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39.祝宴は台所から

 魔王城は、朝から騒がしかった。

 

「遅い!」

「いや無茶言うな、距離を考えろ!」

 

 広間で言い合っているのは――

 魔将軍のひとり。

 豪快な体格の男。

 

「ガルディス、声が大きい」

 

 隣で腕を組むのは、長身の男。

 静かな圧を放つ。

 

「うるせぇなリュシアス、久々に戻ってきたんだぞ!」

 

 そして。

 その二人を、冷めた目で見ているのが――

 

「騒ぎすぎだ」

 リーヴェ。

 

 魔将軍、三人。

 

 全員が、揃っていた。

 

 

「……で、結局なんなんだ?」

 ガルディスが言う。

 

「知らされていないのか」

 リュシアスが眉を上げる。

 

「“あれ”だ」

 リーヴェが、短く言う。

 

 その時。

 扉が開く。

 

 魔王が、現れる。

 

 場が、一瞬で静まる。

 

「集まったか」

 

 低く、しかしどこか楽しげに。

 

「本日は――」

 

 言葉を区切る。

 

「祝いだ」

 

 

 一方。

 厨房。

 

「人数、増えてるよね!?」

 

 私は、慌てていた。

 

「倍では済まんな」

 ヴァルディスが、冷静に言う。

 

「聞いてないよこんなの!」

 

 外からは、続々と人の気配。

 

 

「ミナー!」

 

 元気な声。

 

 振り向くと。

 

 子どもたち。

 

 そして、その後ろに。

 

「お久しぶりです」

 

 優雅に頭を下げる女性。

 

 アウルディア王国の王妃。

 

 さらに、その隣には王。

 

「突然で申し訳ないが」

 王が言う。

「どうしても、見届けたくてな」

 

「見届けるって……?」

 

 その時。

 

 また声。

 

「ミナちゃーん!」

 

 境界の村の人たち。

 

「元気だったか!」

「また食べに来たぞ!」

 

 一気に、厨房がにぎやかになる。

 

「ちょっと待って、え、なにこれ!?」

 

 完全に状況が追いつかない。

 

 

 その時。

 

 ヴァルディスが、静かに言う。

 

「……聞いていなかったのか」

 

「なにを?」

 

「今日」

 

 一拍。

 

「お前と俺の、婚約が正式に発表される」

 

 

「はぁ!?」

 

 思わず叫ぶ。

 

 周囲が、一斉にこちらを見る。

 

「え、え、ちょっと待って!?」

 

「嫌か」

 

 真顔で聞いてくる。

 

「嫌じゃないけど!!」

 

 顔が、一気に熱くなる。

 

「でも聞いてない!」

 

「言う前に決まった」

 

 魔王の仕業だ。

 絶対に。

 

 

 その時。

 

 リーヴェたちが厨房に入ってくる。

 

「ほう」

 ガルディスがニヤリと笑う。

 

「……なるほど」

 リュシアスが静かに頷く。

 

「文句はない」

 

 リーヴェが一言。

 

「いやちょっと待って!?」

 

 

 魔王が、後ろから現れる。

 

「騒がしいな」

 

「魔王様!」

 

「説明を!」

 

 魔王は、当然のように言う。

 

「決まっておろう」

 

「祝うのだ」

 

 

 完全に、包囲されている。

 

 でも。

 

 ふと、見る。

 

 ヴァルディス。

 

 少しだけ、気まずそうにしている。

 

 でも。

 

 逃げていない。

 

 

 私は、ため息をつく。

 

「……もう」

 

 でも。

 

 笑ってしまう。

 

「しょうがないなあ」

 

 

 手を叩く。

 

「じゃあ!」

 

 全員を見る。

 

「全員分、作るから手伝って!!」

 

 一瞬の静寂。

 

 そして――

 

「おう!!」

「任せろ!」

「指示を」

 

 一斉に動き出す。

 

 魔将軍も。

 王も。

 村人も。

 子どもたちも。

 

 ぐちゃぐちゃで。

 でも。

 

 楽しい。

 

 

 ヴァルディスが、隣に立つ。

 

「何をすればいい」

 

「じゃあ、これ切って」

 

 自然に、渡す。

 

 受け取る。

 

 

 その手が、少しだけ触れる。

 

 どきっとする。

 

 でも。

 

 嫌じゃない。

 

 

「ミナ」

 

「なに?」

 

「……よろしく頼む」

 

 一瞬、きょとんとする。

 

 でも。

 

 すぐに笑う。

 

「こちらこそ」

 

 

 鍋が鳴る。

 

 火が灯る。

 

 声が響く。

 

 

 戦いの終わりに。

 

 始まるのは――

 

 大きな、大きな食卓。

 

 そして。

 

 新しい日々。



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