第1946話 救済は計画的に
レーヴァは自身の事を『部品』と皮肉った。これは自身の現状への嘆きか、あるいは本当に彼女を生体パーツとして利用する計画が何か進行しているのだろうか。
後者だとしても特に驚かない。現に今この環境でも、新都市と収容施設を連動させて何かが行われようとしている。
重力を使った謎の通信。レーヴァたちがその動力を担う部品として運用されていても、ハルは何の不思議も抱かないことだろう。
……そもそも、人を部品として活用する事例など今に始まった事ではない。
他ならぬハル自身が、それこそこの現代では当たり前となったエーテルネットを実現させるための部品として存在していたのだから。
何の因果か、今はこうして愉快に周囲を驚かせて回っているが、それこそ元はレーヴァと立場は同じだったのである。
「……なるほどね。なかなかに、思った以上にヘビーな状況という訳だ」
「《重力だけにですかー?》」
「カナリーちゃん。深刻なお話だ。茶化してはいけないよ?」
「ふんっ。構わん。どのみち貴様らには理解の出来ぬ話、同情されたところで、うすら寒いだけだ」
「ひどいなー。同情はしないけど」
「《ですよー。気を引くような言い方しておいてー。同情はしませんがー》」
「貴様ら……」
同情されたくはないが、はっきりと言い切られると頭にくるというやつである。これも、複雑な乙女心というやつだろう。たぶん違うが。
「ただ、同情はしないが共感はしてやれる。僕も、このカナリーちゃんも、そこそこ特殊な境遇でね」
「《実にけったいな生まれですよー?》」
「ほぉ? まあ、さもありなんと言ったところか。今回の件に首を突っ込んでいる奴が、『一般人です』などと言われても逆に鼻で笑うしかないからな」
「だろうね」
地球にとっても異世界にとっても、今回の事件は秘中の秘がそれぞれ合わさったやりすぎな陰謀錬金術だ。もう少し素材は選んでもらいたい。
そんな渦中に首を突っ込んでおいて、自分は巻き込まれただけの一般人だなどという言い訳が、通る道理がないのである。
「……いや、居たっけ一人、巻き込まれただけの一般人が」
「《ですよー。イシスさんがその、何も知らない一般人ですねー?》」
「誰だ、ずいぶんと不幸な奴がいたものだな。はっはっ! 逆にワタシが同情してやろう!」
「ほら、あの子だよ。あの龍脈を操って、最後は君の世界をふっ飛ばしちゃった子」
「あのチート女かぁっ! 奴が一般人だと!? 通るかそんな主張がぁ! 誰よりも冷静に、淡々とワタシを処理していただろうがっ!」
「《同情するって言ってたくせにー》」
「むしろ否定してやる! 全力でっ! そんな神に愛されたマンガのヒロインのような奴はっ!」
「《才能の塊なんですよねぇー》」
「天然の逸材と言うしかないね……」
……まあ、そんな例外の事はいいとして。ハルたちが特殊な事情だと納得しているというのなら、“その次”の納得もしやすいだろう。
彼女は自身の境遇を嘆いていたが、そんなものは別に絶対でも何でもないという事は、ハルたちがその身をもって証明しているといえる。
ならば、そんなハルたち同様に、レーヴァもこの状況から抜け出す事が出来る。というのが道理というもの。
「まあほら。そんな僕らでも今はこうやって好き勝手できてる訳だしさ。レーヴァも悲観するなって」
「《ですよー? むしろ、今まさに事態は動き出してるんですー。こうしてハルさんの助けが来たんですよー。むしろあなたのマンガが、ここから始まるんじゃないですかー》」
「ストーリーを選ぶ権利も欲しいのだが……」
「《それは無理ですー。贅沢な注文ですよー?》」
まあ、なるべく希望には沿ってやりたいと思うハルだが、何でもかんでも叶えられる万能の存在ではない。
とはいえ間違いなくレーヴァの助けにはなれるはずだ。
彼女が現状を憂えているのならばこれ幸い。支援の約束を対価に、今後の協力を打診する事も可能だろう。
「という訳で、どうだい? 僕はきっと君の助けになれる」
「……その代わりに、貴様らに協力をしろと言いに来たのか」
「《話が早いのはいいですねー》」
「はんっ! ワタシの置かれた状況も知らずにか!? 何を助ける、どう助ける! あまり適当な事を言うなよクソペテン師がっ! どうせ散々コキ使ったあげく、『頑張ったけど何にもなりませんでしたゴメンネ♪』で済ますんだろう! 分かってるんだからなっ!」
「《これは重症ですねー……》」
「酷い言われようだ。まあ、怪しまれるのは仕方ないけど」
「さあ、言ってみろ! いったいどう助けてくれるというんだ? 『将来的に力を尽くします』は許さん! 報酬はきっちり前払いだ!」
まあ、レーヴァの立場でみれば、こう言いたくなるのも分かるというものだ。
突然現れた怪しい奴が、自分の事情も特に知らないけどとにかく助けてくれると言う。適当言っているだけと思われても仕方がない。
一応、そのこの場所に『突然現れる』事が出来る時点で、そこそこの証明にはなっているというのがハルの言い分ではあるのだが。それでは残念ながら不足のようである。
……しかし困った。助けたいのは山々だが、詳しい事情を聞くタイミングを逃してしまったようである。
ここですっとぼけて、『じゃあ何から助ければいいか教えて』などと聞こうものなら、部屋から叩き出されてしまいかねない。まあ再び押し入るのだが。
「……仕方ない。じゃあ前払いでいくとしようか」
「適当に物資でも送って茶を濁すのはナシだからな」
「《プレゼント攻撃には釣られませんかー》」
「弱ったね。適当にギフトカード連打していれば、女の子は落とせると相場が決まっているというのに」
「この場所で最も意味のない物体じゃないか……、何を買うというんだ……?」
「《ごもっともー》」
残念ながら、ゲームのヒロインのようにはいかないようだ。ここは、ハルも覚悟を決めねばならないらしい。
レーヴァも、レンゲとモモカを仲間に引き入れる為にその身をなげうったのだ。ここはハルも、彼女の決意に敬意を表しその覚悟に倣うとしよう。
「確認するけど、前払いで君を助ければ協力してくれるんだね?」
「《言質ですよー。取りましたよー?》」
「くどい。出来るものならやってみろ。半端は許さない。しっかりワタシを助けきったならば、何なりと言う事を聞いてやろう。元より、一度死んだ身だ。惜しくはない」
「オーケー。了解だ」
「《じゃあやりますかねー》」
出来るはずがない。そのレーヴァの考えはもちろん現状を正しく認識している。
相手はこの国の陰で歴史的に暗躍する三家、そして今はその三家すら上回る規模へと成長した月乃まで絡んでいる疑惑がある。
社会そのものを敵に回すようなその愚行。手を出す馬鹿はいないし、そもそもそんな力など個人が持ち合わせているはずがない。
ただまあ、相手がハルでなければの話なのだが。
「じゃあ、行こうか」
「《いきますよー》」
「おい、何処へ行く。ワタシはこの施設からは出られんぞ、」
レーヴァが何か言い終わる前に、ハルはリスクを全て承知で魔力を展開。その場から強引に<転移>したのであった。
*
「はい到着」
「脱出成功ですよー?」
「、出られたとしてもそれで何とかなるといった浅はかな考えならば! ……ならば、はっ?」
「いらっしゃいー」
「……お前は、さっきの声の」
「はいー。カナリーちゃんですよー?」
「そ、そうか。どうも……」
前触れなく一瞬で見知らぬ部屋に連れて来られて、レーヴァは完全に思考がパンクしてしまっている。頭の処理速度が追いついていないといった感じだ。
従来の気の強さは鳴りを潜め、今はかわいらしく、きょときょと、といった感じで周囲の光景を見渡している。
まあ、見渡したところで絶対に答えが出る事はない。ここは異世界。物理的に彼女が足を踏み入れるはずがないはずの空間である。
「という訳で、はい、助けたけど」
「……はっ? はっ?」
「良かったですねー。助かりましたよー? あとはこの世界で、平和に楽しく余生を過ごすといいですねー?」
「何を言っている! いやなにが起こっている!? あと余生とかいうな! まだ若いわっ!」
「ツッコミが出来るなら安心ですかー」
「いや、逆に混乱してる証拠じゃないかな……」
単に一瞬で室内の模様替えをしただけではないと証明するように、ハルは彼女を導きドアを開ける。
恐る恐る外に出たレーヴァの目に飛び込んで来たのは、もう二度と目にする事はないと覚悟したのかも知れない外気、肌を撫でる自然の風、そして何より降り注ぐ陽光。
これが『夢』ではないかと疑うプロセスが終われば、いよいよ状況を理解してくれるだろうか?
「しかし、思い切りましたねーハルさんー。一気に後には引けなくなりましたよー?」
「まあ、仕方がない。ああして覚悟を問われたんだ。僕も適当には誤魔化せないさ」
「確実に色々な勢力にケンカを売りましたがー」
「まあ、それもいい。どのみちここのところ、行き詰ってた感はある。むしろこれからはこうして積極的に挑発して、向こうの動きを引き出していくのも良いかも知れない」
「ですかー。まあー、なんとかなるでしょー」
そう、なんとかしてみせる。さて、これで誰に宣戦布告をしたのかは分からぬが、覆水盆に返らず。
ここからは全力で、ハルの方からかき回していくことにするしかないようなのだった。




