表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/99

入学式

「新入生代表、レイル・エヴェレット」


 なんでこんな事になったんだ?

 俺は今王立宮廷魔導学園の入学式に参加していた。

 だが俺が現在立っているのは、多くの生徒が立ち並ぶ会場の列ではなく、一団高くなった壇上であった。

 会場全体の目が今まさに俺に注がれている。


 ……今すぐにでも逃げ出したい。


 衆人の目にさらされながら、俺の心臓は蛇に睨まれたカエルのように縮こまっていたのである。






「あっ、あった。レイル見て見て、あったわよ私の名前」


 食堂で食事を終えた俺とアイナは、ミラルド達と別れ合格発表の掲示を見に来ていた。

 ヒルデが俺から離れたがらなかったが、この後どうしても外せない用事があるとかで、しぶしぶミラルドに説得され城へと帰っていった。

 それに伴いアイナの機嫌ももとへと戻ったようだった。

 

 なぜだろう、どうやらアイナはヒルデのことが気に入らないようだ。

 王女様だからといって、構えずに仲良くしてやっても良さそうなものなのに。


「ほらほらレイル、見てってば」


 掲示板の左上、最初の方にアイナの名前はあった。

 どうやら名前順に掲示されているらしい。

 

「ねえ、レイルはもちろんあったんでしょ?」


 そうだった。

 喜ぶアイナを見て呆けていた俺は、自分の名前を確認する事をすっかり忘れていた。

 一喜一憂する他の受験生の群れをかき分け、掲示板の前までやって来る。

 ええっと、俺の名前だと最後の方から見たほうが早いだろう。

 多分右下の一番はじのほうにあるはず――


「レ、レ、レ……」


「どうしたのよ?」


 見つからない。

 そもそも『レ』から始まる名前すらない。


「うそ、まさか?」


「ごめんアイナ、どうやら僕は落ちたみたいだよ」


 やはり会場を半壊させた事がまずかったのだろうか?

 周りの反応がそれほど大袈裟でもなかったので、楽観的に考えていたが、どう考えてもあれが原因だろう。


「嘘でしょ? レイルが落ちるわけないじゃない。待ってなさい、ちょっとここの教師に文句行ってきてやるわよ!」


 おいおい止めてくれ。

 落ちたのは俺だけじゃないんだ、自業自得と思えばあきらめもつく。

 アイナには悪いが、来年また挑戦するよ。

 それともいっそ、両親の希望など無視して丁稚奉公でもしようかな。

 魔道具屋とかなら働いてみたいし。


「どうしたレイル・エヴェレット、随分騒がしいな。そんな事で新入生代表が務まるのか?」


 俺が落ち込み現実から目を背けていると、そこに話しかけてくる者がいた。

 からかいやがって、どこのどいつだ?

 これでも多少は、落ち込んでいるんでいるんだぞ。


「顔をあげてよく見てみろ、お前のような非凡の才を持つ者を不合格などにする馬鹿が、この学園にいるとでも思っているのか?」


 そう言われ俯いていた顔をおもむろに上げると、そこには一人の女性が俺を見下ろしていた。

 燃えるような赤い髪を束ねあげ仁王立ちするその格好からは、女性というにはあまりにも貫禄のある刺すような威圧感を漂わせていた。


「もっと上だ、掲示板の中央最上部。お前にふさわしい壇上だろう」


 俺は、言われたとおりの所を目で追いかけていった。


「あっ……あった」


 確かに俺の名前があった――そこは掲示板の上、別の板をわざわざあつらえ一際大きな文字で記してあった。

 そして名前の上に『主席合格者、新入生代表』の文字が、かんむられていた。

 なぜか安心したというより、逃げ出したい気持ちが先行する。

 なにこれ?

 何の羞恥プレイですか?


「良かったじゃないレイル。それにしても主席合格とは、さすが我が主ね」


 同じように俺の名前に気づいたアイナが、喜んでくれる。

 しかし、褒められ方が全然うれしくない。

 はじっこが良かったのに……やっぱり会場を壊したせいでこんな辱めをうけているのだろうか。


「ではな、レイル・エヴェレット。明日の入学式ではせいぜい気の利いた挨拶をすることだな」


 それだけ言うと、その赤髪の女は立ち去ってしまった。

 この学園の教師だったのだろうか?

 まあいい――それより一応合格できたようなので家に帰って報告しよう。


「アイナ、じゃあ帰ろうか?」


「そうね、カイル様もクレア様も心待ちにしているはずよ」


「はははっ、まあ二人共合格を信じて疑ってなかったみたいだから、僕としてはホッとしたけどね」


「なによ、会場を半壊させといて。ほんと、変な所気が小さいんだから」


「あっ、えっと会場の件は内緒でお願いします……」


「ふふんっ、いいわよ別に。ただし、貸しだからね」


 なんだろう、アイナがわざわざ貸しなんて言い方するなんて。

 何か嫌な予感がする。


「あら、いいのかしら。カイル様はともかく、クレア様はなんて言うかしら?」


「……承りました。貸しひとつでお願いします」


「ふふふっ、よろしい。ちゃんと返してもらいますからね」


 などとくだらないやり取りをしながら、俺たち二人は家路を後にした。






 それが試験後の昨日の出来事だった。

 そして今、俺は新入生代表としての挨拶のため、壇上に立たされている。


「どうしたレイル・エヴェレット、早く挨拶をしろ」


 壇上の下より、俺が挨拶を始めるよう即す人物がいる。

 昨日の掲示板の、女教師――いや正確には、この学園の理事長エイル・アウリーンだった。


「早くしろ、皆お前の言葉を待っているぞ」


「はっはい……」


 壇上の裾より見上げられているのにこの威圧感……なんと恐ろしい人なんだ。

 その燃えるような髪の色とあいまって、凄まじいまでの美貌を備えている。

 だがその眼光は、俺からそらされることなく、さっさと喋らなければ命はないぞと脅されているかのような恐怖を俺に与えるのだった。


「ふう……ええ皆さんこんにちは、レイル・エヴェレットです。今日は、僕のような若輩者にこのような場で、皆さんを前に話す機会を与えてくださった学園の先生方にお礼を申し上げたいと思います。僕が、この学園に入るきっかけとなったのが――」


「つまらん、やめろ!」


「へっ?」


 突然先程まで下にいたはずの理事長が、壇上に上がってきていた。


「お前たちよく聞け! このレイル・エヴェレットはお前たち新入生の中で最も優れた魔法技術を備えている。よってこの小僧を倒すことを今季の1期生の課題とする。最もはじめに成し遂げたものは、即宮廷魔道士ないし騎士団に推挙してやろう。いいか早い者勝ちだ、心してかかれよ」


「おおおおおぉ!」


 すいません、この理事長が何をおしゃられているのかとんと理解できません。

 というか、途中からほとんど耳に入りませんでした。

 しかし、なぜか会場中は異様な熱気に包まれている。

 おかしい、俺の平穏な学園生活はどこに行ったのだろう?

 俺はなるべく目立たない平凡な人生のために、時間を遡って来たはずだったのに……。


「冗談じゃないわ!」


 沸き立つ新入生一同の中で、突如一際大きな叫び声がこだまする。

 その声の当人は、生徒の列をかき分け壇上へと飛び上げってきた。


「全員聞きなさい! レイル・エヴェレットは、私アイナ・バーンズの主であり、私の所有物よ。だから、これを倒したいと言う者は、まず私に挑戦しなさい。私こそが、レイルを倒す唯一の権利を有しているのだから」


 ……だあああああっ、もう勘弁してくれ。

 なに、なんなのこれ?

 もう俺の周りには、馬鹿な子しかいないの?

 教師もあれなら、幼馴染はそれをはるか斜め上に行く。


 どよめく会場。

 沸き立つ新入生。

 得意げなエイル理事長と、アイナ。

 なぜか当事者である俺だけが、陳列された商品よろしく黙って壇上に佇んでいるのであった。





「とても大変だったようだね、レイル君」


 口元に満面の笑みを宿し、その目を輝かせながらミラルド王子が話しかけてきた。

 その後ろには、先程の入学式にはいなかったヒルデ王女がそっと隠れている。


「でも、レイル君なら大丈夫。きっと並み居る新入生を片っ端から、ちぎっては投げちぎっては投げと死屍累々を築いてくれるだろうしね」


「ラルド様、なんだか僕を誤解されているような?」


「またまた謙遜しちゃって、レイル君は、そうやって隠し事をするのが好きなんだから。でもね、あの人の前ではそれは通用しないと思うよ」


「あの人?」


「エイル理事長さ。あの人には下手な常識や理屈は通じないから」


「まあ、そんな感じはしますけどね……」


 言いつつも、ついつち頬がひきつる。


「まあ僕らが、あの人のことをあれこれ言うのも何なんだけどね」


 何やら奥歯に物が挟まったような言い方をするな――何かあるのか?


「そうそう、じゃあそろそろだ。ヒルデを頼んだよ」


「はい、では一緒に教室にお連れします」


 つい先程だが、入学式が終わり自分たちに割り当てられた教室へ向かう途中、俺はミラルド王子に呼び止められた。

 俺とヒルデが同じ魔法学専攻のクラスへと分けられたので、教室まで一緒に行ってやってほしいとのことだったのだ。


「賢者様……手つないで」


 賢者様か?

 この兄妹は、たまに俺のことをそう呼ぶ。

 特に妹のヒルデ王女は、必ずといっていいほどだ。

 一度その理由を聞いてみたいものだ。


「では参りましょう、ヒルデ様」


「いいなあ、ヒルデ。僕もレイル君と一緒の教室がいいなあ」


 よくわからんが、バカ王子は放っておこう。

 ちなみに、アイナは剣術専攻クラスだった。


「なんで、私とレイルが違うクラスなのよ!」


 などと怒鳴っていたが、それは自業自得と言うものだ。

 実技試験で魔法剣など披露してしまえば、必然的にこういう事になるのはわかりきっていただろうに。

 ぶつぶつと文句を言い続けるアイナを尻目に、俺一人別棟にある教室へと向かっていたのである。


「はやく……いこう賢者様」


「ああ、そうですね。申し訳ありませんでした、ヒルデ様」


 俺に答えるかのように、握った手をぎゅっと握り返してくる。

 この同い年の少女はその可憐な容姿もあいまって、本当に愛らしく儚げである。


 羨ましそうに俺たちを見送るミラルド王子を後に、俺たち二人は兄妹のように仲良く手を繋いで魔法学専攻の教室へと歩いていった。



俺達二人が教室に入ると、既にほとんどの生徒が席についていた。


「おいあれ、レイル・エヴェレットだろ」

「一緒に入ってきたのって誰だ?」

「ブリュンヒルデ王女様じゃない? 入学式ではお見かけしなかったけど、今年学園に入るって噂はあったわよね」

「おいおい、入試トップと王女様とか出来すぎだろ」


 さっそく教室中の注目を集めてしまったようだ。

 先程までにこにこと上機嫌であったヒルデも、俺の背に隠れて縮こまっている。

 そういえば兄ミラルドの背にもよく隠れているな。


「さあヒルデ様、席につきましょう」


 俺は空いている席がないか教室を見渡す。

 すると後ろの方の席で一人の少女が手招きをしていた。


「ほれ、王女様達こっち空いてるで」


 なるほど少女の隣がちょうど二人分空いている。

 俺はヒルデの手を取り、手招きするほうへと着席した。


「ありがとう助かったよ。わざわざ教えてくれて、すまないね」


「いやいや、こないな事なんでもないねん。そないにしゃちほこばって、かしこまられるとうちのほうが照れてまうわ」


 金色の髪を肩口で切りそろえたその容姿は、話し方とあいまって随分と人懐っこく愛嬌を感じさせる。


「僕は、レイル・エヴェレット。どうぞよろしく」


「なんや、今更自己紹介なんかせんでもよう知ってるで。あんさん有名人やさかいに。うちは、ヘリアン・ルパトリアン。リアンって呼んでくれてええよ」


「ありがとう、リアン。僕もレイルと呼んでくれ」


「ほな、その後ろの王女様も紹介してくれへんの?」


 ヘリアンと名乗った少女が、俺の背中に隠れるように座るヒルデを指差す。


「ああ、そうだったね。こちらはブリュンヒルデ王女殿下、仲良くしてあげてくれよ」


「王女様、ごきげんさん」


「……よろしく……お願いします」


 そうやって俺達がお互いの自己紹介をしていると、教室に男の教師が一人入ってきた。


「貴様ら静かにしろ、授業を始めるぞ」


 どうも見た覚えのある顔だな。

 どこで会ったっけ?

 その教師は、教壇に立ち教室を見回すと、俺のところでその視線をすかさず止めた。

 どうやら、睨まれているようだ。

 しばらく俺を睨みつけていた教師は、ふいに視線を外すと、前を見据えたまま声を張り上げた。


「いいか、俺が今日から貴様ら新入生を担当するヒネクだ。俺の受け持つクラスでは、俺の命令は絶対だ。逆らう奴はすぐに退学にしてやる、よく覚えておけ」


「それと、このクラスには恐れ多くも王女殿下がご学友として勉学に励まれる。貴様らの中で特に平民共は、王女殿下に指一本触れることは許されん。平民出身者は、殿下を見ることも同じ空気を吸うことすらおこがましいと知れ」


 どうやらとんでもないのが、このクラスの担任として来たらしいぞ。

 自分以下を蔑んでしか見れないこの言い回し、思い出したぞ。


「貴様の事を言っているのだぞ、レイル・エヴェレット!」


 そいつが突然俺を、名指しで呼びつけた。

 ふんっ、実技試験の時のあの低能教師め。

 どうも記憶から抹消していたので、うっかり忘れていたよ。


「聞いているのか、この下民が!」


 一人ヒネクだけが顔を真赤にしながら、教室中に響き渡る声で怒鳴り散す。

 他の生徒達は、その姿に圧倒されつつどこか冷めた目でその様子をうかがっていた。

 その時だった、小さくか細い声が俺の隣より発せられた。


「……黙れ下郎」


 ええっと、ちょっと聞き慣れない単語が聞こえました。

 その声によって、ヒネクが言葉を続けようとした教室の空気は、一瞬にして静まりかえってしまった。


「あの、今のは誰が?」


 ヒネクも言葉をつまらせる。

 俺はなんとしてでも、横の少女から目をそらしていたかったのだが――


「逝ね、糞虫が……」


 それはまたしても、儚げな少女がいるはずの隣から聞こえてきた。


「王女殿下……?」


 どうやらヒネクにも、誰が言っているのかわかったらしい。


「あ、あのその……今日は自習とする。各自予習を怠らないように」


 それだけ言うと、ヒネクは逃げるように教室を後にする。

 その顔は、実技試験の時以上に青ざめているかのようだった。

 っておい、予習ってお前、まだ最初の授業すら始まっていないのだぞ。

 おいおい、これどうするんだよ?


「ヒャア〜、王女様おっかなかとね。あのアホ面、青い顔して逃げくさりよったよ」


 リアンがケタケタと笑いながら、椅子にふんぞり返っている。

 まったく、笑ってる場合かよ。


「賢者様……ごめん……なさい」


「えっ? なんでヒルデ様が、僕に謝るのですか?」


「だって……賢者様、困った顔してる」


 どうやら顔に出ていたらしい。

 俺としたことが、こんな少女に気を使わせるとはな。


「そんな事はありませんよ、ヒルデ様。それより、僕を庇ってくださりありがとうございます」


 途端に顔を真赤にして、俯いてしまうヒルデ。

 そんなヒルデの仕草に俺は、無意識にその頭を優しく撫でていた。


「ふあっ、あああ……」

 

 ガタンッ!


 唐突にヒルデは席を立つと、一目散に教室を後にした。

 えっ? 俺なんかまずい事した?

 何が起きたのか状況を理解できないでいると


「クククッ。レイル、お主も悪よのう」


 隣で見ていたリアンが、ニタニタと楽しそうな笑みを浮かべ俺の背中を小突いてくる。

 そうか、やっぱり俺が悪いのか……はあ。

 俺は一際大きなため息をつくと、机に突っ伏してしまった。


 結局その日の授業時間に、ヒネクとヒルデが戻ってくることはなかったのだった。

 そして、俺を含め魔法学専攻クラスの全員が一日途方にくれることとなった。


後1話か2話。誤字脱字修正のなんたる多いことか

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ