新米騎士団の戦い②とその頃のお父様
無数のネビロスがレオナルドに向かってその腕を向ける。
「槍よ!」「槍よ!」「槍よ!」「槍よ!」
「槍よ!」「槍よ!」「槍よ!」「槍よ!」
ネビロス達の手から凄まじい速度で黒水の槍が放たれた。
「ちっ! 『月狂黒雷・万雷』!」
すかさず迎撃に移るレオナルド。
ガガカァン!っとネビロスモドキが放つ黒水の槍を迎撃せんと黒雷が降り注ぐ。
――――あのネビロスモドキの姿自体に意味はないな。本人のような悪辣さも思考もない。
完全に奴のガワを模しただけだ。
問題は――――。
降り注ぎ続ける黒雷の弾幕を突破した無数の黒水の槍が迫ってくる。
――あれはお父様の『黒の弾丸』と同じコンセプトだな。
指先、もしくは空中に魔力で描いた魔法陣から音を超える速度で射出される無数の弾丸。
あの魔法の恐ろしさは何でも貫く貫通力でも音を超える速度でもない。
お父様の魔力量と組み合わせる事で数千、数万発と気軽にばら撒ける容易さだ。
加えて術式効果範囲内であれば全方位半自動で襲いかかって来る。
それは個人で多数を圧倒し、格上の敵を殺し得る完全非公開の秘匿魔法。
お父様を最強たらしめる要素の一つ。
魔族だってドラゴンだって生物なんだ。
そりゃあ無数の金属の塊を身体の中にねじ込まれたら死ぬさ……。
あのネビロスモドキの手の平から放たれる槍。
射出口を無数に用意することで数でこちらを圧殺しに来ている。
「レオナルド様! 少し激しく動きます!」
言葉と共に複雑な挙動を描き、ユーリアは視界を埋め尽くさんばかりの槍の弾幕を回避する。
「哀れなものだな。ネビロス。無詠唱や短縮詠唱魔法は雅さがないと言っていたじゃないか。――――『月狂黒雷・万雷』!」
猛スピードで飛び交う中、レオナルドは3発目の黒雷の雨を降らす。
――瞬間的になら黒水を吹き飛ばせるが、奴の再生能力を上回る事は出来んな。
この場で必要なのは威力より持続力だ。
俺にしろアルにしろ、瞬間的な火力はあるが術式を維持するのが苦手だからな……。
効果維持であれば物質を生み出す水属性や地属性に軍杯が上がる。
よし……。
「ユーリア! 俺の血を吸え!」
「はへ!? 」
「吸血鬼は血を吸う事で他者の術式や能力を取り込むのだろう? 逆に相手の魂に干渉してグールや吸血鬼に変質させる術式もある。つまり、血を吸うという行為は魂を繋ぐ術式といえる!
俺の血を媒介にしてユーリアの水と地属性を持った血流魔法に黒雷を融合させ――――!」
「な、何を仰ているんです!? そ、それに何で吸血鬼の術式をご存知なんですか!」
珍しくレオナルドの言葉を遮って話を逸らしたユーリア。その顔をは真っ赤だ。
「術式に限らず吸血鬼の事を色々と勉強したんだ。ユーリアは王国育ちだが、他種族でもある。……こ、これから一緒になるんだし、お、俺も吸血鬼の事を知っておいた方が良いと思って……。」
「あ、あぅ……。あの、その……。」
話していて恥ずかしくなったのか、次第にしどろもどろになるレオナルド。
そんなレオナルドを見て狼狽えるユーリアは意を決して口を開く。
「……え、えっと、ですね。あまり知られていないと思うのですが、吸血行為って吸血鬼的にかなり性的な意味がありまして……。何なら普通の性行為よりもハードルが高くて……。」
「そ、そうなのか!?」
「まぁ肉体どころか魂で繋がる訳ですし……。
い、いえ! 嫌じゃないんですよ!? むしろ全然ありと言うかレオナルド様じゃないと駄目なんですけどね? で、出来たらその、初めて血を吸う時は二人っきりの時が良いなって……。」
以前、ユーリアはジュリア達に他人の肌に口を付けるのが生理的に嫌だと言ったが、それは対外的な理由であった。
レオナルドに屋外で裸を見られても平気なユーリアだったが、魂で繋がるのは恥ずかしい。
人間族には伝わりにくい他種族の情緒である。
「「「「剣よ!!」」」」
そんな二人の場違いなやり取りのツケは早々に払わされる。
極大に引き伸ばされた剣のような黒水を叩き付けられ、レオナルド達は地面に墜落した。
――――――――
――――
――
『若様とサイコパス女墜落。……戦場でイチャついて叩き落とされるとか当然過ぎてフォロー出来ない』
王国南部にあるユグドラシル教会総本山。
その執務室に貌なしの術式によるリアルタイム映像が流れている。
「……ま、まぁ、ちゃんと障壁張ってたっぽいし大丈夫だろう」
克明に映し出される映像から目を背けて何となくのフォローを入れる私。
『当然。これで死んだら末代までの恥。』
いや、まぁそうなんだけどね?
もう少し言い方ってもんがさ……。
『確かに、昔はよく戦場で奥様とイチャついていた御館様に何か言う権利はない。』
「……しかし、見ているだけと言うのも歯痒いな。何か方法はないものか……。」
何か言いたそうな顔をしていたのを察知されたのだろう。昔の話をほじくり出そうとする貌なしを無視して思考を戻す。
空中に浮かぶ水のディスプレイに投射された戦場の映像をじっと見詰める。
……レオナルドが早々にやらかしたが、現状はある程度拮抗している。
後詰にはカーライル王が率いる近衛隊もいる。
緊急発進したウチの騎士団も小一時間もすれば到着する。
これで終わりと考えてもいいのか?
いや、まだ何かあると考えねば……。
私ならこの件を陽動にしてどう動くだろう。
奴等の目的は王家に連なる血筋。
ベスやジュリア、ドミニクはどうだ?
……いや、有り得ないな。
あの三人にも当然ウチの騎士団がついているし、ジュリアに至っては精霊魔法を操る三百人ものエルフ達と一緒だ。
保有戦力という意味では下手をすると私を超える。
カールは……まぁアイツは勝手にやればいい。
捕まったのなら、むしろそれはアイツが悪い。
それに夏の襲撃から王城は厳戒態勢だ。
何せ王城の施設である大時計塔と創世の間に入り込まれたのだ。
今の王城に入り込むのは私でも厳しい。
なのでウィリアム王子を狙う線も微妙だ。
市井に流れた王家の血筋を狙う?
有り得なくもないが、既にそれは失敗しているし、流石にまた大部隊を突入させるほどオディマに余裕があるとも思えんし……。
うーん。王家の血筋ねぇ……。
私にも親戚はいるが、案外少ないんだよな。
なんせ戦争で結構な数の身内を亡くしている。
そこでふと私の横で縛られて項垂れている教皇が目に入る。
原作ゲームだと殆ど出番のない爺だが、よくよく考えれば、この爺は公爵なんだよな……。
我が国の三大公爵家が一つ。
スフォルツエンド公爵家の現当主である。
「……なぁ爺。アンタ、子どもは何人いる?
いや、アンタの歳なら孫もいるのか?」
「なんじゃい。藪から棒に。……子どもは六人、孫が15人おるがそれがどうした?」
……これ正解じゃね?
何せ教会とオディマは繋がっていたんだ。
聖女派、と言うより反教皇派の連中なら喜んでテロ組織に教皇の身辺情報を流すだろう。
むしろそいつらが率先して動く可能性すらある。
「一応、やれるだけやっておくか……。」
私はそう呟いて貌なしに声をかけた。




