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エーテルの夢 ~夢が空を満たす二つの世界で~  作者: 天球とわ
4部4章 セフィ編

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1965/1967

第1965話 触れる全てを黄金に変える

「あのぉ、本当に私で大丈夫なんでしょうかねぇ……」

「何言ってるのさイシスさん。この世界で今、最強の力を持ってるのは確実にイシスさんなんだから」

「いやそんな事言われても。実感ないですけどぉ」

「まあまあ」


 別にこれは、ハルがおだてている訳でもお世辞を言っている訳でもない。

 本人の認識に関わらず、イシスのユニークスキル【龍眼】は現状の最強スキルと言って過言ではない。


 ゲームを成立させている全ての力の根幹ともいえる龍脈エネルギー。それを可視化し、イシスが自由に操れる形に変質させてしまう。

 それは、どんな能力、どんなスキル性能をもってしても、イシス相手にはまるで無意味となるまさに『チート』な力なのだった。


「それで、どう? 見える?」

「……んんー。今はなんとも。ハルさんたちが言ってたように、やっぱり攻撃してくる瞬間までは、何も何処にも居ないみたいです」

「なるほど」

「はい。なので、また攻撃を見ないことには」

「そうか。じゃあ入ろうか」

「えええぇぇぇぇっ!? いや、ハルさんたちがおとりになってもらって、私は境界の外で見てればいいじゃないですかぁ……」

「人を囮にしようだなんて、イシスさんは酷い人だね」

「私を無理矢理ひっぱり込もうとするハルさんの方がひどい人ですってぇ……」

「仕方がないのです! 何故ってわたくしたちは、ナンパさん、なのですから……!」

「そういえばあったねそんな設定」


 アイリと二人でイシスを街中まちなかで突然スカウトした事を思い出す。既に少々、懐かしい話だ。


 その時のように、アイリと二人で強引にイシスの手を引いて境界外へと連れ出すハル。イシスの能力にとっても、世界境界面は邪魔になる。


「ううううぅ。ようやく非戦闘員になれるとおもったのにぃ」

「そんな強力な力を持ってそれは、無理というものなのです!」

「むしろ最も殺意の高い近接スキルじゃない【龍眼】は。バリバリの戦闘員だよね」

「裏方に回ったスミーさんが羨ましいですぅ……」

「《ファイトなのじゃ》」


 文句を言いつつも、渋々とへっぴり腰で付いて来てくれるイシス。こういうところが律儀である。


 おどおどしつつも周囲を見渡すが、そもそもイシスに戦闘をさせるつもりはない。

 既に見えない攻撃にもだいぶ慣れたハル。ハルがあれを押さえ、その間にイシスに安全に対処してもらえばいい。

 ハルはまた【反転深海】のむちを取り出し構えた。アイリも魔法のチャージを開始する。


「あっ、あそこ、なんか出ました」

「……どれ? すまないが、僕には見えない」

「あそこです。右上の、ちょっと奥の方」

「了解」


 イシスの指し示す方角から、一瞬遅れて実際に巨大なやいばが振り下ろされて来る。

 その時間差は本当にほんの一瞬の事ではあったが、先んじて待ち構えられたハルの有利は大きい。非常に安定して、その攻撃を受け止められた。


「……いいね! 元々、攻撃自体は大した事はなかったんだ。そこにプラスして不可視性まで無くなったとなれば、もうなんら怖れる事はないね」

「いえ、それは、さすがにハルさんだけなのです!」

「そうですよぉ。それに、それだと私、ずっと最前線に居なくちゃならないって事じゃないですかあ……」

「居て?」

「勘弁してくださいってぇ」

「それが嫌ならば、今ここで根本的に解決してしまうんだね」

「ファイトなのです!」

「それしかないですかねぇ」


 イシスは覚悟を決めて、恐る恐るといった感じで龍脈の糸をその手元にたぐり寄せる。

 金色の光が徐々に束ねられ、ハルの押さえ込んでいる巨大な爪からイシスの手へと伸びて行く。


 その光の糸は徐々につむがれ織られ、太く力強い流れの道を形成していった。


「……やっぱり、ここにあるのはこの大きな武器単体だけのようです。ハルさん、アイリちゃん、もう大丈夫なので、それの拘束解いてもらえます?」

「だ、大丈夫なのでしょうか……?」

「平気? こいつ、まだ動けるだけの力を残してるよ?」

「大丈夫です。離してもらわないと、ハルさんたちの魔法の力がノイズになっちゃいますので」


 ひとたび仕事を始めると、実に冷静で度胸のわったイシスだ。

 的確に状況を判断し、必要だと判断すれば危険な状況を自ら作り出す事もいとわない。


 そんな彼女の言う通り、巨大な爪は拘束の解かれた瞬間に力いっぱい暴れようとするが、しかしイシスの金の糸にからめ取られているからか、その場でジタバタとするだけでそのが決してイシスに届く事はない。


 目に映らなかったその全容も、金糸きんしでぐるぐる巻きにされるように、はっきりとハルたちにも見えるようになる。


「こうして見ると、本当に大きな爪のようなのです!」

「そうだねアイリ。見えない剣で攻撃するだけならこんな形にする必要はない。やっぱり、何かのモンスターと関係が……」

「あのっ、ハルさんっ! 今度はあっちから攻撃が!」

「おっと」


 さっきまでの冷静さはどこへやら、また一気に怯えきった顔に逆戻りするイシスの指摘した方向へと、スキルを発動し構えるハルとアイリ。


 そんな臆病なイシスの臆病さがこうそうしたか、その後も危なげなくハルたちは爪の捕獲を果たしていったのだった。





「もう十分ですってぇ。というかキリがないので、ここらで帰りましょうよぉ……」

「まあ、そうだね。これだけ捕れれば十分だろう」

「大漁! なのです!」

「いや別に捕獲ミッションじゃないですから……」


 金の糸を引きずるように、イシスは一目散に境界の外に出て拠点側に走って行く。


 あのあとも五本の透明な爪を絡め取り、それら全てがイシスの手の中に金色のラインを伸ばしている。

 ハルとしてはまだまだ続けてもいいと思っていたくらいなのだが、イシスにあまり負荷をかけても申し訳ない。このくらいで十分とすべきだろう。


「あまりエネルギーを集めても、また捨てる時に苦労するしね」

「すみませぇん……、捨てる以外に、対処法がなくってぇ……」

「いいさ」


 今のところまだ、集めた龍脈エネルギーは解放させてしまう以外の対処が出来ないイシスだ。

 解き放たれたその力は、一気に爆発を起こしその後ようやく吸収可能な力となる。


 前回は敵地のど真ん中に置き去りにする事で難を逃れたが、今この場でまたあれが起これば拠点が確実に被害にあうだろう。


「それで、何か分かった、イシスさん? やっぱりこいつらは独立した個体で、『本体』みたいな物はないのかな?」

「あっ、いえ。それは違うかもです。確かにほぼ独立しているみたいですけど、『本体』が無いとは言い切れません」

「ほう……?」

「そうなのですね? びっくりです」

「あっ、センさん」


 イシスの他に、この透明の凶器を視認できるセンもイシスの手の中を覗き込みつつ驚く。

 センの『重力視』には、これが完全に単品の魔法の武器にしか見えなかったようだ。


 しかしイシスにはその先が、存在するかも知れない謎の『本体』がうっすらと見えているらしいのだった。


「といっても、最初の予想のように腕だけをテレポートさせて来ている訳ではなさそうです。そうした空間の繋がりがあれば、その力もきっと私には見えますから」

「流石はイシスさんなのです! すごいですー!」

「えへへ。褒めすぎですよアイリちゃん。……で、ですが、それよりは薄くても何らかの繋がりが、奥まで届いてるのは事実なんです」


 言いながら元来た世界を振り返るイシスの視線を追うと、黄金のラインは何も無い空中へと続きそこでピンと張力を張っていた。

 力の始点はそこであり、ワープゲートではないにせよ何かが、そこから繋がっているらしいのだった。


「……コントロールの、信号か何か? いえ、それだけじゃない気がします」

「なんだろうね?」

「分かりません。分からないんですが、何か何処かで、私は既に同じような現象を見ている気もして……」

「ふむ……? 今まで戦った中で、誰かいたかな……?」

「ワタシはそんな妙なマネはしていないぞ。やっている事は、単純明快だ」

「オレたちも」「覚えがない」

「ボクもだよ! といっても、何が当てはまるのか分からないから、もしかしたらそうなのかも知れないけど……」


 そもそも、それは夢世界での話なのだろうか? イシスと出会ってからの経験全てとなると、かなり範囲が広がってしまう。総当たりは困難だ。


 そうハルが頭を悩ませていると隣でアイリが、実に自信満々な顔で鼻息荒く、堂々と予想を宣言していたのであった。


「わたくし、分かってしまったのです! 何かすごい事に見覚えがあったら、それはきっと、ハルさんがやった何かに違いないのです!」

「あー、確かにそうですね」

「いやいやいや……、僕以外にも、変なコトする仲間はいっぱいいるでしょ……」

「それでも! ハルさんが一番すごいのです! これはきっと、ハルさんなのです!」

「喜んでいいのか、反応に困る……」

「あっ、でも、なんか分かってきました。ハルさんのやりそうな事って考えたら、分かりそうな気がしてきたかも……」

「マジかい……」


 不本意ではあるが、道が見えたのならば喜ぶべきだろう。

 それに、ハルのやりそうな事は、月乃のやりそうな事といっても過言ではない。その視点で考えるのは、重要な事かも知れなかった。不本意ではあるが。


「えーっと……、ハルさんといえば<転移>と、<神眼>とか、あとは……」

「!! イシスさん! なんか、なんか危ないのです!」

「ほへっ?」


 きょとんとするイシスに起こりつつある異変に、アイリが真っ先に気付く。

 なんと、イシスの手へと繋がる金色のラインが、逆に接続先の始点の方から、力強く引っ張られている気配が出ていたのであった。

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