十四 敗北の絶望
突然現れたユウナに初級魔法で吹き飛ばされた貴族生は全く面白く無かった。
本来なら、マリンの事をもっと罵り煽り己の嗜虐心を刺激したかったのだ。だがそれは叶わず、あろう事か貴族の己が地面にはいつくばっている。その屈辱ははかりしれなかった。
だから貴族生の一人、キャビンは静に詠唱を開始した。
「《雷の精霊よ、怒りの槍を持って、我が怨敵に、制裁を!!》」
キャビンが放つのは中級雷魔法『ライトニグ・ランス』
それは雷魔法の中でも殺傷力のきわめて高い魔法だ。けして人間に使っていい魔法ではない。
ユウナと言えどライトニグ・ランスを防御魔法も使わずに受ければ死ぬ一撃だった。
殺意を持って放たれた雷の槍はユウナとマリンを目掛けて超速で迫っていく.......
その一撃にユウナが気付くが少し遅い、ライトニグ・ランスを防ぐにも交わすにももう少し早く気付く必要があった。
ユウナはそれでも魔法を詠唱しマリンを背にかばう。
「《風の精霊よ、我が身を守る、盾とーーっ!》」
案の定詠唱が完成するより早く稲妻の槍がユウナに直撃する。
その直前!!
ユウナの前に迫った雷が突如方向転換し直角に曲がった。その先には鉄刀丸を抜いたカイルが立っていた。
稲妻の槍はカイルの剣に目掛けて突き進み直撃した。
バチンっ!!
轟音が響き渡り閃光を上げて消滅するライトニグ・ランスの直撃を受けたカイルは、傷一つ無く平気な顔でユウナの前に立ちユウナへと手を伸ばす。
「ユウナ。マリン、大丈夫か? 怪我は無い?」
「っーー!!」
ユウナは突然現れたカイルの事よりも、カイルに心配された事に腹立ちを覚える。
カイルの手をパチンと払ってしまう。ユウナとしては撫でられるのもやぶさかではなかったとちょっぴり後悔しつつそれでもユウナは意地で叫んだ。
「平気に決まってるわよ! それよりも下がりなさい! 私が、カイルを、守るのよ!」
「っえ? .......あ! うん。よろしく」
前に立ったカイルの更に前にでてキャビンを筆頭に数人の貴族生徒を睨みつけるユウナは詠唱を始める前から莫大な魔力を右手に集めていた。
「後悔しなさい!! 不意打ちなんて卑怯なことしたことをね!」
「ヒィッ!」
ユウナは怒りで更に右手に魔力が集まっている事が可視化出来るほど魔力を増大させたために、キャビンもその絶大な魔力と己の力量の差を思い知り喉を引き攣らせる。
「殺すなよ」
「分かってるわよ! 《風の精霊よ、大いなる嵐をもって、ゴミを払いなさい!》」
とてつもなく物騒な詠唱を終えた後ユウナは魔力の溜まった手を前に構えて
「ええい! これで死ねこの屑野郎! 《ハイ・トルネード》」
「殺すなよ!!」
初級魔法を詠唱で強化した中級魔法のハイ・トルネードはべつに殺傷力が高い魔法な訳ではないがそれでもユウナの莫大な魔力で絶大な風力となって貴族生徒達を吹き飛ばす。
貴族生徒達も数人で魔法を唱え防御儀式魔法を発動するがそれすらハイ・トルネードは一瞬で吹き飛ばした。そのまま貴族生徒達を空高く巻き上げる。
そして吹き飛ばす瞬間。カイルは悪寒が走った。
ビリリンっ!
爆音と共にユウナのトルネードが突如起こった雷によって掻き消された。
貴族生徒達がバラバラ空中から落下し地面に落ちて痛そうな声をあげるがカイルはそれを確認することなく息を呑んでいた。
圧倒的な威圧感を放つ黄色の男が貴族生徒達を背に立っていたからだ。
存在だけで威圧するこの感じは炎王以上だった。
髪は黄色、瞳も黄色、纏う服は勇者学校の白い制服。
顔つきは良くカイルの嫌いな部類だ.......とか言っている場合ではない。
カイルはすぐにユウナの首根っこを掴み背に隠す。
何処か気品のある男は、ジロリとカイル達を黙視して
「一方的に攻撃するのは良くないな。勇者になるならなおさらな」
意外と爽やかな声と態度でニコヤカにそういった。
その声にミーハーなユウナはすぐに落とされた。
「邪魔よ」といってカイルを押し退かし男に近づいてキャピキャピ声を上げながら事情を説明している。
そんなユウナを見てカイルも感じた威圧感は勘違いかなと思い、マリンに先のことを謝るべく手を伸ばすと、マリンは黄色の男を見ながら尋常じゃないほど震えていた。
「マリン.......?」
「カイルさん! あの人『雷剣帝』ライボルトです!」
「雷剣帝? ライボルト? 何それ」
マリンを立ち上がらせながらカイルは聞いた。
マリンは唇を奮わせて
「勇者学校に所属する勇者候補の中で最強の人です。カイルさん! ユウナさんが危険です」
「.......?」
「ライボルトは初対面の人には必ず刃を合わせるんです!」
「っは?」
マリンの必死さに訳も分からずとにかくユウナの方を確認すると。
バチンっ!
「っー!」
ユウナの身体が凄い活きよいで飛んできた。それをカイルは衝撃を殺しながら掴んでユウナの様子を確認すると、目を開けていなかった。
「ユウナっ! っえ? ユウナ? ユウナ!!」
パニックになりかけるカイルに手の先から煙りを出している黄色の男、【雷剣帝】ライボルトは爽やかに言う。
「平気だよ。別に殺しはしていないし。.......次はお前な」
ブチリ。
誰がどうみようとユウナをやったのはライボルトだった。そしてそのライボルトは悪気もなく何も無かったようにそういったのだ。
だからカイルの怒りの沸点はすぐに天井を突き破った。
「てめぇ! 殺すぞ!! 良くも俺のユウナを!!」
これがユウナでなかったらカイルはまだ正気だっただろう。だが幼なじみで自分の身よりも大切なユウナを傷つけられたとなれば、許せる筈は無かった。
「カイルさん! ダメです! あの人は帝級ですよ! 私達が勝てる訳ーー」
「ーーっ鉄刀丸!!」
マリンの忠告を無視してカイルは鉄刀丸の力を解放して飛び掛かった
相手がどんなに強くても鉄刀丸の前では無意味だ。
全てを鉄へと変えてしまうのだから、
そんなカイルの気迫と剣を見てライボルトは「ほーうっ」と口元を笑みで歪めた。
そして向かって来るカイルの剣を交わしてそのまま回し蹴りでカイルの腹を蹴り元の場所へと吹き飛ばした。
「ぐっふぅ!」
蹴りだけで圧倒的な威力を受けたカイルは息が出来ずに苦痛に喘ぐ。
鉄刀丸のオート防御が適用されなかった事に苦しむの中で疑問を感じる。
「あ!? なんだっそれ! お前『炎王』倒したカイルだろ!? 何故そんなに弱い!」
ライボルトはライボルトで鉄の望叶剣を持ったカイルに激しく失望していた。
(これが炎王を倒し、ローゼルの脳筋騎士達と競り合った男なのか? .......弱すぎる)
剣士、魔法使いに問わず、極めた者には初級、中級、上級、超級、王級、帝級、神級の順に称号を与えられる。
その王級に至った炎王を幼くして倒したというカイルという男にライボルトは自分の強すぎるという孤独を癒してくれる奴がついに現れたと期待していた。
しかし、実際に戦って見てライボルトは確信する。剣も魔法もカイルの実力は上級止まり。超級にも至っていない。
剣や身体や魔法に魔力を込められていないのだ。
期待を裏切られたライボルトは激しい怒りを覚えて、どうやらあの噂は嘘だったんだろうと吐き捨てる。
そして苦痛に悶えるカイルを多少の怒りを混めて蹴り飛ばし次にマリンへと刃を向けた。
「次はお前だ。少しは俺を楽しませろよ」
「ぇ.......」
ライボルトの目的はただ一つライボルトと共に力を競い頂きを目指せる者を探すこと、だからマリンの才能と実力を見るべくライボルトは剣を向けた。
(カイル。望叶剣に選ばれたらしいがあれはダメだ。才能が無い。さっきの薄黄色の子は鍛えればそれなりに強くなれるだろう。さぁて。青い方はどうかな)
ライボルトはカイルとユウナをそう評価しそして次なる目的、マリンを睨めつけた。
マリンはライボルトの放つ圧倒的な威圧感を前に.......
「許しません! 良くも! 良くもカイルさんとユウナさんを!」
剣を握って立ち上がった。
「ほーう、活きは良し! 次は力だ」
「私だって戦えるんです!」
脅えなくマリンはライボルトを睨みつけて右手を前に出して詠唱する。
「《水の精霊よ、激流をもって、彼の者を流し給え!! ウォーター・ジェット》」
マリンが放ったのは最近覚えた中で一番威力が高い中級水魔法。しかも珍しく教科書通りの詠唱だ。
水のジェット噴射で対象を吹き飛ばす魔法だ。
マリンの魔力で手を起点に大量の水が吹き出した。その威力は先のユウナのハイ・トルネードより上だ。
そのウォーター・ジェットをライボルトは、
「はぁーーぁあっ!!」
気合いだけで吹き飛ばした。ライボルトがやったのは声に魔力を乗せただけ、カイルでも出来る事だがそれだけでマリンの魔法を吹き飛ばしたのだ。
「ダメだな」
ライボルトはマリンをそう評してから詠唱もせずに、中級魔法をマリンに向けて放った。
球体の雷エネルギーがマリンに向かっていった。
「っえ.......」
マリンは起きたことに頭が追いつかず更にウォーター・ジェットに魔力を混めすぎて回避も防御出来なかった。
それを、
「鉄刀丸!! 守れ!」
カイルがマリンの前に鉄の壁を作り出しライトニグ・ボルトを防せいだ。
そしてまだ痛む身体を意地だけで起こしてマリンの前にたった。
「ふざけんなっ! ふざけんなっ! こんな絶望ふざけんな! 俺が守るんだ!!」
朦朧とした意識をつなぎ止めるために叫んでいた。
それを聞いてライボルトは鼻で笑い捨てた。
「ふっ。守る? お前が? 力も才能も無いお前がか? 出来るわけ無いだろう! 分を弁えろ」
ライボルトは何故かカイルに怒りに似た感情を抱き、黄色の望叶剣を抜いた。
その剣の名は、
「【雷光丸】やるぞ」
名の通り望叶剣にして唯一無二、二つの属性を併せ持つ最強の望叶剣。
それをライボルトは手加減無く振り下ろした。鉄刀丸や炎龍丸と同じく雷光丸も属性を操る剣だ。
一降りで雷撃を生み出す一撃を放つ雷光丸専用剣技【雷光波】を放った。
絶対的な雷撃がカイルを襲った。
全身に熱い痛みが駆け巡り絶叫すら出来ずに身体を痙攣させる。
そんなカイルにライボルトは
「力が無いなら喚くな、お前の望みは叶わない」
そう言い捨てた。
声だけ聞こえたカイルはライボルトとの力の差に打ちのめされていた。
結局。鉄刀丸なんてあってもカイルにマリンもそしてユウナも守ることは出来ないのだ。
悔しい.......けれど言い返せない。ボロボロのユウナと満身創痍のマリンを前に立ち上がる気力すら無かった。それに立ち上がった所で勝てる気がしなかった。ユウナをボロボロにされたのに怒りももう消えていた。それ程までの格の違い。それをライボルトから感じる。
「もし本当にその力で炎王を倒したなら凄いのはお前じゃない。きっと凄腕の付与術士が居たんだろうな」
ライボルトの呟きにカイルはチラリと金髪の美少女、アンナの不敵な顔が浮かんだ。
「そっちと戦いたいな。確かお前の近くに居たのは、療王ローゼ.......いや。王女の方か」
「っー!! ざけんな!!」
ライボルトの呟きにカイルの身体が動いた。戦闘を行う意思が再び身体中に駆け巡る。
「アンナに! 手を出したら殺してやる!!」
「ほーう、アンジェリーナ王女の方か、確かに付与術に定評があったな」
「くっ! 鉄刀丸!! 奴を殺す力をよこせ!!」
ギリリと奥歯が砕けるほど噛んで。
力を望む。寿命が減るとか言ってられない。アンナに魔の手が伸びるならどんなことしてでもとめるしかない
鉄刀丸はカイルの無茶な願いを叶えるために莫大な魔力と寿命を吸い尽くす。そして鉄刀丸が黒く染まり意識が遠退いた。
身体が勝手に動いてライボルトを攻撃する。
それをライボルトがかわせば今度は触れれば錆にする黒鉄を差し向ける。
黒鉄が触れた地面が錆になるのを見てライボルトは黒鉄の能力が錆化と推測する。
そして
「雷光波」
雷撃をぶつけて弾き飛ばしそのままカイルを再び雷撃で焼いた。
シュルルと煙りをあげるカイルはそれでも止まらない。まるで命が尽きるまで動きつづける狂戦士のように狂喜の目でライボルトを見据えて黒鉄を操る。
「ふんっ! のまれたか、馬鹿め」
「ぐぁああああっ!」
そんなカイルに汚物を見る目で睨みつけ言葉を吐き捨てて、雷光丸を構えた。そこに今までの不殺の意思は無い。
カイルの暴走を止めなければ被害が広まるのだから当たり前だった。
だが、そこでカイルの前に怒りの表情をライボルトへと向ける男が現れた。
それを確認しカイルはパタリと死人の様に力を失い男に倒れかかる。
「カイル.......よくやった。後は任せろ」
そこにいたのは、レンジだった。
レンジはカイルを称えると満身創痍のマリンに渡して倒れるユウナを見る。
「マリン、カイルとユウナを頼む」
「.......はい! レンジさんは?」
「アイツに落し前をつけさせる!!」
怒りが見えそうな程レンジは怒り、そして魔力を高めた。
それを見てライボルトは歓喜に震えた。
「見つけた。同類だ!」
剣を合わせずともライボルトは理解した。ライボルトの強すぎるという孤独を埋めてくれるのはこの男しかいないと。
瞬間。レンジはマリンの目から消えた。否。
レンジの超スピードがマリンの視界では捉えられなかったのだ。
だがライボルトは余裕でレンジを見切り剣を合わせる。
「《闇の精霊よ、未知なる波動で打ち倒せ、ダーク・インパクト》」
攻撃しながら魔法の詠唱と発動。
闇の一撃がライボルトを捕らえる。
それでもライボルトには一歩届かない、が。
そこでライボルトはレンジを蹴り飛ばし距離をとる。
「超級.......程度、か。.......やめよう」
「おい! ふざけるな」
そして剣を鞘にしまってライボルトは敵意を完全に消してしまう。
そんなライボルトに勿論レンジは苛立つが。
「スマン。可愛い子ちゃんはともかく、鉄使いの方はやり過ぎた。これ以上続けるとその男が死にかねないぞ、治療してやれ」
「っは! カイル!」
しかし、そういわれてカイルが苦しそうに呻いている事に気付いたレンジもすぐに剣をしまう。戦っている場合ではない。
マリンが回復魔法を使っているがそれでも焼石に水。ちゃんと治療しなければ行けない。
「ふふ。黒の剣士。お前はこのまま強くなれ、そうしたらもう一度戦おう。活気な可愛い子ちゃんは、剣にも魔法にも適性がある両方を極められる。水使いちゃんは魔法適性が高い。勇者学校では無く魔術学院に行くんだな。.......鉄剣使いにはそれ以上力を使うなと言っておけ」
最後に助言を残してライボルトは立ち去ったのだった。
■■■
「.......はおそらく、マリンに着いていくと思う」
「そう、なら.......行くわ」
「ああ.......俺も行きたいが.......がカイルといきたいだろ?」
勇者学校特別病棟にて、滑らかなクリーム色の頭髪で、瞳は清んだ黄緑色のユウナと、黒髪と黒目のレンジがお互いを求めるように、抱き合っていた。
二人とも美男美女でお似合いだ。
「ありがとうっ......レンジ」
少し、泣き声の入った声で、そっとレンジの胸に頭を寄せている。
レンジはそんなユウナの後頭部を優しく抱き寄せて、
「気にするな、何時でも俺を頼れ」
男らしくそういった、「うっぅっーーっ」と啜り泣くユウナの姿は、昔からレンジにしか絶対に見せない姿だ。
と、そこまで見て、カイルは自分が不甲斐無く、痛烈に惨敗した事を思い出していた。
そりゃあそーだ。あんなにも格好悪く負けたんだ。護ってくれたレンジにユウナが惚れるのも分からなくない......守れるつもりだった......いざとなればなんか覚醒して、鉄刀丸が何とかしてくれると思っていた。
けれど、ライボルトに嘲笑され圧倒的な力の差を前に、屈辱的に負けて分かった。
力が無かったらユウナの幸せを守れない!
カイルの守りたい、大切な人を守れ無い。
炎王イグーニードを倒したとき、その立役者はカイルでは無かった。
カイルに強化の魔法をかけて、イグーニードと同じ力まで押し上げたのは、金髪で不敵に笑っていたアンナの力だったのだ。
それをカイルはライボルトに負けて初めて痛感していた。
悔しさを奥歯を噛むことで飲み下し、カイルは抱き合うレンジとユウナを見て、改めて心に誓う。
絶対に強くなって、この二人を守れるようになる。
そう誓うのだった。
カイルはすぐに起きて、抱き合う二人に声をかけると、ユウナがビクンッと跳ね上がり、顔を真っ赤にしてカイルに、
「ちっ違うわよ! 私! ......っ! そんなんじゃ無いんだからね!!」
「お前らの関係はどうでも良いよ。おめでとう」
「ーーっ!?」
ユウナは必死に否定するが、カイルにしては別にユウナとレンジでそういう関係になるなら文句は無い。というかむしろ推奨するぐらいだ。
......レンジなら俺とは違ってきっちりユウナを守れるんだから。
カイルは微妙に暗くなっている気分を無理矢理変えて、ユウナの無言の照れ隠しの攻撃を交わしてから、ユウナをそっと抱きしめる。
「っー!?」
「よかった......。無事で」
「......。そうね。私もカイルが無事で良かったわ」
ユウナもそれ以上は暴れずに、ぎゅっとカイルを抱きしめた。
カイルはユウナと数秒抱き合ってから、パッと何も無かった様に離れて、レンジに拳を突き出す。
「レンジも......ありがとう」
「いや......俺こそ、遅くなって悪かった」
レンジも同じく拳を突き出して、カイルとカチンと拳を合わせてから「ふっ」と二人して笑い会う。
あの圧倒的なライボルトとレンジは渡り合った。やっぱりレンジは凄い。レンジ見たいに、皆を救える存在為りたい。
憧れは高く、そして険しい。
「良く。俺が来るまでマリンとユウナを守ったな」
「......っ」
守る......か。
既にその言葉はカイルの中では、けして容易に言っては良いものではなくなっていた。だからレンジに苦笑して、言葉をさりげなく交わしつつ、カイル達、三人を遠目で見つめるマリンへと視線を向けた。
「マリン」
「はっはい! なんですかっ! 私......その.......全然、駄目で.......」
マリンもマリンでライボルトの威圧に一度は立ち向かったものの、屈してカイル達が傷付いて行くのをただ見ていることしか出来なかった事が、深い悔恨となっていた。
泣きそうな顔をしているマリンにカイルは、陰のある微笑みで言った。
「マリン、朝のは悪かった。ちょっと調子乗ってた」
「っえ」
「俺ももっと強くなりたい。強くならなきゃいけない。そのためにマリン、俺も学院都市で魔法を学ぶよ」
「っえ.......っあ! はい! 心強いです」
強くならなきゃ守ることも出来ないのだ。だからカイルは、学院都市行きを決めたのだった。
そんなカイルの決定に、一人奇声をあげるのが。
「はぁああああーーっ! 待ちなさいよ」
「何?」
ユウナだった。
カイル達がいるのは個室ではないので他にも沢山の患者や病棟員がいる、それに四方八方から奇怪な視線を向けられて、病棟員に注意されて、ひと通りしゅんと落ち込んで、レンジと視線を合わせて頷きあってから。
ピシン。
と人差し指を立てて宣言した。
「私も行くわ!!」
「何でだよ!!」
当然のカイルの疑問に、ユウナはクスリと笑って即答。
「カイルは私が守るのよ!」
「.......」
「今度は.......もう負けないわ」
ユウナも例に漏れずライボルトとの戦闘で、何もできずに土を舐めた悔恨は、忘れられないのだった。
カイルを守ると言いながら、カイルとレンジに守られる。こんな屈辱、二度と御免よ。
そう意気込むユウナも高い目標を見据えるのだった。
「次はあのスカしたイケメンを、私が倒すわ!」
「イケメンじゃなくてライボルトな」
「イケメンだからって不意打ちしてきた卑怯者には負けないわよ!」
「.......それはユウナがみー.......」
「何、か、言いたい、の、か、し、ら!!」
ユウナの目は言っていた。
ソレイジョウ、イッタラ、コ、ロ、ス。
長年の付き合いから瞬時に感じ取ったカイルは、視線をそらしてマリンに向けると。
「は.......はい.......三人で、行きま、まましょう」
とガクブル震えながら、ユウナの同行を了承するのだった。
こうして、カイル、ユウナ、マリンの三人は魔法学院へと留学を決めた。
■■■■■
学園都市が勇者学校の都市、だとすれば学院都市は、魔法学院の都市だ。
二つの都市は提携を結んでいるため、留学制度が使える。
勇者学校が教えるのは、勇者としての知恵や戦い方。
魔法学院で学べるのは、魔法についての知識や使用だ。
つまり、近接戦闘なら勇者学校の学園都市。魔法専門なら魔法学院の学院都市、に入ることになる。
勇者学校で教われる魔法技術よりも更に高度な魔法が魔法学院では学べるからだ。
しかし魔法学院で学べるのは、あくまで魔法のみだ。魔物の倒しかたやらなんやらは、勇者学校でしか教われない。どっちもどっちと言う奴だ。
似ている様で違う所はそこだけではない。戦闘好きで荒々しい人が多い、勇者学校に対して、魔法学校の生徒は勤勉で知能的だったりする。
魔力は鍛える事も出来るが、生れつきの適性に左右されるモノなので、魔法学校は貴族のエリートが多かったりする。
で。
そんな魔法学校のエリートの中でも、更にエリートが配属される中等部一年Aクラスに、三人の留学生がやってきた。
「カイルだ。.......」
「ユウナよ。お世話になるわ」
「あわわわわっ。マリン・マリッジです。しばらくの間、仲良くしてください」
挨拶に疎らな拍手を受けながら、カイルは思う。
男達のユウナを見る視線が.......気に食わない! と。
因みにマリンもその視線に怯えて、あわわわわしているのだが、マリンはどでも良い。
魔法学校は基本的に外での魔物相手に実践訓練はしないのでこうして、クラス別に別れて魔法のお勉強をするらしい.......
来るとこ間違えたかなぁっと後悔していると、すぐにクラス連中が、ユウナとマリンに押し寄せた。
因みに、カイルへの来客はゼロ。
魔法学校に通う生徒達にとっては、三ヶ月と言えども勇者学校から来た、留学生と言うのは珍しく、しかも思いの外、留学生が美少女だったと来れば、貴族の男達は舞い上がって、いたのは仕方の無い事だった。
あわよくば自分の嫁に、とまで十二歳の少年が考えるのは別に特別な事ではない。
貴族の男なら十二歳で既に妻子を持っている者も多いからだ。まあ.......通例的に男は十五、女は十三が結婚を推奨されるのだが.......
そんな男子多めの、魔法適性エリートAクラスの面々はカイル達を入れて三十三名。
そのうち留学生に興味を持たない女子生徒が六名、もちろんユウナとマリンをくわえてだ。
男共が飢えるのも無理ないだろう。
一瞬で祭と化した黒板の前の様子を
「あはは.......」
苦笑する天使の様な容姿で美男美女が集まっているこのクラスで一際、かがやく銀白少女や、ユウナを見て固まっている金髪!! 少女。
魔法の本に目を通して我関せずを貫く茶髪の男。他ツインテール茶髪少女と、お姉さん系黒髪ロング少女以外は全員、押しかけた。
「わぁあああっー!」
マリンが人海にのまれ、滅っするが無視してカイルはユウナの腕を取り、背に隠した。
そうしてカイルはAクラス生徒達に対して言い放つ。
「近付くな有象無象。ユウナに触ったら許さないからな!」
と騎士の様に宣言した。その姿は既に揉みくちゃにされているマリンが少し羨ましく思ってしまう程だ。
カイルは一応、実戦を経験しているので威圧感だけでクラスの面々を一歩、後退させて、ゴクリと息をのませた。
が。
そんなカイルの頭をユウナが強めに叩いて、背中を押し退かすと、前に出た。
そしてカイルに指をさして言い放つ。
「馬っ鹿じゃないの!? 脅してどうするのよ! これから一緒に勉強する仲間なのよ!」
「いや.......っ! でも.......ユウナ」
「好き嫌いしないで友達くらい作れるようになりなさい! .......そんなんだから村でも私とレンジとしか友達がいなかったんじゃない.......だから私を.......としか.......思わないのよ」
ユウナの正論にカイルは口をつぐんでソッポを向く。
実はカイル。ユウナ達を大切に思うあまり、他の友人を作れずにいるのだった。
だからマリンの事を突き放していたりする距離感がわからないのだ。
それをユウナはしっかりとここで、カイルに改善して貰おうと決意していた
だが.......この時カイルは
「こんな戦った事も無い雑魚達と、肩を並べてる暇があるかよ! 俺はもっと強くなりたくて、ここに来たんだ!」
ユウナのそんな気遣いも、無にきす一言を、言った。
カイルには時間が全くない。ミリナを救う手だても、力も足りないと痛感しているからこそ、力を求めるのだ。
もちろん、そんなカイル発言は歓迎ムードだったAクラスの面々のプライドを刺激した。ただでさえ貴族達はプライドが高いのだ。
所々で魔力が増幅し集まっていく。
あわわわと慌ててカイルの前に立って弁解しようとするマリンの肩を掴んで止めたユウナは、冷たい視線をカイルに向けながら声を細めて言う。
「今のはカイルが悪いわ。.......将来の為にここで痛い思いをしてもらうわ」
「そ、そんなっ! ユウナさん!」
「カイルには変わって貰わないと困るのよ!」
「ーーっ!」
鬼気迫るユウナの言葉と表情にマリンは息を呑んで見守ることを決めた。
そうするとカイルの味方は誰一人いない。クラス中から批判を買って、それでもカイルの決意は変わらなかった。
「来るなら来いよ。がり勉共!! ユウナに近づいたらどうなるか最初に教えてやるよ!」
「「「ーーっ!」」」
それが生徒達のプライドを完全にぶち壊した。
七属性の魔法の詠唱が至る所で始まる。
カイルは木剣を抜いて構える。
一触即発!
その瞬間。
喧騒から外れて本を読んでいた茶髪の男がガタンと音を立てて立ち上がった。
「その喧嘩。僕。天才ジーニアスが、かおう。カイルと言ったな。決闘だ。外に演習上がある、そこに行くぞ」
茶髪の男がなのり出た事で生徒達は馬鹿にされた怒りを下げる。
なぜならその男は、Aクラス含め魔法学院でもトップの成績を持つ、魔法学院、天才魔法使いのジーニアスだった。
場所は変わって魔法学院、中庭。演習場。
天気は良好、湿度や気温は快適。
魔法学院、天才魔法使いジーニアスと勇者学校の勇者候補の決闘を今か今かと見つめる学院生達の中心でジーニアスはカイルに言う。
「一応、決闘戦だ。こちらのルールにしたがってもらうが?」
「問題ない」
「まず一つ。殺傷系魔法の禁止。殺傷武器での攻撃禁止だ。審判としてオーラン魔道帝様にお願いする。良いな?」
「ああ。俺も殺し合をしたいわけでは無いからな」
カイルとジーニアスが決闘のルールを決めて行く。
そして審判役を勤めるAクラス担任にして学院長、オーランが長いローブを風に揺らしながら引き継ぐ。
「互いに勝ったときに望むものを言うのじゃ」
何でも魔法学院では決闘戦は絶対厳守されるらしい。生徒同士での揉め事は全てこれに一任される。そして負ければ勝った相手の要求をどんなに屈辱的でも受け入れなければならない。極端な話。勝った方が死ねといえば死ななくてはいけないのだ。
だからこそ公正なる審判を行う為の学院長。
カイルは思いの外、重い勝負になった事には驚いているが、今更、こんな事で怖がるカイルでは更々無かった。
「俺が勝ったら俺とユウナ.......ついでにマリンに関わるな」
「ジーニアス。君は何じゃ?」
「僕が勝ったら、僕の仲間達を、けなした事を謝罪してもらう」
「今ここに【魔道帝】オーランがこの決闘を承諾する.......始めるのじゃ」
二人の要求が出揃い。決闘の火蓋切って落とされた。
合図と同時にカイルは、ほくそ笑み、望叶剣を引き抜いた。
ザワザワと周りがざわめく。
「ずるいですわ! 真剣は反則ですわ」
声を上げたのは茶髪ツインテールの上級貴族お嬢様、名前はツイテールだ。
ツイテールはそういいながら学院長に講義するが学院長は首を振る。
「ルールは殺傷武器での攻撃禁止じゃ、あの剣で攻撃しない限り反則でわない」
「っー! そんなっ! もし編入生が攻撃したら一大事になりますわ!」
ザワザワ.......
カイルのいきなりの真剣抜刀にざわめくツイテール達とは違い、天才魔法使いジーニアスは眉一つ動かすことなく詠唱する。
《火の精霊よ、炎球の力で、彼の者を熱し給え》
ジーニアスが放ったのは珍しくも何とも無い初級攻撃魔法だ。
しかもフル詠唱での発動だ。ユウナなら無詠唱で放てる。
「こんな火の粉!!」
小さい火の玉をカイルは苛立ち気味に鉄刀丸で振り払う。炎王の技を受けた後ではガキの火遊び程度にしか見えなかった。
「避けてください!! 爆発します」
「っ!?」
鉄刀丸が火玉を打ち払う瞬間、場外から綺麗な声で叫ばれ、咄嗟に後ろへ飛び下がる。
すると、声の通りに火炎が爆発した。
どっーかぁあん。
「.......っ!」
戦慄するカイルを余所に、ジーニアスの視線が演習場の端に身を乗り出している銀髪の少女、シルフィーに言う。
「どういうつもりかな。シルフィー」
ジーニアスが力強くシルフィーを睨めつけたがシルフィーは逆に軽蔑の眼差しでジーニアスを睨んだ。
「今のは当たれば命に関わります! ジーニアスさん最低です!」
「ぐっぅーっ! それは」
シルフィーはAクラスの中で特別な才能が有るわけではない。何をとっても中の中。少しだけ回復魔法が上手いと言うだけの生徒だ。
だが、シルフィーの純白な肌と雪のように白い髪そして白い瞳。凛としている背筋や首筋、血筋的に整った貴族達の中でもなお目立つ顔立ち。既に何か他の生徒達とは違うものが見えているかのような言動は魔法学院の【白雪姫】とか【白天使】とか言うあだなが付いている。
しかもその性格は天使と言われるだけあって極度の博愛主義で善性の持ち主だ。
悪いものには悪いと良い良いものには良いという。美しいものは褒めたたえ、美しく無いものにも慈愛を持って接する、学院一の美少女だった。
だからそんなシルフィーに軽蔑の眼差しを受けたジーニアスの心的ダメージは計り知れないモノだった。
カイルはチラリとシルフィーを垣間見てから
「助かった」
とだけ言って鉄刀丸を握り直した。
数十分後
無様にもカイルはジーニアスにかんぷなきまでに、敗北したのだった。




