十五 白天使の啓示
カイルはジーニアスとの決闘で何故負けたのかも分からなかった。
それ程あっさりと、そして徹底的に負けたのだ。
完結に決闘を思い出すなら、ジーニアスの多種多様な初級魔法に翻弄されて負けた。
勿論、ジーニアスは殺傷魔法は使わなかった。
それでもカイルはボロボロに傷つき炎で焼かれ倒れ、雷に打たれ痺れ、水に閉じ込められ窒息し、風に煽られ転倒、土に埋もれて身動き一つできなくなった。
そんなことを何度も繰り返す打ちに、血を吐きボロボロになっていた。
余りにもムカついたので鉄刀丸の【鉄神の鎧】を出しても、カイルは地面の土の味を噛み締めていた。
そこで、オーランが遂にジーニアスの勝利を宣言した。
ジーニアスがカイルに平伏し謝罪を強要して、カイルは惨めにもそれに従っていた。
悔しくて情けなくて久しぶりにカイルは大粒の涙を流していた。
何故か、鉄刀丸までオーランに没収された.......でもカイルにはそれを止める気力は残っていなかった。
それに鉄刀丸はカイルにしか使えない剣だ。いくら凄い魔法使いのオーランだって鉄刀丸を使うことは出来ない。
しかも鉄刀丸は能力が無ければ、なまくらよりも何も切れない剣だ。それこそ祭に使われてしまう程だ。
血と汗と涙と屈辱に塗れた決闘戦はカイルの判定負けとなり、散々、クラスメート達から罵られて、波際に打ち捨てられた魚の様にカイルは一人決闘場の中心で力尽きていた。
「自業自得よ。.......頭を冷やしなさい」
そんなカイルにユウナが言った言葉だ。
ユウナの目はカイルを見るとき軽蔑の眼差ししか写って居なかった。少し泣いていたようにも見えた。
「俺は.......ただ。護りたかった.......それだけなのに」
カイルは別にジーニアスやクラスメート達に怒りは覚えない。
はっきりユウナが言っていたように自業自得でしか無いからだ。
たった一人残されたカイルはどうしてもあふれて来る涙を拭きながら何度も思う。
「ただ.......護りたかった.......大切な人を護ったかった。それだけなのに」
でも、ライボルトに負けてユウナを守れず、更にジーニアスに負けた俺には.......誰かを守るなんてそんなこと出来ないかも知れない.......そう思った。
カイルが縋り付いていた何かから、とたんに切り離され急降下していく感覚に陥る。
カイル自身が積み上げて来た全てが今、崩れ去ってしまった。
「うぅ.......ううぅ。何で俺はっ! こんなにも弱いんだよ!! 格好悪いんだよ!! 何でだよ! 何で何だよ!!」
叫んでも喚いてもカイルは立ち上がれなかった。
だからカイルはもう立つことを諦めた。ライボルトが嘲笑した様にカイルは誰かを守るなんて事、言っていい人間では無かった。例え才能が無くても護りたいなんて思っちゃダメだった。
気付いていた。ユウナやレンジとの才能の違いに、カイルでは、けして埋められない才能の差に。
だからかな俺が.......ユウナに守られると言われるとき、反論しないのは。
ならいっそもう.......俺は戦う事を辞めよう。
カイルは完全に諦めてしまったのだった。
そんなカイルを遠くから見つめていたユウナが
「はぁ.......。これ以上は見てられないわね.......ふふっ。カイルは私が居ないとだなんだから」
「あわわわ、なら早く行きましょうよ。カイルさんがかわいそうです」
と、落胆半分、嬉しさ半分で呟き、カイルの元に向かいかけた。
しかし、ユウナは目にしてしまう。カイルにある人物が近付いて行くのを、ユウナはすぐに身を翻しカイルの場所に行こうとしているマリンの首根っこを掴み押さえた。
ユウナの目的は二つのうち一つ。カイルにユウナとレンジ以外の同格の友達を作ってもらう事。
でもユウナは近づく人物を見て「ちっ」舌打ちした。
「何でカイルに近付くのがアイツなの! 他にも沢山いるじゃない」
「.......ユウナさん。心配なら素直に行きませんか?」
「それじゃあ、ダメなのよ。カイルは私を家族としてしか見てくれないんだから.......ちゃんと私が特別な存在だって分からせるわ」
「.......あの」
ユウナの言葉を聞いてマリンは言うのだった。
「直接カイルさんに告白した方が早い気がするのですが.......」
「嫌よ。恥ずかしいわ」
「.......」
場所は決闘場、カイルの倒れている場所だ。
そこでカイルはうわごとの様に何度も呟いていた。
「弱い俺は.......誰も.......守れない」
そう、何度も反数しているカイルの手をそっと冷たく細い手が握った。
それはユウナの手でもマリンの手でも無いことはすぐに分かる。異質な感触に少しだけカイルの意識は現実に戻った。
そしてカイルの手を優しく握った人は、滑らかで空気に溶けそうな程、澄んだ少女の声で失意のカイルに囁いた。
「.......誰かを護りたいと思うことは、とても素晴らしい事ですよ?」
「..............でも、力が無い」
まるで懺悔でもしているかの様に何故かスルリと言葉が漏れた。
それは声だけで声主がどれ程、清い人か分かるからか?
「力が無くても想いが有るのなら、それは必ず達成できますよ?」
「.......っ! 無理だよ.......。俺じゃぁ.......天才達には勝てないよ.......それが良くわかった。もう俺は俺を信じられない」
それでもカイルは目を開ける事すら億劫になるほど弱っていた。カイルを支えている夢を諦めしか無いからだ。
そんなカイルの手をしっかりと掴んでいる人は言った。
「なら代わりに私が貴方を信じます。貴方なら必ずジーニアスさんに打ち勝てると信じます」
「.......っ!?」
ドクンと再びカイルの心臓に熱い何かが流れはじめた。
笑われ、嘲られ、それでもまだ、信じてくれる人がいるなら!
カイルは目を初めて開き。自分の手を握る人を見た。
それは雪のように白い髪と肌、そして瞳を持った.......
「天使様?」
「ふふっ.......そう見えますか? でも残念。違います。私はシルフィー。ただのミリス神を信じる信徒の一人です」
ミリス神。大陸、最大宗派ミリス教の唯一神だ。それをカイルは瞬時に思い出す。
「何時だってミリス様は迷える子羊の味方です」
「.......何その神様.......好きになりそう」
「ふふっ。入会しますか?」
悪戯したように微笑む天使様.......否! シルフィーにカイルはコロッと入会すると答えかけて頭を振り払う。
「確かミリス教は、規律が厳しかった気がするんだけど.......」
「.......」
シルフィーはそれには答えず、白い修道服を叩いて誇りを落としてからカイルに手を伸ばした。
「もう、立てますか?」
「うん.......」
そこでカイルは身体に力が戻っている事に気がついて、手を何度か開けたり閉めたりしてみた。
しっかりと力が入る事を確認していると、その手をシルフィー両手で掴んだ。シルフィーの手は滑らかできめ細かくそしてひんやりと冷たかった。
「.......ありがとう。もう大丈夫。何か元気出た」
その手を支えにカイルは立ち上がった。大量に血を流した貧血故か、カイルは立ち上がるとふらつきシルフィーに倒れてしまう。そんなカイルをシルフィーは優しく受け止めた。
「っあ、ごめん.......」
「これくらいは、させてください。私は貴方を信じるのですからね? ジーニアスさんに打ち勝つまでは一蓮托生ですよ?」
シルフィーはそう微笑んで身体を離した。
「天使様だ!」
「.......二度目は無いですよ?」
こうしてカイルとシルフィーは笑いあった。
ギチリ!
そんなカイルとシルフィーを見ていたユウナが、隠れていた冊の木を握り潰した。
「何よアイツ! 何なのよ! カイルの何なのよ!」
「.......ふ、普通に友達では無いですか?」
「アイツ、少し可愛いからってカイルを誑かす気ね! 殺してやるわ」
「だ、ダメですよ~、折角のカイルさんの友達に何するつもりですか! ユウナさんもあの人に負けず劣らず可愛い容姿なので落ち着いてくださいよ~」
マリンとユウナは相変わらずだった
「そうよね! 私の方が可愛いわよね!」
「そこまでは......」
「大体、よく見たらあの女。白髪じゃない! 将来ハゲるわね!」
「どや顔で何を! あれは白髪では無く、銀髪ですよ~、しかもかなり質が高いと思います」
「カイルは金髪にしか興味ないわ。金髪にしか......ううぅ......金髪になりたいわ!」
「自分で言って落ち込まないでくださいよ!」
マリンのツッコミも相変わらずだった。
そんな二人の真後ろで、コホンと咳ばらいをする老人......学院長オーラン。
「そろそろ教室にもどるのじゃ。君達は魔法学院に何しに来たのかね?」
「うっ......勉強よ。カイルを守れるくらい強くなるためよ」
「なら、もういいじゃろ。君達には留学中に覚えなければいけない事が山ほどいるのじゃ、はやくせい!」
ユウナとマリン......更に倒れているカイルを心配したAクラスの面々がぞろぞろと教室に戻っていく、
「ねえ。カイルはどうするのよ?」
ユウナの質問に一瞬、鋭くカイルの姿とカイルから没収した鉄刀丸を見てからオーランは答えた。
「あの子はある意味【特別】じゃ。シルフィーに任せておけ。でもそうじゃの......期間以内にジーニアスに決闘戦で勝てるようになったら、それで良いわい」
ちょっと無謀かもしれないのうとオーランは思う。ジーニアスは既に【王級】の称号に至る男にのだから。
「カイルの剣はどうするのよ!」
「これか? コレは......そうじゃのう。まだあの子には過ぎた武器よのう」
意味深に魔道帝オーランは微笑むだけで、それ以上は何も言わずに立ち去った。
その背に手をワナワナ震わせるユウナが
「私の前でカイルの物を盗むなんて良い度胸ね......クソジジィ!《風の精霊よ! 爆風ーー」
「だっダメですよ~! ユウナさん。オーランさんには何か考えが有るんですよっ。きっと」
「ふぅん。ならあの世で考えさせるわ!」
「あわわわ~」
と仲睦まじい二人であった。
因みにユウナは無詠唱で風攻撃魔法を発動するも、オーランの背中に当たる前にカキ消えた。
「オッホッホ。若いのうぉ~若いのぅ~」
オーランはそんなユウナにケツをペチペチ叩きながら煽っていた。
そしてユウナは、
「アイツ......何時かギャフンと言わせるわ!」
「オッホッホ。ギャフン......ぷぷぷっギャフン。ギャフン。ギャフンと最初に言っておくのう。ぷぷぷ」
ブチリ!!
怒りの筋がユウナのこめかみに集まり、ユウナは決意した。
(魔道帝オーラン。絶対後悔させるわ!)
場所は変わって、魔法学院、の北校舎、魔法訓練場。
そこでカイルは、白銀の女神シルフィーと並んでいた。
シルフィーの真っ白い美しさを見ていると、金髪一筋のカイルでさえ白銀の方が良いのでは? と性癖が曲がりそうになる。
隣に立たれているだけでシルフィーの精練で爽やかな甘い香に飛び付きたくなる衝動に駆られる。
それをカイルは金髪一筋という意地だけで堪えていた。
「で。今更だけど......こんな人気の無いところで何するの?」
「ふふふっ。カイルさんの期待通りの、事、ですよ?」
「っ!」
期待通りって? 何だよ!! あれか? あれなのか? エロいことか!?
と盛大にカイルの思考がピンク色に陥りかける。
「ふふふっ......」
だけどシルフィーがカイルの動揺を楽しんで居ることに気付いて、カイルはからかわれていると分かった。
「見た目に寄らず、悪戯っ子だね。君」
カイルは肩をくすめて言うがシルフィーは全く気にせず微笑したまま、話題を変えた。
「ちょうど三週間後に、クラス別で魔法を競う催しが有ります」
月に一度のクラス別、能力テスト。それが魔法学院にはある。そこでの成績で年に一度の学院都市、魔法大会、選抜メンバーに選ばれるとシルフィーは説明していく。
カイルはその説明を聞きながら首を傾げていると、シルフィーにまたクスクス笑われてしまうのだった。
「カイルさんがジーニアスさんにリベンジ出来る機会の話し、ですよ? 分かっていますか?」
「っあ。なるほど、そこで奴をけちょんけちょんにしろって事か」
「......ですが。勿論、今のカイルさんは魔法の「ま」文字も理解していませんので、競えば負けるでしょうね?」
カイルの発言に少し眉をひそめながらシルフィーはそういった。
力強いハッキリとしたその言葉にカイルは鉄刀丸を使っても勝てなかった事を思い出し意気消沈する。
そんなカイルの肩にそっと冷たい手を載せて女神シルフィーは微笑んだ。
「だから特訓しましょう。そのために私がいます」
「......」
「貴方が諦めさえしなければ、必ず貴方はあの、天才【魔道王】ジーニアスを打倒出来ますよ?」
「......」
「そう私は信じています」
シルフィーが本気で言っていることがカイルには分かる。
シルフィーに裏表は無い。そう分かる程、純粋な瞳と透き通る声でカイルの消えかける火に息を吹き込んだ。
「......一つ。聞きたい」
「はい」
だからこそカイルはその疑問に至る。
「シルフィーは何で俺にそこまでしてくれるの? 惚れた腫れたとかじゃないよね?」
マリンやユウナが励ましてくれるなら分かる。けれどシルフィーはカイルと何の繋がりもなく、話したのも顔を見合わせたのも今日が初めてだ。
なのに何故? そう思うのは普通の事だろう。
その問いに薄く白い瞳を閉じてシルフィは答える。
「貴方の夢が素晴らしいと思ったからです」
「夢?」
「はい。貴方は自分の力の限界を知ってもなお、弱き者に手を指し述べたい。そうですね?」
「......」
カイルは答えない。一度、諦めて捨ててしまったモノだ。自分で汚したものだ。
顔を背けるカイルにシルフィーは言った。
「大切な誰かを護りたいと思うことは悪いことでは有りません。例え力が及ばなくてもそれを笑って良いものでは無いのです」
「......」
「強き者が強者に勝つのは摂理。でも私は貴方の様に弱き者が強者に打ち勝つ。そんな話しの方が好きなんです」
ふふっ。と愛嬌のある微笑みだった。真っ白い彼女はどこか神聖で潔癖でそしてどこか、
「誰かが絶望を前に足を止めたなら、私は手を指し述べます」
自分と似ているとカイルはそう思った。
「ハハハっ。分かった。聖女様。あの憎たらしい天才をサクッと倒してやろう」
「......聖女様はやめてください」
「......へい」
「それと、人の事を悪く言うのも良く有りません」
「......へい」
「ジーニアスさんは仲間思いの素晴らしい方なんですよ?」
「......へい」
カイルは女神の機嫌を損ねてしまうのだった。
勇者学校がある学園都市から、遠く離れた学院都市。
帝級に至った数少ない魔導師、魔道帝オーランが勤める大陸最高の魔法教育機関、オーラン魔法学院で行われる。
月に一度のクラス別魔法テスト。
まず最初に行われるのは、クラス全員での魔法練度コンテスト。
如何に上手く魔法を使えるかを見せて、優劣をつけ上位八名を選出する。
そして、選らればれた八名で魔法を使ったトーナメント式の模擬戦を行い競い合う。
優勝者には年に一度のオーラン魔法学院、全クラス代表戦に出られる権利を得る。
また、魔法学院での成績や覚えられる魔法の種類も増える。
と、言うのが魔法コンテスト、通称【月コンテ】の詳細だ。
それを、カイルは魔法練習場でシルフィーに、ユウナとマリンは一年A組の教室で、学院長にして担任の教師のオーランに聞いていた。
更に、ユウナとマリンはオーランから言われる。
「編入生諸君は、この魔法コンテストで、良き成績を修めれば、依頼達成報酬を個別に加算することになっている、じゃから頑張るのじゃ......っ!」
因みにカイルは聞いていない。
そんなカイルはシルフィーに挙手してから尋ねる。
「で、シルフィー......さん? 後、三週間でどうすれば、あのクソ......天才。ジーニアスに追いつけるのですか?」
カイルはシルフィーと同い年だが、シルフィーにはその、天使の様な容姿、故か? それとも、先ほど少し怒らせたからか、まだ、会ったばかりでどういう関係性かはっきりしない為に微妙に、敬語を混ぜている。
そんなカイルにシルフィーは、整いすぎて怖い位の容姿を崩して微笑みかける。
......また、その微笑みもユウナが好きな絵本に出てくる可憐な聖女様の様だったりする。
しかも、シルフィーは全身、元から真っ白なのに、更に白い修道服に身を包んで居るから余計にそう見える。
でもカイルはシルフィーのその、あり方に何処か空虚さを感じていた。
「......。そうです、悪口は行けませんよ?」
ジーニアスをクソ野郎と言おうとしたことを、シルフィーは目だけ本気でたしなめてから
「ジーニアスさんに、追いつく必要は有りません。カイルさんはジーニアスさんに勝てれば良いわけではありませんよね?」
シルフィーに言われた言葉を、吟味して、それからカイルは肯定するために頷いた。
カイルがしたいのはジーニアスをただ打倒したいのでない。
カイルはただ、ユウナやレンジやミリナといった、大切な人達を、絶望に屈する人達を守りたいそれだけだ。
「......いずれ、あなたが再び立ち上がるそのために、私は知恵と力をかしましょう」
「心強いよ」
敗北の悔しさと、晒した醜態を思い出してカイルは奥歯を強く噛み込んで、その苦味に耐える。
今のカイルは才能という、壁にぶつかり、諦めてしまっていた。
それでもカイルが今、立ち上がって、その絶望的な壁に挑むのは、目の前で微笑む、真っ白な天使、シルフィーがカイルを信じると言ってくれたからだ。
カイルが再び立ち上がる為には一度、圧倒的力の差で敗北し屈辱を味わった、天才魔法使いジーニアスを倒すしか道は無いのだ。
それも、ただ倒す、だけでは意味が無い。
カイルがこの先も【大切な誰かを守る】と胸を張って言えるような、何かをカイルは探しているのだ。
「まあ......。とにかく、今はジーニアスだ」
カイルの言葉にシルフィーはコクりと頷き、
「では、私の知識をお貸し致します」
そういったのだった。
■■■
「はぁ......」
カイルの魔法理論を聞いてシルフィーは分かったような分からないような反応をした。
魔法とは何ですか? と聞かれカイルは、精霊の力を使うもの、と答えた反応がこれだ。
カイルとしては、え!? 違うの!? と叫びたかったがやめておく。
相手は最先端魔法技術を学ぶ為の教育機関で魔法を学んでいるエリート様だ。
ここは素直に受け入れるしかない。
シルフィーは心底呆れて居るようだが、カイルに付き合うと言った言葉は本気な様で、ちゃんと丁寧に教えてくれる。
「実はこの学院でも理解している人は少ないですが、魔法を端的に言えば、心の具現化です」
「はぁ......?」
で、シルフィーの魔法理論にカイルはシルフィーと似たような反応をしてしまう。
しかし、シルフィーはカイルの反応を読んでいて更に詳しく説明する。
「一番分かりやすいのは低級魔法です。ちょっとやってみます」
そういってシルフィーは適当に手を挙げて
《光の精霊よ、灯を、ライト》
シルフィーはつらつらと詠唱をし、初級魔法ライトを発動する。
ライトはゴルドンが使ったように、ただ光を発生させるものだ。シルフィーのライトは確かに発動し光を放ち、消えた。
それを見ているとシルフィーが
「カイルさん。この魔法の光を強める為にはどうしますか?」
「え? えっと......魔力を沢山込める」
「......それは、高等テクニックです。それを初心者がやると、暴発する危険があるので絶対にやっては行けません。他には?」
カイルはゾッとするような事を聞いた気がしたが、深く考えるとシルフィーの話しから逸れそうなのでやめておく。
「ん~」
カイルがしばらく真剣に光を強める方法を考えるが、思い付かない。
そんなカイルにシルフィーは微笑んで答えを教える。
シルフィーはカイルが答えられない事を知っていたからだ。
「ふふっ。正解は詠唱呪文を変える、ですよ」
「......? 創作魔法?」
「その基礎です。カイルさんは、【強い光】を言葉にするなら何と言いますか?」
「ん? 強い光......ね。ギラギラ輝く、とかかな?」
カイルが即興で考えて呟くとシルフィーは嬉しそうに微笑んだ。
「ふふっ。どうやら私とカイルさんの相性は良いようですね。それでいきましょう」
そういって、再び詠唱を始める。
《光の精霊よ、ギラギラの輝きを、ライト》
ボワーン!
すると、先ほどよりも明らかに強い光が発生した。
それは百平方メトル程の魔法練習場を光で満たす程だった。
「......っ!」
カイルが適当に言った単語で詠唱しただけでそれ程の差があった。
息を呑み言葉を失うカイルを余所にシルフィーは続ける。
「心の具現化。言葉、詠唱で心にイメージさせて、それが魔法としと現実に具現化する。それが魔法の正体です」
「......嘘......だろ」
カイルが驚くのも無理は無い。世間一般的には、精霊に詠唱で指示をして魔法を起こしていると言われているのだ。
事実。カイルは魔法の師匠にそう習っている。
それを心の具現化?
言葉で心にイメージさせる?
「はい。正確には全然、違いますよ?」
「は!?」
ぽかーん。シルフィーを信じかけていた所での全否定。
今までの流れと感動を返して欲しい。
「カイルさんの言うと通り、精霊関係も重要です。人により使える属性も大きく違いますから」
「......」
「それを絡めると魔法学と言う、学問になるほど膨大な理論と知識が必要になります。勿論、私にそのすべてを教えることは出来ませんし......知りません」
「......」
アッサリと言うシルフィーに、さっきとは違う理由で言葉を失う。
が。シルフィーは、
「ですが、全ての魔法学の基礎は心の具現化です。そして今のカイルさんに必要な知識と技術も心の具現化です。それさえ出来るようになれば、カイルさんは必ず、ジーニアスさんと対等に競えるようになるはずです」
それだけは力強く言い切った。
カイルはそんなシルフィーの言葉を......
「まあ......俺の事を奮い立たせてくれた聖女様を信じてみるよ」
信じる事にしたのだった。
「聖女様はやめてくださいと言いました!」
「......へい。天使様は?」
「ふふっ。それは悪く有りませんよ?」
何の差だろう? カイルはシルフィーに本気で頭を悩ませるのだった。
そうしてカイルの魔法特訓は始まった。
その日からカイルは朝から晩まで魔法練習場に泊まり込み、ひたすらシルフィーの教えに従って詠唱呑みを磨き上げていった。
勿論、シルフィーはそんなカイルにずっと付き合う訳ではなく、午前中は普通に魔法学院の授業を受けている。
そして、魔法練習場はカイルの貸し切りでもなく、午後になると他の勤勉な学生や、カイルと同じクラスの生徒達がわらわらと特訓に励でいたりもするので、カイルは少し有名人になっていた。
曰く、留学してきたのに授業をサボって居る変人!
曰く、練習場に住み込でいる変態
曰く、金髪女生徒をチラチラ見ている変質者
とまあ、散々な言われようだが、カイルは黙々と魔法を特訓し続けた。
何故ならカイルには、特訓し強くなりジーニアスに負けた、屈辱と後悔を消して忘れることは出来なかったからだ。
ユウナに向けられたあの、軽蔑する視線を思い出すとそれだけで気持ちが悪くなるほどだ。
あの日以来、ユウナもマリンも一度もカイルの前には現れていなかった事も、カイルを特訓に打ち込ませる原因にもなっていた。
もう一度ユウナやレンジの隣に立つために、カイルはひたすら特訓するのだった。
でも、そんなカイルをそっと支える様に、休憩の合間や午後の授業が終わると必ず、シルフィーがカイルの特訓に付き合っていた。
学院でもその容姿と性格に『白天使』と言われるシルフィーは、男子生徒達の中では幾つかの暗黙のルールが会ったりする。
例えば、男子、自ら話しかける事禁ずる。
とか、 男子、天使に十メトル以内に近付く事禁ずる。
等など。
そのおかけで、用事が無い(人が沢山居る)ときは必ずシルフィーがカイルの側に居るので、他の生徒達からのカイルへの接触は少なかったりする。
またそのせいで、余計にカイルを妬む者もどんどん増加していったりしているのだが、カイルもシルフィーもそのことには気付いて居ないのだった。
そんな様子を、ユウナは遠くから見つめて、ガチガチ爪を噛んでいた。
「............あの女......カイルに毎日、毎日、四六時中! 食べ物や着替えまで!! 何様のつもりなのよ (でも、カイルに今、私が近づけばカイルは立ちどまっちゃうわ! カイルの邪魔はしたくない......でも! カイルと話したいわ!)」
ぶつぶつ。
ユウナは終始こんな感じだった。
だからか最初こそユウナの見た目に惑わされた、憐れな男達は言い寄っていたが今はその陰も無くなっていた。
因みにユウナに告白すると、
「ユウナさん......あの......ちょっとお話......良いですか?」
「駄目よ、と、いうか、【邪魔】だわ」
「......うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
となること必至だった。
そんな風にそれぞれ時を過ごし、魔法コンテスト当日。
遂にカイル、決戦の時。三週間ぶりに一年A組の教室にシルフィーと共に足を運んでいた。
カイルは何故か男子生徒達からの熱い視線に晒されている事に小首を傾げていたが、そんなことよりもカイルの頭をジーニアスへのリベンジでいっぱいだった。
だからカイルはジーニアスを見付けると指を指して言い放つ。
「お前を今度は倒してやる!」
カイルの発言を聞いてマリンがあわわわとし始め、教室が嘲笑で溢れる。
「ジーニアスに勝てる訳無いだろ、馬鹿じゃねーの?」「才能が違うことが分かっていないのですわ、ふふっ」「まだ懲りて無いのかよ」「また無様に負けるだけだろハハッ」
そんな、有象無象の嘲笑を受けてもカイルの目はジーニアスだけを見ていた。
ジーニアスもまたカイルをしっかりと見つめて。
「ふん。僕は誰が相手でも全力を出すだけさ」
そういった。
「それで良い」
カイルはそれだけ言って時を待った。
暫くすると学園長オーランが入室し、カイルをチラリと横目で見て、一瞬、頬にシワを作ると、すぐにけして、
「では、第三回、魔法コンテストを始める!」
開始を宣言した。
そして、魔法学院の一番大きな施設、魔法競技場で、次々と生徒達が第一審査の魔法審査を受けていた。
その傍らで、カイルはシルフィーからアドバイスを貰う。
「カイルさんの頑張りは、私が一番分かっています。普通の詠唱の低級魔法で良いです。存分にその成果を皆さんに見せてください」
「分かってる......」
集中力を高めるためにカイルは素っ気なくシルフィーに答えてから......シルフィーに一言。
「ありがとう」
そういって、カイルは審査を受けるために競技場の中心へ向かった。
そんなカイルの背にシルフィーは微笑む、
「ふふ......まだ早いですよ」
カイルが審査員を勤めるオーランの前に立つと、それまでの喧騒が嘘のように引いていく。
それは、勿論カイルへの嫌悪感からではあるのだが......この時、確かに会場全ての視線がカイルに釘つけになった。
「では。得意な魔法を使うのじゃ」
「はい......」
誰もが音を立てず見守る中、カイルの詠唱の声が一つだけ響いた。
カイルが唱えるのは、カイルが一番適性の高い火の魔法。《ファイアー》
それはただ、人差し指の先に一瞬、小さい火を起こすだけの魔法だ。基本詠唱は《火の精霊よ、炎を》ただこれだけ。
だからカイルは詠唱する。
《火の精霊よ、炎を》
カイルの超基本的な詠唱とそこに込められている魔力の量に嘲笑を浮かべる者が数人いた。
が。
カイルが人差し指を真上にピンと伸ばして魔法を発動させる。
「ファイアー」
ゴワァアアアアアアアア!!
それは三百メトル程の超巨大な炎を生み出した。しかも数秒間。
ボォオオオオオ!
とてつもない熱量が空気を焼いて辺りを熱した。
誰もが低級魔法では起こりえないその光景に言葉を失う中。
シルフィーだけは楽しそうに微笑んでいた。
「ふふ。皆さんも凄い人ですが、カイルさんはもっと凄い、特別な人ですよふふっ......ふふ。こんなこと教えた私でさえ驚きましたから、ふふ」
その言葉は、炎の燃える音により掻き消されたが、その場にいた誰もがカイルの事を見直したのは間違い無かった。
炎が消えてもさっきとは違う理由で静まり返る、面々の中。
魔道帝オーランが
「やり過ぎじゃあ! アホンダラァア!! ワシがハゲるじゃろうがぁ!!」
カイルを叱り付けたのだった。
因みにこのときA組含めカイルも皆、同じ事を思った。
((((((もうハゲてるだろ!!)))))




