無能術師、追放される
第一話
「無能術師、追放される」
「――アレン、お前をパーティから外す」
ギルド酒場が静まり返った。
昼間だというのに、
酔っ払いの冒険者たちまで会話を止めている。
俺は木椅子に座ったまま、
目の前の勇者レオスを見上げた。
「……ついにか」
「あぁ。もう限界だ」
レオスは深くため息をつく。
隣では女魔法使いフィナが腕を組み、
露骨に睨んでいた。
「戦闘能力が低い。それは百歩譲っていいんです」
「譲られてたんだ」
「問題はそこじゃありません」
フィナが机を叩く。
「女関係です!!」
周囲から「あー……」という納得の声。
いや、
そんな全員納得する?
「この前だって、宿屋の娘さんがアレンさんだけ料金半額にしてくれたせいで、他の客と揉めたじゃないですか!」
「あれは向こうが勝手に――」
「鍛冶屋の娘も!」
「回復術師ギルドの受付も!」
「商会の令嬢もです!!」
「最後なんで知ってるの?」
「有名なんですよ!!」
酒場のあちこちから笑いが起きる。
俺は頭を掻いた。
別に口説いた覚えはない。
困ってたら助けるし、
話くらい聞く。
それだけだ。
だがなぜか、
昔から女性に好かれやすかった。
自覚はある。
でもどうしろと。
「アレン」
レオスが真面目な顔になる。
「お前がいると情報収集は楽だ」
「……おう」
「街に入れば女たちが勝手に情報を持ってくる。宿も安くなる。融通も効く」
「じゃあいいじゃん」
「その十倍トラブルが増えるんだよ!!」
机を叩きながら叫ばれた。
「前回の遠征なんか、貴族の娘に気に入られて護衛騎士と決闘寸前だっただろうが!」
「あれは誤解で――」
「“君、無理して笑ってるだろ”とか言ったんだろ!?」
「いや実際そう見えたし……」
「だからそういうところだ!!」
再び笑いが起きる。
だが、
レオスは本気で疲れていた。
「女絡みの揉め事で敵を作りすぎる。しかも本人に悪気がないのが最悪だ」
「……」
それは少しわかる。
俺としては普通に接しているだけなのだ。
でもなぜか、
女性側だけ距離感がおかしくなる。
結果、
周囲の男に敵視される。
「しかも肝心の戦闘能力は低い」
レオスが追い打ちをかける。
そう。
結局これだった。
俺の魔力値は『2』。
子供以下。
この世界では、
魔力こそ才能。
つまり俺は、
“妙に女にモテるだけの無能”。
冒険者としては致命的だった。
「……わかったよ」
俺は小さく笑った。
「今までありがとな」
レオスが少しだけ目を逸らす。
フィナも、
気まずそうに黙った。
完全に嫌われているわけじゃない。
でも、
限界だったんだろう。
銀貨袋が差し出される。
「退職金だ」
「少なくない?」
「慰謝料用だ」
「まだ何もしてない相手もいるんだけど」
「予定がある時点でアウトなんだよ」
ひどい言われようだった。
俺は袋を受け取り、
ギルドを出た。
夕暮れの風が冷たい。
「さて……どうすっかな」
宿もなくなる。
仕事もない。
金も少ない。
人生終了寸前。
……なのに。
「アレンさん!」
背後から女性の声。
振り向くと、
パン屋の娘ミリナが駆け寄ってきた。
「聞きました! 追放されたって本当ですか!?」
「え、なんで知ってるの早くない?」
「これ持ってってください!」
紙袋を押し付けられる。
焼きたてのパンだった。
「あ、いや悪いって」
「悪くないです! 私、アレンさんに助けられましたから!」
満面の笑み。
さらにその後ろから。
「おーいアレン!」
低めの女声。
振り向くと、
赤髪を後ろで束ねた女性が歩いてくる。
肩に鉄材を担いだ、
鍛冶屋『紅鉄工房』の娘セリナだった。
「セリナまで……」
「追放されたんだってな」
ニヤニヤ笑いながら近づいてくる。
「ならウチ来いよ。男手足りねぇんだ」
「鍛冶屋に?」
「飯付き、寝床付き」
「強い条件だな……」
ミリナが即反応する。
「ちょっと! アレンさんはパン屋です!」
「は?」
セリナが眉をひそめる。
「こいつパン焼けんのか?」
「わ、私が教えます!」
「鍛冶なら力仕事でも役立つぞ」
「パン屋の方が平和です!」
なぜ張り合う。
周囲の男たちが、
「また始まった」みたいな顔で見ている。
やめてくれ。
本当に。
するとその時。
「きゃっ!!」
悲鳴。
通りの奥で、
馬車が暴走していた。
転倒した白ローブの少女へ一直線。
俺は反射的に駆け出す。
少女を抱え、
石畳を転がる。
直後、
馬車が壁へ激突した。
「大丈夫?」
腕の中で、
金髪の少女が呆然と俺を見上げていた。
その頬が、
みるみる赤くなる。
後ろでは。
「……は?」
ミリナ。
「おいおい」
セリナ。
嫌な沈黙。
――嫌な予感がした。
直後。
ドクン。
身体の奥で、
何かが脈打った。




