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ポチにキスされました。どうしましょう

前回の続きです

「寝てた……」


 推しの1人である犬山ポチと2人きりでオフ会をした結果、監禁されました。笑える状況ではないと思うが、監禁されて眠りこけてた俺は神経が図太いんだと思う。目を覚ますと自室でしただったら夢オチと笑い飛ばせたが、目を覚ましても監禁状態は変わらず……


「人を監禁しといて当人はどこで何してるのやら……餓死したらどうすんだよ……」


 彼女の配信では言ってなかった────ような気もしなくはないが、俺は監禁されようとどうでもいい。この状況も別に騒ぎ立てる程ではなく、監禁して本人が満足するのならそれでよし。外部と連絡する手段を取り上げなくとも助けを呼ぶつもりは毛頭ない。むしろこの状況を甘んじて受け入れようとすら思っている所存。とは言え、ベッドに拘束されたままというのは退屈だ。つか、俺は何故監禁されたんだ? 同接数や性別を度外視してもVtuberは一応、アイドル。そのアイドルがたった1人のリスナーに会いたいとコンタクトを取り、あまつさえ監禁……どう考えても普通でないのは確かだ。もしも監禁した相手が自害あるいは餓死したら立派な死亡事件だから尚更悪質だ


「Vtuberって何なんだ……」


 Vtuberの配信を見始めてから1年。この1年で世間の浮気とVtuberの浮気が違う事は何となく理解した。世間だと恋人や配偶者がいるのに別の異性と恋愛関係になるのを浮気と定義するが、Vtuberだと複数のライバーを応援する行為を浮気と定義するらしい。不貞行為を働いてるわけじゃないから複数のライバーを応援するのを許されてもいい気はしなくもない。しかし、異常なまでに独占欲が強いVtuberは複数のVtuberを応援するのはもちろん、複窓────同時刻に複数のVtuberの配信を視聴する事すら許さない。全く、Vtuberは面倒だぜ☆


「考えても仕方ないか……はぁ~、腹減ったぁ……」


 俺の朝飯はコーラ一杯。最早朝飯とは言えない。今が何時かは分からんが、腹が減ったのは事実。起き上がろうにも両手両足が使えないんじゃ動きようがない


「このまま餓死を待つか……」


 考えるのを放棄した俺は再び目を閉じた。どうせ親から疎まれ、数少ない友人はコンタクトをとっても完全スルー。tubuyaitaもエンジニアやVtuberからフォローが来るけど、専用ハッシュタグ付けて呟いてやっと反応が来る程度。リアルでもネットでも孤独な俺が死んだところで誰も悲しみはしないだろう。むしろいなくなって清々する奴の方が多いとすら感じる。元々ただ生きてるだけだったんだ、ここで息絶えるのも悪くない────なんて思いながら意識を夢の中へ飛ばそうとした時だった






「ライ殿! お昼持って来たのじゃ!」


 ドアが開く音と共にポチが入ってきた。彼女の声色は札駅であった時は落ち着いた感じだったが、今は配信してる時みたいに活発な感じだ。リアルとネットは違うとはよく言ったもので配信してる時とリアルでいる時は別物らしい。そりゃそうか。Vtuberモードのままリアルで過ごしてたら単に痛い奴だ。切り替えって大事だと思う。昼飯……そうか、今は昼時だったか。よく見ると彼女はおぼんを持っている。匂いから察するに飯はカレーでグラスに入ったオレンジ色の液体は多分オレンジジュースだと思う。とりあえず飯が食えるのは願ったり叶ったりだ


「え、えっと……あ、ありがとうございます?」

「そこはありがとうでいいのじゃ!」

「そ、そうですか……あ、ありがとう……」

「うむ!」


 満足そうな笑みを浮かべ、頷くポチ。対してどもる俺。ついこの間まで配信者とリスナーでリアルでは絶対に会えないと思っていた人物が目の前にいるのはどうにもやり辛い……好きなでアイドルを前にしてキョドるなどはないんだが……何とも言えないやり辛さがある。ファンボックス加入者限定でVtuberと1分なり3分直接話ができるみたいなイベントで言葉に詰まるリスナーの気持ちが今理解できたわ。緊張の有無関係なく話題が出てこないんじゃどもるわな


「昼飯は有り難いんですけど……せめて両手両足の手錠外してくれません? このままじゃ起き上がる事すらできないんで」

「ダメ。手錠外したら逃げちゃうでしょ?」

「逃げませんよ。配信のコメントでも言ったと思いますけど、俺は監禁されようとどうでもいいんで」

「だとしてもダメ。油断させて逃げようとするかもしれないし」


 ポチモードから素に戻るなよ……やり辛ぇ……。逃げもしないから自由にしてくれよな……Vtuberってマジめんどくせぇ……


「逃げませんよ。俺にはいたい場所も居場所もありませんから」


 いたい場所も居場所もない。これは初めて言った。コメント欄で言う事じゃないから今まで黙っていたが俺にはいたいと思う場所も居場所もない。いや違うな。自分のいる場所に興味がない。就職活動の過程で聞かれて困るのは就業場所と言っても過言じゃないくらいだ。最低限大きな電気屋とコンビニがありゃ俺はどこでも働ける。住めば都ってやつだ


「それは嘘。キミが私の配信に来なかった時どこにいるか知ってるんだから。通りすがりって言いながら同じVtuberの配信によく顔出してるよね?」

「そ、それは……」


 Vtuberの中には複窓を許さない奴がいる。ポチは複窓を許さない奴じゃなかった。だが、内心じゃ思うところがあったようだ。tubuyaitaの投稿を見たら俺が複窓してるのは一目瞭然。立て続けに違うハッシュタグ付けてVtuberの配信の感想を呟いてたら誰だって“コイツは複窓してる。”と思う。直接飛べるようにしてあるページのリンク全てに『target="_blank"』を付けてるから嫌が応でも複窓できてしまうんだけどな。その一部を解説しよう


<div class="Vtuberのtubuyaitaに使われているID"><a href="飛びたいVtuberのチャンネルURL" target="_blank">飛びたいVtuberのチャンネル名</a></div>


 divタグ────各コンテンツをひとまとめする時に使う汎用的なHTMLタグでPタグやMETAタグといった良く活用される代表的なHTMLタグ。divタグはコンテンツの幅や余白など柔軟に指定できるブロック要素だ


 aタグ────サイト内のテキストをクリックしたら、他のページへとリンクしてくれるHTMLタグだ。Vtuberのチャンネルにダイレクトで飛べるページの場合、飛びたいVtuberのチャンネルをリンクする時にaタグを使う。この場合のアンカーテキストは飛びたいVtuberのチャンネル名だ。ちなみにアンカーテキストってのはリンクのテキストの事な。このアンカーテキストは後から自由に変更可能だ。で、a hrefってのはaタグに付与できる属性だと言っておこう


 class────普通の英語だと部類や種類。学校だとクラス、学級、組って意味合いを持つが、HTMLだと違う。HTMLで言うところのclassとはHTMLのタグに付ける事でそのつけたタグに限定したCSSを適用させるようにするものだ。別にclassじゃなくてidでもいいんだが、どちらかを付けておかないとCSSを好きな好きな範囲で適用させられない。早い話がclassを付けておかないと自分が決めたところの文字色を変えたりできないって事だ


 target="_blank"────これに関しては上手い例えが思い付かないのだが、例えばだ、普通にWEBサイトを閲覧していてリンク先をクリックあるいはタップした時に自動的に別タブが生成されて違うページに飛びましたって経験があると思う。targetというのは属性なのだが、WEBサイトでリンクをクリックして自動的に別タブが生成され、リンク先に飛ぶのはtarget="_blank"あるいはtarget="_new"が使われていると思う。どちらもリンク先をクリックあるいはタップした時、自動的に別タブが生成され、リンク先へ飛べる指定だと覚えていてくれ


 最後にdivタグ、aタグ共に</>で終わってるが、これは閉じタグだ。divタグで例えると開始タグが<div>で閉じタグが</div>だ。人間は……人にもよるが、察する事ができる生き物だ。しかし、パソコンは人間と違って察する事ができない。ちゃんと始まりと終わりを明確にする必要がある。そのために開始タグと閉じタグをしている必要がある。divタグの間にaタグがあるのはdivという箱の中にaというものがしまわれていると思ってくれ



 と、こうして俺はVtuberのチャンネルへ直接飛べるようにしているわけだが、どうやらポチはそれが気に入らなかったらしい。その証拠に目のハイライトが消えている


「それは? tubuyaitaって確固たる証拠があるのに言い訳するつもりじゃないよね?」


 tubuyaitaを出されると負けを認めざる得ない。ぐうの音すら出ないんだからな。さすがの俺もこれには……


「ぐうの音も出ません。降参します」


 降参するしかなかった


「そっか……そっかぁ……浮気してたんだぁ……ふ~ん」


 感情の籠ってないポチの目が俺を捕らえる。一見怒ってなさそうな感じだが……内心じゃ怒り心頭だろうな……


「ふ、複窓してたのは悪いと────」


 思っているという前に俺の唇は彼女の唇に塞がれてしまった。嘘……だろ……? 初対面の相手にいきなりキスするか? 高校の頃、彼女いたからファーストキスじゃないが、いきなりキスは驚くぞ


「な、何を……」

「これで許してあげる」


 戸惑う俺を余所に妖艶な笑みを浮かべるポチ。Vtuberをやる人間は男でも女でも頭のネジが1~2本飛んでる人が多いと聞くが……まさかキスされるとは思わなかった


「は、はぁ……俺へのキス1つで複窓を許してもらえるならそれでいいんですけど、早く飯を食わせてくれません? ついでにいい加減自己紹介もしたいんですが……」

「そうだね。私達まだ本名知らなかったもんね」


 この後、俺はどうにか両手両足の手錠を外してもらったのだが、案の定ポチからアーンされる形で昼飯にありついた








今回も最後まで読んで頂きありがとうございました

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