寂しがりのしつこさは愛
併設されているレストランにて少し遅めのランチタイム。ライオンに見立てたオムライスやカピバラの顔が描かれたハンバーガーなど動物メニューが豊富だ。
「真人くん、オムライス美味しいですか?」
「美味いぞ。一口、食うか?」
「はい。あーん」
当たり前のように目を閉じて口を開ける。
「あーん」
急かすようにもう一度言われた。
震える手でスプーンにすくったオムライスを真理音の口に運ぶ。
「あ、あーん……」
「……とっても美味しいです……」
「そ、そっか」
「お礼にどうぞ」
食べかけのハンバーガーが差し出される。
噛みつきやすい位置に固定され、じいっと見つめられる。
今日はデート……デートだから。そう言い聞かせて真理音が食べいていた部分にかじりつき、口へと入れた。
当然、味なんて分からなかった。
「う、美味いな……」
「よ、良かったです……」
その後はお互いに自分の分だけをひたすら食べ続けた。
「食べ歩きなんて行儀が悪くないですか?」
「んなことねーよ」
食後のデザートに真理音はアイスクリームでウサギが表現されているクレープを注文した。
でも、歩きながら食べることに抵抗があるようで中々口に出来ていない。本当に真面目ないい子だ。これが、愛奈ならこうはいかない。買い与えたと同時に口にして、ベタベタと汚すのだ。
「それに、早く食べないと溶けるぞ」
「そ、そうですよね。では」
意を決したように口にした真理音は幸せそうに表情を崩した。
「美味しい。美味しいです!」
「良かったな。頭が痛くならないようにだけ気をつけろよ」
「もう、私は子どもじゃないです」
と言いつつ、ぷいっとそっぽを向いた口許にクリームがついている。その姿が愛奈と重なり、俺は自然と指を伸ばしてそのクリームを拭き取って口に入れた。
「うん、甘くて美味い」
すると、何かが爆発したような音がした。
音は隣の真理音からだった。耳まで真っ赤に仕上がり、涙目になりながら憎らしそうに見てくる。
「なんだよ?」
何かしてしまっただろうか? 真理音は気づいてないんですか、とでも言いたげに目を大きくしてるけど……変なことはしてないはず。口許にクリームがずっとついたままは恥ずかしいもんな。
「な、なんでもないです!」
「あ、おい」
拗ねたように背中を向けて、勢いよくクレープを食べる真理音。まるで、熱した身体を冷やすのにいっぱいいっぱいみたいのよう。
そして、勢いよく食べたせいで案の定、頭が痛くなったようだ。
「ううっ……きーんってします」
「だから、言っただろ。真理音って面白いな」
「これも、全て真人くんのせいです。真人くんが悪いんです。真人くんは大罪人です」
「注意したのに……酷い言い様だ」
「ちゅうっ……ま、真人くんが悪いです!」
「わ、分かった分かった。俺が悪かった。反省します。これでいいか?」
「……ナデナデしてくれたら許します」
全てにおいて納得していないが許されるのなら仕方ない。だって、今日はデート。デートで喧嘩はよくない。楽しんでもらうためにも仕方のないことなんだ。
髪型が崩れないように優しく撫でると真理音は気持ち良さそうに目を細めた。
「これでいいか?」
「真人くんの優しさに免じて許してあげます」
「はは、ありがと」
どうやら、機嫌は治ったようだ。よかったよかった。
「か、可愛いです!」
真理音が可愛いと言っているのは動物を見てではない。お土産コーナーに置かれている動物のぬいぐるみやストラップについてだ。
「どれか買うのか?」
「悩みます……ぬいぐるみはマナトくんと九々瑠ちゃんから貰ったのでいっぱいですし……これ以上、増えてしまうとベッドが占領されてしまいます」
「別に、ベッドに置く必要ないと思うけど」
「ダメです。仲間外れになってしまいます」
「ああ、そう」
「泣く泣く諦めるしかありません」
「じゃあ、俺の家に置いとくってのはどうだ?」
「いいんですか?」
「しょっちゅう入り浸ってるんだし会えるだろ?」
「真人くんは天才ですね。その案でいきましょう!」
大袈裟な気もするけど……まぁいいや。
「で、どれにする?」
「それは、もう決めています。この子です」
「またウサギでいいのか? 別の種類の方がかぶらなくていいんじゃないのか?」
「一目惚れしたこの子がいいんです」
「まあ、俺があげたのよりは可愛い顔してるもんな」
「可愛さについてはマナトくんも引けをとっていませんけどね」
真理音がどれだけあのぬいぐるみを溺愛してくれているのかが分かるとプレゼントした身としては嬉しいものがある。
「真人くん。この子に名前をつけてください」
「真理音がつけたらいいよ」
「ダメです。真人くんの家に置いておくんですから」
「じゃあ、キュートラビット」
「……真人くん、ネーミングセンス絶望的ですね」
「ああああ。言うな。それ以上は何も言うな。後悔してんだから」
「この場合、この子につける名前なんて一つしかないと思うんですけど……」
期待されるような目で見つめられる。
ほんとは分かってた。この子につける名前なんてこれしかないことなんて。でも、それを言うにはやっぱり恥ずかしくて出来なかった。
「ま、マリネ……」
「はい、私に用ですか?」
「分かってるくせにそれは意地悪だぞ……」
「ふふ、確かに今のは悪が過ぎましたね。でも、さっきの仕返しですよ」
楽しそうに舌をペロッと出した真理音は卑怯にもとても可愛らしく見えた。真理音にならいくら罵られても嫌な気はしないだろう。何かに目覚めたとかではなく、単純にそう思えた。
「では、真人くん。私ともどもこの子をお願いしますね」
「……あいよ」
「ふふ。後、もう一つ提案があります。真人くんとお揃いのストラップが欲しいです」
「じゃ、どれにするか選ぶか」
「このウサギのストラップがいいです。ちょうど、左右対象で二つを合わせると抱き合っているのでお揃い感が増します」
「ウサギ尽くしだな」
真理音イコールウサギと言ったのは俺だしなんとなくさっきのウサギとも真理音は似ている。寂しがりで甘えたがり。まだ、甘えたがりの部分は完全に出ていないのだろうが。
それでも、寂しがりの部分は最初から全開で今も埋もれたい気持ちでいっぱいなんだろうと思う。
「ちょっと、しつこいですかね?」
「いーや。むしろ、真理音はしつこい方がらしいから」
「むっ、それは聞き捨てなりません」
「だって、そうだろ?」
避けても、適当にあしらっても、忘れていても、好きだとちゃんと言えなくても一途に俺を想い続けてくれている。今、こうしていられるのも全て真理音がしつこく俺を想い続けてくれたからこその結果なんだ。
「真理音のしつこさには感謝してるんだ。ありがとな」
「真人くんから素直に言われると少し不気味です……でも、それ以上に嬉しいです」
だからこそ、俺は真理音に恩を返したい。沢山、俺にくれている愛というものに見合ったものを少しづつでも俺も渡したい。
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