7、透明も悪くない
〇テレビ青空Bスタジオにて
「本番入りまーす」
スタッフの声がした。カウントされ、番組のテーマソングが流れる。
「さあ、今週もやって参りました!全国のお茶の間の皆さん、こんばんは!」
MCの女性がにこやかに話し出す。
「毎週生放送でお送りする、音楽番組、゛フレッシュ音魂¨の時間です。今週もフレッシュな音楽をお届け致します!!司会は私、美作 蛍子と」
「私、冴木シンジロウでお送りします」
二人のMCが自己紹介を始め、軽めのトークの後にゲストの紹介が始まる。
僕とレンは三番目の登場。
二人で顔を見合わせ、頷きあう。
衣装は白を基調にしたラフな感じのアイドルっぽいもの。
二番目のアーティストの紹介が終わったところで、歩き出した。
「お次はこちら!!今や、国民的アイドルに大成長したワルジェネから、所謂末っ子組と呼ばれるこの二人!皆堂 レンさんと吉野 影斗さん!!」
MCの紹介を聞き、カメラに映ったところで二人で御辞儀。
歩いてる途中に構えているカメラに向かって手を振る。
これ忘れちゃうと、森坂さん怖いから。
皆で事務所で見てるって言っていたしなあ。
ミスすると後で笑いのタネにされかねない。
皆イイ性格してるからなあ。
ゲストが再び一組ずつ紹介されていく。
「ワルジェネ末っ子組宜しくね」
「「宜しくお願いします!!」」
「お二人には後程、新曲の『colorful&clear』をテレビ初披露して頂きます」
そして次のゲストに振られる。
ここまでは良し。
いや、こんな序盤で転ぶわけにはいかないんだけどさ。
「浜名 ミイナちゃん宜しくね」
自分たちから新人歌手の女の子に移った時も、真剣に聞いてなきゃ、放送されちゃうから大変なんだ。
特に、森坂さんが凄く厳しいから。
番組は滞りなく進んでいき、曲と曲の間のMCに入った。
ここではインタビューされることが多いから、ボロを出さないように注意。
「皆堂さんと吉野さんは、プライベートでも仲がよいという噂がありますが、実際どうなんでしょうか?」
「はい。芸能界入りする前からの親友ですね」
マイクを向けられたレンがニッと笑って言った。
続いて僕にマイクが回ってきた。
「レンが居なかったら、多分僕は芸能界入りしてませんね」
そう言うと、観客や司会さんたちから驚きの声が上がった。
「本当に仲が宜しいんですね」
美作さんがニコニコしながら言った。
そして、スタッフと目線で確認しあうと、僕らにまた視線を戻した。
「それでは、歌の準備をお願いします」
そう言われ、返事をして僕らは立ち上がった。
背後ではまだ会話が繰り広げられている。
「本当に格好いいよね。デビューしてから、随分成長した感じがあるよね」
「そうですね。情報に寄りますと、二人ともこの一年で身長がかなり伸びたそうですよ」
「いやいや、俺が言ってる成長はそっちじゃ無くてね…?」
笑い声が聞こえたところで、俺たちもセットに到着して、準備をし終えた。
レンがグッと親指を立てて来るから、僕もそれをし返した。
「準備が出来たようです。それではお聞きください。皆堂レン、吉野影斗で『colorful&clear』」
流れ出すイントロと、カラフルなライトがその場を満たした。
クルクル回る光の中で、僕らは踊り出した。
ライブ会場でみたいに、ペンライトの光の海は見えないけれど、それでもテレビの前の観客を意識して。
レンと喧嘩して、仲直りするまでの間に、たくさんのことを知った。
この曲が出来るまでに、作曲家さんがボツにしたメロディがたくさん有るって。
この衣装だって、担当の人たちの自信作なんだって。
確かに僕らはアイドルで、キラキラしていなきゃいけないんだと思う。
でも、一人じゃキラキラできない。
色んな人たちが想いを込めた作品に、自分の想いもプラスさせて、皆に届けること。
それが、僕らの役目。
本当の僕はネガティヴで、レンの後をただ歩いていただけの、そんなちっぽけな存在。
そう、思っていた。
でも、それじゃダメなんだ。
だって僕はアイドルだから。
キラキラした存在で、ある為に。
誰だって、願うんだ。それを、託された。
この曲の歌詞に沿うならば、僕の色はクリアで構わない。
レンみたいに、眩い光じゃないとしても、僕の色は、全ての色を透す光でありたい。
透明も悪くない。
伝えること、届けること。
それが、僕の特技であって、役割ならば。
さあ、サビが始まる。もう下を向いてはいられないね。
僕はカメラに向かって、精一杯の笑顔と共に、大きくピースサインをした。
◯収録後
テレビ局を出ると、もう外は真っ暗だった。
レンと並んで、事務所の用意した車まで歩く。
新曲の評判は中々いいらしい。
初披露ではないけれど、今回初めて聞いた人が多いみたいで、レンはさっきからスマホ片手に評判をチェックしている。
「良かったー。ブログにもコメント結構来てるぜ。こりゃなんか書いとかないと駄目だなー」
レンはそうボヤきながら、歩いていた。
本当は結構ブログの更新はする方。
文を書くのは嫌いじゃない。
僕のファンはどちらかというと、おっとりというか、控えめな子が多いみたいで、コメントもフンワリとした優しいものが多いから、つい。
今回のことも事前に宣伝していたしね。
「よっしゃヨッシー!当然だけど、夕飯まだだよな⁉︎」
「えっ⁉︎ま、まあそうだね…」
「この後ラーメン食いに行こうぜっ。いつもの所!駅前の」
「久しぶりだね。最近はレッスン詰めていたしね。うん、行きたいな。近藤さんにお願いして駅で降ろして貰おうよ」
俺がそう言いながら、停車していた事務所の車を開けると…。
「「「おかえり」」」
「え?」
俺が停止したことで、不思議に思ったレンが車の中を覗き込んだ。
「えっ⁉︎何⁉︎なんで居るんだ⁉︎」
車の中の光景を見てギョッとしてから、僕を見た。
僕は知らないという意味を込めてブンブンと首を横に振った。
「早く乗ったら?」
「待ちくたびれたー」
車の中でそう言ったのは、カイさんとアユさん。
そして、助手席に乗っていたリーダーが、振り返った。
「祝杯は皆でするものだと、相場は決まっているだろう?」
とてもいい笑顔で仰ったうちの皇帝サマ。
何だか、さっきまでの高揚感が何処かへ飛んでいく…。
「俺豚骨ー!」
「俺は塩で。リーダーは?」
「味噌一択だ」
何やら勝手に話が進んでいる。
やれやれと車に乗り込むレンの後に、僕も乗り込んだ。
「近藤さーん。なんか良い店ない?」
「馬鹿か。出前だ出前」
「「「「「えー」」」」」
「息ピッタリだなお前ら…。はーっ。森坂さんが待ってるんだよ。食いながらミーティングだとよ」
ワルジェネのマネージャーの一人である近藤さんは車のエンジンをかけてから言った。
また何か仕事が入ったのかな。
「この忙しいのが嬉しいって思っている俺ってもう末期だなー」
突然、隣でレンがボヤいた。
「え?」
「アイドル超楽しーってこと。呼び戻してくれてサンキューな」
レンが言ったのを、皆聞き逃さなかったらしい。
皆一斉にレンの頭を撫で始めた。
「ぎゃー!縮む!」
大袈裟なリアクションをするレンを見て、僕はクスリと笑った。
「ヨッシー笑いやがったな⁉︎」
そう言って僕をジトリと睨むレンに、更に笑ってしまう。
そして、思うんだ。ああ、僕はここが好きだ。
喚くレンの髪に、僕も手を伸ばす。
ずっとずっと、夢を見よう。
まだ幼くて、一人ぼっちだった頃の僕が願って止まなかったこと。
それを叶えてくれた皆に感謝。
ワルジェネ、本当にサイコーだよ。
さあ、進もう。
ーーー光の方へ。
ヨッシー編完結!こんなに書きにくい一人称があるだろうか、いやない。というくらい、ヨッシーは書きにくい。そのまま書くと、ネガティヴ一直線なので。瀬里さんとレンは彼のモチベーションを上げてくれるのでマジで救世主でした。
もう此処まで来たら全員分書くべきですよねー。あと、今回少し触れられた後輩くんとか、他の芸能人たちとも絡ませたい。次は誰にしようかなーと考え中です。取り敢えず、完結にしてはおきますが。
それでは皆様、最後になりましたが、読んでくださりありがとうございました!