7 お礼に木箱を
次の日、王子に連れられてまたしても海岸に行った。
そうしないうちにプリスカジョーがやってきた。王子は私に残って欲しそうにしてたけど、悪いけどあの人はちょっと苦手。王子に任せて二人から離れ、波打ち際に行った。
今日もイルカが来てる。
ちょっと頼んで、船が沈んだ辺りに連れて行ってもらった。イルカのひれにつかまって一直線。人の足じゃなければ後れを取らないんだけど、この足って奴はどう動かせば泳げるのかよくわからない。左右にくねらせるより、イルカみたいに上下に動かした方が早く泳げそう。
何度か試して、イルカにもコツを教えてもらったら、歩くより縦振りで泳ぐ方が早く身につきそうだ。
えら呼吸できた頃には及ばないながらも、私の肺はしっかりと空気を貯めこめる。ここに沈んでる船くらいの潜水なら余裕余裕。
船にも空気が残っている場所があって、海の中で息継ぎができた。さすがにイルカほどは持たないな。
指環の入っていた箱を探す。…箱、…箱…。こっちの船室の、…あった。良かった。
指環を見つけた時に周りに散らかした石も突っ込む。近くにあった布の中心に箱を置いてぐるぐるに巻き、斜めに背負ってしっかりと縛りつける。落として中身をまき散らしたら大変だもんね。
船の周りでイルカ達が遊んでる。何だろうあの輪っか。きれいに丸くなってるな。鉄かな。
船の側面には穴があいていた。ここから水が入ったんだな。穴がなければ、あれくらいの嵐なら乗り越えられたかも知れない。でも、この辺、やっぱり岩場ないよね。
穴の周りの木は大きく弾け、周りに積み荷も散らばってる。海では珍しい陸の食べ物をつついている魚がいる。食器とか壺とかもある。こういうの、海の国では人気なんだよね。滅多に手に入らないし。
輪っかもいくつか落ちてる。丸いままのも、歪んでるのも。遊ぶにはいいけど、釘がついてたら危ない。…大丈夫そうかな。
船体に残る空気でもう一度呼吸して、帰りもイルカ頼みで岸まで一直線。
ちょっと遅くなって、側近の人や王子に心配をかけてしまった。プリスカジョーはもう帰ったらしい。ブリスカジョーは本当に日射しが嫌いだな。だからあんなにお肌が白いんだ。
イルカにバイバイすると、輪っかを一個くれた。気に入ってるだろうに、私にもおすそ分けかな。
「なんだそれ…」
側近の人が輪っかに興味を示したけど、代わりにさっき取ってきた木箱を差し出すと、
「あっ!」
と声を上げて受け取り、すぐに王子に渡した。
王子はその箱が何かすぐにわかったようだ。
「取りに行ってくれたのか?」
いや、言うほど大したことでも…。
(プリスカジョーといたくなかっただけだし。時間つぶしだし)
「プリスカジョー イル ナイ ジカン ハカイ」
王子は私の頬に手をやって、本当に嬉しそうに微笑み、頬に口を当ててきた。人間の感謝の仕草?
「ありがとう」
やっぱり大事な物だったんだ。そりゃそうだよね、王家の紋章が入った指環も一緒に入れてるようなものだから。海の王国だって、王の紋章は大事にされてる。私のようながさつな下っ端王女には、紋の入るような物は渡されないけど。
「何だ、その輪は」
側近の人は、どうしても私がイルカからもらった輪っかが気になるらしい。
(輪っか、イルカが気に入って遊んでた)
「ワッカ イルカ スキ アソブ」
王子が手に取ると、
「…箍? …樽の?」
タガ? 何だろう。わかんない。
王子が気になってるようなので、輪っかも王子に譲ることにした。王子は受け取りはしたけれど、あまり嬉しそうじゃなかった。
何故か夕食は話し合いの場になる。
席に着く前に、王子は私を厨房に連れて行き、樽を見せてくれた。
樽は木でできていて、上下とその間を木を縛るように鉄で巻いて形作っている。この鉄の輪がさっき言ってた「タガ」という奴なんだろう。確かに木がないと輪っかだ。あの場所にあったって事は、樽も積み荷だったんだろうな。
「船まで行ってきたのか?」
王子に聞かれて、こくりと頷いた。
「あの箱は船の中から拾ってきたのか」
そこはしらばっくれて目を合わせずにいると、
「危なくなかったのか? 無茶はしないでくれ」
心配されたのがちょっと意外だった。イルカと仲がいいし、海に潜るのなんて何てことない奴だと思われてるはずなのに…。
(船、大きな穴があいてたよ。どこかでぶつかった?)
「フネ アナ オオキイ ブツカル?」
「船に?」
(木片がいっぱい浮いてたから、船体に穴があいたせいで沈んだんだろうけど)
「… … …」
あ、長すぎたかな。翻訳できなさそう?
「… … キ ウク タクサン… フネ アナ シズム」
「あの辺りは岩場はない。安全な場所に停船し、波に向かって操縦もできていた。嵐は無事やり過ごせるはずだった。それなのに急に浸水して、船体がバランスを失い…」
懸命に思い出そうとしているけど、遭難してパニックの中、そうは覚えてないよね。
(穴の周りの木が外に広がってたから、内側から何かの力が…)
「アナ キ ソト ヒロガル ウチガワ …」
ジェスチャーを混ぜて、穴の状態を伝えたけど、…伝わってないかも。
(積み荷がはじけたとか?)
「ツミニ パン」
王子の動きがピタッと止まった。
何か心当たりが?
こっちを見て、目と目が合うと、にやりと笑みを見せてきた。悪巧みをひらめいたようなちょっといやらしい系の笑み。…何だかぞわっとした。
「なるほどね…」
王子は側近の人に耳打ちして、側近の人は小さく頷くと、何故か私に向かって親指を立てて見せ、部屋を出て行った。
食事が終わると、部屋に戻る前に王子から
「近いうちに、一緒に王城に行ってもらっていいかな」
と言われた。
(何故私が…)
「ナゼ ワタシ」
「君が拾ってくれた指環を、父に渡そうと思う」
(王子が行けば済むんじゃない?)
「オウジ イケ」
王子はぷっと吹き出した後、
「もちろん、一緒にね」
と言って、にこやかに微笑んだ。もう一緒に行くのは決定になっている。
何で私が? …意味わかんない。




