第七話「ベストフィット」
「…バゥ!」
魔物が驚いたようにこちらを見ている。
何というか、一皮剥けた…というか、ようやくスタートラインに立てたような気分だ。
この調子のまま、ちゃちゃっと片づけよう。
そう思って、私は右足で地面を蹴ると、空中へと移動した。
魔物の腕が伸びてくる。
爪をかわして、私はその腕に飛び乗り、そしてまた足を使って空中へ戻る。
今度は足。
殴って勢いを弱めてから、足場へと使う。
目指すは身体の中心部だ。体重を乗せて上から殴ればどうにでもなると思える。
今度は尻尾と足が同時に振られてきた。
さすがにちょっと当たりそうだったんで、先に飛んできた尻尾を掴んで足を回避する。
次は左の腕。高く振り上げられていて、撃退よりも足場にしたほうがよさそうだ。
そう判断した私は、両足で腕を踏ん付けて高く舞い上がった。
これで、終わりだ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
少し格好付けて、右手を高く振り上げる。
全体重をかけられるような格好で、私は魔物へと向かい拳を突き刺した。
皮膚に食い込んでいくような、奇妙な感触。
ぼこぼこと数段ほど肉を抉られたらしい魔物は、大きな断末魔を上げる。
「…やったか!?」
言ってみたかったんだよ、このセリフ。
だが、魔物は復活することも無く、そのまま灰のようになって無事に消え失せた。
――やったな。
「おっしゃあぁぁぁっ!!」
誰もいないのをいいことに、私は飛び跳ねて大声を出しながら、この嬉しさを身体で表現する。
やったぞ。この私が、異世界で、ボスっぽい魔物に勝利した。
勝因は…やっぱりこの籠手だな。殴った時や握りしめた時に、ベストフィットな感じがプンプンした。
よし、今日から私は物理で殴る系女子になろう。それが一番である。
◆
――そうして気がついたときには、私は西口の目の前にいた。
店も何もない、ただの道の端っこだ。時刻は夕方らしく、空は少し暗い。
「…あ、いた!アリアーっ!!」
クリスの声がする。足音が近づいてくる。
――って、私、店内のボス戦で勝利したんじゃなかったっけ…?
「全く、どこ行ってたんだよ…もう約束の時間、二時間は過ぎてるぞ」
「…え?あれ、店は…」
「店?…アリア、それってもしや『試練の塔』とか呼ばれてる…」
「何それ、ライズ?」
「…なーんて、冗談よ。塔っていうのは、前世のある人にしか見えないっていう噂だもの」
冗談じゃないよ。
そんな私の心中を知ってか知らずか、ライズは試練の塔とやらの話を続けた。
前世持ちの転生者が、元々持っている力を使いこなせていない時に見える、チュートリアル的な存在。
塔の内部や外観は、その前世で見ていたものに由来していて、
ただ少ない共通点は、全て『魔物が襲ってくる』ことと、『魔物の出現方法は吹き抜けの穴から落ちてくるということ』だけらしい。
――あれ、マンマじゃないっすか。
こころなしか、ジェイドも経験者みたいに苦笑いしているように見える。
そういえば、あの風景ってショッピングモールに似てた気がするな…。
とにかく、これで覚醒できることは確実であるはずなのだが。
「アリアって転生してたのー?あはははっ、おもしろーい」
「もうクリス、これはただの都市伝説よ~。うふふっ」
まるっきり冗談のつもりのライズと、恐らく転生を経験しているジェイドと、この身をもって空から落ちてくる女の子を現した転生済みの私とでは、
温度差がきついなどというレベルでは無かったのだった。
明日は更新ないかもです…