪いを持つ子供。それを変えたい。
アンナは最初から、ミリナの為にシルフィーをトップしようとしていた。
カイルの婚約者として、カイルの事を手伝いたい気持ち、そして、女王として、ミリナの事を救いたい気持ち二つの気持ちが重なったからこそ、今日アンナはカイル達を集めたのだった。
「そして、私は二年以内に遠征軍を作りたい。シルフィー殿がミリス教のリーダーとなって、学園都市、学院都市、ローゼルメルデセス、ミリス聖教軍、史上初、四国連合遠征軍の発足に尽力してはくれないか?」
そして、アンナの一番の目的はそれ、魔界へと進攻する、遠征軍の発足。
現状。ミリス教国が、魔界進攻を反対しているので、大規模な遠征軍を魔界に送れないで要るのだ。
ミリス教の考えでは、魔界人とも話しをすれば争わずに済むという考えだ。
生きとし生きる全ての者は必ず救われる。
それが大陸で蔓延しているミリス教の考えだ。
アンナの必死の懇願にシルフィーは薄い色素の瞳を開いて、
「.......人類の望み。.......魔王の討伐.......ですか。それならミリス教の信徒である私にはーー」
「それは違うよ、シルフィー」
「.......どういうことですか?」
敬謙なミリス教の信徒である、シルフィーはミリス教の教儀を心から信じている。
それで一度は救われたカイルに、ミリス教の考えを否定する気にはなれなかった。
けれど、それでもカイルは、シルフィーにアンナという人間を見誤って欲しくなかった。
「アンナは人類のために魔界に行きたいんじゃない。たった一人の家族、ミリナのためにそこにいきたいんだよ」
カイルには、アンナが魔界で何を目的とするか分かっている。
「ミリナの呪いを解く為に、魔界にいる。魔界王の一人《呪術王》カースド・カース・ドルレイドを倒したいんだ」
「.......そうだ。たとえそれで何人が命を落とそうと、私はそれを為さなければ行けないのだ。ミリナを救えるのは、姉の私だけなのだから」
「.......」
アンナは焦っていた。
二年以内に、魔界王を倒さなければ行けない。
魔界が北の大陸に有るのは子供でも知っているが、そこがどうなっているかは、行った人しか知らない。
そして、魔界に行って帰ってきているのは、魔道帝や、勇者、限られた人しか居ない。
未知の敵地に、アンナ一人で行ったところで意味は無い。
そもそも、行けない。
勇者教会がアンナの事を通さない。
軍隊でいくしか無いのだ。
「.......時間が無いのだ。シルフィー殿を利用するようで悪い.......とは思わんぞ、何としてでもミリナの運命を私は変えるのだ! だから、どうか頼む。勇者学校の洗練された勇者候補達、魔道学院で魔道を習った魔道師達、我等、大陸最強と唄われる騎士団達、そして、五十万人以上の信徒達から得らればれた屈強なる、ミリス正規軍の《聖騎士団》と《暗黒騎士団》! それらが力を合わせれば、きっと魔界の地でも戦えるはずだ」
「.......それでも、私は.......ミリス様を信じて要るのです」
「っ! .......そうか.......そうだな」
アンナが力無く肩を落とした。
そんなアンナの肩をカイルが掴んだ。
「下を向くなよアンナ。アンナに諦める事は似合わない。大丈夫。俺もミリナを助けるって言っただろ?」
「カイル.......」
「誰がお前の味方にならなくても、俺は必ずお前の味方になるよ。お前と二人でも魔界に行って魔界王を倒すよ。俺とお前が組めば最強ってアンナが言ったんじゃん」
カイルにそう言われて、アンナは再び目に光りを戻した。
「カイル.......結婚するぞ!」
「しねぇよ.......ったく。婚期を逃した貴族か!」
「っふ。婚期を逃しそうな王族だ」
アンナは不敵に笑うのがにあっている。
そうカイルは思うのだった。
そこで、シルフィーがカイルの服を引っ張る。
「.......カイルさんも、成し遂げたいのですか.......?」
「うん。ミリナを助けるって約束したからね」
そこで、シルフィーはキョトンと止まった。
「いや、シルフィーは無理しないで良いよ。俺の護りたいのはシルフィーも、だからさ」
「..............ふふっ。アンジェリーナ女王陛下」
「何だ?」
「.......ふふっ。残念。今より私は教儀を捨てましょう。.......遠征軍、全力でお手伝いいたしましょう」
シルフィーに取って教儀よりも、カイルの方が何倍も優先すべき事柄だった。
そこに迷いは一切無い。
カイルの、シルフィーの《背徳の騎士》の力になるのなら、シルフィーは何だってする。
「いきなり.......だな?」
「はい。いきなりです。.......でも。私にだって、何よりも大事な方のためになら、全てを捨てる覚悟ぐらい、有るんですよ.......?」
アンナはシルフィーがカイルのために、教儀を捨てるといっていることに気付いて、ニヤニヤと笑った。
そして、
「よし! 同盟締結だ。まぁ.......カイルのお願いだったから、シルフィー殿を助けるのは、どの道したのだったんだがなハハハーーっ!」
「なら普通に頼めよ」
「交渉と言うのがあるのだ!」
と言うことになった。
その後も、暫くアンナは戦争について、説明した。
ミリス聖教軍の軍事力が、十万人に対して、ローゼルメルデセスは二十万を越える。
そのうち、半数の十万人の兵力と全騎士団団長を従えて、ミリスへ進攻する。
戦争準備期間は三ヶ月。三ヶ月後全ての決着をつける。
アンナに取ってはそれが始まりに過ぎないのだが.......
「ミリス聖教軍は《聖騎士団》と《暗黒騎士団》の二つがある。問題は、騎士団長の《聖騎士帝》ランスロットと《暗黒騎士帝》ガンスロット。の二人だ。奴らはの《剣帝》の称号を持っている。七騎士でも抑えられるかわからない.......」
そんなふうにアンナは既に戦争に向けて着々と準備を進めていった。
会議が終わって、カイルはここにいないミリナに、シルフィーやユウナの事を虐めないようにしてもらおうと思い、シルフィーに声をかけ、ユウナにも声をかけた。
「ユウナ。一緒にミリナに会いに行かない?」
「..............私は、あの女に話があるわ。.......お願いよ。先に行ってて」
ユウナが視線を向ける先には、アンナが居た。
アンナはユウナの言葉を聞いて不敵に笑って。
「ハハハーーっ! お悩み相談か? 美少女で姉である私に任せておけ。なーに、悪いようにはしないぞ。ハハハーーっ! カイル。ミリナを頼むぞ」
「..............ユウナ。アンナを殺しちゃダメだよ?」
「.......」
ジロリ。
ユウナはカイルを睨みつけた。
ユウナが早く行けと言っているのを理解して、
「じゃあ.......シルフィー。いこっか。ミリナは意外とヒステリックだからさ、マジで何するかわからない」
「.......行った瞬間に.......殺害されたりしませんか.......?」
「.....................」
「カイルさん!?」
「いこっか」
「カイルさん!?」
騒がしく、カイルとシルフィーはミリナの元に向かったのだった。




