8 人魚と王子は城へ行く
王城に行くことになったのはその三日後だった。
王子の馬車とプリスカジョーの馬車が連なって王城へと向かっていく。朝から行けば夕方には着くくらいの距離らしい。
薄くて軽いながらも、それなりに丈が長くて動きにくい服を着せられ、何故か私と王子が同じ馬車に乗っている。
本来なら、プリスカジョーと二人で行く予定だったはず。この前海岸でそういう話をしてた。王様が一緒に来いと言ってたとか何とか。それを断る言い訳に私を使った? 私は王様に呼ばれてないんだけど。
こっちはこんなに長く馬車に揺られる経験などなく、長い時間座っていることもないので、用意してもらったクッションの組み合わせをいろいろ変え、時々横になって、拷問のような道行きをひたすら我慢した。
途中、昼食を兼ねて休憩を取った時は、プリスカジョーは素早く王子の所に駆け寄って、思いっきり腕を掴み、隣の席をゲットしていた。ものすごーく牽制されているのを感じるけど、あなた、王子の命の恩人。私、助けられた人、実は王子の命を狙う人魚。張り合う意味もない。
プリスカジョーは休憩の間王子に熱心に話しかけ、ほぼ独壇場になっていた。
私は翻訳がないと駄目だし、プリスカジョーとあの翻訳で会話するのはいろんな意味で危険だったので、だんまりを決め込んでいた。王子はにこやかに話を聞く振りをしている。そう、ちょっと見れば振りだとわかるほどに、振りだ。
プリスカジョーは王子に自分の馬車に乗るよう勧め、腕を絡め、ぐいぐい引っ張っていたけれど、にこやかに、でもしっかりとお断りされ、笑顔を引きつらせながら自分の馬車に戻っていった。
王子は自分の馬車に乗り込むやいなや、作り笑顔を消して大きく溜息をつき、
「君が来てくれて本当に助かったよ。あんなのと一日同じ馬車じゃ、気が狂いそうだ」
と、私がダシであることをはっきりと暴露した。命の恩人相手にずいぶんな言い方だ。
そしてまだまだ馬車は続く。気がつけば、王子にもたれて眠っていて、膝枕してもらっていた時には、側近の人の目が鬼になっていた。王族に対する不敬って奴か。
王子は笑って許してくれて、むしろ歓迎だと言っていた。
社交辞令をありがとう。




