紬さんから本格的に監禁されました。どうしましょう
誤解させる方が悪いと思う
どうも、相沢来駕です。犬山ポチ────もとい古森紬と初対面を果たしてから早いもので3日。この3日で学んだのは思わせぶりな態度は時としてとんでもない結果になるという教訓だけだ。自分の行動がどんな結果を生むか……俺は今、身をもって思い知らされてる
「自業自得とはいえ、こりゃねーだろ……」
両手以外の自由は利くものの……納得いかない。というのもだ、俺の両手には手錠がかけられている。ベッドに繋がれてないだけマシで元はと言えば俺の起こした行動────いや、雑さが原因で紬さん的には相当緩いお仕置きなんだろう。納得はいかないけど
「はぁ……」
現在紬さんは仕事で不在。この家にいるのは俺だけ。逃げ出そうと思えば逃げ出せる。逃げ出す意味も理由も特にないからやらないだけで。納得いかないと言ったのは両手が手錠で繋がれてるという点だ。自業自得だから仕方ないか……
「LOVEなんて付けるんじゃなかった……」
両手の自由を奪われて初めて俺は今までの推し活を後悔している。始まりは3日前────
「パソコンをネットに繋げるのはいいけど、助けを呼ぼうだなんて考えてないよね?」
「考えてませんよ。配信のコメントでも言ったと思いますけど、監禁されようとどうでもいいんで」
俺は生きてるだけの人間だから監禁されようとどうでもいい。紬さんが俺を監禁して少しでも不安が取り除けるというのならば甘んじて監禁を受け入れる。パソコンをネットに繋げてほしいと言ったのはポチのアイコンをドキドキさせたページを開くためだ
「無気力なの?」
「違いますよ。居場所に頓着がないだけです。それより、パソコンをネットに繋げてもらっていいですか?」
「助けを呼ばないって約束できるならいいよ」
「約束できるも何も最初から助けを呼ぶ気なんて最初からありませんよ」
「ならいいよ」
「ありがとうございます。ところで俺のパソコンはどこに?」
「リビングにある。すぐ持ってくるから待ってて」
紬さんは食器の乗ったおぼんを持って退出。俺は再び1人になった
「Vtuberって何なんだ……」
彼ら彼女らの行動は理解不能だ。Vtuberも人間で忙しい時だってあると言ってる割に人によっては普通の投稿までバッチリ見ているらしい噂を聞く。大人しくエゴサだけしてりゃいいのに……
「監視の次は監禁とか……どう転んだら常人には理解不能な状況に陥るのやら……」
年明け前までは自由気ままなニートだったはずなんだが……ノリと勢いで行動すると推しの1人から監禁されるのか……無駄な経験しちまった……
「リスナーを好き過ぎるのも問題か……」
「Vtuberに思わせぶりな態度を取るリスナーも問題だと思う」
声のした方を見ると俺のパソコンが入ったカバンを持った紬さんがいた。思わせぶりな態度も何もファンがアイドルを好きになったってだけなんだが……俺以外のリスナーはな
「思わせぶりな態度って言われましても……俺は誤解されるような事は何もしてないんですけど……」
「LOVEって言った……」
不満気に頬を膨らませてこちらを睨む紬さん。これマジで詳細説明したら……考えるだけでも恐ろしい。結論から言うと五体満足で生きてるから刀傷沙汰にはならなかったんだけどな。この時は彼女をよく知らなかったからマジ怖かった
「その理由を今から説明するんですよ。ほら、隣に座って」
「うん……」
俺は紬さんを隣に座らせるとパソコンの電源を入れた。電源を入れた後はいつも通り。違うのはネット接続の為、一旦紬さんにパソコンを渡したってところくらいだ
GogglesCloneを起動させ、NewSite────Vtuber達のチャンネルにダイレクトで飛べるページのフォルダを開いてそこからindex.htmlをGogglesCloneにドラック。俺にとっては毎度お馴染みのページが開かれるのだが……
「ほえ~」
初めて見る紬さんは呆けた様子で画面を見つめていた。WEBサイト作った事ない人間からすりゃ何が起こってるか分からず呆けるのも頷ける。呆けている紬さんを余所にドキドキアニメーションの項目までスクロールを下げた
「さて、それじゃあ説明を開始していいですか?」
「うん」
「なるべく分かりやすく説明しますけど、分からない事があったら都度質問してください」
「分かった」
「じゃあ、説明始めます」
俺は“ポチドキドキ”をクリックする。単に面白半分で作ったページもといアニメーションが原因で監禁されるとは一体誰が予想できただろうか?
ポチドキドキを開いて目の前に出てきたのはアイコンがドキドキしてるように動いてるだけのページ。Vtuberによってはこのアイコンをクリックするとチャンネルへ飛べるようにしてあってポチのも飛べるのだが、飛ぶのは次の機会にしよう。紬さんの誤解を解く方が先だ
「うん」
「まず、紬さんはサイトの上部────URLの部分を見て俺が貴女……犬山ポチを愛して止まないって思ったんですよね?」
紬さんに妙な期待を持たせた原因は考えるもなくこれだろう……
“file:///C:/Users/Lai/Drive/デスクトップ/NewSite/pochiLOVE.html”
ブラウザに上がってるサイトなら“https://”から始まるのだが、ブラウザに上がってないサイトはファイルとユーザー名とフォルダがどこにあるのか、フォルダの名前とHTML名が表示される。紬さんが動いてるアイコンだけじゃなく、上に表示されてるHTMLの名前まで見てるとは思わんかった
「そうだよ。LOVEなんて言われたら期待するに決まってる」
何も決まってないんだが……真実を言ったらどうなるんだろう……母ちゃん、心が痛いよ……。アイコンがハート形でドキドキしているように見せるって短絡的発想でpochiLOVE.htmlって付けましたとは……言わなきゃならないんだが、なるべくなら言いたくない。いっそフォローされた時に一目惚れしましたで誤魔化した方がいい気がしてきた
「期待するって言われましても……短絡的発想で適当に名前付けただけなんですけど……」
「は?」
打って変わって紬さんの声と視線が冷たいものに変わる。思わせぶりな態度取っといて実は意識してませんでしたって言われりゃ誰だって怒るか……俺は意識してますとは言ってないけど。とにかく、今は掴みかかって来そうな勢いの紬さんを止める方が先だ
「お、落ち着いてください! ちゃんと説明しますから!」
「必要ない。来駕君は一生私の管理下に置く事にしたから」
「え……? それってつまり……」
「来駕君……ううん、来駕はずっと私のもの」
「oh……」
俺の永久監禁が決まった瞬間である
と、言った感じで今に至る。早い話が俺が女子の純粋な心を弄んだから監禁されているって事だ。俺としては弄んだつもりは全くない。3日と言えば短いが、あれよあれよと事が進んで当事者の相沢来駕は驚いてるよ。何があったかはまたの機会に話すとして、現在俺と紬さんは婚約者同士って事になっていると言っておこう
「俺を監禁したいが為に自分の両親まで騙すとは……」
ヤンデレの行動力は恐ろしい……たった2本の電話で監禁から同棲に事実を捻じ曲げたんだから。何が恐ろしいって俺の両親も紬さんの両親も2つ返事で同棲を許可したってところだよ
「逃げる気ゼロなんだから靴を隠す事はないんだが……」
再三言ってるが、俺は監禁されようとどうでもいい。無気力と捉えられるかもしれんが、実は違う。居場所に頓着がないだけだ。住めば都と言うからな。最初は慣れないかもしれないけど、慣れれば何の事はない。だが、紬さんには伝わってなかったらしく、今朝コンビニに行こうと思って玄関へ向かったら俺の靴はおろかサンダルすら隠されていた。ちゃんと戻るのに……解せぬ
「はぁ……」
部屋の隅へ目を向けるとケトルとカップ麺とジュースを始め2リットルの飲み物がある。食事には困らないのだが、栄養が……飯と飲み物が用意され、足が自由な分、良心的だと思うべきか栄養を考慮した飯を用意しろと言うべきか……
「パソコンとスマホは……取り上げられたんだっけなぁ……」
本格的な監禁宣言────もとい紬さんと初めて会った日。俺はスマホやパソコンを取り上げられてしまった。曰く「私が見てないところではネット禁止……」との事。tubuyaita徘徊できないのは非常に暇だ
「機を見てちゃんと説明しないとな……」
あの日は説明すると言っておきながら何の説明も出来なかった。pochiLOVEにした理由も言えず終いのままだ。説明する義務も義理もないからしなくてもいいのだが、誤解してしまった人間がいる以上、しなきゃいけない。pochiLOVE.htmlって名前にしただけでガチの恋愛感情を抱くのは弱すぎるってのは言わないでおくか……人を好きになるのに理由なんて必要ないしな
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました