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金髪と魔剣と冒険とカイルのハーレム!!  作者: オジsun
三章 魔法学院の聖女
28/58

十八 断罪者

 魔法コンテストから明けて次の日。


 カイルは、魔法学院の魔法訓練場にいた。

 

 《鉄の精霊よ、二つの槍で、彼のものを打ち抜き給え!!》


 カイルは詠唱と共に、五十メトル先の、二つのマーカに狙いを合わせて、改良版 《メタル・ランス》を打ち込む。

 魔法は心です、と言ったシルフィーの言葉の意味が今ならよくわかる。

 同じ詠唱でも、しっかりと心に描いて発動するのと、しないのとでは、天と地ほどの差がある。

 そりゃあ、初戦でジーニアスにボロクソにされるわけだ。

 

 放った二つの《メタル・ランス》が目標を撃ち抜くのを確認して、自分の力が確実に上がっていることに、高揚感を覚えていると、


 パチパチと手を叩く音が聞こえた。

 視線を向けるとそこにいたのは.......


 「シルフィー.......」


 白い天使、シルフィーだった

 昨日の事があり、少し気まずいカイルに、シルフィーが微笑む。


 その微笑みは、一切、穢れが無いからシルフィーの魅力がぐっと引き立てられる。

 

 「今日からは、授業に参加するのでは無いのですか?」

 「.......ちょっと、考え事と改変詠唱の確認してただけ、行くよ」


 カイルは答えて、特訓を切り上げる。

 本当に、授業が始まる前に少し、魔法を使いたかっただけだった。


 「.......カイルさんのそれは.......もう改変魔法.......では無いですよ?」

 「ん? じゃあ何なの?」

 「創造魔法。.......新しいカイルさんだけの魔法です」


 シルフィーがカイルにタオルを手渡しながら言う。


 「そもそも、私が教えたのは、全ての基礎です。改変魔法すら教えていません。.......カイルさんが勝手に使いはじめただけですよ」

 「そうだっけ?」

 「はい。.......ふふっ。カイルさんは、通常魔法の才能はありませんが、改変力や創造力、更に鉄魔法に至っては、連続詠唱まで、それは凄い才能なんですよ?」


 身体を拭いて汗を殴ってから、カイルとシルフィーは校舎向かって歩き出す。


 「カイルさんの鉄魔法.......契約精霊、ですね? 何処で契約したのですか?」

 「ああ.......えっと。何て言うかな。ローゼルの七騎士の一人と戦った時に、召喚精霊を倒して、それで勝手に、って感じ」

 「七騎士!? .......?」


 流石に、シルフィーはカイルが、ローゼルの内乱に関わっている事は知らないので、動揺する。

 が、そこは流すことにした。

 なぜなら、シルフィーが聞きたい事は別にある。


 「では.......。次は召喚魔法を覚えませんか?」

 「え? 覚えたいけど.......」

 「ふふっ。勿論、私が教えますよ?」

 

 それに、カイルが答えようとしたところで、授業開始の鐘が鳴り響く。

 

 「.......間に合いませんでしたね?」

 「ごめん。俺のせいで」

 「いえいえ.......カイルさんと話すのは楽しくて、つい、話し過ぎてしまいました」


 シルフィーはカイルに本当に楽しそうに微笑みかけている。

 そのまま、訓練場を出てシルフィーにカイルは声をかけようとした、所で。


 ゾクリ。


 悪寒が、走った。

 何か来る!!


 その瞬間、バリン! と、大きな音が鳴り響いた。

 

 「そ、んな.......!」

 「シルフィー!! 今のは?」

 

 そして、シルフィーは言った。


 「学院の.......守護結界が強引に壊されました.......。.......っカイルさん 早く、逃げてください」

 「アホ! シルフィーも.......」


 逃げるぞ、と言いかけてから気づく。


 既に、ぞろぞろと現れた、黒いローブの人達に囲まれていることに。

 それに、シルフィーは息を呑みながら。


 「ミリス教団.......異端審問会、大司祭直属【断罪者】.......ついに、この時が来て.......しまいましたか.......」

 「は? 異端審問会?」


 カイルは状況が理解出来なかった。異端審問会と言えば、大陸で禁忌を犯した者が裁かれる組織だ。

 こんな、学生しか居ない、魔法学院に結界を割ってまで入ってくるわけが無い。

 そう、思うのは普通だ。


 しかし、現実はカイルの理解を待たなかった。

 黒いローブの断罪者達は、剣を抜いて襲い掛かってきた。

 それに、対してカイルが反射的に反応する。


 《鉄の剣よ!》


 紫電と共に、練成剣を生み出して、断罪者の刃を打ち返す。

 そして、カイルは息を呑んだ。


 (強い.......こいつら。一人、一人がとんでもなく強い!)


 そう、一人、一人がカイルより少し下か、同じか、位の剣の腕だった。

 それに、ぎりぎり奥歯を噛んでシルフィーを背中に隠そうと手を伸ばす。


 「カイルさん。.......刃向かっては行けません。異端認定されてしまいます」

 「だけど.......くそっ! どうしろってんだよ!」


 カイルが怒鳴り、叫ぶ。

 その、数分前。


 学園長室で、授業の準備を進めていた。オーランが異変に気づいた。


 「むむっ! こんな所にエッチな本が! どれどれ.......おおっ! いいのう! いいのう!!」


 と、そんなオーランに気配を消して近づいていた、白髪の老人。

 異空間創造魔法帝級の使い手、名をリンクルド。

 リンクルドの魔法は対象を自分が作った異空間に引きずり込む魔法だ。

 予め詠唱しておいた、その魔法を発動する。


 《ディメンジョン・ワールド》


 「むっ! 何やつ!? くっ! 罠だったのか!!」


 流石に、オーランも気づく、が少し遅い。

 オーランの姿は学園長室から忽然と消えた。

 リンクルドは自分の造った異世界においては、無敵。どんなことでもできる。そんな場所に引きずり込んだ時点でオーランの未来は決まった様なものだった。


 リンクルドは汗をかきながら、


 「罠なんか、無かったのじゃが.......」


 呟いて、オーランのいる異世界へと移動した。



 リンクルドのオーラン捕獲の合図をもって、クラークとホォーイは魔法学院の結界を破った。


 「ホォーイ。遊ぶのは、魔道王を無力化してからだぞ!!」

 「分かってるって、クラークの兄貴! 久しぶりの若い肉の味。楽しみだなぁ。へへへっ」


 ドクロの仮面ホォーイは、魔法学院校舎の一年A組の教室に固有創造魔法を使いながら舌ずり舐める。

 ホォーイの作り出した。ホォーイ専用魔法 《ダーク・ディストピア》 一定領域を囲う結界で中にいる全ての者の五感や神経系までの自由意思を全てを奪う魔法だ。


 .......中にいた。魔道王ジーニアスも成す統べなく捕われたのだった。

 味覚、触覚、視覚、痛覚、聴覚。エトセトラ

 全てを奪われ、立つことも動く事も出来ない中で、ジーニアスは


 「くっ......シルフィア!」


 と叫んで倒れた。


 「一丁上がりっ、さて、後は儀式の準備だぜ」


 オーランが倒されてから、そこまで僅か数分の時間だった。


 錬成剣を持って、状況の悪さに歯を食いしばるカイルにクラークは、フッと笑って、水晶を取り出した。


 「見ろ」


 水晶から光が発生し、それが空中に映像を浮かび上がらせた。

 その映像に移るのは、A組の生徒たちが倒れている姿。


 「女を渡せ。さもなくば.......わかるよな?」

 「くっ.......」


 歯をギリギリ、噛んでも状況は変わらない。

 クラークは、カイルに人質を見せているのだ。


 それに、スッとシルフィーが前に出る。


 「行きましょう。抵抗はしません。.......その代わり。この方は見逃してはくれませんか?」

 「なっ! シルフィー!!」


 自ら進んで男の元に以降とするシルフィーの肩を掴む。

 確かに、状況は絶望的。でも、まだ何か、有るはずなんだ!

 と、カイルは思考を加速させるが、シルフィーはカイルの手を、シルフィーの冷たい手でそっと掴んで。


 「では.......私を守る。『背徳の騎士』になってくれるのですか?」

 「.......っ!」


 全てを捨てて.......シルフィーを守る?

 たしかに、それなら、異端の汚名も、人質の意味を無くなる。

 けれど.......


 絶句するカイルにシルフィーは困ったように微笑んだ。


 「だから、ただの言葉遊びですよ? お逃げください。私は私の運命を受け入れるだけです。こうなる運命だったんですよ?」

 

 そういってシルフィーは手を離した。

 そして、クラークに向かって迷い無く歩みを進める。


 ギリリっ。


 「ざっけんなぁあああああああーーっ!!」


 その後ろ姿にカイルは叫んでいた。 

 そして、シルフィーの肩を掴んで抱きしめる。


 「シルフィー!! 俺は運命を信じるって言ったけど、それは、全ての努力をした後での話だ」

 「え?」

 「誰も、気に入らない現実を、運命、と言って諦めろって言ってない」

 

 強く、シルフィーを抱きしめて、強く、剣を握り締めて、カイルは言う。


 「諦めることを、運命、なんて言葉で飾るんじゃねぇ!!」


 言い切って、シルフィーを背に庇い、断罪者達とクラークに宣言する。


 「シルフィーは、渡さない! あいつらにも手は出させ無い! 俺が全てを守りきる!!」


 それに、クラークは愉快に笑う。


 「そうか、なら死ね! .......やれ!」


 クラークの一声に断罪者達が襲い来る。

 そう、カイルは断罪者、一人一人を相手するのも辛いのだ。しかもシルフィーを守りながら。


 「くっ.......。それでも! 俺は守りきる!」

 

 断罪者達は連携を取って迫り来る。

 それは、誰か一人が討ち取られても必ず標的を仕留められる陣形だ。

 間違いなく、カイルの絶体絶命の窮地。

 そこに。


 《風の大精霊よ、私のカイルに! 手を出す、馬鹿達を吹き飛ばしなさい!》


 上級風攻撃魔法ハイ・トルネードで断罪者達を吹き飛ばし、すたんとカイルの前にユウナが立った。


 「ふふん。カイルが全てを守るなら、私がカイルを守るのよ!」

 「ユウナ!?」

  

 突如、現れた、ユウナにカイルは驚きを隠さないが。


 「あわわわっ。カイルさんとシルフィーさんの後を付けてたら、大変な事になりました.......」

 

 と、マリンも、ガクブル震えながら現れて、カイルの後ろに身を隠す。

 

 「.......。ユウナ! そいつら、異端審問.......」

 「知らないわ! 私のカイルに手を出した、それだけで私の戦う理由は十分よ!」

 

 ユウナは怒りに狂いつつも、確実に襲い来る、断罪者達を魔法で戦闘不能にしていく。

 ユウナの風魔法は吹き飛ばせる分、対大人数には効果てきめんだった。

 しかも、改変魔法? 何それ? おいしいの? の如く。訳のわからない詠唱で敵を打ち倒していく。


 その、ユウナの圧倒的さに、これは行けるかもとカイルは思った。

 が、


 ゾクリ。


 クラークが、大剣に手をかけたその瞬間。

 カイルは理解した。一番最初にヤバいと感じた男がコイツだと。


 「ふん。あいつがリーダーね! 《死になさい!》」


 ユウナがクラークに風魔法を放つ。

 それに対してクラークは大剣を一降り、振り下ろした。


 ザァァブゥーーンっ!!


 それだけで、ユウナの風魔法を打ち消して、更にはカイル達を吹き飛ばす。

 カイルは咄嗟に、シルフィーとマリンに手を伸ばして捕まえる。そして、ユウナへも.......


 「ふん! やるじゃない! でも剣圧程度じゃ私は止まらないわ!」


 .......ユウナは吹き飛ばなかった。風の加護を身に纏い、腰に差した剣を抜いてクラークへと、暴風の中突き進む。


 「ユウナーーーっ!! よせぇええええええーーっ!!」

 「カイルは! 私が守るのよ! はぁああああああああーーっ!!」


 気合い一線。ユウナの剣が煌めいてクラークに迫る。

 

 「ふん!」


 しかし、カイルの嫌な予感は的中し、クラークの大剣がユウナの身体を打った。


 「ぐっ!! .......っ!!」


 ドスン。

 

 ユウナは吹き飛び、魔法訓練場の壁に打ち当たる。

 それでもユウナは手を伸ばして


 「カイルは.......私が.......守る.......」


 コクリと力尽きた。

 

 「ユウナぁあああああああーーっ!!」

 

 カイルは吹き飛びながら、その光景を目の当たりにし、理性が吹き飛んだ。

 着地ともに、シルフィーとマリンをかなぐり捨てて、怒りで真っ赤に染まった視界の中で、クラークへと迫る。


 「てめぇえええーーっ!! ぶち殺す《鉄の剣よ!》ーー《鉄の嵐の弾よ》ーー《鉄の二本の槍よ》」


 紫電と共に二本目の剣を錬成し、数百に及ぶ《メタル・バレット》打ち出して、二本の《メタル・ランス》で追い撃ちをかける。

 驚異の三連続詠唱に目を開く、クラークは。

 しかし、ふんっと一降りでその全てを弾き返した。


 それでもカイルは止まらずに二本の剣を握り締めて、クラークへと迫る。


 「このぉおおおおおーーっ!!」

 「ふんっ」


 しかし.......クラークの大剣がカイルの身体を切り裂いた。

 ユウナと同じようにカイルも布切れの様に吹き飛んで壁に激突した。

 加護を纏ったユウナと違い、カイルは肉を引き裂かれ内臓が少し見えていた。


 そんなカイルにクラークは。


 「なるほど、強い。が。理性を忘れて敵に飛び込む奴には負けん。俺は、これでも剣王の位にいるものだ」

 

 と。吐き捨てた。


 「ふざけ.......るな.......。こんなっ.......ごんな.......」


 カイルもそこで意識を失った。

 残されたのは、怯える少女二人。


 「.......っ。私は全てを受け入れます。どうか約束を」

 

 しかし、完全に腰を抜かした。マリンと違い、シルフィーはそういってクラークの元に行く。

 クラークはユウナの身体を持ち上げて、


 「コイツは贄にする。他は、お前の気概に免じて見逃そう。子うさぎと、死にかけのでくの坊。それくらいはな」

 「.......ありがとうございます」

 

 そういって。クラークはシルフィーとユウナを連れてその場を去ったのだった。

 

 

 ■■■■■


 適性魔法、魔力、能力(スキル)、血筋。から何まで、およそそ個人を構成する全ての情報を見ることができる魔法。

 それが、儀式魔法アナライズ


 儀式魔法には、数十から数百人分の大量の魔力と、大量の魔力を一つに集めても、平気な肉体が必要となる。


 チャリン.......


 両手両足を鎖で縛られて吊されて気絶している、ユウナを見てドクロの仮面を被った男、ホォーイは下卑た笑みを浮かべた。


 「おおぉぉーー! これは、上玉っ! クラークの兄貴! ちょっと味見して良いか!?」

 「.......ダメだ。《アナライズ》が終わってからだ! 任務を忘れるな」


 クラークは、ホォーイに言って、静かに付き従うシルフィーを連れて儀式場として化した、魔法学院、学院長室へと向かう。

 そこには既に、帝級魔道師のリンクルドが、儀式の下準備を終わらせている手筈になっているからだ。


 「そりゃ無いぜ、兄貴っ! .......そいつが、聖女何だろ? 《アナライズ》なんて使ってないでさっさとぶっ殺そーぜ」

 「ふん! そうやって、十二年前の執行官は聖女の替え玉に気付かなかったんだぞ」

 「ヘェーイ」


 ホォーイはテキトウに返事して、鎖に繋がれたユウナの服をビリビリ破いた。

 あらわになる、ユウナの白く艶のある艶かしい肌に、ホォーイは一瞬、息を呑んだ。

 そして、ユウナのお腹に魔法文字を書き込んでユウナを儀式の贄とした。



 .......数時間後。


 儀式の準備を終えた、ホォーイは儀式魔法アナライズを発動する。

 すると、ユウナの身体に多種多様、大量の魔力が流れ込み、ユウナの身体を汚染した。


 「うっ......ぁぁああああああああーーっ!!」


 その魔力の汚染に、ユウナは気絶から苦しみで無理やり、たたき起こされて絶叫を発した。

 その間、ホォーイはくつくつとユウナの苦しむ姿を楽しそうにながめていたのだった。

 

 「ハァ......ハァ......ハァ......何......よ。今の」


 儀式が終わり、ユウナの魔力を封印し、儀式の苦痛で疲労困憊のユウナにホォーイは、待ち兼ねたとばかりに、笑い、ユウナの身体をナメるように見つめる。


 「へへへっ。おれっちのターン!!」


 ゾクリ。


 身の危険を感じとったユウナは身体を震わせる。

 そして、ユウナは正確にホォーイのしようとしている事を理解する。

 この日、私は汚されるんだ......と。

 それでも、ユウナはキリッと強い視線でホォーイを睨みつける。


 「......無駄よ。私の心はカイルのものだもの! 身体が屈しても心までは屈しないわ!」

 「へへへっ......。おれっち、男がいる女と遊ぶのが好きなのよね......へへへっ」


 ゾクリ。


 ユウナは目を閉じて、ただカイルの無事を願った。

 そして、身体を奪われるその時になってユウナは思った。

 どうせなら、もっと早くカイルに気持ちを伝えていれば、こんなクズに初めてを奪われ事は無かったのに......と。


 (決めたわ......再会したら......私はカイルに気持ちを伝えるわ......だから......カイル。私は平気よ)


 ユウナは決意と、そして、せめてもの反撃にホォーイに噛み付いてやると心に決める。


 ポロリとユウナの瞳から雫が落ちて、そんなユウナが愉しくて仕方ないと言うように、ホォーイはユウナの吊された身体を貪る......


 その時!!




 ■■■■


 クラークに敗北した、カイルが目を開けると。

 鼻水を出しながら、泣いているマリンの姿が視界に入った。


 「......っ!」


 カイルはすぐに、起き上がって。


 「マリン!! ユウナとシルフィーは!?」


 何より先に、二人の心配をした。

 マリンはカイルに泣きながら伝える。

 二人は連れて行かれた、と。

 マリンはカイルに「ごめんなさい、ごめんなさい」と、壊れたように謝りつづけた。


 クラークとの一戦の中で、マリンは何も出来なかった。震えて怯え、ユウナが連れていかれる所を見ていることしか出来なかった。

 だから、マリンの悔恨はとても深く強く刻まれていた。


 しくしくと涙を啜る、マリンの肩に手を置いてカイルは言う。


 「うっ......うっ......ごめんなさい......私......何も」

 「大丈夫だ。ユウナは俺が救い出すし、ユウナをイジメたあいつらを俺は許さない。シルフィーの望んだ《背徳の騎士》とは、違うけど。俺はもう、異端にされても全てを救い出すと、今、決めた」

 「............うぅ......うぅっ......」


 そういって、カイルはシルフィーの肩から手を離した。

 その瞳の先には、ちょうどユウナが吊されている、一年A組のクラスがあった。


 「だからもう、俺は......行くよ。......マリンは逃げて」

 「......うっ......うっ.......うぅ......」


 まっすぐ、カイルはユウナの元へと踏み出した。

 そんな、カイルの背中をマリンは必死に掴んで縋り付く。


 「行かないで......今度はきっと......死んじゃいます」

 

 マリンに捕まれて足を止めたカイルは、マリンの腕を振りほどこうとする。

 今のカイルに、マリンの心境に配慮する余裕は無かった。

 それでも、マリンの事を無理矢理突き放さないのは、カイルの命を救ったのはマリンだと言うことを理解しているからだ。


 クラークに斬られた、傷は深く、致命傷だった。

 内臓が半分飛び出して、ピンクの液体と、ぐにょりとした肉が溢れ出していたのを、マリンが恐怖に震えながらも、カイルに回復魔法をかけたからに違いなかった。


 だから、カイルはマリンの言葉に反応した。


 「なんで......死ぬかも知れないのに......戦えるんですか? 怖く無いんですか?」

 「......俺が今、怖いのは......俺の大切な人が居なくなること......それだけなんだ」

 「......っ」


 マリンは没落とはいえ、ついこの前までただの貴族の少女だった。

 だから、こんな殺伐とした人間同士の殺し合いが恐いのは当たり前のことだった。

 だからこそ、カイルはマリンに逃げろと言った。

 こんな、非、日常。マリンには相応しくないのだからと。


 マリンは、怖くて怖くて、死にそうな程怖くて、本当は今すぐにでも逃げ出したかった。

 けれど、マリンにとってカイルは、命の恩人で、運命を変えてくれた人で、マリンの人生の中で初めて、尊敬できる人だった。


 そんな人が窮地にいるのに、立ち上がらなくて何が勇者か?

 恩人を、敬愛するカイルを一人、死地に送って逃げ出す......それじゃ、前の私と何も変わらない。

 マリンの運命は何一つ変わってなんていなかった......


 マリンは身体から力を抜いてカイルを離した。

 そして、


 「......運命を変えたければ、先ずは自分が変わらないといけない......ですね?」

 「......ああ。俺はシルフィーとユウナを、救うっていう運命に、変えに行く」


 マリンは、何一つぶれないカイルに敬意を抱く。

 そして、


 バチン!


 マリンは自らの頬を思い切り叩いた。

 目をつぶり、開けた時には、マリンの目に、先程までの怯えは無かった。

 強い意思をその目に秘めていた。


 「なら! 私は、カイルさんが死なない、運命に変えるために、闘います!」

 「......マリン。怖くなくなったの?」


 明らかに何かが変わって、身体の震えも止まった。マリンにカイルはそう、聞いていた。

 マリンはそれに、ニコッと笑い答える。


 「私が、今、恐いのは......昔の私に戻ることです。大切なカイルさんを、見捨てて逃げること......それだけですから」


 それに、カイルもフッと笑って、走り出しながら言った。


 「まるまる。俺の、パクリじゃねぇーか!」

 「はいっ。私はカイルさんを敬慕していますから、あなたの生き方を尊敬していますから」

 「............マリン。お前はもう......俺より強いよ」


 カイルの最後の言葉はマリンの耳には届かないのだった。


 ■■■


 《鉄の精霊よ、弾の嵐で、撃ち抜け!!》

 《水の精霊よ、飛弾の雨で、一掃し給え》


 カイルとユウナの魔法が、《断罪者》達を打ち抜いて、次々と行動不能にしていく。

 《断罪者》一人、一人の剣の腕はカイルと同等か、それ以上。

 だが、カイルとマリンが交互に魔法を放つことによって、剣ではなく魔法の力で戦うことが出来た。

 だから、カイルもマリンも大量の《断罪者》達を相手に進むことが出来ていた。


 校舎の中にはカイル達の他にも、生徒や講師が居たが皆、相手が世界最大宗教、ミリス教の異端審問会だと知っているため、抵抗せずに捕まっていた。

 その中には、凌辱やら何やら、胸糞悪い光景が広がっている。

 まさに阿鼻叫喚の地獄。



 「《鉄の剣よ》やめろ!! てめえらぁあああーーっ!! はぁああーーっ!!」

 「ギャアアアーーっ!!」


 そんな、断罪者達にカイルは情けをかけることなく、錬成剣で切り殺す。

 返り血を浴びて真っ赤に染まる視界で、カイルが助けた虚ろな女生徒が、カイルの事を怖がっていた。


 カイルは、無視して一年A組の教室に向かう。

 そこに、ユウナがいる。

 カイルには、それが分かっていた。


 そして、A組に辿り着いたカイルが見たのは......


 服を破かれたユウナに、ドクロの仮面の男がのしかかろうとしていた。

 

 ブチリ。


 「このぉおおおおおーーっ!! 《鉄の剣よ》」


 爆ぜるように、カイルは加速し、ドクロ男、ホォーイに錬成剣をたたき付ける。

 ドクロ男は結界を張っていたが、それをカイルの剣は砕いた。


 「っお!? 何だお前? 良い所で」


 しかし、ホォーイは軽く避けてカイルと距離をとった。

 カイルはホォーイに構わず、ユウナの鎖を切り落として、落ちてきたユウナを抱きしめる。

 すると。


 「私は! あんたなんて大嫌いよ!!」


 がぶり!


 カイルは肩を思いっ切り噛み付かれたのだった......。


 「うっ......そうだったんだ......」

 「えッ? カイル!?」


 地味に衝撃を受けながらも、嫌われていようとカイルにとってユウナ大事なことには変わり無いのでそっと身体を離して、上着を脱いでユウナの肩にかける。

 すると、ユウナが、カイルに、


 「......私! カイルにずっと伝えたい事があったの! 聞いて!」

 「え? 聞きたくない......聞きたくない。というか分かったよ」

 「......え? なんでよ! 聞きなさいよ! カイルは驚くかも知れないけど......私、ずっと......」 

 

 ユウナの決意は完全に絡まわりしていた......

 そんな、ユウナに背を向けてカイルは何より先に感情を爆発させる相手がいる......


 「ドクロ野郎! お前は殺してやる! ユウナの事を凌辱しやがって!! 例えユウナが許しても俺が許さない!!」

 「っはぁ? 待ちなさい! カイル! 私まだ何もーー」

 「死ねぇええええええええええええええええええーーっ!!」


 されて無いわよ、という声は完全にカイルの雄叫びに掻き消されていた......

 そんな、ユウナは気づく。


 「カイル......魔力を身体に流せるようになったのね!」


 剣術で上級から、超級へと至るのに必要な、《肉体強化》

 それをカイルは無意識にしていた。

 だからこそ、カイルの能力は通常の数倍以上に膨れ上がっていた。


 勿論、カイルが《肉体強化》をしているのは偶然で、まだまだ自分で使う事は出来ないが、純粋な魔道師であるホォーイにとって、近接した剣士は絶大な天敵に違いなかった。


 一歩で十メトルを詰めるカイルに対し、ホォーイは後手で魔法を使わないといけない。

 それでも、ホォーイは闇魔法王級に至る魔道師、闇魔法に関していえば、ジーニアスに引きを取らないのだ。


 魔道師は動く必要は無い。遠距離からの高威力砲撃で仕留めるのが、セオリーだ。

 

 《闇よおれっちの身を守れ》


 そして、ホォーイは結界魔法の達人だった。

 相手を閉じ込め、能力を封殺するのも結界ならば、身を守るのもまた結界。

 カイルの剣が届くより先に、ホォーイの結界が完成する。


 バリン。


 割れたのは、カイルの錬成剣。


 「ユウナを!! 良くもぉおおーーっ!! 《鉄剣よ!!》」

 《闇の波動よ!》


 カイルがすぐに、錬成剣を紫電と共に錬成し直すが、ホォーイは闇攻撃魔法、上級ダーク・ノヴァを放つ。


 闇のエネルギーの塊がカイルに殺到する。

 

 ドドドーー!!


 「オラァアアアアアアーーっ!!」


 それに対してカイルは、叫び真っ正面から迎え撃った。

 剣を構え、《ダーク・ノヴァ》を叩き斬る。


 勿論、闇魔力エネルギーの塊である、《ダーク・ノヴァ》を斬る技量など、カイルにはなく直撃する。

 その、直前。


 《水の精霊よ、彼のものを守り給え》


 マリンがカイルに水の加護を与えて、カイルのダメージを減少させる。

 そして、吹き飛ばされたカイルを受け留める。


 「カイルさん、落ち着いてくださいよ! 今のはカイルさんなら、魔法で防げましたよ!」

 「落ち着く? なんで? 俺はアイツを殺すんだ! ユウナを凌辱した! アイツをぶち殺すんだ!!」


 マリンの言葉は血が登ったカイルの耳には届かない。

 マリンの腕を振り払い、カイルは錬成剣を構えてホォーイに迫る。

 そのカイルの前にユウナがよろよろと力無く立った。


 「カイル! 私の言葉を聞きなさい!」

 「ユウナ......。俺......ユウナを......だから、アイツを......殺すから......ユウナ」


 ユウナに止められても、カイルがユウナを守れなかった挙げ句に、男に凌辱された屈辱と怒りと悲しみと後悔と......その全てがカイルの理性を奪っていく。

 そんなカイルにユウナは

 

 優しく包容した。


 「カイル。私を信じてくれるわね?」

 「......っ!?」

 「私はあいつに何もされていないわよ。カイルになら後で見せてあげるから......ね? カイルは怒らなくても良いのよ?」


 そういわれて、カイルの荒れ狂った感情は落ち着いて行く。


 「......ほんと? ユウナ。襲われなかったの?」

 「失礼ね! 三度目よ。信じなさい。それより、カイル。私は魔力が封印されていて闘えないわ......カイルを護ってあげられない」

 「.....」

 「それでも、カイルは戦うんでしょ?」

 「うん」


 その時にはもう、カイルの感情は完全に落ち着きを取り戻していた。

 それは、家族の絆。カイルが落ち込んだ時。ユウナはいつもこうしてカイルを励ましてきた。

 ユウナの体温がカイルの心を溶かして、ユウナの心音がカイルの心を落ち着かせる。

 そして、


 「なら、闘いなさい。カイルらしく、誰かを守るために、闘いなさい......カイルは凄いんだから......」

 

 ユウナの言葉はカイルの希望となるのだった。

 カイルは、深呼吸してから、ホォーイとマリンの闘いを観察して、ユウナをゆっくり座らせてあげる。


 「ユウナ。見ててくれ。俺がユウナを守る。その瞬間を」

 「......ふふ。何時だって見てるわよ」


 


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