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異世界子供ヤクザ:無名のバクト  作者: 忍絵 奉公


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第1話 西六番街のガキども


 王都――イデオ。

 世界最大級の城塞都市。

 巨大な城を中心に、東西へ十番街ずつ広がる超大都市だった。

 東は貴族や商人が多く、華やか。

 西は労働者や流れ者、貧民が多い。

 そして西地区六番街のはずれ。

 運河沿いに、古びた教会兼孤児院があった。

 壁はボロボロ。

 鐘は割れ。

 冬は隙間風。

 だが、そこには二十人近い孤児たちの笑い声があった。

「待てぇぇぇバクトぉぉぉ!!」

 朝から怒号が響く。

 廊下を全力で駆ける少年。

 ダラムル・バクト。

 黒髪。

 鋭い目つき。

 年齢は7歳ほど。

 まだ小さいが、妙に肝が据わっている。



「証拠あんのかシスター!」

「食堂のスープにカエルを入れたのはあなた以外いません!」

「芸術だろ!」

「料理への冒涜です!!」

 追いかけるのはシスター・シンディローパー。

 三十代くらい。

 いつも修道服。

 だが怒ると市場の魚屋より迫力がある。

 その時。

 窓から少女が飛び込んできた。

「成功した?」

「大成功だカリナ!」

 カリナは小柄でかわいい。

 だが性格は最悪だった。

 いたずらに関してだけは天才。

「次はシスターの椅子にハチミツ塗る?」

「天才かよ」

「あなたたちィィィ!!」

 シスターが木のスプーンを投げる。

 バクトがしゃがむ。

 カリナが回転して避ける。

 スプーンは壁に刺さった。

「今の殺しにきてたぞ」

「神の愛です!」

 そこへ大きな影。

「朝飯、なくなる」

 ワイザだった。

 7歳なのに12歳くらいに見える巨体。

 丸太みたいな腕。

 だが性格は穏やか。

 飯が絡む時だけ真剣になる。

「やべ」

 バクトの顔色が変わった。

 この孤児院では食事は貴重だ。

 罰で抜かれる事もある。

「撤退!」

 三人が逃げようとした瞬間。

 ヒュッ。

 矢が飛んだ。

 バクトの服が床に縫い付けられる。

「うおっ!?」

 廊下の奥。

 無表情で弓を構える少年。

 ヒャッポ。

 細い。

 静か。

 顔が怖い。

 とにかく怖い。

 7歳なのに、人を埋めた経験ありそうな目をしている。

 自作の木弓を扱い、狙いは異常に正確だった。

「シスター・・・右」

「ありがとうヒャッポ!」

「裏切り者!」

 結局、その日も四人並んで説教だった。

 だが。

 孤児たちは笑っていた。

 西六番街は貧しい。

 パン一つで奪い合いが起きる。

 路地には酔っ払い。

 裏通りには犯罪者。

 冬には凍死体も出る。

 それでも、この孤児院だけは温かかった。

 少なくとも――その日までは。


 三日後。

 孤児院の前に豪華な馬車が止まった。

 西六番街には不釣り合いな高級馬車。

 金の装飾。

 香水臭い従者。

 そして降りてきたのは、太った男だった。

「ほう。ここか」

 男は嫌そうに鼻をつまむ。

「臭うな」

 シスターが頭を下げた。

「どのようなご用件でしょう」

「この土地を買う」

 男は当然のように言った。

「王都再開発計画を知らんのか? 西六番街の運河沿いは今後価値が跳ね上がる。孤児院など潰して倉庫でも建てた方が儲かる」

 孤児たちの顔が曇る。

 バクトは男を睨んだ。

「断ります」

 シスターは即答した。

「ここは子供たちの家です」

 男は笑った。

「家? ゴミ捨て場の間違いだろう」

 空気が変わった。

 ワイザが拳を握る。

 カリナが石を拾う。

 ヒャッポが矢をつがえる。

 バクトだけが笑った。

 だが目は笑っていない。

「おっさん」

「なんだ小僧」

「西六番街なめんなよ」

 男は鼻で笑い、去っていった。

 その翌日。

 井戸に汚物が投げ込まれた。

 窓が割られた。

 役人が来た。

「違法建築の疑いがありますねぇ」

 完全に嫌がらせだった。

 夜。

 孤児院の屋根裏。

 バクトたちは集まった。

「やるぞ」

 カリナがニヤニヤする。

「派手に?」

「笑えないくらいにな」

 ヒャッポが静かに矢を削る。

 ワイザは縄を巻いていた。

     

 その夜。

 貴族の屋敷で悲鳴が響いた。

「ぎゃああああ!!」

 寝室に大量のネズミ。

 しかも尻尾に火付き。

 護衛が駆ける。

 廊下で転ぶ。

 油が撒かれていた。

 窓を開ければ腐った魚。

「ぶべぇっ!」

 庭ではワイザが噴水に泥を流し込んでいた。

 カリナはメイド部屋に侵入し、全員の下着を入れ替える。

 ヒャッポは屋根の上から護衛のズボンだけを射抜いた。

「な、なんだこのガキども!?」

 最後。

 バクトは男の執務室へ入る。

 机に短剣を突き刺した。

『次は燃える』

 それだけ書かれた紙。

 翌朝。

 西六番街で噂が広がった。

 だが同時に、孤児院にも限界が来た。

 シスターは静かに言った。

「……ここには、もういられません」

 貴族は本気だった。

 孤児院ごと潰される。

 子供たちを守るには、問題児たちを外へ出すしかない。

 夜。

 バクトは荷物を背負った。

「悪かったな、シスター」

「本当にそう思うなら反省してください」

「無理」

「でしょうね」

 二人は少し笑った。

「じゃ、行くか」

「うん」

「飯ある場所がいい」

「……狩れる場所」

 四人は孤児院を出る。

 向かう先はさらに治安の悪い、西六番街のスラム。

 そこで彼らは、生きるために働く事になる。

 どぶさらい。

 ゴミ拾い。

 迷子の猫探し。

 時には盗み。

 時には喧嘩。

 まだ誰も知らない。

 この悪ガキが後に、王都最大の恐れられる存在になる事を。



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