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逃げ出そうとしたら本格的に拘束されました。どうしましょう

ヤンデレからは逃げられない!

 紬さんの元を去ろうとしたあの日から3日が経過。俺の拘束はここへ来た当初よりもさらに酷くなり……


「はい、あーん」

「あ、あーん……」


 今じゃ両手両足をベッドに繋がれ、食事は全て彼女に食べさせてもらわなきゃいけなくなる始末。全てはあの日の俺が悪いから文句は言うまい。あの後────







「ここは────ッ!?」


 目覚めると同時の後頭部に痛みが走る。どうやら俺は紬さんに殴られて気を失っていたようだ。念のため五体満足か確認すると……


「やっぱり……」


 案の定両手両足は手錠でベッドの柵に繋がれていた。パソコン1台ありゃ推し活なんていくらでもできるから別に繋がれたところで不自由はない。迷惑をかけるだろうから出て行きたい気持ちはあるが、紬さんは多分許しはしないだろう


「はぁ……何でこんな事に……」


 今更ながら自分が何故この状況になったか理解できない。適当にVtuberの配信へコメント書きに行って潮時が来たら関わりのあったVtuberから離れる。アイコン動かしてるのだってVtuberが好きだからやってるわけじゃない。これは前にも話したな。とにかくだ、俺の推し活は全てが気まぐれ。飽きたら止める。当初の予定はこうだったのだが、完全にタイミングを逃し、今じゃVtuberに監禁される始末。運命とは不思議なものだ


「来駕が私の側からいなくなろうとしたからだよ」

「────!?」

「おはよう」

「お、おはようございます……」


 横で紬さんの声がしてそちらを向くと彼女はハイライトの消えた目でこちらを見ていた。こ、怖いんだが……


「うん、おはよう。ところで……覚悟、できてるよね?」

「え、えっと……何の覚悟でしょうか?」

「何の? 決まってるでしょ? お仕置きを受ける覚悟だよ」


 この時の紬さんからは逆らってはいけないオーラが流れていたとだけ言っておく。お仕置きは単に彼女の気が済むまで甘えさせろっていう女の子らしいものだったから話す事なんて特にないしな。ヤンデレだったら指の1本や2本持ってかれてもおかしくないと思うが……さすがに司法関係の仕事をしてる人間が刀傷沙汰の事件を起こすわけにはいかないか






 で、今に至る。飯を食い終えた俺は紬さんの抱き枕と化していた。ベッドに繋がれてる理由は俺を逃がさないためらしい


「来駕? どうしたの? もしかして美味しくなかった?」

「そんな事ないですよ。どうしてこんな事になったのか考えただけです」

「来駕が私のアイコン動かしたからじゃない?」

「あれは遊びで作っただけなんですが……」


 アイコン動かしたのは遊びだ。HTMLとCSSの知識さえあれば誰だって作れる。ただ、アイコンをハート形にしてとなると話は別だがな。画像をハート形にするにはイラストソフトあるいは画像編集ソフトまたはWEBサイトのデザインソフトが必要になってくる。そのまま画像を張り付けるとドキドキしてるように見えはするものの、四角いままで味気ない。ハート形にしてるのは四角や丸じゃ味気ないからだ


「それでも私は救われた。配信やってて良かったと思えた」

「はあ……そうですか……」


 愛おしそうな目をする彼女に「救われたとか知るかよ……」とは口が裂けても言えなかった。ユーザーにとって長時間同じページに留まらなきゃいけない事ほど苦痛なものはない。アイコンが動いてるページは動かしたVtuberのチャンネルへ直接飛べるようにして初めて意味を成すのは……黙っておこう


「そうだよ。ラブって言われたら誰だってこの人は私の事好きなんだって思うよ」

「あれはアイコンがドキドキしてるように見えるし、画像の形もハート形だからラブでいいかという短絡的発想で名前付けただけなんですが……」


 犬山ポチだけじゃない。他の女性Vtuberのアイコンが動いたアニメーションにも同じように○○LOVE.htmlと名前を付けているが、アイコンを動かした女性VtuberのHTMLファイルには例外なくLOVEと入れている。深い意味はない。だから勘違いされても困る


「素直じゃない。本当は私を愛してるんでしょ?」

「それは……秘密です」


 普通の感性を持つ人間なら自分を監禁してる相手を愛しはしないだろう。どうでもいいと思っている俺は────どうなんだろうか……今までネットでもリアルでもこのVtuberを好きだと思った事はなかったし、配信楽しかったと呟きはするが、本心じゃ可もなく不可もなくって感じだ


「秘密はダメ。YESかNoで答えて」

「そう言われましても……」


 自分で言うのもなんだが、アイコン動かしたり、配信画面に雨を降らせたりとカラクリが分からん立場の人間からすると魔法にも似た技術を持つ俺でも困る質問や決断の1~2個ある。1つは誰が好きなんだって質問。1つは自分の事をどう思ってるんだって決断を迫られる質問。この2つだけはマジで聞かれたら困る


「なら質問を変える。私と一生一緒にいてくれる?」


 愛してる愛してないの2択を迫られるよりかはマシだ。これくらいなら答えてもいい不都合はないか


「俺でよければ構いませんよ」

「来駕だからいいんだよ」


 そう言って彼女は俺の隣に寝ころんだ。Vtuberは病みやすいとよく言われる。リスナーも然り。多分だが、根底には俺と同じように孤独があるのかもしれない。知らんけど


「俺がいいならこの拘束解いてくれても……」

「自由にしたら来駕はまた逃げようとするダメ」


 ですよねー、一度逃げ出そうとした奴をヤンデレが簡単に信じるわけがないよねー


「ですよね……」

「うん。動きたいなら私と右か左の手どちらかを繋いでる時じゃないと許可できない」

「……それで構いませんよ。パソコン一台あれば俺は満足ですから」

「なら日常生活はそれで過ごしてもらうから」


 弁護士の仕事って部外者や外部に漏らしちゃダメな案件もあるだろうに……それでいいのか?


「弁護士の仕事って結構外部に漏らしちゃいけない事あるでしょうに……俺といつも行動を共にしてたら依頼人とかに文句言われますよ?」

「大丈夫だよ。来駕は私の秘書として雇うって所長が言ってたから」

「初耳なんですが……」

「今言った」

「紬さんがいる事務所の面接すら受けた事ないんですが……」

「知ってるよ。私が推薦しておいた。パソコン強い人がいて秘書にしたいって言ったら2つ返事でOKしてくれた」

「oh……」


【速報】ニート街道突き進むワイ、いつの間にか弁護士秘書になっていた。もう逆らう気すら起きない


「これから恋人としても秘書としてもよろしく」

「はいはい、よろしくお願いします」


 本当はIT業界を中心に就活していく予定だったのだが、思わぬところで仕事が決まってしまった。どうしてもIT業界で働きたいというわけじゃないから別にいいんだけどよ


「うん、よろしく。とは言ってもご時世がご時世だから在宅ワークだけどね」

「さいですか……」


 ご時世的に在宅ワークが増えてるのは知ってる。弁護士がそうだとは思わんかったけどな。紬さんの事務所がリモートワークを取り入れてるだけかもしれんしな







 紬さんの秘書になってから1週間。特に秘書らしい仕事はしてなかった。やった事と言えば仕事をする彼女の隣にいるだけ。最初はパソコンのショートカットキーを教えるとかしてたのだが、あんなのは1回で覚える。覚えられずとも紙に書いてパソコン画面の右上あたりに貼っといて忘れた時に見ればすぐに思い出せる。秘書として採用されたはずなのにそれらしい仕事をした覚えがない。それはそれでどうかと思うが……紬さんがいいのならいいんだろう


「来駕~」

「はいはい」


 俺は抱き着いてくる紬さんの頭を撫でる。初日に彼女から「弁護士である私の頭を撫でるのは秘書である来駕の仕事」と言われ、内心「ンな仕事あるわけねーだろ」と思ったのだが、雇われてる以上彼女には逆らえずなし崩し的に頭を撫でたのが始まりだった。女性を甘えさせただけで金が貰えるのはホストとかレンタル彼氏くらいなものだぞ……何も言う気はせんけどな


「しあわせ~」

「こんなんで幸せならいつでもして差し上げますよ」

「うん~」


 いつもクールな感じの紬さんが頭を撫でた時だけは猫なで声で甘えてくる。年上の女性に甘えられるのは悪い気はしないが、他の人には絶対に見せられない姿だと思う。好きな異性以外に無防備な姿を見せたいと思う人間はいない


「これでいいのかぁ……?」

「いいんだよ~私は来駕がいてくれるだけで幸せなんだから」

「こんなダメ人間といて何が幸せなのやら……」


 配信の時も思ったが、アイコン動かすだけのダメ人間といて何が幸せなんだか……俺には理解不能だった。しかし、この平和な時間が少しでも長く続けばいいと思ってる俺もいる。特定の人の側にいる予定はなかったんだが……1人の側に留まるのも悪くないと思い始めているのはどうしてだ? 


「来駕がいてくれるだけで幸せなの。これからも側にいてね?」

「はいはい」


 ネットじゃいつまで側にいれるか分からんが、リアルだと話は別だ。彼女が望む限り側にいようと思う













今回も最後まで読んで頂きありがとうございました

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