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なんか誤解されてるようです。どうしましょう

誤解されてるようです

 ポチのアーンで昼飯を終え、ようやく一息つける────


「ライ殿ぉ~」


 わけがなかった。飯の後、彼女を説得し、やっとの思いで両手両足の手錠を外してもらい自由になったかと思ったのも束の間。いきなりポチに抱き着かれた。柔らかいやらいい匂いがするやらで男には大変辛い状態。他人に無関心な俺じゃなかったら襲われても文句は言えない。抱き着かれた当初戸惑いはした。だけど、何と言うか……推しの1人にリアルで抱き着かれたとか他のリスナーに言ったら発狂案件だと気づいたら戸惑いなどすぐ吹っ飛んだ


「互いの自己紹介はまだかよ……」


 飯の後すぐ抱き着かれて互いの本名はまだ明かしていない。知ってるのは犬山ポチとライっていうネット上での名前。諸々の理由を知りたいんだがなぁ……あぁ……Vtuberのアイコンを早く動かしたい……


「今だけはこうさせてほしいのじゃ……」

「はいはい……」


 ポチの上目遣いに強く言えなかった俺は彼女の気が済むまで思うままにさせた。家に帰ったところで出迎えてくれる人間は誰もいない。仮に彼女と深い仲になったとしても両親には適当に昔からの付き合いだとでも言って誤魔化せば万事解決。唯一の心配はゴミ出しどうしようかってところだが……この場が収まったらそれとなく言ってみるとしよう






「落ち着きましたか?」

「うん……」


 しばらくしてポチが落ち着きを取り戻した。とは言っても抱き着かれたままなのは変わらずだけどな


「なら自己紹介しません? 俺も貴女もライと犬山ポチってネット上の名前は知ってますけど、本名は知りませんし、俺は貴女に聞きたい事がありますから」

「そうだね……とりあえず本名で自己紹介するところから始めようか」

「そ、そうっすね……」


 やり辛い……ポチの時のテンションと素のテンションのギャップが大きすぎる。雲の上の人間が目の前にいて一対一で会話するのがしんどいとは知らんかった……


「じゃあ、私から。名前は古森紬(こもりつむぎ)。年齢は25歳で職業は弁護士。よろしく」

「よ、よろしくお願いします……」


 俺は彼女────紬さんの職業を聞いて困惑を隠せないでいる。弁護士が人を監禁していいのか? 職業関係なしに監禁は犯罪なんだが……いや、マジで弁護士? 冗談だろ?


「うん、よろしく。次はライ君の番」

「は、はあ……えっと、俺の名前は相沢来駕で20歳の無職です……」


 恥ずかしくて顔が熱くなる……大学や専門学校に通ってるなら学生と言えるし、働いてるなら職業を言える。しかし、俺はどちらでもない。学校にも行かず、定職にも就いてない。挙句、家に引き籠る生活を送っている。昨日まではネットでもリアルでも自由に過ごせるのは素晴らしいと開き直っていたが、いざ自己紹介をするってなると無職である事が恥ずかしくなってきた……


「無職だったの?」

「はい……」

「意外……」


 そう言ってポチ────紬さんは目を丸くしてこちらを見る。理由は分からない。リスナー全員が学生あるいは何かしらの定職に就いてる前提だったのか?


「意外……ですか?」

「うん。ライ殿……ううん、来駕はIT関係の仕事をしてると思ってた」

「ま、まぁ、推し活が推し活ですからそう思われても仕方ないですね」


 俺の推し活は前にも話したと思うけど、WEBサイトを作る技術を応用してtubuyaitaあるいはYouTuneのアイコンをドキドキしているように動かし、動画にしてtubuyaitaへ投稿するのが俺の推し活。ただ、これにはVtuber本人の許可を得る必要があるけどな。いくらサーバーにアップしておらず、アイコンを動かすためだけにあるページとはいえ、GogglesCloneで見えるため稀に動かしたのを検索する輩が出てくる。まさかそこに留まるためだけのページを検索する奴が出てこようとは思いもよらない。全てのVtuberにとは言わんが、一部Vtuberには万全を期して検索しても出てこないと伝えているからいいんだけどよ


「あれ見て来駕君は私を愛して止まないんだって思ったし、この人はそういうところで働いてるんだとも思った」


 待って。職業は誤解されても仕方な……くはないんだが、おいておこう。俺が彼女を愛して止まない? 俺はいつから犬山ポチガチ恋勢になった? コメントでもtubuyaitaでも大好きともガチ恋してますとも言った事ないんだが……


「職業は誤解させたのなら謝ります。ですが、愛して止まないはちょっとよく分かりません。どこでそう思ったか教えていただけます?」

「サイトの上」

「サイトの上……もしかして、URLの部分ですか?」

「そう。あそこに来駕君が私を愛して止まないって書いてた」


 そう言って紬さんは頬を赤く染めた


「あー、そういう事でしたか」

「うん、そういう事」


 彼女の言葉は納得するには十分だったのだが、サイトの上部まで見られてるのは思わなかった。確かに誤解されても仕方ない。完全に俺が悪いな


「そ、そうっすか……でも、どうしてDMなんて……」


 VtuberはプロフィールにDMは基本コラボとか案件のみと書いてる人が多い。ポチも例に漏れず。最初にフォロー来た時にDM来た時はそれなりにビックリしたさ。プロフィール見たらVtuberのテンプレがあったんだからな。だから『会いたい』って来た時は天変地異の前触れとすら思った


「私が会いたかったから。本当は家凸も考えたんだけどいきなり知らない人が家に来たら来駕君ビックリするでしょ?」

「当たり前じゃないですか。俺じゃなくてもビビりますよ」


 リスナーがVtuberの家に凸する話は聞いた事がある。過激なファンの中にはそうやってVtuberを困らせる輩がいるらしい。逆は聞いた事ないけどな。口ではビビると言ったが、実際は別にビビりはしない。両親と一緒に住んでたならビビる。だが、実家にいるのは俺のみ。危害さえなければビビる必要はないのだ


「うん。だと思って札駅に呼び出した」

「それはそれでどうかと思うんスけど……」


 気心知れた友達じゃあるまい。ネット上だけの関係でしかない奴を友達感覚で呼び出すのもちょっと……のこのこ来る俺も俺だけどよ


「来駕君が言っても説得力ない。呼び出す私も私だけど、来る方も来る方」

「ですよね~……ところで、どうして一目で俺がライだと分かったんですか?」


 呼び出しに応じはしたが、俺は自分の容姿や服装に関する情報を何1つ出してない。時間帯関係なく札駅は多くの人で賑わう。大勢の人の中からピンポイントで俺を見つけ出すのは太平洋に落ちた指輪を見つけるくらい難しいと言っても過言ではない。紬さんは一発で見つけ出したけどな


「来駕君tubuyaitaにコートの写真載せてたでしょ?」


 コートの写真……載せてたような載せてなかったような……俺は過去の記憶を掘り返す。ライのアカウントで呟くとしたら配信の感想とアイコンがハート型に変形する瞬間と動いた様子の動画。後は……しょーもない飯テロ画像と家の前の景色。たまにコートの写真やブーツの写真を投稿するが……頻度はあまり多くない。コートの写真はつい1ヶ月前にあげた覚えはあるけどよ……同じコート着てる奴はたくさんいる。証拠としてはかなり弱い


「載せましたけど……同じコート着てる人間なんてたくさんいるでしょ。それだけだったら証拠としては弱いと思うんですが……」

「そうだね。確かに君の言う通りコートの写真だけなら証拠としては不十分。だから私はちょっとコネを使って君が使ってるスマホのIPアドレスを……ね?」


 今ので完全に理解した。要するに紬さんは特定したのだ。コネがどんなものかはさておき、1人のリスナーに会いたいが為によくやる……


「今ので完全に理解しました。はぁ……」


 ツッコむのを放棄した俺は溜息を吐くとガックリと項垂れた。何も言えない……


「呆れた……よね?」

「呆れてませんよ……ただ、スゴイ行動力だなと思っただけです」

「ほんと?」

「本当です」

「よかった……愛して止まないって言ってくれた人から呆れられたら生きて行けなくなるところだった」


 不安気な顔から一転。彼女は柔和な笑みを浮かべた


「生きて行けないって……ヤンデレじゃあるまいし……」

「私、ヤンデレだよ?」

「え?」

「言ってなかったっけ?」

「初耳です」

「なら覚えて。私ヤンデレだから」

「い、意外っすね……」

「配信でそれっぽい事は結構言ってると思うんだけど?」


 確かにリスナーの浮気には厳しいところがあった。しかし、それはあくまでも1種のパフォーマンスだと思ってた


「パフォーマンスの1つだと思ってました」

「パフォーマンスじゃないよ。私は本当のヤンデレ。来駕君を監禁したのはストレートに愛を伝えてきたリスナーは君が初めてだったから」

「もしかしなくてもアイコン動かしたアレの事ですよね?」

「うん。そう」

「アレには山より低く海どころかその辺の水たまりより浅い事情があるんですけど……」

「事情?」


 コテンと首を傾げる紬さん。俺より年上なのに可愛いな……


「ええ、何て言いますか……その……」

「その何? 山より低く海どころかその辺の水たまりより浅い事情なら話せるよね?」


 紬さん? 目のハイライト消えてますよ? 話せるには話せますけど、最初にチャンネルに直接飛べるページの話からしないといけないんですよ


「話せはするんですけど……実物を見ながらの方が俺的には話しやすいんですよ。なのでできれば俺のパソコンをネットに繋ぐ許可が欲しいな~なんて……」


 ヤンデレに向かってネットを使わせろって言うのはハッキリ言って無謀な要求と言っても過言ではないのは自覚している。だけど、言葉で説明するのは困難を極める。実物を見せながら解説した方がやりやすい。さて、紬さんはなんと答えるか……








今回も最後まで読んで頂きありがとうございました

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