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悪役貴族のお父様  作者: 太郎冠者
第二章 長女とお買い物デート編

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思春期長男の一日 学園編

王立学園。


王都の東部、通称学術区画の大部分を占有する広大な敷地には複数の歴史ある建物が並ぶ。


春先にレオナルド達が決闘した闘技場や国内有数の蔵書数を誇る大図書館、かつての賢者達が

勉学に励んだ大講義場、伝統溢れる学生寮などなど。


ヴァリアント王国の歴史を後世に伝える、

まるで博物館の様な施設と言える。



「おっはよ! アラン! レオナルド!」


「おはよう。二人とも。」



重厚な正門から続く学園のメインストリートを歩くレオナルドとアランに声を掛ける二人の女生徒がいた。



「おはよう! エヴァ、ルーシー。」


「おはよう。」



明るく笑顔で二人に応えるアラン。

そして対照的に我関せずと無関心にレオナルドが応えた。


二人ともAクラスのクラスメイトである。



「相変わらず生傷だらけだねぇ二人とも!

今日も朝練してたの? ボクももっと訓練した方がいいのかなぁ。」


男の子の様な口ぶりでエヴァが苦笑する。



エヴァンジェリン・エリシア・フォン・ガラドリエル男爵令嬢。


北部貴族で、今は亡きヘレオール公爵家に仕えていた由緒正しき武門の一人娘だ。


優秀な生徒ばかりのAクラスでも戦闘を得意とする武闘派の一人である。


明るい茶髪を肩口で切り揃えられたボブカットが男の子のような口調の彼女に良く似合う。



「オレ達のは半分趣味みたいなもんだしな。

なぁ、レオ?」


「まぁな……。」



いつも表情の変わらないレオナルドだが、朝の特訓でアランに殴られて正気を取り戻してからずっとバツの悪そうな顔をしていた。



「レオナルド、機嫌悪い?」



ルーシーが―――、ルシアナ・ジゼル・フォン・メリザンド子爵令嬢が無感情な声でレオナルドに声を掛けた。


背の低い彼女はどうしても見上げる様な格好になってしまう。


エヴァとは対象的に、腰よりも長く伸ばした青髪を風になびかせ、大きな紫水晶の様な瞳で

レオナルドを覗き込んでいた。



「……いや、そういう訳ではないんだ。

もし不快な思いをさせたのなら謝罪をしよう。

メリザンド嬢。」



表情も変えずに謝罪するレオナルド。


なんせ睡眠不足からナチュラル・ハイになって

訳の分からないポエムを好きな女の子に渡そうとしていたのを親友に止められた所なのだ。


どんな顔をすればいいのかレオナルドには全く

分からなかった。



―――毛布にくるまって隅っこにいたい。


何ならそんな情けない事を考え続けていた。



「そう。」


ルーシーも何をどう理解したのか分からない

無表情加減で頷く。



「しかし、文化祭が迫って来たって感じがするね! 建国祭並みとはいかないだろうが、中々どうして立派なモノになりそうだ!」


「だなぁ。オレはここ最近公爵家の仕事関係で学園を休みがちだったからさ。なんか来る度に色々変わっててちょっと驚いてるんだ。」


そんな根暗な二人のやり取りはどこ吹く風、

根が陽キャなアランとエヴァが楽しそうに話している。



アランは夏に公爵家付きの騎士になってしまった為、新しく興した自分の家の手続きや公爵家の仕事でちょくちょく学校を休む羽目になっていた。



学園のいたる所で屋台が立てられ、少しずつ

飾り付けがされている。


文化祭まで残り一週間。


そろそろ追い込みの時期だ。



「文化祭実行委員のソフィアも最近忙しそうにしてるんだよね。」


「……ソフィア? えっと、誰だっけ?」


「ボク達と同じAクラスだよ? アランはもうちょっと周りと話をするべきだな。」


「あ、あはは、面目ない……。」


呆れた顔でアランを窘めるエヴァ。



「―――そう言ってやるな。ガラドリエル嬢。

同じクラスとは言え、授業選択が被らなければあまり話す機会もないだろう。

……それにアランは少々頭が鳥頭なのだ。」


フォローなのか貶しているのかよく分からない事をレオナルドが言う。


朝の特訓で思いっきり殴られた事は多分きっと関係ない。



学園は日本の大学のように選択授業制だ。


同じクラスでも授業が被らなければ、週に1回

しかないクラス別の共通授業でしか顔を合わせる事がない。



「アラン。もし見掛けたら話してやって欲しい。

クラスメイトのよしみ。」


表情の読めない顔でルーシーがアランに頼み込む。


「オレで良ければいくらでも。でも、ソフィアってどこかで聞いた名前―――。」



「レ! オ! ナ! ル! ド! さまぁっ!!」



アランが何かを思い出しかけた瞬間、正門の方から緑髪の優男がレオナルド目がかけて走って来る。



「おはようございます! レオナルド様!

ウラギリス・テーミス・フォン・シタッパーノでございます! ささっ! 鞄をお持ちしましょう!」



美しいまでの45度の角度に合わせた最敬礼。


上位者に媚びへつらう事こそ正義と言わんばかりの潔いまでの態度。


王国を代表する迷家、シタッパーノ家長男。


入学試験でアランに敗北した伯爵家令息

ウラギリスである。



「あ、ああ。おはよう。ウラギリス……。

鞄はいい。自分で持つ。」


「そうですか……。ぬぬ! アラン―――!」



朝から面倒臭い奴に絡まれたと思わず辟易した顔をするアラン。


クラスこそ違えど、剣術系の選択授業でアランとウラギリスは被ってしまっており、週に何度か顔を合わせる羽目になっていた。


会う度にこの平民が! とダル絡みをしてくる

ウラギリスにアランは嫌気が差していた。



「―――様っ! この度は騎士伯への抜擢、誠におめでとうございますっ! ささ!このウラギリスめが鞄をお持ちしましょう! 」


「え? え、い、いや。 だ、大丈夫です?」


「むう。シタッパーノ家は上位者に媚びへつらい、鞄持ちを繰り返して伯爵家にまで上り詰めた鞄持ちの名家。我が伝統の秘技を見て頂きたかったのですが……。」


徹頭徹尾、ウラギリスを理解出来ないアランはレオナルドに視線で助けを求める。



―――レオ! 助けて! この人なんか怖い!


ウラギリスの芸術的なまでの手のひら返しに

ドラゴンにすら笑顔で戦いを挑む白炎の勇者は恐怖を覚えていた。



「―――そうか。アランは騎士伯とはいえ、

現役の当主。この場ではアランが最上位者になるのか……。」


「そ、そうなの!?」


「その通りです! 王国法によれば、我々貴族の令息令嬢は言わば貴族見習い。親の爵位に応じた扱いを受けているだけです。つまり、準貴族とはいえ、正式に当主になられたアラン様が最上位者となります。しかし、フロントライン家は

公爵家の騎士。レオナルド様を最上位者として扱うのも正しいですね。むしろ、お茶会などではその方が一般的です。」


監督責任として貴族の令息令嬢ではなく、お付の騎士が罰せられる原因にもなる悪法ではあるのだが、法は法だとウラギリスは付け加えた。



「オレ、周りに騎士になったのは言ってないのに何で知ってるのさ……。」


ウラギリスの情報収集能力に戦慄するアラン。


エヴァなどは分かりやすく「え、騎士? アランが!?」と驚いていた。


「むむっ!貴様はエヴァンジェリン・エリシア・フォン・ガラドリエル男爵令嬢!

当然、貴様の家より我がシタッパーノ伯爵家の方が上! しかし、ガラドリエル男爵家は北部でも指折りの名門武家! 特別に鞄持ちは免除してやろう!」


「あ、はい。ど、どうも……?」


先程から繰り広げられるウラギリス劇場についていけずに固まるアランとエヴァ。


ルーシーは我関せずといった顔をしている。



「なぁ、レオ。もしかしてウラギリスって凄い奴なのか……?」


「あー。まぁうん。実際、準貴族も含めて国中の貴族家の情報と法律が頭に入っている。

シタッパーノ伯爵家は界隈じゃ有名な法律家であり紋章官なんだそうだ。」


「その通りです! 全ては上位者に媚びへつらい成り上がる為の知識! 下っ端道において我等シタッパーノ家の右に出る家はございません!」


自信満々に頭の悪い事を言い放つウラギリス。



本音も大事だが、本音を言い過ぎても駄目。

時には建前も大事なのだと実感するレオナルドとアラン。


大人の階段をまた一段登った二人をよそに、

ウラギリスはルーシーに目を付ける。



「貴様はルシアナ・ジゼル・フォン・メリザンド子爵令嬢っ! 知っているぞ!メリザンド家は特筆すべき特徴のない子爵家!

よって、お前が私の鞄を持つの―――!」



そう言いかけた瞬間、ウラギリスの身体が硬直し、思わず尻餅をつく。


彼に刻まれたシタッパーノの魂が叫ぶ。


この少女に逆らうな、と。



―――な、何だこの感覚!?

まるで上位貴族と相対した様な……!?


これはアラン様よりも格上……!

いや、場合によってはレオナルド様よりも!


ウラギリスの脳裏に様々な情報が駆け巡る。



メリザンド子爵。70歳。北部貴族。

当主に6人の子ども。長男が跡継ぎ予定。

5人の兄姉は既に独立。この女は末っ子。


取り立てて特徴のない子爵家……。


待て。待て待て待て!


当主の年齢が70歳? この女は当主がいくつの時の子どもだ?


それに5人の兄姉は独立?


家を興すにしても金がいる。

嫁に出すにしても持参金もいるだろう。


そんな大金を田舎子爵がどうやって用意した?


有り得なくはない。

しかし、違和感が―――。



「しぃー。まだ内緒。」



冷や汗で汗だくになったウラギリスの目の前にルーシーが無表情で立っていた。


その圧力に負け無言で何度も頷くウラギリス。



「鞄……。持つ?」


「よ、喜んでっ!!」


涙すら浮かべルーシーの鞄を持つウラギリス。


二人の謎のやり取りを見て顔を見合わせる

レオナルド達。


いつも無表情のルーシーの目だけが、面白い

おもちゃを見つけた猫のように笑っていた。

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