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6 陸の上の人魚

 その次の日は、王子は「公務」とやらで忙しいようだった。

 自由な時間がたっぷりあったので、歩く練習を兼ねて庭に出たら、硬い地面には石も転がっていて裸足は結構痛い。靴を勧められて、幅広の紐で結ぶサンダルを貸してもらった。


 木とか花とか遠くから見たことはあったけど、こんな風に地面にしっかりと根を伸ばして大きくなるのをじっくりと見たことはなかった。小さな生き物もいっぱいいる。虫も結構カラフルで、羽を広げて飛ぶのも多い。岩場でワジャワジャしてる連中とはちょっと違う。

 草をかき分けて歩く、ウニを背負った四つ足。大きいのと小さいのがいて、かわいい。

「あれはハリネズミですよ」

 そばにいた侍女の人が教えてくれた。へえ。

 あっちには耳が長い、毛だらけのがいる。

「ウサギです。見たことないですか?」

 (ない!)

「ナイ !」

 柔らかそうな毛に触りたくて、手を伸ばしそっと近づいたのに逃げられてしまった。座って草を食べてる時はまん丸に見えたのに、後ろ足が長い。すごいキック力。私の尾びれも結構すごいけど? あんな毛の生えたの、珍しいな。イソギンチャクより柔らかいかな。

 鳥もいた。海にいるウミガラスやカモメも遠くに見えたけど、この辺りには小さい鳥が多い。木に止まって、なんだか海で浮けそうにない体してチイチイ鳴いてる。


 お昼を過ぎておやつの時間が近づいた頃、王子と側近の人が馬に乗って帰ってきた。

 馬車につないでない馬が人間を軽々と乗せてる。こうやって見ると馬って大きいなあ。

 四角い歯で顔が長い。首も長くて四つ足で、陸の生き物は不思議に毛だらけだ。

 (触ってもいい?)

「サワル ヨシ?」

「正面から、そっとだ」

 言われたとおり、正面からそーっと手を伸ばし、頬の辺りを少しだけ撫でた。

 毛だ。海では味わえない感触。

「乗ってみるか?」

 王子が伸ばしてきた手を掴むと、体がぐいっと引き上がり、王子の前に乗っけられた。

 結構高い。首の後ろに長い毛があって掴みたくなるけど、掴むときっと痛いよね。私も髪を引っ張られると痛いもん。

「少し近くを回ってくるよ」

 王子は側近の人にそう言うと、私を乗せたまま馬の脇腹を軽く蹴り、それを合図に馬が歩き出した。

 高くて面白いけど、正直に言うとイルカの方がよっぽど乗り心地がいい。地面が硬いせいかな。

 馬の顔からかけられた紐を操って一定の速さで馬を走らせてる。ちょっと弾むような足取りが面白い。王子の言うことを聞くこの馬は、王子の手下だな。

 途中の木に実が生っていた。

「食べられるよ。取ってごらん」

 木に馬を寄せたら、手が届いた。引きちぎるのに手間取っていると、王子が手を伸ばして一緒に引っぱってくれた。

 海が見える道を少し遠回りして、ほんのお散歩程度ではあったけれど、なかなか楽しかった。

 王子、サービスいいね。

 (ありがとう)

「アリガト」

 何か、お礼したいな。


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