拒絶されし者の遺産
斎藤晴人。
それが、俺の名前だ。
世間から見れば、俺はいわゆる「天才」ってやつだった。
剣道、総合格闘技、射撃……何でも貪るように吸収した。
周囲は俺を野心家だと思ったらしいが、本当のところ、俺が狂っていたのはただ一つのことだけ。
――「闇」だ。
トップに立ちたいわけじゃない。
物理法則すらへし折るような、圧倒的な力の領域に触れるため、俺は怪物のように己を追い込み続けた。
「少なくとも、俺の狂気は役に立つ。あいつらのくだらねえ綺麗事よりはな」
弟の晴太は、反吐が出るほど現実的だった。
俺と同じような夢を見ていたが、あいつは現実と虚構の境界を知っていた。あいつにとってその妄想は、この腐りきった社会を生き抜くための精神安定剤に過ぎなかったんだ。
だが、運命ってやつは、俺たちみたいな狂人を放っちゃくれねえ。
◇
その夜。
ゴミ捨て場の隣にある廃倉庫――俺が限界を求めて肉体を痛めつけていた聖域で、俺たちは包囲された。
面を被った特殊部隊。
俺の「完璧さ」が権力者どもの目に留まり、そして俺という野良犬を飼い慣らせないと悟った瞬間、奴らは殺処分を決めたらしい。
「兄貴……あいつら、銃を持ってる……」
晴太が俺の後ろで震えていた。
俺は鼻で笑った。
長年鍛え上げたこの力も……結局は、鉛の弾丸を前にした肉の壁に過ぎなかったわけだ。
俺は突撃し、二人の首をへし折った。
だが直後、うなじに激痛が走る。
俺の元へ駆け寄ろうとした弟の晴太も――その直後に撃ち落とされた。
派手なヘッドライトの光なんてねえ。
あるのは硝煙の臭い、鉄錆の臭い、そして汚れた地面を濡らす血の音だけだ。
俺はその場に横たわり、弟の息が絶えていくのを見つめていた。
皮肉なもんだ。
生涯、闇を追い求めた果てが、ゴミ溜めの暗がりの惨殺かよ。
「もし来世ってやつがあるなら……二度と誰にも、俺の頭上を歩かせやしねえ……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
目が覚めた時、最初に感じたのは窒息感だった。
ドロドロとした膜に包まれ、押し潰されそうになる。
隣では、燃え盛るようなエネルギーがひしめき合っていた。
晴太だ。
死ですら、俺たち兄弟を引き離すことはできなかったらしい。
俺たちはこの狭苦しい子宮の中で、生き残るために1ミリの空間を奪い合い、蹴り合った。
そして、俺は「それ」を感知した。
あの量産型アニメに出てくる、青だの赤だのの安っぽい魔力なんかじゃねえ。
この力は……冷徹で、刺々しく、前世の俺の心臓にこびりついていた鉄錆のようにザラついている。
俺はこれを――【スクラップ(Scraps)】と名付けた。
世界に見捨てられた、エネルギーの澱みだ。
◇
だが、反対側にいる晴太は違った。
朦朧とする意識の向こうで、眩い光の帯があいつを包み込んでいるのが見えた。
一瞬、薄暗いインターフェースが浮かび上がる。
【星光(スティルライト/Steallight):初期化中……】
あの光は天然のものじゃない。
周囲のすべてを貪り、精製し、あいつに最高に完璧な「器」を構築しているようだった。
「ギャー、ギャー……!!!」
産声が響く。
冷たい石造りの部屋、アロマキャンドルの臭い、そして見知らぬ顔ぶれ。
俺が先に生まれ、前世のゴミ捨て場の、骨の髄まで凍みるような寒さを引き継いだ。
その直後、弟のユータ(今の晴太)が生まれ、目眩がするほど温かい光を放った。
「天国なわけねえだろ。ここはゴミ溜めだ……だが、俺好みのな」
看護師どもが「光の御子」であるユータに驚嘆し、群がっている。
その間、俺は揺り籠の暗い隅で静かに横たわり、血管の中にある漆黒の鉄錆をじわじわと動かしていた。
「健康な体なんて知るかよ。爆発しなけりゃ、使い倒せる」
この肉体を無理やり【スクラップ】に馴染ませる。
耐え切れなくなって壊れたら……その時はその時だ。
「せいぜい輝けよ、弟。お前は俺の闇のための、最高にド派手なデコイ(身代わり)だ」
世界はお前だけを見つめ、その煌びやかな【スティルライト】に目を奪われる。
そして、深淵から本当に這い上がってくるものが何なのか、奴らは永遠に気づきはしない。
俺は目を閉じた。
体はクソ痛むが……まあ、慣れっこだ。
【スクラップ】の冷気が細胞を蝕んでいくのを感じながら、俺は心の中で、見えない笑みを浮かべた。
今度の影崎悠人は、ただの武術キチガイじゃねえ。
俺が、最高位の闇の君主。
この闇のゴミ溜めの頂点に立ち、ダークロード・イヴェール(DarkLord Hiver)の外套の影から、世界のすべてを操ってやる。




