最終回 ヒロイン=ヒーロー
最終回きました。最後までお付き合いください
「・・・・・」
煙が舞う場所をただずっと見つめている、一人の少年。シルクハットをかぶり、手品師ような風貌の彼は、死んだ目で煙をみていた。
彼の名前はエレンホス。ディザイアという組織の一人である。いや、事実上トップであり、その彼が戦っているということは、もう、組織は彼一人であった。
するといきなり、エレンホスが耳をピクリと動かし、後ろに勢いよく振り向く。そこには一人のメルヘンチックな格好の幼女が殴りかかろうとしていた。
少し焦るが、その少女の攻撃を受け止めその勢いのまま、後ろに大きく投げ飛ばす。
ドンッと音を立てて、幼女は壁にぶつかり地面に落ちるが、それでも彼女は膝をつかなかった。
「ちっ・・・流石に簡単に一発もくれないか・・・!!」
その幼女の名前は、マジカル☆アナザー。魔法少女である。魔法少女であるので、変身する前の名前がある。その名前は西園寺あかね。
彼女は今、世界の命運をかけて戦っていた。一見、子供同士の喧嘩であるが、心の奥底では静かに、そして激しく闘志が燃えていた。
しかし、それはアナザーだけで、エレンホスの中は完全に静かになっており、何も燃えてなかった。その彼の瞳は何を見てるか、誰にもわからない。
「・・・僕は、何をしたいんでしょうね・・・」
そう言うと、エレンホスは指をパチンと鳴らした。すると、エレンホスの後ろに大きな魔法陣が出現した。それはとても色とりどりであり、アナザーは少し見とれてしまった。
エレンホスはゆっくりと腕を上げていき、そしてアナザーを指差す。そしたら
ドドドドドドド!!!
「はぁ!?や、やばい!!」
その魔法陣から雨霰のように弾丸が発射される。アナザーは体を捻ったりして器用にその攻撃を避ける。逃げながら、床を思い切り殴り即席のバリアを作った。それを盾にして少し息を整える。
「ちっ・・・これじゃ近づけねぇよ」
「だな・・・しかし、なんとか近づかないと・・・」
アナザーの言葉を丸い球体の形をした生物。天使くんがアナザーの言葉に反応を示す。
しかし、それがどうだというのだという話であるが。どちらにせよ、対抗策が一切思いついてないと、何も変わらない。
バリアを支える手に大きな衝撃がなんども来ると、手がだんだんとしびれてくる。そもそも力もあんまりないのに、その小さな手にくる衝撃で、手の感覚がだんだんと無くなっていく。
そんな時、背中をトントン叩かれる。アナザーは震えながら後ろを振り向く。そこにいたのは先程まで弾丸を降らせていた少年が立っていた。
「死ね」
そんな言葉が聞こえたかと思うと、後ろから聞こえる弾幕の音が途絶え、目の前から無数の弾幕が発射される音が耳に響いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(あぁ、いつからこんなに僕は空っぽな存在になったのだろう)
エレンホスはそう呟きながら、自分が消しとばした幼女がいたであろうところを見つめる。だんだんとはれていく煙は、黒く、そして濁っているような色であった。
エレンホスはクルリとまわり、扉から出て行こうとした。
ガシッ
その時、何かが足をつかむ音が聞こえた。エレンホスはまずまさかと思う。そして、またまさかと思い後ろを振り向き足元に視線を落とし、まさかと思った。
「まてよ・・・まだ終わってねぇぞ、ごら・・・!」
アナザーが、痛む体を抑えながら、エレンホスを強く睨みつけていた。エレンホスはとっさに、手を構え弾幕を発射する。その攻撃は確実にアナザーの頭部にぶつかり爆発を起こす。が、アナザーは攻撃を受けてもなお、手を離すのをやめようとしなかった。
「いってぇんだよ!!オンドリャァァァアアァアア!」
そんなわけがわからない雄叫びをあげながら、エレンホスに頭突きをお見舞いする。エレンホスは、ぐらりと揺れながら、後ろに倒れた。
(あぁ、なんでこの人は・・・こんなにも・・・)
倒れていく時、エレンホスはアナザーに視線を向けた。その時のアナザーも半分気を失ってるように見えて、地面に落ちていく。それでもなぜかエレンホスには彼女が、とても、かっこよく見えた。
ドサリ、と音を立ててエレンホスは倒れる。アナザーは少し頭をさすりながら、念のため遠くに飛んで様子を見守る。まさか、これで終わりなはずがない・・・
(僕の欲は・・・支配欲・・・しかし、僕は何を支配したいのでしょう・・・)
エレンホスは戦いの中、そんなことを考えていた。支配欲。そう、支配欲なのだ。しかし、彼は別にこの世の全てを支配したいわけではない。もっと近く、そして遠い存在。そんなものを支配したいはずだ。
(いったいそれは・・・)
それはいったい。
(なんなんでしょうか・・・)
なんなのだろう。
(支配したいもの・・・僕の手が届きそうで届かない・・・)
と、ここまで考えて、エレンホスはハッと目を開ける。そして、喜びを表すようにクスクス笑い出す。アナザーはそれに気付き、少し身構える。
「そうか、そうかそうかそうか・・・!」
エレンホスはそんなことを言いながら、ゆっくりと立ち上がる。目は先ほどのように死んではなく、生気がこれでもかと溢れており、ギラギラと輝いていた。
「僕のほしいもの・・・支配したいもの・・・それは」
エレンホスはそう言いながら指を突き出した。その指が差す場所に一人の少女がたっている。その少女は驚いたように自分の顔を指差す。
「貴女ですよ・・・アナザーさん!」
「あ、あたし・・・!?」
そう言うとエレンホスは一気にアナザーに近づく。アナザーは少し驚くが、とっさに右に飛んで距離をとろうとした。
しかし、エレンホスはそれを見抜いていたというように、なんの迷いもなく右方向に手を突き出し、そこから弾幕を発射した。
連続で爆竹が爆発するような音が聞こえ、アナザーはエレンホスの攻撃によって大きく吹き飛ばされる。
だが、アナザーは壁にぶつかる前に、その壁をパンチして破壊した。大きな音を立てて崩れるビルの壁を尻目に、アナザーは空に飛び上がる。
そうすると、エレンホスが一瞬で目の前にやってきた。アナザーはとっさに蹴りを繰り出す。エレンホスは少しダメージを受けたように顔を歪めるが、右腕でその攻撃を受け止めた。
エレンホスはお返しというように、回し蹴りをアナザーの横腹に突き刺さるぐらいの強さで繰り出す。アナザーは口から何かが出そうになるのを必死に抑えるが、エレンホスはアナザーの頭を両手の拳を振り下ろし殴り下ろした。
ドゴンと音を立てながらアナザーは下に叩き落とされる。地面に衝突するかと思ったが、それを何かに止められた。
その何かをペタペタと触り確かめる。透き通っているそれは、エレンホスが出していた魔法陣。いつのにかここにあったのか、という疑問が浮かぶが、すぐに頭が出す危険信号にアナザーは顔を引きつらせる。
「やばっ・・・!」
そう言うや否や、その魔法陣がピカッと輝き、無数の弾幕が発射される。それをアナザーは身体中に受けて打ち上げられる。
「がぁあああぁぁ!!」
ドドドドと音を立てて貫く弾丸にアナザーは苦痛に満ちた声を上げながら、そのまま下に落ちていく。
「ふふっ・・・まさかここで終わるわけないですよね・・・」
エレンホスはとても嬉しく、楽しく、そして興奮したような顔でアナザーが落ちたところを見つめる。その瞳は、アナザーしか見てなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「・・・大丈夫かな・・・あかね・・・」
二人の少年があかねの部屋から外を覗きながら、座っていた。彼らは、小野悟と、小峠春樹といった。そして、ベッドの上でぐったりとしている少女は小峠美冬と言った。
彼らは、あかね達が戦ってる事を知っている。知ってるからこそ、何もできない自分に腹がたつ。しかし、腹がたっても仕方がなく、外見上は冷静を保つしかなかった。
「大丈夫かな・・・」
確認するようにもう一度春樹はつぶやく。悟は大丈夫と声をかけようとしたが、外の情景がそうは言わせてくれなかった。
何かの爆発音。誰かの叫び声。そんなものが常に聞こえている。そんなのがあるのに、大丈夫だとは言えない。
「大丈夫・・・です・・・よ・・・春兄・・・」
そんな声が聞こえて、聞こえたところに顔を向ける。そこには、ベッドの上で寝ていたはずの少女、美冬がふらふらとした足取りで春樹達の方に歩いてきていた。
「あかねさん達は・・・強くて、かっこよくて、かわいいんです・・・まさに・・・」
そこまでいって、ぐらりと美冬が倒れる。それを慌てて支える春樹。みたら、美冬は可愛らしい寝顔だグッスリと寝ていた。
「だよな・・・妹がこんなに信用してるんだ。あかね達は大丈夫に決まってるさ」
「そうだ・・・あいつらが負けるところは、想像つかんしな。きっと、戦いが終わって元気な顔で来てくれるさ」
春樹と悟は、お互いに見つめ合い、にかっと笑い合った。もう、大丈夫だとは言わない。だって、信じてるから。
「・・・あぁあああ!!」
いきなり、誰かの叫び声のようなものが聞こえて、春樹達は焦りながら、その声の発生点を探す。そして彼らの視線が止まる先にあったのは。
「・・・え・・・?」
一台のテレビ。そこにはなんと、ボロボロになっているアナザーの姿があった。
「はぁ・・・?んだよこれ、誰が撮影してんだこれ!!」
春樹はそう言いながらテレビを掴み叫ぶ。まるで、アナザーとエレンホスに対して怒鳴ってるかの如く。
「落ち着け春樹!まだ、負けたというわけではないだろ!」
悟は春樹を羽交い締めにして、テレビから引き離す。春樹は悪いと呟いて、興奮を抑えるように、ゆっくりと息をはいた。
「けれど、なぜテレビに映ってるんだ・・・」
「確かにな・・・まるで・・・!?ま、まさか・・・!!」
悟はいきなり顔を上げて、何か恐ろしいことに気づいたというように顔を上げた。そんな悟を春樹は心配した目で見た。
「奴は・・・エレンホスは、俺の予想が正しければ・・・最悪だ・・・最悪だぞ・・・!!」
「って、まさか・・・!」
春樹も合点がいったように、悟と顔を見合わせる。悟は震えながら頷いた。
「このテレビはきっとーーー」
そう言葉を続けようとしたが、その声は外から聞こえてきた先ほどより大きな叫び声にかき消される。
その声は助けを呼ぶ声ではなく、まるで何かに怒りを表してるような、そんな声だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ぐっ・・・はっ・・・」
アナザーは確信していた。目の前の敵は、自分を支配することを目的とし、その為に行動していると。
その為には手段を選ばないだろう。あの手この手で自分の心を折りに来ると予想はついた。しかし、どうするのか。
その時、ふと視線に入るものがあった。カメラだ。テレビカメラというものが、アナザーを食い入るように撮影していた。そのカメラからは、悪意しか感じられなくて、アナザーはムッと顔を歪める。
「アナザーさん。貴女は何故、戦うのです?」
「・・・は?」
「だってそうでしょう?貴女がどんなに頑張っても、どんなに苦しい思いをしても、ほとんどの人は貴女がしてあげたことを全て忘れるんですよ?」
忘れる。そう、魔法少女の戦いは殆どの人の記憶から消される。まるでなかったかのように、歴史は修正されて、いつも通りの日常が流れ始める。
「愚問、だな・・・あたしは別に礼なんて求めてない。記憶に残らない?むしろ大歓迎だぜ。その方が、幸せだろうからな」
アナザーは強くそう宣言する。そんな彼女を見たエレンホスは、まるで眩しいものを見るように目を細めた。
「いやぁ、流石はアナザーさん。その心意気、心の強さは流石の一言・・・アミナさんを一時的にですが抑え込めただけはありますね・・・ククッ」
「何がおかしい?」
エレンホスはたいそう愉快だというように笑い始めた。今戦いの場でなければ、アナザーもつられて笑ってしまったかもしれない。それ程、楽しそうに笑った。
だが、ここは戦いの場。相手が笑っているからといって、戦わないわけにはいかない。アナザーは、エレンホスに向かって一直線に駆け出す。
それを見たエレンホスは、笑いながらアナザーの攻撃をギリギリで避けて、アナザーの鳩尾に膝蹴りを入れた。
「ぐぼぉ!!」
カエルが潰れたような声を漏らしながら、アナザーは口から唾を飛ばす。それを、エレンホスは頭をつかんで、勢いよく投げ飛ばす。
アナザーは一直線に飛んで行き、その勢いは一軒の家にぶつかるまで止まることはなかった。
ドゴン!
大きな音を立ててアナザーは家の壁にぶつかる。ガラガラと音を立てつつ痛む背中を抑えながら立ち上がる。
ふと横に視線を向けると、小さな女の子と、その親であろう二人が怯えたような瞳でアナザーを見つめていた。
まぁ、いきなりこんな登場かたしたら驚くだろうな。そんなことを考えながらアナザーは足早にその場を立ち去ろうとする。
「・・・は?」
そんな彼女の視線は、ある一つのものに集中する。それはテレビであり、なにより驚いたのは、そのテレビに映ってるのは他ではない。
「な、なんであたしが映ってるんだ・・・!?」
その画面には他でもないアナザーが映っていた。
「・・・いけ・・・」
すると、この家に住んでるであろう父親が震えながら口を開ける。アナザーはゆっくりとその父親の方に顔を向ける。父親がアナザーに向けている視線は、まるで。
「出て行けこの化け物!!お前のせいで街はこんなことになってんだ!!」
まるで、化け物を見るかのように怯えており、怒っていた。
「は・・・いや、ちょっと・・・ちょっとまてよ・・・」
アナザーは意味がわからないというようにその親子に近づく。すると父親は血相を変えたようにその場に落ちてあるものを手当たり次第にアナザーに投げた。
アナザーはそれに当てられて逃げるようにその家から出て行く。化け物?出て行け?そんなことを言われた気がする。いや、なんで。
「あたしは・・・化け物なんかじゃ・・・」
すると、大通りに出たあたりだろうか。周りに隠れていた人間たちがアナザーをいつの間にか取り囲んでいた。皆、手に武器のようなものを持ちながら。
「え、まって。待ってくれ。あたしは別にあんたらを殺そうとしてるわけじゃ・・・」
「今殺そうとって言ったぞ!!」
どこからかそんな叫び声が聞こえた。アナザーはその声のぬしを探そうとするが、どこにいるかわからない。それどころか、取り囲んでいる人の目を見てしまった。
皆、怒り。悲しみ。そして、恐怖をその目に宿し、アナザーを見ていた。その目がアナザーは少し恐ろしくて、たじろいでしまう。
「化け物はしね!」
「ちが、あたしは化け物なんなじゃ・・・」
「何言ってるの!貴女の悪行はテレビを見てわかってるんだから!」
「だから、あたしはエレンホスを倒して皆を救おうとして・・・」
「救う?何言ってやがる、街をこんなにボロボロにしやがって!お前なんか、死んでしまえ!!」
その言葉は、今まで誓ってきたアナザーの気持ちが揺らぐのにはむしろ大きすぎた。礼は言われなくてもいい。しかし、こんなに罵詈雑言を浴びせられたら、守る気なんて失ってしまう。
「やめろ・・・しゃべらないでくれ・・・」
アナザーはそう言いながら両手で耳をおさえる。これ以上聞きたくなかった。しかし、そんな小さな手では、声を遮ることは不可能であった。その閉じた耳に無理やり入ってくる言葉の数々は不快であり、不愉快であった。
「こんなことを言われてもまだ、同じことを言えますかねー?」
そんな少年のような声が聞こえたかと思うと、あたり一面に無数の弾丸が降り注ぎ周りにいる人間をすべて吹き飛ばす。そして、声の主。エレンホスがゆっくりと舞い降りてきた。
「貴女が守ろうとしてるものはすべて、貴女に対して敵意を。殺意を抱いております。そんな人間を守る価値などありますか?いいえ、ございません。追い詰められた人間がやってしまうのは、近くに敵を作ること。そんな人間を守る価値なんて・・・もう一度言いますが、あるわけがないんです」
そう言いながら、エレンホスはアナザーの耳元に口を近づける。その口から聞こえる、ゆっくりとした息遣いは、とても色っぽく、アナザーはその音に耳を傾けてしまった。
「ですから恥じることなんてありません。悔いを感じることなんてありません。さぁ、僕に支配されてくれませんか・・・?」
そんな声を聞いて、アナザーは糸が切れた人形に目を瞑りながら、下を向いた。
(あたしがやろうとしたことは・・・間違ってるのか・・・化け物がすることなのか・・・)
アナザーはもう、疲れていた。もう、従ってしまおうかと考えた。
だが、そんな時ある人達の顔が浮かんだ。その顔はアナザーのことをじっと見つめていた。それを見たアナザーは少し考えて、目を見開いた。
「確かに、そうかもな。皆あたしのことを敵だとか言ってくる。守る価値なんてないかもしれない」
「でしたら・・・!!」
「けどなぁ!」
そう叫んだ後アナザーはエレンホスを思い切り殴り飛ばした。とっさのことで反応ができず、大きく吹き飛ばされるエレンホス。壁に当たり口から緑の血を吐き出した。
「あたしは知ってんだ。あたしの事を。本当のあたしを知ってるやつらを。そいつらがいるのに、あたしがここで折れるのは・・・」
そう呟きアナザーは手を握っては開くを繰り返す。己の力を確かめるように。己の誓いを確かめるように。
そして、アナザーは指をエレンホスの方に突き出した。
「めちゃくちゃ、かっこ悪いからよ・・・!」
アナザーを支えてるのは、強く。そして太い一本のプライドであった。エレンホスと同じように。
その言葉を聞いたエレンホスは笑いながら、ゆらりと立ち上がる。その顔は、狂気のようにも取れるし、花が咲いたような笑顔のようにも見て取れた。
「そう、それでこそ!それでこそアナザーさんですよ!!素晴らしい・・・素晴らしすぎます!!ますます貴女が欲しくなってきた!」
エレンホスはそう叫んだ。そして、しばらく空を見上げながら、先程のような笑い声を出し続ける。その光景はあまりにも異様。しかし、アナザーは見慣れてしまっていた、
そんな笑い声はまるでBGMのようにしばらく響き、いきなりピタリと止んだ。
エレンホスは顔をゆっくり下げ、アナザーに視線を向ける。アナザーは少し深呼吸して、また構える。
「行きますよ・・・アナザーさん!」
「あぁ、全力でぶちのめしてやる!エレンホス!!」
「はあぁぁぁあああぁぁ!!」
「うぉおおぉおおぉおお!!」
二人の異なる正義は、二つのプライドを背負い。そして、己の目的。信念のために今。ここでもう一度ぶつかりあおうとしていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
響く爆発音。広がる地響き。
二人は先程よりも本気で。己の命を削るように全力で戦っていた。
アナザーが攻撃したらエレンホスはそれを余裕で避けて、攻撃を仕掛ける。それをアナザーはギリギリで避けたり、たまに食らいながらも、攻撃のチャンスをうかがっていた。
ドン!
そんな大きな音が聞こえたかと思うと、アナザーが後ろに大きく吹き飛ばされていた。
「ははは!やはり貴女は弱い!心は強くても肝心の肉体が弱すぎます!!」
エレンホスはそう叫びながら、アナザーの懐に入り込む。そして、至近距離で弾幕を無数に発射した。
ドドドド!そんな轟音を轟かせ、アナザーは上に打ち上げた。そして、追撃と言わんばかりの無数の弾丸。それが遠慮なしにアナザーにまた襲いかかる。
「・・・っだぁぁああぁ!!こらぁぁぁああぁあ!!」
しかしアナザーもやられっぱなしではない。空中で器用に動き回り、エレンホスの攻撃をほとんど避けた。その行動にエレンホスはまた大声をあげて笑い、喜び歓声をあげる。
「もっと、もっともっともっともっと!!僕を楽しませて、僕に教えてください!貴女を支配できることのきつさ!喜びを!!!」
「知るか!!あたしは、あたしは!たとえこの体が朽ちようとも負けねぇ!!」
アナザーは両手に魔力を込めて、エレンホスの顔をめがけて両手を突き出す。エレンホスは手をクロスにしてガードし、アナザーの腹を蹴り上げる。
アナザーは腹を蹴られたことによる痛みに顔を歪ませながらも、エレンホスの足をつかみ、そして回転して投げ飛ばした。
壁に当たる瞬間にうまくブレーキをかけて止まるが、いつの間にか目の前にきていたアナザーの拳をもろに顔面に受ける。
ゴギャ!と嫌な音が聞こえてエレンホスはおもわず声を上げる。しかし、今度はエレンホスがアナザーの顔を殴り飛ばした。
ドガ!と何度も何度も地面に当たって転がりいくアナザーを見たエレンホスは、周りに魔法陣を展開して、アナザーを囲んだ。
「はぁ・・・はぁ・・・」
あまりにも激しい戦闘によりエレンホスは肩で息をするほど消耗していた。しかし、そんなきつさももうすぐ終わる。何故なら、彼女をこれで完全に倒すことができる。あとはじっくりゆっくりと支配すればいい。
ふと、先ほど自分が殴った少女に視線を向ける。周りを無数の魔法陣に囲まれながらも、アナザーの瞳は光を失っておらず。むしろ、先ほどより光ってるように見えた。
「くく・・・やはり貴女は素敵だ・・・だから、一度眠っててもらいます!!」
エレンホスはそう叫ぶと、周りの無数の魔方陣からこれまた、無数の。いや、無限に見える弾丸をアナザーがいるところに向かって一気に発射した。
ドガン!!
そんな音が何度も響き、アナザーはその小さな体に何度も何度も弾丸をくらった。体から血を撒き散らし、アナザーは爆発により大きく吹き飛ばされて、飛んで行った。
それを見たエレンホスはアナザーに向かって一気に飛んでいく。そして、勢いよく右手を突き出してアナザーの腹を貫いた。
グチャ。そんな音が聞こえてアナザーは目を見開いた。そんな光景を見てエレンホスはほくそ笑み、すぐに大声で笑いだす。
「ふふ、ははははは!!このまま体内で弾丸を発射すれば、貴女もひとたまりもありませんね!!それに、もう逃げられませんよ!!」
「それは・・・お前もだぜ・・・!!」
「・・・なんですって・・・?」
アナザーはそう言うとエレンホスの体に手を回して抱きついた。エレンホスは驚いたように目を見開き、ここから逃げようとするが、体が動かない。
「アナザーさん・・・何をする気ですか!」
「こういう・・・戦いってよ・・・最後はなんでしめるか知ってるか・・・?」
そう言うと、アナザーはさらに強く抱きしめる。エレンホスはアナザーの意図を知り、大慌てで体をひねって脱出を試みる。しかし、先程より強く抱きしめられて、動けるわけもない。
「アナザーさん!貴女!!」
そう叫ぶエレンホスをアナザーは笑って見ていた。そして息を大きく吸い込んで声を上げた。
「ひとーーーーつ!!
たとえ化け物と恐れられても!!
ふたーーーーつ!!
あたしがするべきことは、守ること!!
みーーーーつ!!
そしてあたしの名前を頭に刻め!!あたしの名前は!!」
「はな、はなせぇえええぇえぇ!!!」
そんな声が聞こえるが、アナザーは目を閉じていろんな顔を思いだしていた。
(悟・・・春樹・・・千鶴・・・母さん・・・師匠・・・美冬ちゃん・・・天使君・・・じゃあな)
そして、アナザーの体がだんだんと光り輝いていく。その光はとどまることを知らず、あたり一面を包んでいく。
「あたしの!あたしの名前は!!西園寺!!あかねだ!!!」
そんな少女の叫びが、光の中をこだまするかと思うと、一気に光はアナザーたちがいるところに集まり。
そして。
ドゴーーーーン!!!!
そんな爆発音が聞こえたかと思うと、その場にはとてつもなく大きくて、そして綺麗な花火が一つ。夜空に咲いた。
「・・・・」
そんな光景を見ていた、町の住民たちは、しばらくぽかんと口を開けた後。その静寂を突き破るように皆、喜びの声をあげた、
その声はその場所いっぱいに広がり、生きてることを喜ぶもの。そして、アナザーに対して礼を述べたり、涙を流して泣く人もいた。
そして、少し時間が経った後。
すべての人間から、この戦いに関する記憶が全て消えていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ぐっ・・・は・・・あが・・・」
爆発が起きた後、遠くのところに体が半分無くなって上半身しかないエレンホスが倒れていた。体からは緑の血を流し、光の粒子を飛ばしながら。
エレンホスは震える手で目の前にある石を掴もうとした。しかし、その石を少し持ち上げるだけで、すぐにポロリと落ちてしまう。
「僕はもう・・・こんなに小さな石を・・・支配することも出来なくなったんですね・・・」
そう自嘲気味につぶやくエレンホスは、目を閉じて静かに自分が消えていくのを待った。もう、悔いはなかった。一つあるとするなら、マタルたちに一言謝りたかった。それだけだった。
「みなさん・・・ごめんな、さ・・・」
謝ろうとした時、何かに口を塞がれたような気がした。エレンホスは驚いて震えながら頭を持ち上げて周りを見る。そして、見つけた。目の前に見覚えがある仲間がいた。
「ああ・・・あああ・・・」
エレンホスは言葉にならないというように声を漏らす。目の前にいるのは、マタル、テベリス。そしてゼーンの三人であった。
三人はエレンホスの方を見てゆっくりと微笑んで手を差しのばした。エレンホスは震えながら手を伸ばしその手を掴んだ。
「僕は・・・幸せ、です・・・本当に、ありがとうございます・・・みなさん、大好きです・・・!!」
エレンホスはそう呟き、体が完全に粒子となり飛んで行った。その粒子の周りにはいつもより三人分くらい多い粒子が近くを舞って一緒に空に飛んで行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あかねちゃん・・・?あかねちゃんはどこに・・・?」
綺麗に戻った町の中をフラフラと彷徨っている一人の少女。名前は千鶴。
先ほど街で見た大きな爆発。あれはきっとあかねがしたこと。信じたくはないが、あかねはもしかしたら・・・
そんな考えを千鶴は頭を振って消そうとした。あかねが死ぬ訳がないと自分に言い聞かせる。
しかし、千鶴は半分諦めていた。あんな爆発があって、無事な訳がないと、頭ではわかっていた。
「おーい!千鶴さーん!」
「あ、美冬ちゃん・・・それに、小野君に小峠君と天使君も・・・」
千鶴を見つけて元気に駆け寄ってくる三人と一匹。千鶴のもとに来て、顔を降り誰かを探していた。
「なぁ、あかねはどこに・・・?」
春樹が少し青ざめた顔で千鶴にそう聞く。千鶴は少し顔を見つめた後、ゆっくりと顔を横に振った。それを見て、春樹は膝から崩れ落ちる。そして、悟は下をうつむき、天使君は震えていた。
「なんで・・・なんでなんでなんで!街はこんなに綺麗に戻ったのに!なんであかねは帰ってこねぇんだよ!!」
そんな苦痛な叫び声が、街をこだまする。千鶴達はいたたまれない顔になり、暗い顔でしたをみんな向いた。あんなことがあって無事なわけがない。
「ひとーーーーーーーーーーーつ!!!」
いきなり、声を上げたのは美冬だった。美冬はそう叫んだ後、春樹達に顔を向ける。
「何やってるんですか?皆さんも呼びましょうよ」
「な、何言ってんだ、美冬・・・?あかねは、もう・・・」
春樹がそう言うと、美冬は少し悩んだような顔になり、口を開ける。
「確かに、あんな爆発があってあかねさんが無事とは思えません。しかし、あかねさんならだいじょぶです。なんせ、あかねさんは、強くて優しくて、かっこよくてかわいい。ヒロインでありヒーローでもある。『ヒロイン=ヒーロー』ですから」
そう一言一言確かめるように、美冬は言う。すると何故か大丈夫な気がしてくる。そんなにあかねという存在は皆の心に残っていた。そして、皆で顔を合わせて頷き、口を大きく開けて叫んだ。
「ひとーーーつ!
助けを求める声が聞こえたら!!
ふたーーーーつ!!
どこからでも駆けつけてくれる!!
みーーーーつ!!
そしてあなたの名前をここに刻む!!あなたの名前はーーーー!!!」
すると、後ろから足音が聞こえてきた。美冬達はゆっくりと後ろを振り向く。そこにいたのは見覚えがあり、今一番会いたかった人がそこにいた。
「マジカル☆アナザーこと、西園寺あかね・・・だろ?」
「あ、あ、あかねさーーーん!!!」
こうして、彼女達の戦いは幕を下ろした。
お疲れ様でした。これにてヒロイン=ヒーロー終了となります。
この作品は昔から頭の中に考えてあった物語であり、こうして作品にできてとてもうれしいです。
あかねさんたち魔法少女側。エレンホスくんたちディザイア側。両チームにそれぞれスポットを与えてるはずです。もし、読者の皆様の心に残ってたら、作った甲斐があります。
ところで次回作ですが、この時はまだ構想しかできておりません。遅くても一月が終わるまでには2〜3話を掲載したいです。因みに主人公はあかねさんではありません。
それでは、今までお疲れ様でした。よろしければ次回作にご期待して待ってください。
そして、読者の皆様。ツイッターにて応援してくださった皆様に、ここで感謝の言葉を述べます。本当にありがとうございました。