高尾の苦悩・その五
その日からクリスは僕の家に引っ越してきた。
時間が無いならば、せめていつも僕と一緒にいたいのだとクリスが言ってきたのだ。
僕に異存は無かった。
クリスを愛する事こそが僕の今からの人生の目標なのだ。
それならば、いつも一緒にいた方が都合が良い。
その次の日に、ハチとナナは僕の家に訪ねてきた。ハチも答えを出したようだった。
「行ってくる」
ハチはそれだけを僕に告げた。
それを聞いた時、ふと僕の頭によぎった事があった。
もしかして、ここでハチを止めればそれだけで僕がここ数日間、悩んでいた事が解決されるのかもしれない。
僕がハチにお願いすれば、ハチは決意を翻すかもしれない。
そうすれば、またあの僕とハチとクリスとナナとケイの、あの五人の平和な生活に戻れるのだ。
「……気をつけて行ってきな」
けど、僕はそれを口にしなかった。
ハチは頷いて僕に背を向けた。
ハチとナナが出かけていく後ろ姿を眺めていて、ようやく僕の心から苦しみが薄れていった。
これで、全ての問題に決着が着いたのだ。
それは良い事ばかりではないけれども、むしろ悪い事の方が多いけれども、それでも、僕は自分で答えを出したのだ。
自分の人生を自分で決めたのだ。
これから、その答えに対する結果が僕の身に襲いかかるだろう。
それは恐ろしいことだ、でも、覚悟の上の事だ。
もはや、僕には悩み苦しむ事など何も無い。
僕の苦悩は消え去ったのだ。