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ANCIENT -無代譚-  作者: 美朱太
未開の少年たち
1/10

1-1 ずっと好きだったんだぜ

まずはありがとう。

軽い気持ちで見てもらいたいです。

そして深く考えないで欲しいです。

難しい言葉は分かりません。

タイトルは決まりませんでした。

黄昏が校舎を包み込みカーテンの隙間から陽が差し込む教室で一人。

この物語の主人公"勝俣勇(かつまたゆう)"はある一大決心をした。

それは同じクラスの女子"川本杏"に告白する事だ。

"あんず"ではなく"あん"で高校の入学式の名前読み上げタイムでは、世にも珍しい気難しいタイプの校長先生に間違えられた。(うちの高校は入学式に名前を読む時間があった)

しかしそれを返したのだ。

 「あんずじゃないわー!あんだわー!」

 「甘すぎるだろうがー!」

的な風に言ってたのを覚えている。

考えられるかい?

これは教師の間でも「秘技・川本の燕返し」と呼ばれていたらしい。

普段校長の頭のテカリの陰に隠れる教頭は杏を陰ながら尊敬をしているらしい…。

この一件で杏は一気に友達ができ全校生徒の間で人気者になった。

当時の高校の流行はブームは杏かk-popかと言われるほどだった。


杏のことは中学1年生の頃から知っていた。

だがその頃の杏は暗くて性格もあまり分からずにむしろあまり好きな部類ではなかった。

だが中学2年生の時たまたま席が近くになった。

その頃には垢が抜けたと言うか…とにかく綺麗になってた。髪もサラサラヘアーで!

そこからはどんどん惚れていってしまってこんなあり様さ…woo。

なんて単純な男なんだろう…

そして現在高校二年生。

中学からの想いは今も変わらずむしろもう後戻りできないほどに好きになった。

その川本杏という人物はどんな人かだって?

仕方ない…教えてあげても良い!

むしろ魅力を伝えたい。

うなじの辺りでバッサリと切ってあるボブ!ヘアコスメのせいかオレンジっぽいいい匂いがする…!おっと…。

…っで!とにかく底知れぬ明るい笑顔!正直この笑顔に触れて惚れない人はいない!…と思う。

あととにかく顔が可愛い!女優で言うと…最近映画「君の水筒を飲みたい」に出演していた浜坂美波…普段の抜群美人が笑ったら少女の様になるのがそっくりだ。

その上…杏は優しい。

クラスの中心にいるのではなくクラスの遊軍の様な存在で男女とも平等に接する。

それに加え文武両道という最強スペックを持ち合わせているために惚れるものは後をたたない。

確かクラスのイケメンランキング(女子監修)でもトップだった男が、去年の体育祭で全校生徒の前で告白して呆気なくフラれたらしい。


…皆が言いたい事は分かっている。

だが諦めきれないものがそこにはあって、確証もない自信だけを持ちこの日を待ち望んでいた。


ていうか可能性が無いとは言い切れないし!

むしろクラスでもそこそこ話す方だし…

席も近いし…他の男子より絡む機会は多い方なのでまだマシだとは思う!

振られたら振られたでただ運がなかったのだと思えばいい!そうだそうだ…。


なんてもう自分への慰めのセリフを考えている。


…時計を見るとまだ16:30

杏を16:45に呼び出したからまだ15分も時間がある。

昨日ネットで調べた告白のセリフを練習しようと紙を出す。

ガラガラッ!

立て付けの悪い教室の扉が勢いよく開く。

こちらへ近づいてくる足音が聞こえる。

少し早いが杏が来たのか…?と考え、急いでポケットにそのセリフの書いた紙をしまう。

おそらくポケットの中で悲鳴を上げていることだろう。

そして笑顔を作って顔を上げる

だがそこには杏はおらず…

代わりに小さい男が駆け寄ってきていた。

 「本当にやっちゃうの?」

この男の名前は"佐藤風華(さとうふうか)"

風に華で綺麗な漢字が使われていて可愛らしい名前をしているがれっきとした男だ。

保育園時代からの親友で高校までも一緒だった事で10年来の仲に突入している。もう切っても硬すぎて切れないくらいだ。

5歳の頃の風華はただただ可愛かった。ずっと赤ちゃんの可愛さをキープし続けてた!

泣き虫で甘えん坊。もちもちほっぺのしもへいへ!正直、最初は女だと思ってた。

だが段々生意気になって中学生になったらメスガキブームが来たのか煽ってくることが多かった。

高校生になるとそんな行為も辞めたがその可愛さを良いことに散々卑怯な手を使っていた。

例えば…先生に当てられるのを拒否できる権利を持ってたし…テストの点数も普通の人より高かった。丸の数は少ないくせに…。

その事で風華のことを嫌いな人もいる

だが…それもあざと可愛さで全て乗り切ってきた。

こんな長いこと一緒にいてもう飽きた…

と言いたいが昼休みも放課後も変わらずに風華と一緒にいることが多い…。

別に自分は友達が少ないわけじゃない。

風華の場合は本当に友達が少なそうだが…

小学生の頃は低身長コンビとしてみんなに揶揄われていた。

だが勇は中三の段階で既に170cmを超えてしまった…風華を裏切ってしまった。

だが風華は無邪気なところがありその事は何も言わずに高一の頃に160cmを超えた事を今でも自慢げに話してくる。

この性格は多分ずっと嫌いになれない。

良い子なのは間違いないのだ。


可愛いと言われるのは性格や雰囲気だけじゃない。

結局求められるものは容姿だ。

残念な事に風華はその容姿さえ持っていた。

小顔に腰までつく長い髪。

まつ毛はマツパでもしたように綺麗にカールがかかっている。

薄い眉の下には二重幅の均一なeyes…

表情も幼さが残っているくせに横顔は美人。

大半の女子は風華の見た目に嫉妬をしている。

一部に嫌われているのはその性格だけでなく、大半は顔で嫉妬をしているからだろう。

このスペックをもっているくせに男。


ただの男の娘と安易に近づいてしまうだろう…。

だが注意しなくちゃいけないことがある。

なぜなら…

こいつの下半身にはとんでもなく仕上がっているマグナムを隠し持っているからだ。


使っているシャンプーのせいか…元からのものなのかほのかに薔薇の匂いがする髪の毛。

それが鼻先にあたってくしゃみが出そうになる。

だが気にせずに風華に言い放つ。

 「やると決めたらやるのが勇って男なんだよ」

告白すると言うことで脳みそが興奮剤を流しているようだ。

普段はクールを装っているのに…無意識に語尾を上がる。

それに似合わないドヤ顔が顔にへばりつく。

風華はそのドヤ顔と対照にジト目…

何か文句がある様な顔だった。

 「もしフラれても面倒臭いことしてこないでよ」

 「俺が面倒臭いことした事があるかい?思い出してごらんなさい!」

目力増し増し。

唾液多め。

自信は少なめ。

風華の綺麗な顔に顔を近づける。

風華の落ち着いた呼吸が鼻に当たるが不快では無い。

それに負けじと風華も顔を前に出す

鼻と鼻が当たり変な感覚になるが風華は知らん顔。

 「今月で10回以上ッ!」

 「そ…そんなに?」

 「杏に告白するかしないかで悩んで俺に相談してきて背中押しても!」

 「いや〜って言い訳をばっかして!」

 「夜でも通話してくるし…!」

普段のストレスをぶち撒ける風華。

明らかな怒った顔に流石に勇も日和る。

だが、何か言い返さないとという気持ちは消えない…

男というものはプライドが高い。

 「でも毎回出てくれるし…いつも暇なんだからいいじゃん…」

悲しいがそれは事実。

いつも電話を掛けるとワンコール出てきて、「なになに!?」と嬉しそうに聞いてくる。自分から。ワンコールだけに犬みたいに…

風華は一人暮らしでテレビも見ない。

だから余計に暇なんだろう。

風華は唇をプルプルと震わせながら「違うもん…」と掠れるような声で連呼する。

視線を外すがすぐに上目遣いで睨む。

本人は睨んでるつもりだろうが…猫を怒らせた様な気分になる。

 「…でもやっと告白するってなったんだし上手くいけばいいね…」

嘘でも最後には背中を押してくれる風華。

勇は背を丸める風華の肩を揉む。

 「じゃあ…頑張ってくる…」

しっかりと感謝のセリフを述べて教室を後にする。

そして少し早いが決戦の地へと足を運ぶ。

時計を確認する為に振り返った時…風華が蹲っていたのは気のせいだろう…

廊下を歩きながら昨日書いた告白のセリフを読み上げる。

廊下ですれ違った部活動中の生徒もいた。

みんな不審者に会った様な顔をして歩く足が早くなっていた…気がする。

いざグラウンドに出るとやはり暑い。

今日に限って風も強い。

こんな中で部活動をしている生徒は無条件に尊敬してしまう。

杏が呼び出したのはグラウンドの隅の林。

そこは日陰だから選んだが…この暑さなら意味も無さそうだ。

この校舎を右に曲がれば杏はいるはず…

告白する側が遅れるのはどうなのか…そのツッコミはNG…。

緊張で手が汗を掻いてる。

これも振られる口実になってしまうとズボンの裾で手のひらを拭く。

校舎を右に曲がると…

杏が強風に髪を靡かせていた。

片目を瞑っている姿に白いワンピースと麦わら帽子を着ている姿を想像してしまう。

杏の服装は学校指定の制服だと言うのに…

見惚れてしまい立ち止まる。

杏は手を振ってくれる。

 「おーい!こっちこっち!」

杏はよく低い声を気にしている…勇にとってはそれが良いところでもあった。

神の恵みだとその声が聞こえる方に走る。

 「ごめん!待たせちゃって!」

 「ううん!!ウチも今来たとこ!」

まるでカップルだ…と嬉しがるが…

学校集合のカップルなんていないだろ!と心の中でツッコミ、顔を整える。

 「話って?」

 「じ…実はその…」

 「うん…」

この状況をたくさん経験してきた杏はおそらく何を言うのかもお見通しなのだろう。

勇の心臓は少し遅れて鼓動が速くなる。しかも音が大きい。

地面に響いて杏に聞こえてたらどうしよう…などいらない心配もしてしまう。

告白ほど集中力が続かないものは無い。

昨夜練習していた告白のセリフなど杏の笑顔の前だと意味を持たなかった。

だがその割かれた脳の要領には目の前の杏の笑顔が入る…。

紡いで…また消して…紡ぐ…不完全な言葉。

杏の顔を見るが…届いて欲しいのは心だ。

 「実は俺!杏が好きなんだ!」

簡単すぎる言葉…

この一言だけで身震いが始まる。

 「杏は覚えてるか分からないけどさ!」

 「咳が隣になった時あるじゃん!」

 「あの時から好きになっちゃって…!」

上手く話せているのか分からない。

ただ杏の優しい笑顔だけが頼りだ。

 「ずっと笑顔で優しいところに俺どんどん惹かれちゃってさ!」

 「今はモーッと想いが強くなってるんだ!」

 「だから…俺と付き合ってほしい…」

はっきり言いたい事を言えた。

自分で自分を褒めてあげたい。

 「ありがとう…」

この告白の結果がこの言葉だけで分かってしまう。

悲しい事は確か…でもそれ以上に喜びも湧き上がる。

決してドMというわけでは無い。

ただこの想いを伝えられたのが嬉しい。

心の重荷がすっと取り除かれたみたいだ。

 「俺さ!実は杏と同じ高校に行きたかったから勉強頑張ってきたんだ!」

 「先生には無理だって言われてきたけどさ!」

 「いや〜まさか合格出来るとはね!」

まだ振られたと決まったわけでは無いのに言い訳が無数に溢れてくる。告白はあんなに手こずったクセに…

逃げる様に自分の事を晒してしまう。

隠していた方が格好いいのに…

 「え!えと…後は…」

杏との共通の話題を考える。

だがそれが杏と自分との距離を知らせてくる。

話題は尽きた…。結果を受け止めなければならない時間が来る。

下を見ると献身的な蟻がどこかの食べカスを運んでいるのが見える。

どこかで踏まれるかもしれないのに…全部無駄なのかもしれないのに…頑張ってしまう。

自分を見ている様だった。

 「そんなにウチのこと好きだったんだね…」

 「うん…」

 「でもごめん…」

簡単すぎる言葉…

この一言で三年の長いようで短いような恋は呆気なく終わりを迎える。

涙を流してみたい…だが体が無意識に止める。

おそらく最後だけは格好いい自分を杏に見せたいと我慢してしまっているのであろう。

引き攣った笑顔で杏の肩を叩く。

 「ちょっとダサいんだけど聞いてもいい?」

杏は綺麗な顔で優しく頷く。

 「別に好きな人がいるのか…?」

 「ううん…」

 「もう彼氏いるとか…?」

 「ううん…」

 「ウチ…」

 「ん?」

 「やっぱりなんでもないや…!」

 「…?」

 「とりあえず…ありがとう…杏」

最後に言った言葉が感謝とはいい事だ。

報われなかった自分を報われなかった自分で慰める。

この虚しさは後から襲いかかってくるんだろう。

 「こちらこそ…」

最後の杏の言葉が脳みそを回る。

特に意味もない言葉だが声が繰り返される。

杏に背を向けると寂しさがやってくる。

我慢していた涙がついに漏れ出す。

これが失恋なんだ…胸が痛いとよく聞くがそれより喉がつっかえてる気がする。

大粒の涙がアスファルトの上に落ちる。

あのグリム童話の様に道標を作るがその先には何もないのは確かだった。

 「はぁ〜」

 「頑張ったよな…俺」

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