思い出:カズキ
あの頃、俺はまだ実家で暮らしていた。そして、最悪な日だった。一晩中泣いた。両親から、俺の不運のせいで家を追い出すと言われたのだ。
うつむきながら街を歩いていると、小さなバーを見つけた。行くあてもなく、入ることにした。店内にはほとんど誰もおらず、年配の男性と一人の女の子がいるだけだった。俺は隅の方の席に座り、氷入りのソーダを手に、また少し泣いた。
すると、誰かが話しかけてきた。女性の声だ。
「大丈夫ですか?」
顔を上げると、あの年配の男性の隣にいた女の子だった。あの瞳は、こんなに輝いて美しく、微笑みは優しく、前髪は可愛らしく……彼女は本当に美しかった。
「何をお悩みかはわかりません。でも……きっと、大丈夫ですよ。絶対に大丈夫です!」
あの日、あの女の子が目の前に立っていたとき、俺は今までにないほど心臓がドキドキしているのを感じた。胃のあたりがゾワゾワとした。その瞬間、俺はこの子に恋をしたのだとわかった。
それからの日々、俺は彼女に再会しようとあらゆる手を尽くした。一番いい服を着て、香水を付け、自分を磨くようになった。
しかし、行くたびに彼女はいなかった。三週間ほど通い詰めてから、店の主人に彼女のことを尋ねた。彼は彼女は自分の姪で、横浜ではなく東京に住んでいると言った。
時は流れた。何日も、何ヶ月も、一年、二年、三年。その間に、俺は実家を出て、この団地に引っ越してきた。趣味を含め、多くのことに希望を失っていた。しかし、一つだけは失わなかった。いつか、あの女の子に再会するという希望だけは。
そして、ある雨の日。カップヌードルを買って帰宅する途中、団地の階段で泣いている女性を見つけた。
間違いなかった。彼女だった。




