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悪役貴族のお父様  作者: 太郎冠者
第二章 長女とお買い物デート編

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魔術都市とテロリスト聖女

都市型魔力供給機構マジックラインシステム


それは26年前、まだ10歳だったロベルトが提言した新世代の魔導システムである。


都市その物を一つの巨大な魔導システムとし、魔力タンクとなる中央制御施設で燃料となる魔力を一括管理、前世で言う電気、ガス、水道の各種インフラを担う画期的な提言であった。


何が一番画期的とされたかと言うならば、それは万人がその恩寵を享受できるのは当然、何よりその導入や維持まで見据えていた点だ。



光源を生み出す魔法、水の生成魔法、調理用の火魔法などなど。


どれもさして難易度の高くない、言ってしまえば魔法使いなら誰でも使える低級魔法。


しかし、それを万人が扱える形に落とし込み、それを実現可能にする為に様々な法律や制度も盛り込まれていた事が特に評価されていた。



冒険者や騎士達による魔獣(モンスター)討伐により手に入る魔石をエネルギー源とし、都市自体に魔力回路を構築。


そこに術式を刻み込まれた魔導具を接続する事で誰もが安易に魔法の恩恵を得れる。


そして国や領主は毎月利用者から使用料に応じた金銭を徴収し、システムを維持する。



副次的な効果として、魔獣(モンスター)討伐による治安向上。インフラ維持の為の雇用創設。そして、魔導具作りを広めることで新たな産業の創設。


何せ魔導具を作るだけなら魔力を持たない平民にも作れてしまうのだ。



―――魔導技術による都市国家構想計画。

通称、魔術都市計画。


それは社会システムの一つの完成系だとすら賞賛された程である。




「――――分かるか? お父様の偉大さが。

俺達とは視点が違うんだ。俺達は一つ一つを積み上げて物を考えるが、お父様は逆だ。

まるで初めから理想の都市という答えを知っていて、そこから今の技術に落とし込んで物を考えているんだ。」


熱っぽくロベルトの偉業を語るレオナルド。


元々内政や技術面への関心が高い彼からすると、武人ではなく為政者や技術者としてのロベルトがもっと評価されて欲しかった。


「視点ねぇ……。御館様は未来視でも出来るのかな?」


典型的王国人(脳筋)であるアランとしては、やっぱり御館様は凄いんだな、くらいの認識だ。


「出来ないとは断言出来ないな。

実際、魔法を誰でも扱える技術、魔術に落とし込んだのはお父様だ。俺達が知らない技術を持っていても何ら不思議じゃあない。」


レオナルドは昔、同じような事を疑問に思ってロベルトに尋ねたらとてつもなく微妙な顔をされた事を思い出す。



「まぁ、だからこそ魔法至上主義の魔族達とは今ひとつ仲が良くないんですけどね。

御館様は魔法の権威を落としている、引いては魔族をって訳です。」


王国育ちなので私はそう思いませんけど、と言いながらユーリアはそびえ立つずんぐりむっくりとした球形の魔力タンクを見下ろす。



背の高い建物の屋上に潜んだ3人は、日の落ちた王都の街並みを見下ろす。


目の前には都市型魔力供給機構マジックラインシステムの中核となる魔導伝達所が見えている。


巨大な球形の魔力タンクがいくつも並んだ施設はロベルトが前世の都市ガスの供給施設をイメージしてつくらせたものだ。



「……別にアルの事を疑っていた訳ではなかったが、この蠢く様な魔力……。やはり何かいるな。」


姿勢を低くして施設を睨みつけるレオナルド。

彼の魔力探知能力はロベルトのお墨付きだ。


優れた魔力感知能力を持つレオナルドの感覚には施設内を蠢く黒い水のような魔力をハッキリと感知できていた。



「この粘着質な魔力には覚えがある……。」



―――――――――

――――――

―――



施設内は白を基調とした真新しい清潔な壁で出来ている。


施設の広さに反して狭い通路は入り組んでおり、まるで迷路のような作りだ。




「おい、一般人は―――!」


ゾブッ。


「君! どこから入っ―――!?」


ドプン。


「き、緊急連絡―――!」


ドポン。



蠢く黒い水が次々と人を呑み込んでいく。


まるで意思がある不定形の生物のように、真っ白の床を壁を這い回る。



異変は人知れず、しかし確実に起こっていた。



ビチャリ、ズズ……。

グチョ、ズズズズ……。

ビチャ、ズズズズ……。


彼女が歩く度に不快な水音と巨大な何かを引き摺る音が響く。


重そうな大剣を引き摺り、彼女の身体から染み出す様に黒い水が撒き散らされる。





「うるさいな。別に魔力持ちは今すぐ殺す必要はないでしょ? どうせ《《アンタの黒水もあの人の異空間も》》まだまだ余裕があるじゃない。――――はぁ? 偉そうに人間は皆殺しとか言っておいて結局ろくに殺せないまま終わったアンタに言われたくないんですけど?」



蠢く黒水を引き連れ、彼女はずっといないはずの誰かに話し掛け続ける。


黒く染まった片目だけがギョロギョロと動き、脈打つ魔法陣を刻まれた右手が明らかに意志に反して動いている。



「あはっ。あははは! 怒った? 怒ったの!?

いい気味! いい気味よ! もうろくに自我のないカスの癖に! 残滓の癖に! お前があの人達に何をやったか私は忘れないっ! 絶対に!」


彼女の激昂と共に、刻まれた魔法陣からは赤黒い血管が一気に半身を埋め尽くす。


その叫びがそのまま力となったかの様に握った大剣が力任せに振るわれる。


ドゴン!とまるで爆ぜた様に廊下の壁が崩れ落ちる。


「そうだ……。私は私を絶対に忘れない……。

あの日の誓いを。この世界を守るんだ…!。

守る護る魔盛るまもるマモル。がっあ、あ!

あぁ!あっあ!がぁああああっ!!」


呂律の回らなくなった己を律するように、彼女は壁に頭を何度も叩きつける。


三度、四度と頭を打ち付けるうちにまだ人間の顔をした左側面が血に染まる。



「はぁはぁはぁ……、だから、殺さなきゃ。

世界を守るんだ……!」



彼女が歩く度に不気味な不協和音と轟音が廊下に響く。


次第に彼女を侵食して行く赤黒い血管と黒水。


もうそこには彼女を聖女ソフィアだと気付く人間はいなかった。



従えた黒水は施設を徐々に侵食し、施設の職員を飲み込む。


そして、人の形から逸脱しながら彼女は遂に魔力タンクの前にたどり着いた。



「ぐぅ! はぁ、はぁ、はぁ……。ほら、これでお望み通りでしょ?」



ソフィアがそう呟くと、もはや人の腕の形をしていない右手が奇っ怪な動きで魔力タンクのひとつに取り付いた。


ゾブリと黒水が魔力タンクを侵食する。

まるで乾いた水を吸い込むスポンジの様に魔力を吸い上げる。



「あれだけご大層に宣ったのよ。やってみなさい!ネビロスっ!!」

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