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三十話 グラン魔王国戦記7

 雲の切れ目の眼下に、進軍する騎馬軍団が見える。

大平原を蹂躙した、“剛腕”の軍勢だ。

魔王同士は連携を取ろうとしないから不安だったが、歴戦の猛者の“剛腕”だけでもあの“善政”こと“禁断”を征するのは問題ないだろう。

それに行動が読めないだけに相手にすると厄介極まりない“淫欲”もこの戦争に加える事ができた。

何やら目的があるようだが、どんな物だろうがくれてやる。

今この時だけでも戦力になりさえすればいい。

もう一人の巻き込めた魔王が、ボクの目前にいる。

強張り萎縮する赤い髪の魔王が。


「言っておくがこれ以上の速度は出ないぞ」

「そのようだな。高度は下げるなよ“騎竜”」

若造だけに制御しやすいな。

癖の強い魔王たちに、いずれ食われてしまうだろう。

真っ向から進軍する“剛腕”に、崩された街道に苦戦していると言いつつ水面下でおそらく動いている“淫欲”、それに巨大な竜たちを従え行進していると見せかけてボクと空から

侵入している“騎竜”。

 希少な飛竜の存在を知り、かつ乗り回せるのはこの魔王とごく少数の者だけだ。


この事態に“禁断”はどこまで対応できるか。

そしてボクの存在に気づいているのか。

グラッスと今は名乗る男が将として指揮を執っているという。

戦略に長けた男と呼び名通り禁断を操る魔王。

たとえ魔王たちがこの国を征服できたとしても、油断はできない。

 そう、万が一飛竜もなしに空を飛び交うなんて事はないにせよ……。

「おや、久しいな。ジェトリック。いや、“騎竜”と呼んだ方がいいのかな」

……やっていた。

「それと初めてお目にかかる。勇者殿」


「ぜ、“善政”! よくここまで!」

「ジェトリック、おっと“騎竜”。先代とはともかく、君とは良い関係であったと思ったのだがな。藍青石の指輪は君の奥方が大層気に入っていたし、君もまた喜んでいた」

“禁断”は奴が考案した兵器、イラクサに捕まりここまで飛んで来たようだった。

風魔術で飛ばす、釘を打ち込んだ板に帆を張った、安価で魔術師が多くいるのなら十分脅威となる一品だ。

禁断を容易に操れるくらいだから、風魔術を常識外に使いこなしてそんなもので自由に空を飛ぶのも可能だという事か。

「して、勇者殿。今、君を我が国は歓迎しかねるがね。それでも入国をしたいのかな?」

「征夷省の官、勇者としてそれを希望したいね」

「私に謁見希望かな?」

「それは今してるだろ」

「ここで謁見は礼を失するであろう」

今やる事は魔術を悟られないように展開する事だ。


声である程度その魔術ごとに決まった声を発するのが魔術の展開の基本だ。

そうしないのなら、途端に難易度が上がる。

魔術を扱うにあたって、外部との接触を断ち切って魔術の探求に明け暮れる“岩窟”に並ぶ“禁断”なら容易に行うはずだ。

 心の中で声を挙げる。

「『耳よ、聞け』」と。


「かのような不作法を行う者とは謁見はしがたいね。勇者殿」

……バレた?

「征夷省の勇者たちならば多くが通信魔術を傍から不正に受け取る魔術を使う。特に優秀な勇者である君ならね。声を出さなくとも使った事は私にはわかるのだよ」

化物を目の前に使うべきではなかったかもしれない。

だが必要だった。

“騎竜”が「助けてくれ」とやはり通信で言っていたのだから。

「ジェトリック」

“禁断”が思いかけず優しい声を出した。

 ボッ

「うわ!」

「痛い!」

「こちらも不作法だったがね。君が勇者殿を乗せて単騎でここまで来たのも納得だ。そしてだ」

下から何か聞きなれない音が聞こえてくる。

横目には国境にある関所。

“剛腕”が攻め込んでいるはずの最前線。

そこには船のような、気色悪い色と柄をした想像を絶するおぞましい巨大物体が出現していた。

前の方、“禁断”の居城にも、その壁に何か不自然な紐状の物が侵食していた。

 あれらは……?

「ル、ルノール様! それでは手筈通りに! ご武運を!」

「ジェトリック。君もね」

不意の頭痛が和らぐ事に、言葉が解凍されるように紡がれていく。

言葉を圧縮して通信するなんて事、誰が考え付いたのか。

奴は全く世界の違う禁忌に触れでもしたと言うのだろうか。

「『吹き飛べ』」

頭痛でこちらの体勢が整っていない隙を突かれ、“禁断”の奴は“騎竜”を飛竜ごと遥か彼方に飛ばしてしまった。

ボクの服を“禁断”が両手でがっしりと掴み、ボクと“禁断”が空中で取り残されている。

ん……? 服を両手で掴んでる!? ってことは!

「では勇者殿! 君が望む謁見と行こうか!」

鳥と飛竜とそれにまたがる者、あとは常識外の化物以外存在しえない高い空から、ボクと“禁断”の魔王が落下した。


 落下しながらも圧縮された言葉が紡がれていく。

やはりあの一瞬で“騎竜”の子供をさらったのもバレたか。

ボクが属する征夷省としてそういう嫌な工作もやらないといけない。

こうでもしなかったら“騎竜”の飛竜を使えなかった。

どうやら“禁断”が何か算段をつけて解決する気らしい。

“騎竜”とは格が完全に違うな。

「言っておくが私は元から女で魔族だ」って、変な魔術を使って性別と種族を変えた疑惑が晴れていないぞ。

「私もまた、矛と槍を持ち、言葉を扱う。それを忘れないでほしい」か。

前半は魔族が交渉の時に言う文句だな。この状況でも交渉をやる気か。

正気か疑うぞ。

「私は高安の魔術大学校で学生をやっていたからな。人間たちの事は良くわかっている」……?

ちょっと待て!!

お前、ボクの先輩? どうやって潜入した?!

高安って、帝がおわす高安だよな!

 落下しながら紡がれた言葉に混乱する。

するとその言葉の中に「勇者殿。共に戦おうか」ともある。

共に?

何を言っている?

ボクと戦うんじゃなくて?

 ドサッと地面に受け身を取って地面にたどり着く。

“禁断”の奴が風を起こして落下速度を減速してくれて助かった。

……ここでなんでボクを始末しなかった?

その違和感がさっき見た何かを頭によぎらせる。

関所と城に出現した異常な色彩の何かを。

“禁断”にとっても想定外の事が起きている、だからボクを生かしている?

「さて、“山岳”と“病魔”の二人の魔王を討伐せし大黄帝国征夷省の勇者である紅・リチャード、まずはこやつをどうにかしようではないか」

目の前には闇が渦巻く、禍々しい雰囲気を醸す何かが出現していた。

「“禁断”、なんだこれは」

「“善政”と呼んでほしいね。せめて“芋食い”だ」

“芋食い”はいいのか。いやどうでもいい。

「質問に答えろ」

「私にとってもわからん。わかるのは」

闇から何かが出てくる。

産まれてくる……?

見えてきた。

絶対ありえない物体が。

“禁断”が言う。

「あれは敵だ」


「しかしこれは……いつになく酷いな」

「“禁断”お前は、一体何と戦うつもりだ」

「我が国にとって害為すものと戦う。勇者である君と同じだ。たとえ絶望的でも」

絶望か。

一瞬それを頭によぎった。

空中に浮かぶ物体。それは城。

見た事のない嫌悪感そのものの装飾の、醜悪な色彩がうねり吐き気を覚えさせる、山の様に石か何かでできた巨大な城。

こんな物がどうして宙に浮かび、敵意を感じさせるのか。

 その城の窓や出入口、タラップに人影が見えた。

その人影は……そこから落ちてきた。

様々な色合いの、人々が。

そして土を、大地を穢していく。地面とのグロテスクな激突音を奏でて。

「……これが攻撃だというのか! 『吹き飛べ』」

「どの魔族でもこんな事やる奴はいなかったぞ……! くそ『風よ、駆けろ』」

“禁断”とボクの風魔術が人々を押し返す様に風を起こす。

それでも。

「くそう! 多すぎる! 四方八方からかくも飛び降りるとは……」

あの人々は本物の人間でも魔族でも、生物でさえない。人形みたいな物だ。

だからと言って。

「あのまま落とす訳にはいかないぞ! 本当の意味で……」

穢している。

城の人が落ちた所。

その場所の草木が、枯れてしまった。

毒だ。

燃えている場所もある。煙を出し、酸か何か出している場所も。

だからと言って、このまま風で押さえ続ける訳にもいかない。

「あの城をどうにかせねば……」

根本を叩かないと、こっちが力尽きる。


 二人がかり、それも一人は化物が魔術を展開しているのにも関わらず、人の形をした物体が地面に落ち穢す。

……その人形に一瞬、人の顔があると錯覚した。

「どこかの馬鹿の愚行を思い出させたかな?」

「…………」

当りだ。

「盗賊同然だった山岳の奴か。私がかのような愚行を嫌うのは知っているだろう。やらない訳ではないがね」

こいつは、“禁断”は……いや止めろ。

今は城を見ろ。

城のあちこちに見える人影は、明らかに渋滞しはちきれんばかりになっている。

どれほどの数がいるというのだ。

「こうなると、だ」

“禁断”が風魔術の展開を止めた。

「どうしたんだ」

「君も風魔術の展開を一時止めるのだ」

「どうして……まさか。それか」

「魔術大学校の前代未聞の問題児二人が同時に行こうか」

自分で問題児だと言うのか。

ボクもそうだったけど。


 わっ、と人影が落下してくる。

無言のまま、顔に目と口を表す様な三つの点があるだけの人形が、絶望を演奏するために落下してくる。

「今だ」

今だな。

「『風よ』」

「『風よ』」

「『神の元へ行け』」

「『神の元へ行け』」

地面にそれらが激突音の合奏をする直前、風が巻き起こる。

風は落下する人影をその中に含んで、そのまま城に衝突させる。

にしても“禁断“の奴、魔術大学校出身なのは本当かも知れない。

ボクたちと同じ魔術の展開ができている。

「くそう! これでも零れ落ちるか!」

禁断レベルの旋風は、あまりに多くの人影の色彩で回る虹の如し。

それでも弾け飛んだ人影の落下が避けられない。

どれほどの人数があの中に存在しているんだ。

「後回しだ。落下してくる奴らはまだまだいるぞ!」

落下してくる人形をぶつけ続けている城。

染料が入った瓶を無作為に投げつけたみたいに人形の体液が様々な色彩で元々の極彩色の上に無作為に彩られていく。

くそ、なんであの色を出すんだ。

「帝の衣服の色彩を出てきたのが気になるかね?」

「これでも役人なんだよ。帝がお召しになられる帝黄という高貴な色が、なんであんな醜悪な物体から出てくるんだ」

「異世界の異物だ、こやつらは。それどこではないぞ、見たまえ」

城にようやくヒビが入り始めた。


 竜巻の中の木の葉と同じ動きを人形はし続け、その隙間からは城に大きなヒビが入っているのが見えた。

ようやくか。過労死覚悟だったぞ。

ぐら、と城の塔の部分がついに壊れ、風の中の人形を押しつぶしながら落下してきた。

思いもよらない戦闘だった。

まさか討伐しにきた“禁断”と共闘するとは。

ようやくそろそろ終わりだ。

「くそう……『飲み込まれろ』……やはり無理か!」

壊れた城の破片。それに“禁断”は称される言葉通りに禁断を使っていた。

だが風魔術を大規模に展開したままだからか、流石に闇の禁断は展開しきれなかった。

予想以上に理知的な“禁断”のその行動

この異常としかいえない城。

冷や汗が一気に噴き出してくる。

「来るぞ。断末魔が」

城は一瞬で粉々に砕け、木の葉みたいな人形は全て押しつぶされ、地面に落下している。

 人形の体液がかかった場所は、燃えたり溶けたりしながら粘液になって一か所に集まろうとしていた。

様々な色が集まり、漆黒にまとまりながら。


「『燃え尽きろ』」

「『炎よ、滅せよ』」

「くそう、火魔術だと効果が薄い箇所がある! しかも無作為に点在している! 落下した人形ごとに特性が違うか!」

「仕方ない、これだ『雷よ、裁け』」

雷魔術は制御し難いが、効果はあるだろう。

「待て……。効果が薄いと言うより、魔術を吸収している!」

何?

確かに、炎や雷でその動きが増している所がある!?

「ヒトシが言っていたな。テレビゲームなるものの中では相手によっては特定の属性で攻撃してしまうと、かえって回復する場合があると。前に遭遇したこやつの同類でも光による攻撃で似たような事があった」

「なんだそれは」

「つまり、私たち魔術師の攻撃を吸収してしまう輩かもしれんのだよ!」

最悪じゃないか!


 徐々に、かつ予想外の速度で粘液が集まってくる。

「『飲み込まれろ』……逃げられた!」

“禁断”の地面に広がった闇魔術を、体を一部闇の中に沈めながら粘液が動く。

そのままボクたちへ向かってきた。

「ならこれだ『地よ、崩れろ』」

土砂崩れに巻き込ませる。

「まだだ。『崩れ落ちろ』」

さらに“禁断”が追撃。

さすがにこれで……いや。

岩の隙間から何か出てくる。

黒く油の様にテカった、何かが。

「危ない!」

“禁断”は両袖から棒を取り出し弾く。

よく反応できたな。

狙ったのか、ボクの方ではなく“禁断”に向かって行った。

魔術師が護身的に使う武術のリャンコンか。魔族ではストゥと呼んでいるようだが。

しかしこれは……?

荒い壊れた網でも投げたのか、地面にはその黒い何かが広がった。

「ダメだ! 『燃えろ』」

“禁断”は棒と腕を繋げる紐を焼き切った。

次の瞬間、黒い何かは射出した元へ、戻っていく。“禁断”が持っていた棒も一緒に。

土も草も大木までその黒い何かで粘着させ絡め取って。

「しまっ……」

しまった、棒を両方取られてしまった。

その言葉を“禁断”は最後まで言わなかった。いや、意表を突かれたから言ったのか。

引き込んだ物体全てが“禁断”に向かって発射されたから。


「……ぐ……あ……」

「無理するな」

「ここはどこだね……?」

「あの粘液が集まった奴から少し離れた場所だ。“禁断”お前は気絶していたんだ」

「どれくらいかな……?」

「と言っても少し。大学校の食堂の汁かけ飯ができる位の時間しか寝ていない」

「あれは安く早く、なかなか旨くて助かったな」

「ボクみたいな貧乏学生はあればっかだった」

「養殖した焼き芋虫を添えればさらに旨かったがね」

「そんなモン食ってたってやっぱあんた、あの不屈の陸・ルチアか」

“芋食い”って芋虫食いって意味もあるのか……。

「そうだ。人間の戸籍ではその名だったよ。通訳魔術の特許申請もその名だ。では反撃と行こうか」

“禁断”はもう立ち上がり、敵へ向かう。

着ている服は破け、肌着と無駄のない引き締まった体に棒を格納するのに使っていた小手を露わにして。

魔術で直撃を避け、小手で衝撃を和らげたとは言え、全身傷だらけでダメージは大きそうだ。

 避難していた窪地から様子を伺おうとしたら、運悪く顔面に突如崩れた土砂を喰らっていた。

あの粘液が巻き起こした惨状を目にしただろう。

それでも立ち向かう。相手へ向かって行く。疲れ果てた難民同然の格好で。

敵であるボクに背を見せながら。目は死んでいない。

――――――――――――――――これで済むなら、上等だろう

不屈と呼ばれた伝説の貧乏学生が試験前日の夜、住み着いていた洞穴に冬眠しようとやって来た巨大熊と徹夜で激闘し、ボロボロになりながら登校してきた際に言い放ったという、言葉を思い出す。

よろけながらも不屈の問題児は変わっていない。

じゃあ、もう一人の問題児はどうする?

魔王と共闘してしまっている、この勇者は。

「決まっている。もう一度だ」


「『天よ、癒したまえ』」

「おや、君が治療してくれるとは思わなかったよ。私を討伐しに来たというのに」

「交渉できるまともな相手がいなくなるのは困るんだよ。あの裏山に作ってくれた洞穴に住んでいた貧乏人として、お礼をまだ言っていないしな」

「それも意外だね、あの洞穴はまだあるのかな」

「大学校で一番の貧乏な問題児が代々住み着いてるよ。家賃がかからないからな。退散命令が出ているけど、みんな無視してる。隠し通路のお陰で借金取りから逃れる事ができた。あれには色々助かった」

「私が魔族と知れた時のための脱出路が君に使われたか」

「先輩、ここは協力しよう」

「後輩よ、では頼む」


 今はあの粘液はじっと土砂の下で押し黙っている。

戦っていた山は、神々の悪ふざけの如く酷く抉られていた。

どの魔術師でもここまでの事をこの短時間でやれはしない。

「『飲み込まれろ』」

また禁断の闇魔術が展開される。それも土砂崩れの範囲を大きく超えて。

その時だった。

潜んでいた粘液が高く跳び上がった。

そして四方八方に壊れた網の様な物を撃ち出してくる。

こんなものに触れたら、命はない。

その隙間を狙って。

「『風よ、彼方へ駆けろ』」

強力な風によって折れた大木を打ち込む。

それにより、粘液の動きが止まった。

「では喰らえ。『吹き飛べ』」

今度は岩石が軌道を描いて、潰した。

これでどうだ……?

「……?」

「どうした? 先輩」

「奴の色艶が、おかしい」

「……また来る!」

 壊れた網状の何かは、今までになく発射された。


「くそう! 『吹き飛べ』石や砂では『吹き飛べ』ぶつけても回復してしまっている!!」

「よくわからないけど『風よ、彼方へ駆けろ』『風よ、彼方へ駆けろ』ぶつけるなら樹じゃないと『風よ、彼方へ駆けろ』ダメか!」

「……よし」

「『風よ、彼方へ駆けろ』アレを風で避けるのが背一杯だぞ! 何かあるのか?!」

「『吹き飛べ』耐えよう。凌げ」

「え?」

「『吹き飛べ』危ないぞ。触れたら最後だ。『吹き飛べ』ここまで大事になっているのだ。来るはずだ」

「誰がだ」

「とは言え、こちらでも動かんとな。来るかどうか確実でもない。『吹き飛べ』私が囮になる。『吹き飛べ』君は樹を風で飛ばすのに専念するのだ」

一瞬見回す。

確かに大きな樹木は切られている。

ただ目の前の奴に荒らされそこまで大きくない。

これでどこまで効果が出るのか。さっきやった大木を打ち込んだので決定的じゃなかったんだ。

それに砂や石が混ざるだけで奴は回復する。

「早くやるのだよ。後輩よ。20年は先輩の私を信用したまえ」

先輩は飛んでくる岩石をボクの分まで飛ばし、避けている。

……やってやる。

「『風よ、渦を巻け』」

風で木材だけを選別。

「『駆けろ』」

続けて礫として奴にぶつける。

「よし『吹き飛べ』」

それに更なる風が加速させる。

それらは奴にめり込み、傷となって残る。

……でもまだだ。

足りない。

なおも次々と壊れた網状の物体が飛んでくる。

先輩は、“禁断”は耐えろと言った。

だが、どこまでだ。

「BATTER CHANGE! I’M PNCHI HITTER!」


いきなり大きな声が聞こえてきた。

「IN PLACE OF RUNO BESIDE WOODLAND・WARRIORS NUMBER15 NICK・WEISZ!」

地面が揺れる程の大声だ。一体どこの言語だ?

すると干し肉をかき込み、水で喉に流し込みながら走ってくる男が来た。

“禁断”に負けない位の怪我を負った、見た事のない服装の黒い肌の男だ。

遥か南方にしかいない民族がなんでここに?

「俺が行く!」

「ニック! 来るぞストレート・ボールとやらが! 奴には木材だけを当てるのだ!」

「OK!」

男は携えていた棍棒を掲げて、構えた。

不意に傷だらけの男の周囲が歪む。

熱気。

不屈が、もう一人の不屈を呼び込んできた。

「ッシャア!」

棍棒ひとつで的確に木と石をより分け、砂さえも棍棒を振るう風圧で捌き切っている。

……何て言うとんでもない人材を隠し持っていたんだ!

しかもその飛ばした木は、正確に奴に物凄い衝撃音を与えている。

「ヒトシ、頼むぞ」

何かの影が映る。

「オマカセクダサイマセ。ゴシュジンサマ――――――――――――――――――――――――――…………ォォォオオオォォォ…………」

変な声がしたと思ったら巨大な塊が落下してきた。

「…………ォォォオオオオォォォ…………―――――――――――――――――正義の! 剣を! 食らうのだ、ダークシャドウよ!」

次の瞬間には巨大な塊だと思ったそれは赤い男に変化し、落下の威力のままに、剣を突き刺していた。

「『飲み込まれろ』」

動きを止めたところを禁断により始末をつけた。

赤い男は高く飛び上がり、こっちへ着地した。

あの場所に奴はもういない。


「さて」

「終わったか」

「の、前にだ『燃え上がれ』」

なんで魔術を?

すると。

「大丈夫でございまするか! 魔王様!」

木々をなぎ倒しながら爆走してくる巨人が、全身を炎に覆われながらやって来た。

……ん? 女?

てことは、マールー・カエサリア?

「おや、甲冑が壊れてしまったのか。相当ひどい戦いだったか」

「いえ、お客様のお身体が大層冷えていたので」

「壊したか……。鍛冶屋があれ以上頑丈にできないと言っていたのだがな」

って、なんで何ともないかのように会話するんだ。

手で叩いただけで、あの炎がもう消えているぞ。

その前に、燃やす必要があったのか?

「ではニック、ヒトシ。マールーもだ。構えたまえ」

「ん? おう」

「同士よ! 何があってもこのキャプテン・レッドが対応してみせよう!」

「承知いたしまする」

黒い肌の男と赤い男と巨躯の緑髪の女に青い魔王がそれぞれ独特の構えを、ボクにむかって取った。

「ここに四本もの矛と槍がここにあり、私は言葉を扱う。勇者殿、交渉の時間だ」

やられた。


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