閑話6
「…………」
「…………」
「これ、均……?」
「均ですね……」
散々大混乱して、まともに収集が付かなくなってなし崩しで学校が休みになった日、均のおばさんの所に行って動画と写真を見せた。
少し離れたこの場所まで避難勧告が出て、一時近くの公民館に避難していたらしい。
あんな訳の分からない事が起こったなら、無理はない。
大体、誰が信じるんだ。
異常な姿の化け物が高校のグラウンドに出現して、かと思ったらテレビの特撮のロボットが現実に現れて戦っていたなんて。
しばらく報道系とオカルト系界隈は大騒ぎだぞ。
「ええと、まず写真だけど」
最後、均があの二人とどこかに行く、というか消える前に撮った写真だ。
髪、服、瞳にまつげまで全身真っ青で気の強そうな若い女とデカい黒人野球選手と均が一緒の。
この二人に用心深い均が懐いていたのが印象的だった。
「この二人、ウチにも来たわね。どうやってウチの中に入り込んだのかわからないけれど、女の方がカーペットの下に潜り込んでいたから踏んずけちゃったわ」
そんな事ある?
「いきなりテレポートしてそんなところにいたんですかね……? いなくなり方もそんなだったし。均の方はどこにいたんです?」
「屋根裏から降りてきて……、なんだっけあのアニメの女の子」
「アリムですね……おれの目の前でアリムに変身しましたよ。なんかいつの間にかできるようになったとか言ってました」
「その子から均の姿になったの。いつの間にできるようになったって……何?」
「言ってなかったんですね……いや、そんな事言われても」
「訳が分からないよね……」
「それで、動画の方ですよ」
「こっちの方が酷いわね。もう一度再生してくれる?」
部室から均のスマホで黒人野球選手と通話しながら撮影した動画だ。
部室にあったプラモデルのG・Gをグラウンドに投げたあたりから動画が始まっている。
「う……、やっぱり気持ち悪いわね……」
「慣れないっすね……。ここで止めときます?」
正直、もう見たくない。
「ごめん。続けてもらえる?」
ですよね。
「はい。続けます」
気持ち悪い色彩の人々が関節を脱臼させても無理だろう体勢で、えぐい程積み重なり、人間の形を作り上げている。
その姿を見れば、吐き気が果てしなく湧く。
そんな異常な存在と動画の中で均ともう二人は、戦っている。
信じられない。
「さっきも見たけれど……このプラモ、飛び方が随分変ね」
改めて見れば軌道がUFOレベルで無茶苦茶だ。何回鋭角に曲がっているんだ。
ドローンでも無理だ。
「いや実は、この青い女と黒人選手とこの騒動が起こる直前に会っているんです。偶然。体育の時間にフェンスの向こうにいて、一瞬でフェンスを乗り越えたと思ったらおれやみんなを吹き飛ばしまして。おれだけはバットで痛みもなんもなくグラウンドの向こう側まで飛ばされたんですけど、他は風に吹き飛ばされてるんです。
多分、それと同じで意図的に風で運んでいます」
「風って……どんな扇風機を器用に使っているの?」
扇風機って。いや、今の科学じゃここまでの突風はそれ以外じゃ考えにくい。
「あ、でも。うちから高校まで一瞬で窓から文字通り飛んで行ったから、何かそういう事ができるのかもしれないわね。超能力みたいな」
……ここから高校まで結構な距離あるぞ?
風だとしたら、台風どころの突風じゃない。
「そういう能力があると言われても信じるしかないんですが。
さらにこれの動画の前にはグラウンド全部を竜巻が占領してましたからね。この位の風なら簡単に起こせるんでしょう」
「あ、ここから見たわよ。信じられない大きな竜巻が起こってたわよ」
「まあ、そんなのを気にもならない事がさらに起こり続けるんですけど……。次ですよ」
地面に真っ黒な影が墨を流したように広がった。
そこに気持ち悪い巨人が足を取られたのか動きを止め、そこに均が、アリム状態からアイアンゴーレム状態に変化して突っ込んだ。
「均……他のにも変身できたのね」
「アイアンゴーレムですね。ゲームキャラです。均が変身したのはアニメやゲーム、特撮のキャラだけです。何か制限があるのかも。問題は」
そう、問題は。
「次よね」
何故か落雷が雨の様に降り注ぎ、そんな中G・Gがとんでもない軌道を描きつつ、異常な異形の存在が手や触手的な物を伸ばしまくりながらの妨害を掻い潜り、黒人選手がバットを放り投げてG・Gを弾き飛ばし、均の手に渡った。
ここからだ。さらなる信じられない事は。
音が聞こえてくる。
シュピイイイイイイイイイイイイン、という小学生の頃散々聞いてきた音が、動画からも聞こえてきた。
均が光輝き、大きくなっていく!
4階建ての校舎より大きく、あの不気味な異形の存在よりも大きく力強く、グラウンドに立った!
「やっぱり、均ね……。信じられない」
「G・Gっていう日曜朝におれらが小学生の時やっていた特撮の巨大ロボットです。ゴールドレンジャーっていう番組の」
「ええと、均と弟の俊が好きだったわね。兄の昇はそうでもなかったけど。でも、どうやってこんな変身ができるの?」
「科学的にあり得ないはずなんですよね……」
質量保存の法則とか数えきれない位の科学の法則や定理をこれでもかって無視しているのは間違いない。
科学本好きの均本人が一番ツッコミを入れまくるに違いない案件だ。
変身しG・Gになった均が異形の存在に対してボクシングで攻撃をし始める。
虹色の液体がG・Gとなった均を削って来る。
「テレビじゃ剣とかの武器で攻撃してたと思うけれどそういえばどうしたのかしら?」
「いつもまず相手に対してパンチするんですよ。ただバリアーで防御するんですが、均はやっていません。何かできない理由があるのかも。
ただトドメに剣を振るおうとはするんですけど」
そのトドメの前に、黒人野球選手がバット一本でサッカーゴールやフェンス、ラグビーのゴールポストを打ち上げ、異形の存在に突き刺す。
さらに執拗に雷が落ち続けている。
改めて聞くと「裁かれろ」という女の声が聞こえる。
……あの青い女が装置か何かを使って雷を落としているのか?
「ビッグリーガー舐めんな」
そんな言葉がこの修羅場に入る。
心強く聞こえた。
しばらく三人での攻撃が続き、異形の存在は動きを止める。
すっかり焼け焦げ串刺しにされ、丸くなって。
「動画見たのは二度目だけど……」
均のおばさんが言う。
「これで終わらないなんて」
悪夢だよな。
その悪夢は執拗に続き、しかも悪化する。
均がG・Gお決まりのトドメとしての剣の一撃を決めようとした時だった。
G・Gが弾き飛ばされる。設定上100トンあるはずなのに。
均が変身してるからもっと軽いかもだけど、相当に重いはず。
そして……。
動画を止める。
「すいません。トイレ借ります」
「そうね、ちょっと休憩が必要ね」
う、吐きそう。
胃の中を戻し切って、胃にいいというお茶を貰って、再開。
正直もう見たくないけど、おばさんにはおれが持っている情報を渡さないと。
均との約束だし。
丸まっていた異形の存在。
その背中から、無数の何かが湧き出してくる。
急いで窓を閉めると、外は人の顔をした羽蟲が大群でへばりついてくる。
「ゲームセットはまだだ! ダチ公、諦めんな!」
均がこの人に懐くのは当然な気がしてきた。
年は20代くらいでこのメンタルは普通じゃない。
そして次の行動が、これはこれで普通じゃない。
「金色の布よね? どこから出したのかしら」
「動画だと聞きにくいですが、金貨を女の人が持っていたらしくて。それをバットで打って広げて飛ばして、この羽蟲を一網打尽しているんです」
「……それって、できるものなの?」
「無理です」
その無理を押して、羽蟲はまとめて捕えられ、均の腕にキャッチされ握り潰される。
そして地面に落とされ、そこに待ち構えていた穴にも見える真っ黒い影の中に落ちていった。
これって。
「穴でも掘ったというの?」
「いや、ずっと見ていましたけど穴なんて掘っていないですし、少ししたら元の地面に戻ります」
「飲み込まれろ」そんな女の声が聞こえる。
恐ろし気な声だ。
関係あるか、わからない。
それを何度か繰り返し、羽蟲を始末し続ける。
今度は泣き声が聞こえてくる。
悪夢が終わらない。
執拗すぎるだろ!
誰かが仕組んでいるとしたら、性格悪すぎだ!
丸くなった、羽蟲が出てきた異形の存在の背中。
そこから泣き声。
ゆっくりと異常な外見の赤ん坊が出てきた。
あの羽蟲を口から出しながら。
「誰なの? こんな赤ちゃんを作るなんて……」
すると、動画から音が消えた。
画面ではバットが超高速でスイングされたのは見える。
一体何が起きた?
赤ん坊は泣きやみ、G・Gが赤ん坊を拾い上げ、あやす。
こうなると色とか大きさを無視すれば普通の赤ん坊に見える。
「飲み込まれろ」
はっきりと聞こえた声と共に、赤ん坊は消えた。
次のシーンは10円玉みたいなコインをバットで打って、羽蟲の残党を処理する光景になる。
また「飲みこまれろ」という声が聞こえる。
やっぱりこの声があの穴のような影をつくるトリガーになっているようだ。
「あ、均。ここで元に戻ったのね」
一通り終わったところか。
ここで均に電話越しに呼び掛けたけど、電池切れなのか反応がなかったんだよな。
「佐藤君、ここで戸惑ってるけど何があったの?」
「なんか頭に直接声が聞こえてきたんですよ」
本当になんだったんだか。
そして、均とあの二人が窓から部室に入ってきた。
ここで動画が終わっている。
「二回動画を見たけれど、やっぱりわからない事ばかりね」
「そうなんですよね。この動画の後、写真を撮って野球選手が背負っていた変な剣の柄を部室で飼っている蛇に咥えさせて、落とし穴に落っこちるみたいな形でいなくなりました。その剣をちゃんと抜ける人を探して均ともう二人はあちこちいろんな所に行く羽目になっているって言ってました」
「でも休憩もなしにいなくなるなんて、そんなに急ぐ必要あるのかしら?」
「なんかあまり同じ場所に留まっているとあんな気味悪いのがまた襲ってくるとか」
「じゃ、息つく暇もないじゃない。だからね、うちから大急ぎで高校に移動したのも。この辺りで一番広い場所だから。
……本当に均は大丈夫かしら」
「均が懐いているあの二人が一緒なら大丈夫でしょう」
「そうかしら」
「た、多分。
よくわからない事が起こったわけですが、均とあの二人も十分訳の分からない現象をおこして今まで生き残って、元気な姿を見せてくれたんで」
「信じるしかないわね」
「ですね」
均、親御さんを心配させてんだから戻ってこい。
あと勉強のプリントも死ぬほど溜まっているぞ。
覚悟してろ。
ちゃんと保存してファイリングしてるからな。




